すごいすと取材記

菊炭生産者今西勝 さん(77) 兵庫県

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台場クヌギで山を更新

お茶席で一庫炭が好まれるのは、火がつきやすく長持ちし、はじけることなく煙も出ず香りがよいこと。何より菊の花のように見える切り口が美しく、「菊炭」との別名を持ち、地域の名産品として重宝されている。そのゆえんを今西さんは「燃えた後の灰まで粉雪のようにきれい」と力説。茶道の高級湯炭として全国や海外からも注文を受ける今西さんにとって、「きれいな炭をありがとう」というお礼や喜びの言葉が励みになっているという。

63年炭を使い続けている茶道表千家教授の竹内芳子さん

左が夏の炭手前で使う菊炭一式、右が冬用で太さが異なる。
63年炭を使い続けている茶道表千家教授の竹内芳子さんは、毎年行われる里山まつりの際、今西さんの庭でお茶席を設けることもあり「炭と鉄の釜でじわじわ沸かす湯はやわらかく味がある」と市民や観光客に伝えている。

 

菊炭の原材料であるクヌギは、地上1~2メートルあたりで伐採して芽を出させる「台場クヌギ」として育てられる。切り株から新芽が再生するため、新たに植林することなく8~10年周期でお茶炭に適当な太さまで育つ。伐採を繰り返すうちに、元の幹が太くなっていくため、今西さんは「親にあたる根元部分を大事にした切り方。そこから子どもである芽が出て大きくなっていく」と表現する。輪伐することで、生育年の異なるクヌギ林の景観がパッチワーク状になることが、「日本一の里山」と称される理由の一つだ。今西さんは、毎年範囲を見定めて山の所有者から木を買って切り出している。

「木を切ることは自然破壊と勘違いされることもあったけれど、山を更新するということ。ほったらかしの山は死んでいるようなものだ」

昔はほとんどの家が農閑期に炭を焼いていた。山のクヌギが育てば切って焼くという営みこそ「人里に隣接して、その土地に住んでいる人の暮らしと密接に結びついている山」という里山の本来の意味の姿だったという。

生活様式が変化するにつれ、パッチワーク状だった景観も、ワンポイントのアップリケのようになってきている。現状では「日本一」という形容に今西さんは「少し耳が痛い」と言うが、里山は新たな人のつながりを生んでいる。

伐採によって主幹が太くなった台場クヌギ

伐採によって主幹が太くなった台場クヌギ

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