すごいすと取材記

加古川市で、認知症になっても
安心して笑顔で暮らせるまちづくりに取り組む、
吉田正巳さんの“共生”

加古川認知症の人と家族、サポーターの会 吉田正巳 さん(76) 兵庫県加古川市

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体験を共有し元気になろう! 学び、集い、つながる8つの活動

 

元気会の活動の中心は、認知症について学ぶ勉強会と集いです。
認知症の本人や家族をはじめ介護に携わる様々な人たちが、学習会や講演会などを通じ医療や介護の知識を学びます。
勉強の後は、自分たちの想いや生活を語り合い、支え合うための茶話会を開催します。

「みんな自分が一番苦しいと思っています。でも会合に来て他の人の話を聴くと、自分よりもっとつらい思いをしている人がいて、自分だけじゃなかったと気づきます。終わる頃には、いい笑顔になっているんです。」と話す会員や、
「入会して仲間ができ前向きになれたことで、今の自分の幸せに気づけました。仲間にめぐり合い、幸せに気づくきっかけになってくれた認知症の夫に、ありがとうと言いたい。」と、手記を寄せた会員もいます。

「元気会に来た日は、お父さんにやさしくなれる」

「解かる解かるって聞いてくれる、一緒に泣いてくれる、心がほっとする」

「胸を張って、前を向いて頑張れるのも、元気会の支えがあるから」
(いずれも5周年記念文集「共生」より抜粋)

こうした活動を続ける中で会員自身が、その必要性を感じて主体的に運営する取組が多岐に広がっていきました。
認知症初期の人と家族のための「つどい場 楽(らく)」では、認知症の診断を受けたばかりの人たちに必要な情報や勉強の機会を、元気会のメンバーが中心となって提供しています。
若年性認知症の人と家族に特化した茶話会「たんぽぽの会」では、失業による経済的な問題や子どもの養育のこと、家族の戸惑いなどの、高齢者とは異なる固有の課題を抱えた人たちに向けたサポートを行っています。
「私たちの会の特長は、認知症の本人が参加できること」と言う吉田さん。認知症サポーター養成講座(*)を受けたボランティアメンバーたちと交流する茶話会「サロン楽遂(らくすい)」や、社交ダンスをベースに体を動かす「音楽体操クラブ」なども行っています。

一方、地域づくりにつながる取組も行っています。地域の人たちと気軽に集い合う青空カフェ「コミュニティカフェ ノット」や、野菜づくりを通じて交流を図る「菜園カフェ ひまわり」、認知症関連の図書やビデオなどを貸し出す「オレンジ文庫」です。
これらの活動を通じ元気会が大切にしているのは、認知症の人や家族、支援者や地域の人たちが認知症についての正しい知識を得ること、そして本人の心の揺れに寄り添うことだと吉田さんは言います。

「認知症のせいだと思っていた症状が介護の仕方を間違えていたためだったと、勉強することで気付きました。症状を理解し、大きな声で怒らないなど接し方を変えれば、本人も家族も救われます。認知症になっていちばん不安なのは本人です。加古川元気会の『寄り添う』とは、待つこと。本人を患者ではなく一人の人間として尊重し、存在そのものを大切にする姿勢です。そのためには、まわりにいる私たちが勉強して誤解や偏見をなくし、本人の居場所を地域の中から取り上げないことが大切です。」
そんな地域づくりを目指し、吉田さんは様々な工夫をしています。

 

*認知症サポーター養成講座:市町が住民や学校向けに開催する、約90分の講座。講座を受講した認知症サポーターには「オレンジリング」が渡される。このリングは、介護者が少し手伝ってほしいと思う時に声をかけやすいような目印になる。

 

元気会の活動の中心、認知症について学ぶ勉強会と集い。勉強会後に行う茶話会では、自分たちの想いや生活を語り合う

元気会の活動の中心、認知症について学ぶ勉強会と集い。勉強会後に行う茶話会では、自分たちの想いや生活を語り合う

 

認知症初期の人と家族のための「つどい場 楽(らく)」

認知症初期の人と家族のための「つどい場 楽(らく)」

 

社交ダンスをベースに体を動かす「音楽体操クラブ」現在は新型コロナウイルス対策を行いながら開催している

社交ダンスをベースに体を動かす「音楽体操クラブ」
現在は新型コロナウイルス対策を行いながら開催している

 

地域の中に居場所をつくる工夫

 

元気会の活動は、加古川市外の人の参加も受け入れています。また、元気会の会員が講師になり、中学校で講座を開催することもあります。
参加した中学生たちが学んだ内容を家庭で話し、取組が地域の人たちに知られるようになりました。最近では吉田さんが散歩をしていると、登下校中の学生が声をかけてくれます。
また、道路に面した門も塀もない吉田家の庭に、みんなが集まる青空カフェ「コミュニティカフェ ノット」では、オープンすると「何をやっているんだろう、面白そうだな、何か聴こえてくる、いい匂いがしてくる、おばあちゃんがいる。」というように、周りに様子が伝わります。特別養護老人ホームやケアハウスなど施設の利用者が、家族や施設の担当者と一緒にコミュニティカフェを利用することもあります。地域の人と一緒に食事をすることで、認知症の本人や家族、地域の人たちに繋がりが生まれました。
さらに地域の施設とは、行事の際にテントやパラソルの備品を貸し借りするなど連携し、その後も交流を続けています。

一方、活動をオープンにするためには、乗り越えなくてはならない壁もありました。認知症の本人を人前に出すことを躊躇(ちゅうちょ)する家族が多かったのです。
「本人やその家族が、ためらうことなく地域へ出て行くには、どうすればいいんだろう。」
考え抜いた吉田さんは、写真展を開催することに決めました。
家族写真を公表することが、人前に出るきっかけになると考えたのです。平成27年1月、「心は生きている」をテーマとした「写心展」では、パラグライダーに挑戦する様子や、孫と一緒に遊ぶ写真、病院のベッドで微笑む一枚など、認知症の方とその家族の思い出の写真が会場を飾りました。

「私のお父さん、こんなんやで。」「うちの嫁はん、かわいいやろ。」
写真を通して家族を自慢したり、いつもは元気会に参加しない孫や友だちを連れてくる人たちの様子に、吉田さんは会員たちの心の変化を感じました。忘れられない思い出の一つだと振り返ります。

さらに新型コロナウイルスの感染が拡大した今年は、新たな工夫も始めました。
勉強会や集いが中止になり、会員同士が会えなくなった中、FAXやSNSを活用してコミュニケーションを取り合うようになりました。
SNSで会のグループを立ち上げ、面会禁止の入所施設や利用自粛のディサービスなどの情報を共有し、外出自粛を呼びかけました。
また、家族が抱える悩みや不安などの発信に対し、アドバイスや共感、励ましの返信が集まり、集いと同じような活動を行うことができました。

「これを機会に今後も活用を続け、会の中だけでなく外部のいろいろな人ともつながるきっかけにしたい」と吉田さんは言います。
こうした地道な活動を積み重ねた10年間に、地域にも変化が生まれていました。

 

地域の人たちと気軽に集い合う青空カフェ「コミュニティカフェ ノット」

地域の人たちと気軽に集い合う青空カフェ「コミュニティカフェ ノット」

 

認知症関連の図書やビデオなどを貸し出す「オレンジ文庫」

認知症関連の図書やビデオなどを貸し出す「オレンジ文庫」

 

平成27年1月、「心は生きている」をテーマとした「写心展」を開催

平成27年1月、「心は生きている」をテーマとした「写心展」を開催

 

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