すごいすと取材記

神戸大学大学院岸本吉弘 さん(48) 兵庫県

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地域とアートの共存・共生「下町芸術祭」

住む人と訪れる人が、非日常の泣き笑いを共有できる「祭り」という体験を、風情漂う下町のくらしと現代アートの融合によってよみがえらせよう――。2015年秋に開催された、神戸市長田区の地域づくりプロジェクト「下町芸術祭」。岸本さんは副実行委員長を務め、担当した絵画プログラムでは11名の画家たちによるグループ展「ウィズ・ぺインター」を開催した。
「長田には、絵を見せるために特権化されたいわゆる美術館といった『箱』がありません。人が見に来る場所がないのなら、こちらから街の中へ出向いていこうと……。本来は展示する場所じゃないところ――レトロモダンな小学校跡や古民家、空き店舗など――や、日常的に暮らす風景や路地を上手に活かすことができれば、今までにないおもしろいものになるのでは? 小さくても豊かなものができるのでは? 今までに無いおもしろさで見せる……挑戦でした。」

下町芸術祭「ウィズ・ペインター」の展示風景(撮影:岩本順平)

下町芸術祭「ウィズ・ペインター」のアーティストトークの様子(撮影:岩本順平)

日常の中にアートがある。生活の中にアートがある。そんな仕掛けが、美術を身近に感じてもらうきっかけになるのではないかと、岸本さんは考えた。
「商店街に作品を設置した時は『そこまでのモノが来るとは思っていなかった』と戸惑わせたり、日常にないものが存在する違和感を与えたことも事実です。夕飯の買物をする隣に大きな絵があるんですから。一方で生活圏内での展示は、日常的な目線や行動範囲の中で目に入ってしまうため、ついつい見てしまう。好奇心とともに、おもしろがってくれる人も多かったですね。」
作品を置くことで「ここに、こんなスペースあった?」と、改めて自分の暮らす地域を意識するきっかけにもなっていった。

「万一トラブルが起こり、打開策を探るために町内会のおじさんのもとへ走らなければならなくても、それが地域をつなぐ役割を果たすことになると思いました。」
懐に一度入れば親近感を持ってくれるのが下町・長田の良さ。「来年もやらないの?」と、いつしか声もかかるようになっていた。コミュニケーションを取りながら、距離を縮める作業を重ねることで地域の将来性が育ってゆく。
「コアな美術をやさしく丁寧に、ときほぐして見せてゆきたい。見る人がわかってもわからなくても、問題意識を持って制作・表現している人間がいることを伝えたい。たとえそこに不協和音が起こっても、制作側は届け続け、運営側は底辺から支え続けること。楽しさだけを優先させるのではなく、表現そのものやその時代の芸術を、見せて知らせることが大切なんだと思います。」

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