すごいすと取材記

NPO法人ソーシャルデザインセンター淡路 理事長木田薫 さん(51) 兵庫県

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地域で生きる『じろはったん』

「誰もが社会の一員と感じてほしい。一人でもいいから、誰かの役に立っていると感じられるような、そんな役割や仕事をつくりたい」

 

そんな木田さんの思いは、学生時代の経験とある本との出会いが原体験になっているという。

木田さん

真面目にがんばっている子たちの力になれるのが何より嬉しいと話す木田さん

学生時代の実習で行った、精神障がい者が暮らす福祉施設。設備が整い、利用者は生活に必要なほとんどのことをそこで済ませることができるような施設だった。

実習の期間は2週間だけにも関わらず、木田さんはそこに溶け込んでいた。あまりに楽しそうで、まるで木田さんがその施設で生活する利用者のように見えたのだという。いやなものはいや、うれしいことはうれしいという、とても純粋な彼らとの関わりが心洗われるようで楽しかったのだと、振り返る。

 

実習も終盤に差し掛かったある日、木田さんは一人の利用者から宝物の品々を見せてもらった。周りの職員は驚いて、本当に信頼している人にしか見せないのよ、とその由来を木田さんに語った。それは、その人が子どもの頃、面会に訪れる親から毎年決まってプレゼントされていたもの。入所から数年は続いていたという訪問とプレゼントだったが、ある年突然ぴたりと途絶える。以降、家族からの連絡すらなくなったのだという。

 

「初めは何から何まで揃って、温かく守られたとても理想的な施設だと思っていた。でも言葉を選ばなければ、まるで姥捨て山。たとえ社会との関わりを絶たれても生きていける場所。果たしてそれは本当に幸せなことなのかと感じた。」

 

そんな時に読んだのが『じろはったん』。昭和初期の但馬を舞台に知的障害のある青年と、地元の人たちとの交流をつづった物語だ。青年の心優しさや、彼を仲間と思う地域の人たちとの暖かいやりとりが描かれている。

「ああ、私はこういう形がいいなあって、物語の中に描かれているつながりを見て、しみじみ思った」

特別扱いされず、無理もせず、できる仕事を共にする。それぞれが役割を持ち、社会の一員として地域の中で生きていく。「だれもが仕事や役割をもち、みんながいきいきと笑顔で暮らせる」そんな夢の形をその本に見出したのだという。

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