くもべまちづくり協議会

すごいすと
2016/11/25
梶谷郁雄さん
(69)
兵庫県篠山市
くもべまちづくり協議会

篠山市の北東部に位置する雲部地区。小学校の閉校をきっかけに、くもべまちづくり協議会が中心となり、旧雲部小学校を活動拠点とする新たな地域づくりに取り組むことになった。都市部との交流や地域イベントの運営を続ける中、平成25年、会長の梶谷郁雄さんを中心に、地域の人々で「合同会社 里山工房くもべ」を設立。旧校舎を利用したコミュニティカフェは、年間1万人が利用する人気スポットに育っている。3周年を迎えた今年11月1日、カフェの人気メニューを集めたレシピ集「いただきます。」を出版した。

厨房チーフ野中陸子さんがつくる、カフェで人気のメニューをピックアップ。開設3周年を記念したオリジナルレシピ本『いただきます。里山工房くもべのごはん』。チーフに負けじと腕を振るう、厨房の料理人たちの得意メニューも入った全部で71品を紹介。

くもべまちづくり協議会 会長 梶谷郁雄さん (兵庫県篠山市)

私たちの学校がなくなる!?


雲部の町を見晴らす高台に、静かにたたずむ旧小学校舎。玄関に掲げられた「合同会社 里山工房くもべ」の表札をくぐると、懐かしくて新しい不思議な空間が広がっている。
里山に囲まれた、のどかな農村地帯に広がる篠山市雲部地区。農村地域・過疎化地方が抱える地域再生という課題に向き合う中、雲部小学校の閉校が決定。平成22年3月、118年の歴史に幕が下ろされた。
「小学校の閉校は想像もしていなかったこと。地域住民にとっては思いもしない話でした。すると今度は、校舎の跡地利活用という新たな課題が生まれました。窓を開けて風を通したり、掃除をしたり、周辺の草を刈ったり……。閉校後の校舎の管理は地域に任されます。でもこれが、地域づくりを本気で考えるきっかけになったんです。」と梶谷さんは振り返る。

自分たちで、もう一度学校を動かそう

県や市の協力のもとコンサルタントの支援を受けながら、半年間でのべ7回、地域住民も参加してのワークショップを開催した。まずは、雲部への思いや問題点、魅力などを話し合い、自分たちの暮らす地域を知ることからスタート。将来に向けた地域のあり方や、そのためには何を、どんな方法で進めてゆくかを話し合った。先進地域への視察も重ね、できあがったのが「1500年の未来にむけたほんものの里村づくり」―雲部ぐるっと・もっと・ずっとプラン―だ。

校舎2階の図書室には、ワークショップで使用したシートが掲示してある。地域住民たちが各々の意見を付箋に書き、模造紙に貼って共有していく。

「雲部地区には、1500年の歴史を誇る地域の起源・雲部車塚古墳があります。1500年続いた雲部の、次の1500年の未来を築きたい。そんな思いでつくったふるさと自立計画です。」
この時、住民にとったアンケートへの回答が、雲部の未来をさし示していた。
「民間の力を借りて、学校をもう一度動かしたい!」


こうして平成25年8月、住民263人(市外へ転出している同窓生を含む)の出資による合同会社 里山工房くもべ設立。3か月後の11月には、旧雲部小学校舎を使ったコミュニティカフェと農産物直売所「合同会社 里山工房くもべ」がオープン。プロジェクトの始動から3年の月日が流れていた。

農産物直売所には毎朝近所の農家さんから獲れたての野菜が届く

カフェ&アトリエの誕生

「ここは校長室、こっちは職員室。机と椅子がかわいい!」
オープンから3年、コミュニティカフェの利用者は年間1万人を越える。そのおよそ4割は阪神間からの来客で、「校舎」を懐かしがって建物を見て回る人々も少なくない。
人気のコミュニティカフェは旧職員室を利用(金土日月営業)。机や椅子は児童たちが使っていたもの。床も黒板も閉校当時のままだ。おすすめは、地元農家がつくった野菜たっぷりの「くもべ定食」やオーガニックコーヒーだ。玄関を挟んだ向かいの部屋は校長室。地元・雲部の農家で採れた米や野菜、加工品など、生産者の顔が見える新鮮で安心な商品が並ぶ直売所になっている。
オープンから一年を過ぎた頃、旧教室6つが工房&展示販売室になった。若手の職人や作家たちから、制作場所として教室を借りたいという依頼が入り始めたのだ。現在、革製品や丹波木綿、木工などの作家や画家など6組が入居。年に一度「クラフト展」を開催し、にぎわいを見せている。

入居者の一人「革工房mimi」の鈴木恵美さん。革道具のハンドメイド作家で、高砂から移住して2年になる。「篠山は、人とのつながりを大切にする地域だと感じます。みなさん穏やかで、ゆっくりと商品を見てくださる方が多い。仕事もしやすく、お気に入りです。」

入居者「handmade shoes Nelio」の田代慎吾さんはすべて手縫いで仕上げるオーダーメイドの革靴工房を営む。神戸から2年前に移住してきた。「カフェが頑張っていらっしゃるので、こちらへも人が来てくれる。おかげさまで工房単独の予定が、ショップへも広がりました。」

都市との交流が町を育てる

こうした小学校跡地の活用と同時に、続けているのが都市部との交流だ。神戸元町にある兵庫県の肝いりで実現したアンテナショップ、農産物特売所「元町マルシェ」には、毎週野菜を出荷中。
また、県民交流広場事業の都市農村交流事業説明会で出会った「尼崎市園田北地域推進会」との交流は、平成22年から6年の付き合いになる。雲部からは「雲部ふるさとまつり特産朝市」や「雲部軽トラ野菜市」を園田で開催。今年の「ふるさと祭り特産朝市」では250束の黒豆を持参したが、24分で完売だった。

「洞光寺ともみじまつり」を地域の方々と一緒に楽しむ梶谷さん

園田からは、雲部地区が運営する「洞光寺ともみじまつり」をはじめ年1回はいずれかの行事に参加するのが恒例行事。その他「黒豆の植え付け・収穫体験」や、「老人クラブのグラウンドゴルフ大会」「子どもたちの恐竜発掘体験&バーベキュー」、「丹波の祇園さん」で有名な「波々伯部神社の祭礼」など、互いの交流は続いている。
また、梶谷さんは尼崎市制100周年記念事業の「石見神楽祭」に招待を受けた際「かつて経験したことのないような、胸の高まりと感動を得る事が出来た。」と、交流によって生まれた関係に目を潤ませた。
「一過性のものにならないよう、今後も継続してゆくことに力を注ぎます。グリーンツーリズムに登録するなど、観光ルートの確立につなげてゆきたい。」と梶谷さんは語る。

地域づくりとは地域経営

「里山工房くもべの運営は収益事業です。開設前には集客が見込めるのか、社会実験も行いました(16日間で1,500人の来場を達成)。先日3周年を迎えましたが、収益の安定化を図る意味でも次の3年間が大切だと思っています。」と語る梶谷さん。

オープン当時の様子

「今、主にこの事業に携わっている業務執行社員4人は『地域のみんなに喜んでもらいたい』『地域に携わる仕事で教えてもらったことを地域に返したい』ただそれだけを思って活動しています。」
「地域に返すとは、若い人が私たちの後を継いでくれること。幸い、雲部には若いエキスパートがあちこちにいるんです。野菜作り、経営相談、パソコンの名手、デザイナー、相談相手など……。私は人材の『巻き込み力』に恵まれていると思っています。」と笑顔を見せる。
直売所にもっと自家野菜を増やしたい、黒豆味噌を「雲部ブランド」として特産品開発に広げたい。さらには、高齢者の送迎サービスや雲部地区あげての農業経営など、解決が求められている課題はまだまだある。
「地域づくり・里づくりは、行政だけではなく各地域でもやらなくては。地域づくりとは地域経営、村を経営してゆく時代なのかもしれません。」

私の生きる道

閉校をきっかけに、地域経営とも言うべき大きな課題に向き合った梶谷さん。頑張り続けるエネルギーは、どこから生まれたのだろう?
「この事業に取り組まないという選択肢は、ありませんでした。当時(昭和34年)の新校舎は、旧多紀郡内で初めての鉄筋コンクリート造りだと聞いています。6年生の時、自分たちの手でコンクリートを練りを体験し、一輪車で運んで手伝いました。自分たちで造った校舎だという想いが強いんです。だから、学校は絶対につぶさないという気持ちでした。」
さらに背中を押したのが「若い人が事業をやってくれたら、年寄りも集まれるなぁ。」という高齢者の声だったという。
「『廃校』という言葉は使わないでくれと市当局にお願いしました。二度と立ち上がれない気がしたので。『閉校』だったら、また開ける可能性もありますから。」
カフェのオープンから間もなく、高校を中退し居場所を探していた男の子がカフェで働くことになった。同僚になるのは、元幼稚園の先生や地域のお母さんたち。わが子のように彼を励まし、時には叱り、支え続けたという。そして一年後。茶色い髪を黒髪に戻し、彼は農業がしたいと大型農家に就職していった。学校とは閉じてなお、人を育てる場であり得る。梶谷さんの笑顔が印象深いエピソードだ。

兵庫県立大学環境人間学部の学生の方々と共に梶谷さんの畑でフィールドワークを行い、獣害や転作、水利などの学習や農地に関するワークショップを実施。県下でも耕作放棄地が少ない地域である篠山。後継者の育成は勿論、学生との交流やワークショップ等で新しい意見を取り入れている。

カラカラカラ……。窓の外から音が聞こえる。視線を向けたその先には、エプロン姿の女性が校旗を揚げていた。
「カフェのオープン時間に合わせて掲揚しています。」
例え閉じられても、小学校は地域の心のよりどころ。風に舞い踊る校旗が、雲部のみんなを見守り励ましているかのようだった。

(公開日:H28.11.25)

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