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特定非営利活動法人 Tプラス・ファミリーサポート

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2020/02/25
谷水ゆかりさん
(55)
兵庫県丹波市
特定非営利活動法人 Tプラス・ファミリーサポート

 

家事と育児に追われる母親たちに、自分の力を発揮して輝く人生を送って欲しい――。「丹波に愛着を持ち輝きながら子育てをすること」「丹波で愉快な意味のある人生を送ること」「自立し自分の存在に誇りを持つこと」を目標に、女性たちのサポートを続けている谷水ゆかりさん。平成11年に有償ボランティアによる相互援助家庭内保育サービス「Tプラス・ファミリーサポート」を開始。またたく間に多くの人の賛同を集め、平成18年NPO法人化を経て平成21年に託児室「Tプラス」を開設。平成24年4月からは、たんば子育てポータルサイト「すくすくポケット」の運営にも携わっている。さらに、子育て中の女性や丹波地域への移住希望の女性による丹波地域での起業を支援しようと、平成28年からは丹波県民局の委託により「たんば女性の起業応援事業」の企画・運営にも取り組む。輝きたい女性たちを20年にわたる活動で支え続ける一方、祖父の代から続く家業を承継した経営者としても活躍中。

 

谷水ゆかりさん

谷水ゆかりさん

 

お母さんたちが輝くために、丹波に託児所を!

 

小高い緑の丘に伸びる一本の道。たどりつく先には、色とりどりの花を咲かせたワインカラーの樹が、楽しそうに踊っている。託児室の真っ白な壁に描かれたTプラスのシンボルツリーには、女性たちが自分の色に輝けるようにという想いが込められている。
「20年前の丹波市には、子育て中のお母さんが外へ働きに出にくい雰囲気がありました。まちの第一線で働き丹波に嫁いで来た女性や、Uターンで帰ってきた女性たちが、もっと自分の力を発揮できたらいいのにとずっと思っていたんです。」
振り返れば、一番輝きたかったのは自分自身だったかもしれないという谷水さん。二人の子どもの育児に励みながら、自分を表現したいと思っていたという。
転機は、県立女性センター(現県立男女共同参画センター)で開かれた「女たちの仕事づくりセミナー」の受講をきっかけに訪れた。幼い子どもたちをチャイルドシートに乗せ、自らハンドルを握り神戸へ通った。
「子どもとの時間や自由な時間が欲しいから起業する、自分にしかできないことをやりたい、子どもを左手で抱えて授乳しながら右手でキーボードを打っていた……。みんなの自己紹介を聞いたとき、丹波でも取り組まなくてはと強く思いました。」
充実した高齢者支援に比べ、子育て支援は後れを取っていた当時の氷上郡(現丹波市)で、お母さんたちが活動するためには、子どもを安心して預けられる託児所がまず必要だと考えた谷水さん。セミナーで学んだ事業づくりとして、ファミリーサポート(*)に取り組もうと決めた。

 

*ファミリーサポート:育児の援助を受けたい人と、援助を行いたい人が登録。自宅保育を基本に、登録者同士で子どもの保育を行うシステム

 

託児室を利用していたお子さんに話しかける谷水さん。

託児室を利用していたお子さんに話しかける谷水さん。

 

明日への元気が生まれる場所「Tプラス」誕生

 

そんな谷水さんを、当時所属していた子育て学習センターのサークルのみんなが応援してくれたという。
「毎日でなくても必要な時に、安心して子どもを預けられるネットワークを作るから、自己実現を叶えてほしいと伝えると、『実は私もこんなことがやりたかった』『こんな特技がある』『昔はこんな仕事していた』という人がいっぱいいたんです。」
こうして平成11年2月25日、谷水さんは「Tプラス・ファミリーサポート」を設立。育児の援助を受けたい依頼会員と援助を行いたい協力会員、合わせて20人の登録者からスタートした活動は、3年目には託児時間が1,000時間に達するほど多くの人が利用するまでになり、10年目には丹波市内の商業施設の一角に「託児室Tプラス」を開設。設立から20年間で登録者は900人を数え、お母さんたちの交流と活動の拠点として、日々にぎわいを見せている。
そんな順風満帆なスタートの一方では苦い経験もした。週末や子どもの急病時など、保育園が対応できないケースの子どもたちをTプラスが引き受けることで、協力し合って切れ目のない支援がすぐにでもできると思った谷水さん。しかし、周囲に活動の趣旨を浸透させ足並みを揃えるためには、ゆっくりと時間をかけて信頼関係を育まねばならないことも痛感した。
そうした時期も過ごしながら、行政とTプラスとの協力関係はしっかりと結ばれていった。「託児時間を延長できないか」「土日も預かって欲しい」「病児保育を採り入れられないか」といった保護者からの要望を受け取った市役所が、Tプラスを案内するケースが増えていったのだ。
「Tプラスのおかげで、保護者の方々の希望に添えるようになったと喜んでいただくようになりました。丹波市の子育て支援制度の充実にも、少しはお役に立てたのではないかと思っています。」
その一方、谷水さんを驚かせたのは、援助を受けたい人だけでなく行いたい人の多さだった。

 

平成16年の出張保育の様子。

平成16年の出張保育の様子。

 

平成21年に商業施設の一角にオープンした「託児室Tプラス」。

平成21年に商業施設の一角にオープンした「託児室Tプラス」。

 

信頼を育み世代をつなぐ子育て支援

 

「忙しい人たちにも関わらず、活動の趣旨に賛同し活発に動いてくれることが本当にうれしい。誰かの役に立つことに仕事の価値を見出しているお母さんたちが、気持ちでつながっている場がTプラスなんです。」
そう話す谷水さんを感激させる出来事が、Tプラスではいくつもあった。ある協力会員が、いつも子どもを預かっている依頼会員家族のキャンプに招待され、事業の枠組みを越えて一緒に楽しんだこと。バレエ教室への送迎を担当した協力会員が母親に代わって、子どもがレッスンに励む様子をずっと見守り続けたこと。
「託児をしてくれる人は、子どもたちにとって親戚のおじさん、おばさんみたいなもの。依頼する母親にとっては、自分たちの両親と同じくらい信頼できる人になっていたんです。今の「託児室Tプラスの」のスタッフたちも、子育てに励む中で女性として、丹波で生きる人間として、いろいろ辛かったことがあったはず。それを乗り越えてきているから、次の世代の若いお母さんの力になってあげたいと思ってくれているんです。」
そんなTプラスの子育て支援には、ただ子どもを預かることだけに終わらない、谷水さんのある想いがあった。

 

託児室でスタッフと過ごす子どもたち。

託児室でスタッフと過ごす子どもたち。

 

創立10周年を記念し植樹を行った。

創立10周年を記念し植樹を行った。

 

起業とは自分の居場所をつくること

 

「子どもを預ける理由は仕事や介護といったことだけでなく、お母さん自身が学習する時間が欲しい、美容院に行きたいといったことでも構いません。託児はあくまでも、お母さんたちが自分の力を発揮できるようになるための切り口の一つ。悩み事や相談事を聴き、必要な相談先や協力先へつないであげたり、手伝ってあげたりすることが目的です。」
谷水さんが本当に実現させたかったお手伝い。それが、丹波市初となった女性起業支援事業だった。
「得意なことや好きなことを発揮する場所があり、それがお金という対価となって手に入れば、自分の存在価値が上がったことを実感できます。自分を表現し自己実現を果たすことは、自分の居場所をつくること。だから私は起業を勧めるんです。」
Tプラスでは一年かけて起業を支援する。得意なことや起業に取り組む上で困っていること、叶えたい夢を面談で確認。起業に必要なことを講座で学び、一年後にビジネスプランを発表して卒業する。これまでに、手づくりアクセサリーで起業した人、夫の被扶養者ではなくなったグラフィックデザイナーなど、一歩を踏み出した女性たちがTプラスから数多く誕生した。
そんな起業支援に取り組む中で、谷水さんを感激させたプレゼンテーションがあった。
「病人や高齢者のための低糖質スイーツを作って広めたい、というプランでした。低糖質でも甘味を感じさせるための工夫を研究し、病床にいる自らの父親のために作って食べさせるとすごく喜んでくれたそうです。その時の父親の笑顔が、自分の起業の動機だという発表でした。みんな誰かの役に立ちたいと思っているんです。そんな人たちをうまく繋ぐことができれば、気持ちのこもった温かい事業になることを実感しました。でも、いざ始めようとすると、外出が多いと家族から責められたり、子どもが熱を出したりするものです。今まさに伸びようとするお母さんが出そうとする一歩を止めさせてしまうのは、こうした家庭環境だったりするのです。そんなお母さんたちをサポートするために私たちがいます。」
託児の現場で母親たちから受け取る感謝の気持ちや、起業を目指す受講生たちの成長を目の当たりにした感動。そんな数々の喜びの中で、谷水さんが最も印象深く受け止めたのは「20年続いていることがすごい!」という言葉だった。

 

ビジネスプランの発表には、起業を目指す受講生それぞれの想いが込められている。

ビジネスプランの発表には、起業を目指す受講生それぞれの想いが込められている。

 

専門家講師の指導により、ビジネスプランを形にしていく受講生たち。

専門家講師の指導により、ビジネスプランを形にしていく受講生たち。

 

自分を信じて歩き続けた20年

 

活動を20年間も続けることができたいちばんの理由。それは「やめないこと」だったと谷水さんは言う。
「自分の子どもをほっといて、外出好きな派手な性格!」という言葉に、「私は何をしているんだろう」と活動の価値を見失いそうになった時もあった。表舞台で活躍することに難色を示していた両親との葛藤に、相当悩まされた。そんな日々を乗り越えられたのは、「子育て支援こそ、丹波には絶対に必要だ!」「わたしはここにいて頑張っている!」と信じる気持ちがあったから。
「人生って簡単にいかないほうが楽しいんです。ちょっと苦労したほうが、うまくいったとき何倍もうれしいでしょ?」と微笑む谷水さん。
「1年目、2年目の起業支援事業は、受講できる家庭環境になくあきらめたお母さんが、3年目にようやく取り組めるようになった時、事業が続いていることがうれしかったと言ってくれました。お母さんたちを応援している存在があることを、知らせ続ける大切さを感じたんです。」
若い母親たちをもっといきいき輝かせるために、谷水さんには伝えたいメッセージがある。

 

育休中のママのためのパソコン教室、お子さんと一緒に参加されるママも。

育休中のママのためのパソコン教室、お子さんと一緒に参加されるママも。

 

平成30年に丹波市で開催された「ひょうご女性未来会議」で話す谷水さん。

平成30年に丹波市で開催された「ひょうご女性未来会議」で話す谷水さん。

 

お母さんが心から幸せになれば 子どもも幸せになれます

 

「家族や子どもを優先させるだけでなく、自分が喜ぶこと、自分が幸せだと感じることを追求すること。自分を大事にしなくては、子どもにやさしくなれないし、子どもが幸せになれません。『保守的な土地に嫁いできてしまった』『まちの雰囲気が暗くて嫌い』というお母さんたちは、丹波が嫌いなのではなく、自分が喜ぶことをできていないから丹波のせいにしているだけ。お母さんたちに丹波を好きになってもらいたいんです。ここに来てよかった、ここで生きることができてよかったと思ってほしい。自分の居場所が地域にできれば好きになれます。すると家族も子どもも、もっと好きになれるんですから。」
そのためには、まず行動に移すことだと谷水さんは言葉に力をこめる。
「成功の反対は失敗ではなく、やらなかったこと。だから、若いうちからちょっとずつ行動してほしい。最初から大きな成功を求めなくていいんです。途中で立ち止まってもいいから、自分の夢を積み重ねていきましょう。あきらめずに続けていたら、いつか花咲く時が来ますから。」
たどる道は曲がりくねっていても、一歩一歩ゆっくり上りきれば、必ず夢にたどり着き自分色の花が咲く。シンボルツリーのように、谷水さんはTプラスという樹をますます大きく鮮やかに、丹波の地で育て続ける。

谷水ゆかりさん(公開日:R2.02.25)

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