すごいすと取材記

NPO法人ソーシャルデザインセンター淡路 理事長木田薫 さん(51) 兵庫県

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笑顔を運ぶ

南あわじ市のあるカフェの店長はこう笑う「木田さんは、ちょっと元気になりにきたーって、お店に寄ってくださるけど、本当は、木田さんが元気を注入しにきてくれるんです」

忙しい日々の中でも、できるかぎり毎日通う、とある老人福祉施設。お年寄り向けに歌いながら、体を動かす体操などのレクレーションを引き受けている。うつらうつらとしていた女性も木田さんの呼びかけに、満面の笑みを浮かべて応える。

木田さん

特別養護老人ホーム太陽の家でのレクレーション。一人ひとり名前を覚えている木田さん

他にも、人形劇団や絵本の読み語りなどで忙しく島内を駆け回る。

「みんなに笑ってもらってなんぼ」と考えている。笑顔の力を実感したのは阪神・淡路大震災の時だった。

 

被災して2週間が立ったころ、北淡に住む友達から一本の電話がかかってきた。「みんな笑うことができない。木田さん、あなたの笑顔を持って来てください」何ができるかと迷いながらとるものもとりあえず、劇団の仲間と二人、人形劇の用意をし、避難所となっている体育館へと向かった。

 

中へ入ると広がっていたのは、寒々とした空間。たたまれた布団の山と、不安顔の子どもたち。そして背中を向けて寝転がる疲れきったお年寄りだった。

「冬の冷たさじゃない、冷たさがあった。子どもたちもぎゅっと表情をこわばらせていて…」木田さんの古くからの友人で、劇団活動を共にする稲室さんは振り返る。

とても劇をするような雰囲気ではないと、二人はひるんだが、なんとか気持ちを奮い立たせ用意した劇を始める。人形を動かし、歌う。

進めるうちに、一人、また一人と少しずつ顔をこちらに向け始める。ちょっとずつ顔に笑みが浮かぶようになる。

「最後には、にいちゃんねえちゃんありがとう、また来てなって声かけてもらって。次は星影のワルツ歌ってなぁってリクエストまでもらった」足元にしがみついて離れない子どもたちをなだめ、おじさんたちに見送られ、体育館を後にした二人。車で帰る道すがら、一日を振り返りながら、共通の思いに行き当たる。

「人が苦しい局面で、芸術とか文化って役に立つんやなぁ。役に立つのならできることをやらなきゃね」

 

稲室さんと木田さん

「絵本の読み語りもいろんな世代に対して続けてきた。小さな子どもも、高校生も、おじさんも涙する。みんなそれぞれにしんどいことがあるよなぁって思う。自分にできることでそうした気持ちに寄り添っていきたい」

自身も図書館で、絵本や物語を見ながら、1時間2時間過ごし、気持ちを楽にすることもあるという木田さん。お気に入りの絵本をひとつ教えてくれた。かばくんが、いろんな職業に挑戦しては、失敗を繰り返すお話はこう締めくくられる。「ぼちぼちいこかということや」――――

人形劇団わややんの練習風景

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