すごいすと取材記

大坪だんだんファーム(株式会社大坪営農)岡田昭男 さん(72) 兵庫県淡路市

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地域みんなで取り組む「攻めの農業」で、販路拡大!

 

農地を維持するだけではなく、様々な農作物をつくって農地を生かし、販路を拡大して収益を上げること。
そこで生まれた利益を、施設や賃金として集落の人々に還元していこう。
そんな方針のもと、淡路島の暖かい気候を生かし、水稲栽培の裏作として
玉ねぎやブロッコリー、白菜、キャベツ、レタスといった様々な野菜を栽培。中でも玉ねぎは5ヘクタールの増産を目標に、専用の乾燥・冷蔵庫を設置。他の野菜と共に大坪だんだんファームの農産物直売コーナーで販売すると同時に、玉ねぎのブランド化に力を注ぐ地元の農業協同組合を通じた出荷や、近隣施設での販売にも積極的に取り組んでいます。

そして、もう一つの事業の柱が果樹の観光農園です。
「いちごをはじめ、びわ、ブルーベリー、ぶどう、いちじく、ミカンなど、様々な果物を育てることで一年中楽しめる農園をめざしています。週末や祝日には、新鮮な果樹を使ったフルーツサンドやジュース、人気のスイーツを楽しめるイートインスペースをオープン。6次産業化(*)にも力を注ぎ、収穫した果樹をジャムやドライフルーツに加工し販売も行っています。」

一方、農地管理を会社にゆだねたことで減収となった兼業農家の人たちや、定年後に農業に取り組みたい人たちの雇用も、地域ぐるみで取り組む事業の大切な要素と話す岡田さん。
現在の社員は、男性が7人、週末だけのパート勤務も含めた女性が15人。
40代から70代半ばまで、全員が大坪地区の人たちです。
慣れない仕事の中でも、調理やお客様の対応を引き受けるイートインスペース担当の女性スタッフたちは、特に頑張ってきたと岡田さんは言います。

「家族のためにしか作る機会のなかった料理を、イートインで提供するという初めての挑戦に試行錯誤で取り組みました。
料理の専門家の指導のもと、悩みながら何度も試作を繰り返していました。よくやり遂げてくれたと思います。」
現在の目標は、まず自分たちが現場で実践しながら、農業技術を身に付けていくこと。その中でも大切なのは、分業ではなく全員が一緒に作業をすることだとか。

「水稲の担当が水稲にだけ取り組んだり、イートインの担当だから農作業はしないということではなく、農作業も箱詰めも出荷準備も全員で共同作業をするんです。そうすることで、大変なことも、達成した時の喜びも、技術が上がった嬉しさも、みんなで共有することができ、気持ちが一つになっていきます。集落全体で農業に取り組むことの良さは、そんなところにもあると思うんです。」

どんな時も、攻める気持ちを大切にしながら取り組み続ける岡田さんですが、慣れない農業経営に思い悩む日々も過ごしてきたと言います。

*6次産業化:第1次産業者である農林水産業者が、自らの手で加工・流通・販売まで取り組み、生産物に新たな付加価値を生み出すことで利益を向上させること

 

収穫された玉ねぎ

収穫された玉ねぎ

 

鮮やかな紅色に染まったいちご

鮮やかな紅色に染まったいちご

 

調理やお客様の対応を行うイートインスペース担当の女性スタッフ

調理やお客様の対応を行うイートインスペース担当の女性スタッフ

 

不安も困難も、誠意と熱意で乗り越え続けて

 

平成30年から、整備が進み始めた農地で栽培が始まりました。
しかし、農作物がうまく育たず、予定していた収穫量に届かなかった当初は「農業経営なんて無理ではないのか」と、投げ出したくなることもあったと振り返る岡田さん。

「みんなが不安になり、何を話し合っても『そんなことをしても育たないのではないか』『こんなことをしてもお客様は来ないのではないか』と、後ろ向きな声ばかりあがるんです。作付け面積を減らそうという意見まで出たこともありました。でも、それを言ってはおしまいです。
理詰めで考えることを避け、私自身がマイナス思考に陥らないよう、『くよくよしないO型でよかった』と冗談を言って、笑い飛ばすようにしていました。」

中でも、新型コロナウイルスの影響は深刻でした。
順調にスタートしたいちご狩りが4月を境に客足が途絶え、観光農園が1カ月間も休業状態に陥ってしまったのです。

「仕方なく、余ったいちごを冷凍庫に保存することにしました。
もともとジャムに加工するために冷凍保存はしていたんですが、予想に反して冷凍したいちごがよく売れたんです。そんな中、世間で話題になっているかき氷にしてはどうかとパートの女性たちが研究し、冷凍いちごを使ったかき氷を販売してみました。
するとSNSでの発信や口コミで知った人たちがかき氷を求めて来館し、一日で150人ものお客様に足を運んでいただいた週末もありました。新型コロナウイルスの影響がなければ、冷凍イチゴの需要に気づくことはありませんでした。」

さらに、近隣にできたパンケーキ店からは「いちごが足りないのですべて買い取らせてほしい」との申し出もあり、通常より多くの収穫にもつながったと言います。
一方、米や野菜も新たな販売先とのつながりが生まれていきました。
神戸市内の農産物直売所から「いちごを販売させてほしい」と声がかかったのがきっかけでした。

「いちごだけでなく、米や野菜、ジャムもすべて売り切れる盛況ぶりです。最近は近隣からも販売させてほしいと声がかかるようになっています。
『何とかするんだ』という強い意志をもって行動すれば、想いが伝わるということだと実感しました。」と岡田さん。

「仕事とは、熱意を持つこと、誠実であること、バランス感覚を大事にすることです。特に何かを成し遂げるためには、最後に求められるのは誠実さだと思っています。大坪だんだんファームの経営もやり切るためには、いろいろな方面に無理なお願いをしたり、時には厳しい議論を交わさねばならないこともあります。そんな時でも、わかっていただこうという熱意と誠実な姿勢があれば、相手も理解してくれるものです。そのためには、目先に見えているものだけを“点”で捉えず、高い視座から広く“面”で見ること。一つの方向に偏った見方をせず、様々な条件を視野に入れるバランスの良さが大切だと思っています。」

こうした様々な不安や困難と向き合う日々の中で、岡田さんがいちばん嬉しいと感じること。それは、お客様との触れ合いだと言います。

 

冷凍いちごと冷凍いちごを使ったかき氷

冷凍いちごと冷凍いちごを使ったかき氷

 

イートインスペースでは、女性スタッフが作るスイーツなどが楽しめる

イートインスペースでは、女性スタッフが作るスイーツなどが楽しめる

 

淡路市の集落活性化を支援する「地域再生協働員」が栽培管理とイベント運営、情報発信などを担当

淡路市の集落活性化を支援する「地域再生協働員」が栽培管理とイベント運営、情報発信などを担当※地域再生協働員:高齢化と人口減少が進む集落への人的支援を目的とした制度で、県版「地域おこし協力隊」とも呼ばれる

 

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