すごいすと取材記

播磨マリンクルー代表吉政静夫 さん(79) 兵庫県

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きっかけは驚きから

開始から10年間で延べ3万人もが体験するまでに広がった播磨マリンクルーの出前水族館。

もともと、吉政さんは水族館のスタッフでもなければ漁師でもない。業務用特殊糸ノコの製造販売を行う会社の経営者だ。海と直接関わりのない仕事をしてきた吉政さんがこのような活動を始めたきっかけは、ある出会いにあった。

 

60代も後半にさしかかった頃のある日、いつもの飲み屋で近くに座った漁師と意気投合する。その漁師から「これ高砂でとれるんやで」と見せられたのが、タツノオトシゴだった。

子どもの頃、毎日のように海に遊びに行き、高砂の海の幸も口にしてきた。そんな身近な海にまさかタツノオトシゴのような珍しい生き物が暮らしているとは思ってもみなかった吉政さん。驚きのあまりその場で譲り受け、自宅で飼育を始めた。

丸めた尾っぽにつきだした口。そのかわいらしさを感じながら、日々世話に勤しんでいくうちに、カメラ好きだったことも手伝い、こまめにその姿を写真や動画に収めていた。

そんな時、タツノオトシゴの生殖活動や出産シーンの撮影に成功した人は数少ないという話を耳にする。「そもそも人にできないことに挑戦することに、何よりもやりがいを感じる性格。この年にしてこんな珍しいことに挑戦する機会が巡ってきたんだとわくわくした」

度重なる失敗にもめげることなく撮影に取り組み続けた末のある満潮の日。やっとの思いで生殖から出産までの貴重なシーンを映像に収めることに成功した。

自宅水槽前にて吉政さん

「海の生き物も犬やネコのように人に馴染む」この子らがかわいくてしょうがないと語る吉政さん。

撮影に成功した例は世界的にも数少ないとあって、マスコミの取材が相次いだ程の貴重な映像。これを使って、自分自身も驚かされた高砂沖の生き物の豊かさを、多くの人に伝えたいと思い立つ。特に子どもたちに、自分たちのふるさとにそんな豊かな海があること伝えたいとの一心で活動をスタートさせた。

 

しかし実際にやってみると、映像を見せるだけではその感動はなかなか伝わらない。

「子どもたちにダイレクトに伝えるなら、匂いや感触を通じた実体験の方が良い。なんといっても本物を見せてやりたかった」と、漁師に売り物にならない魚や生き物を譲ってもらえるよう交渉し、近所の小学校などで出前水族館を試みた。

当初は1人で始めたものの、評判も手伝って出前の回数が増えだした頃から、仲間探しを始める。以前通っていた高齢者大学の同級生らにそれぞれの特技を生かしてほしいと声をかけ、まちで見かけた切り絵の名手を口説き落としたりもした。

こうして賛同する仲間たちとともに播磨マリンクルーを結成。さらに仲間を増やしながら、今の出前水族館を作り上げた。

吉政さんが撮影に成功したタツノオトシゴの出産シーン

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