すごいすと取材記

明延鉱山ガイドクラブ、NPO法人一円電車あけのべ 正垣智子 さん(55) 兵庫県養父市

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「ガイドはお客様に育てられる」~一人ひとりの“聞きたいこと”に答えたい

 

現在、正垣さんは明延鉱山ガイドクラブの副会長として、9人の仲間と共に月5~6回、お客様が多い時は一日3回、鉱山を案内しています。

「私を含め10人のガイドは、十人十色の案内スタイルがあって面白いです。 私が気を付けているのは、色んな質問をされても答えを取り出せる引き出しを、たくさん持っておくこと。 『鉱山の中で食事はどうしていたの?』『トイレはどうしていたの?』など、お客様に聞かれた時に知らないことは答えられないので、調べたり、鉱山OBに尋ねたりしながら引き出しを増やしています。」

ガイド活動のおかげで、いろいろなことに興味を持つことができるようになったと言う正垣さん。 子どもたちと話題を共有するため氷ノ山(ひょうのせん*)登山に挑戦したり、商業施設の高速エレベーターに乗れば、立坑速度との比較が気になって調べたり。

「普段から、あっ!これってガイドの時に話題にできるなって思っちゃったり」と笑います。

子どもから高齢者まで、誰にでもわかりやすく説明することをモットーとする正垣さんが、もうひとつ心がけているのは言葉選びです。

 「鉱山用語には専門的な言葉も多いんです。《採鉱》は『鉱脈を探す』と言ったり、《採掘》は『鉱脈を掘る』と言ったりします。」

お客様によって異なる「聞きたい」「知りたい」ことを、鉱山の見どころとして伝えるためにも、わかりやすい言葉の選択を丁寧にしたいと正垣さんは言います。

時には、酒気を帯びたお客様を案内したことも。 ある時、初めのうちは酔いに任せて話を聞かず自由に楽しんでいた人が、見学を終えて坑道を出る頃には「話も聞かず、迷惑をかけてすみませんでした」と正垣さんに声をかけ、後日、一緒に撮った記念写真と共に「楽しい話に、最後は夢中になりました」とお礼の手紙を送ってくれたことがありました。

「聞いていなかった人が耳を傾けてくれるようになるのは、ガイド冥利に尽きます。質問に答えられる引き出しが増えることも、言葉の選び方の大切さに気付けることも、私にとっては日常になってしまっている鉱山のことも、新しい魅力として気づかせていただくこともすべてお客様に育てられているんです。」
ガイドの活動を心から楽しんでいる正垣さんですが、一時はガイドをすることに不安を感じた時期があったと言います。

*氷ノ山:兵庫県と鳥取県の県境にまたがる、兵庫県の最高峰(1,510メートル)。

 

ヘルメットを被り、ほのかな灯りに照らされた坑道を進む

ヘルメットを被り、ほのかな灯りに照らされた坑道を進む

 

現在は新型コロナウイルス感染症対策を行いながら、ガイドが行われている

現在は新型コロナウイルス感染症対策を行いながら、ガイドが行われている

 

地域の資源に気づくことで自分の暮らしを見直すきっかけに

 

「機械に詳しく専門的な案内ができる人、鉱山の活気にあふれていた当時の様子を知り話せる人、お客様の心をつかむ楽しい話題に事欠かない人。そんなガイド仲間たちの中にいると、どれも持ち合わせていない私がお客様の案内をするって、どうなんだろう?」

そんな正垣さんが再び前を向くことができたきっかけは、子どもたちへの案内でした。正垣さん自身にも同じ年頃の子どもがいたことや子どもが好きなこともあり、子どもたちの案内が入ると「正垣さんは子どもたちとの接し方が上手なので、ガイドをお願いね」と声がかかるようになったのです。

「子どもたちを案内していると、鉱山は理科や社会、算数などの優れた教材だと感じます。 例えばガイドの途中で、『この機械はどうやって動かしていたでしょう?』『もっと地下に行くと気温は何度になるでしょう?』と問題を出します。 動力や地学に興味を持つ子どもが現れるかもしれません。そして、一番最後にはいつも『電気が無かったら何ができない?』と質問するんです。 子どもたちは『ゲームができない』を筆頭に『テレビが見られない』『エアコンが使えない』『夜、暗い』と様々な答えを返してくれます。
電気には銅が使われていますから、その銅を採掘してくれたたくさんの人たちのおかげで、今の私たちの生活が成り立っていること、そしてそれは、人の手ではつくれない自然がつくり出した限りある資源だということを伝えることができます。」

そんな正垣さんらしさを生かしたガイドを通して、届けたい想い。 それは、鉱石という資源に興味を持つことで、ものを粗末に扱わず大切に使おうとみんなが感じられるようになること。 日々の暮らし方を見直すきっかけになってくれることだと言います。

「想いは伝わるんです。一生懸命説明するとお客様はわかってくださいます。 帰り際、『楽しかった』『すごくよくわかった』『地元なのに全然知らなかった』と言ってもらうことが、私の励みになっています。」
こうしたガイド活動と並行して明延地区の活性化を目指し、正垣さんはもうひとつの地域資源を守り育てる活動に加わっています。

 

正垣さんによるガイドの様子

正垣さんによるガイドの様子

 

坑道の模型を用いながら説明する正垣さん

坑道の模型を用いながら説明する正垣さん

 

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