株式会社 香寺ハーブ・ガーデン

すごいすと
2016/09/25
福岡讓一さん
(58)
兵庫県姫路市
株式会社 香寺ハーブ・ガーデン

昭和59年、研究開発型ハーブ園を開園。「自然から学ぶ」理念のもと農薬を使用せず、自然との共生の論理に基づきハーブを栽培。独自のハーブ抽出技術による食品や化粧品の商品化を続けるかたわら、神戸市・布引ハーブ園ほか全国38市町村のハーブガーデンの監修・設計にも携わっている。
平成27年には、関西大学および株式会社カネカとの共同開発による不凍タンパク質の実用化に成功し、文部科学大臣表彰を受賞した。今秋には、研究施設がある姫路市山之内地区の活性化をめざし、農家レストラン開設など地域おこしにも尽力。神戸大学農学部講師としても活躍中。

株式会社香寺ハーブ・ガーデン 代表取締役社長 福岡讓一さん (兵庫県姫路市)

きっかけは、20年間にわたった父の闘病だった。死後、泣き暮らす母を励ますため、父の夢だったレストラン経営を決意して起業。26歳のことだった。仕事を通じてハーブの存在を知り、研究のため世界をまわる中、香寺ハーブ・ガーデンの原点となる出会いが待っていた。

それは、およそ30年前。アフリカへ渡った時のこと。破傷風などで亡くなってゆく幼い子どもたち。手渡されたとうもろこしも食べようとせず、泣きながら命を落としてゆく姿を目の当たりにした。
「ハーブで薬をつくるから!助けるから!彼らに約束したんです」。
ハーブエキスの抽出に取組んでくれる研究者を探しまわる中、ただ一人、大阪大学薬学部の教授が手を挙げてくれた。
「君は純粋だから、夢をかなえる手伝いをしよう」。
応援者を引き寄せ、協力者を巻き込み、想いを形にしてゆく福岡スタイルのスタートだった。

そんな福岡さんの純粋な想いは、自然界への謙虚さと研究開発への情熱につながってゆく。
雨が降らず、畑が全滅に近くなった時のことだった。ふと見上げた山は青々としている。草が生えているところには、なぜかハーブが枯れずに残っていた。
「これが自然界のバランスなのだと気がつきました」。
例えば、カモミールというハーブ。畝をたて肥料を与えるより、雑草の中で育てた方が30倍ものエキスが抽出できることがわかった。

カモミール畑での収穫風景

「自然界にムダなものは何ひとつないんです。ハーブを育てるのに必要だから、草が生えている。人間は植物のことを何もわかっていません」。
自然が先生。植物から謙虚な気持ちで学ばせてもらおう。この気づきによって、自然との共生というハーブ栽培の理念が生まれ、研究開発においては世界初となる発見へと導かれていった。

「白菜やネギは、霜にあたってからとりなさいよ。甘くなるからね」。
「なぜ甘くなるんだろう?」
おばあちゃんとの世間話から、福岡さんは「糖ペプチド」の存在を知る。野菜エキスでご飯を炊くと腐りにくいことも発見した。従来の合成添加物を使わずに、天然エキスで食品保存が可能になるとしたら――。
関西大学生命科学工学部・河原秀久教授と研究を重ね、世界で初めてカイワレ大根からの不凍タンパク質エキス抽出に成功。河原教授、そして「合成添加物を世の中からなくしたい」という福岡さんの想いに賛同した株式会社カネカとともに、平成27年11月、科学技術分野における文部科学大臣表彰を受賞することとなった。
この不凍タンパク質エキスは、現在70種類の加工食品の品質保持剤として採用されている他、自動車製造や医療分野など、あらゆる産業に影響を与える画期的な発見として注目を集めている。

その一方で、もうひとつの福岡さんの想いも、少しずつ形になろうとしている。

夢前川の清流沿いにひろがる夢前町山之内地区。平均年齢82.5歳の小規模集落だ。福岡さんは、この地区で廃校になった小学校をハーブ抽出・研究施設として利用。また休耕田およそ2ヘクタールにカモミールを栽培し、摘み取り時期にはボランティアを募集。広島や名古屋といった県外も含め、今年は3日間で210名もの人々が参加するなど、ハーブ栽培と商品化で地域の活性化を行っている。

夢前工場での製造風景

山之内地区で栽培したカモミールを使用した商品

だが福岡さんの目標は、ただの観光地として人を呼ぶだけのものではない。「未病」「健康」「研究」といったキーワードが並ぶ「山之内地区博物館(西の軽井沢)構想」がそれだ。
そのひとつが、食べることで病気を治す地域づくりとして、10月23日にオープンする農家レストランと農産物直売所。シェフ自らがハーブを植え、地元農家のみなさんが無農薬野菜を提供。神戸大学医学部と提携し、一人一人に合った治療食を出す。
「疲れた人を山之内地区へ呼び、ストレス解消の食事や適度な運動、ヨガや瞑想、土に触れることによる心の栄養を提供したい。健康になって帰ってもらう湯治場をつくりたいんです」
「山之内セラピー」と名付けた温泉療法の基地として、大手旅行会社が企画するツーリズム構想への参入もめざしている。


神戸大の学生や山之内地区の方々、企業と研究を進めていく福岡さん。

その他、ロッククライミングやサイクリングといったスポーツの愛好家がやって来る特性を活かし、クロスカントリーコースの設置や宿泊バンガローの建設を中心としたアスリートのための合宿地づくり。さらには、企業の最先端研究所を招致しての近未来型農業研究も構想中。
「観光と最先端研究所が融合できれば、若い人が山之内に帰って来て就職できます。雇用も生みだす新たな地域おこしの形として、地区を引っ張ってゆきたい」と福岡さんは語る。

香寺ハーブ・ガーデン内では香寺の野菜が購入できる直営所もあり、香寺ブランドの野菜の育成にも取り組んでいる。

こうして福岡さんが懸命に取組む背景にあるもの。それは「目の前で困っている人を一人でも救いたい」という想い。その想いと、これこそが香寺ハーブ・ガーデンのなすべき仕事なのだと決意を固めるきっかけとなる出会いがあった。

20年前、自閉症の女の子がやってきた。目の焦点さえ合わず、10年間母親と会話もできていなかった。1年かけて専門医と協議を重ね、投薬をハーブに切り替えた。120日後、女の子は会話ができるまでになった。
「あなたに出会った日が、家族の記念日です」。
母親から届いた何十枚もの手紙。涙とともに福岡さんは、香寺ハーブ・ガーデンが進むべき道への志を固めたのだ。

「想いの強さがあれば、できないことはありません。想いが心に届いて人を動かすんです。私は最初からできると思いこんで始めます。だからあきらめるという選択肢は、私にはないんです」。
「ハーブで人を救う」。
30年前、遠くアフリカの地で福岡さんがたった一人で交わした約束が、多くの人の大きな想いになって果たされようとしている。

(公開日:H28.9.25)

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