すごいすと取材記

播但沿線活性化協議会 代表小野康裕 さん(55) 兵庫県

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播但沿線に人を集める

平成25年11月3日、小雨が降るJR播但線寺前駅前。神河町観光協会主催の収穫祭イベントの中で、あるトークイベントが行われた。

その名も「駅前トーク」。住民が駅前に集まり、駅前地域のあり様を住民どうしで議論して、地域の活力に繋げていこうという趣旨で、播但沿線活性化協議会が企画した。フォーラム形式のトークイベントで、播但線の各駅で行われる様々な催しに合わせて開かれる。今年は8駅での開催が計画され、寺前駅は7駅目の「駅前トーク」となった。

カーミンの収穫祭での駅前トーク

寺前駅前での駅前トーク

「駅前トーク」では、小野さんが進行役を務め、姫路市在住の版画家、岩田健三郎さんと地元代表者が、駅や周辺についてのトークを進める。開催駅によって、地元代表者は地域住民であったり、役場職員であったりと変わるものの、岩田さんは「よそもの」という立場で全ての駅前トークに登壇。播但沿線各駅全てをまわり、駅ごとのイメージを表現した版画作品と、駅周辺の地図を描いた岩田さんは、地元とは違う視点でその駅を語る。

知人でもいないと来ることがないようなローカルな駅ばかり。駅前トークではよそものの観察眼を借りて、地域の人たちに駅前の魅力の再発見を提案する。

カーミンの収穫祭での駅前トーク

岩田さんの地図がまとめられた播但線各駅停車案内は、早々に在庫がなくなってしまった。

そんな「駅前トーク」が始まったのは、「なごやか甘地地域づくりの会」が平成20年に始めた「甘地駅前ビアガーデン」がきっかけ。甘地駅前のJA支店跡に突如現れる、夏の一夜限りのビアガーデンだ。地元住民の通勤や通学に利用されてきた甘地駅。会場の至るところで昔の駅前についての話が始まるのだという。「昔は、みんな駅までは自転車。どの自転車置き場が安かったとか、駅に至るまで最短ルートをいかにして見つけ出したかとか、そんな地元ネタだけでそこかしこが延々盛り上がるんです」と小野さんは笑う。

 

この年に一度のビアガーデンは、小野さんの発案。

家業の野菜苗の生産卸業を継ぎ、30代前半から社長業を務めていた小野さん。仕事や青年会議所の活動などで国内外を飛び回っていたが、消防団OBの友人らから地元の活動へそろそろ本腰を入れてほしいと依頼されたことがきっかけとなった。

なごやか甘地地域づくりの会メンバー

なごやか甘地地域づくりの会の則正さんと村田さん。小野さんを誘った消防団の友人たちだ。

JA支店の撤退とともに寂れてしまっていた甘地駅前。利用客のほとんどは駅まで車を使ってやってくるため、今の駅前は単なる通過点となってしまっている。

年に一度でもいい。駅前に集い、語り合い、つながりを深める場所ができれば、地域の活性化の足がかりになるのではないか。そうして小野さんは人が滞留する仕掛けとして、甘地駅前ビアガーデンを考えだした。最初の年の準備期間は1週間だったにも関わらず、地区人口の1割ほどの300人を集める盛況ぶりを収めた。

 

そして翌年以降は、単に飲み語り合うだけではなく、文化的な要素も取り入れた試みが始まる。JAの旧金庫室を舞台にしたジャズ演奏会。古い写真などを集め、有志が製作した「甘地地域今昔物語」の上映。集まった人の思い入れをもり立てるような仕掛けがなされた。「よそもの」の岩田さんを招く「駅前トーク」もその一環として始まった。

 

初めは3年限りの予定だったビアガーデン。あまりの評判の良さに、継続が決まる。

そして5年目を迎えた平成24年。こうした催しが播但沿線各駅でも行われればおもしろいのではないかという声があがる。それを受け、甘地駅がある市川町に加え、沿線の姫路市や福崎町、神河町の有志が集まり、播但沿線活性化協議会が発足。新たなイベントを立ち上げるのではなく、既存の地域イベントと合わせて「駅前トーク」を行う方法により取り組みを広げていくこととなった。

 

「それぞれの駅そのものはありきたりでも、そこに寄せる人々の思いはありきたりではない。思いは、よそ者にとってはやってくる動機となり、地元の人にとっては守ろうとするという原動力になるようなもの」そんな思いをいかにしてわきたてるか。小野さんはそのための仕掛けをしているのだという。

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