すごいすと取材記

NPO法人多言語センターFACIL 理事長吉富志津代 さん() 兵庫県

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緊急時から日常生活の支援へ

被災した外国人の中には、具体的な支援の受け方以前に、支援を受けられること自体を知らず、一層厳しい避難生活を送っている人たちがいた。

震災前、前職の関係で、来日したスペイン語圏の住民から日常的な相談を受けていた吉富さんは、言葉の壁などが引き起こす問題があることはわかっていた。

その課題が震災の発生によって地域社会で露呈し、普段の暮らしの中で、必要最低限の情報すら日本語の理解の不十分な住民に着実に行き届いていない現状を浮き彫りにした。

「日本語が不自由な人たちに母語でわかりやすく伝えるという活動は、震災といった緊急時に対処療法的に行うだけでなく、日常生活の場でこそ必要だと改めて実感しました」

 

震災から4年後の平成11年、吉富さんは、震災時に活躍した日本語とそれ以外の言葉ができるボランティアたちを中心に、それまでは無償ボランティアだと考えられていた分野の通訳・翻訳活動を事業化するために、「多言語センターFACIL」を立ち上げた。

緊急時を機に、日常生活の活動として分野の幅を広げたFACILが力を注ぐプログラムのひとつが、平成13年からスタートした医療通訳システム構築にむけたモデル事業だ。

医師と患者との意思疎通は時として生命に関わる重要事項であるにもかかわらず、通訳の手配やその経済的負担を含め、日本語の理解が不十分な患者側がすべての責任を負うものとみなされる傾向がある。社会が現場の実情を理解し、医療機関と患者の双方の言葉の壁を取り払うためのサポートの仕組みを構築していくことが必要だと吉富さんは指摘する。

「医療通訳」への理解を深める目的で制作されたPR映像。

また、拠点をおく鷹取の地域で、神戸市からの依頼を受けてFACILが翻訳したゴミ出しのルールの多言語版をベースとした案内板が作られた。出身国を問わず、そこに暮らす人たちすべてに情報が伝わり、それが当たり前となる地域を作ることが吉富さんの目標だ。

震災をきっかけに始めた活動は、外国人の日常生活を改善するだけでなく、双方向のコミュニケーションを促進させることで地域住民の意識を変え、同じまちで共に暮らしていく姿勢を根づかせ、まちの活性化につながった。

長田区内に設置されている日、英、中、ハングル、ベトナムの言葉で表示されたゴミの案内板。

「一度理解しあえたからといって、すべてうまく行くわけではありません。医療通訳も地域との関わりもそうですが、どんなことでもマメにメンテナンスすることが大事だと考えています」と吉富さんは強調する。

FACILで扱う言語数は当初の12言語から38言語へ、通訳・翻訳の登録者数も約80人から848人へと順調に数を伸ばす(平成25年10月 現在 )。

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