子どもの遊び場を考える会赤とんぼ代表

すごいすと
2013/09/25
森正枝さん
(59)
兵庫県たつの市
子どもの遊び場を考える会赤とんぼ代表

兵庫県の南西、たつの市の中ほどに位置し、揖保川が流れる自然豊かな地区。

その自然の中で子どもたちとその家族の生きる力を育み、地域をさらに良くしたいと活動を続ける人がいる。

「子どもの遊び場を考える会赤とんぼ」の代表、森正枝さんにお話を伺った。

森正枝さん

プレーパーク赤とんぼ

毎週土曜日の午後、揖保川の河川敷水辺プラザ、雑木林の中に子どもたちの声がこだまする。

「プレーパーク赤とんぼ」に参加している子どもたちのにぎやかな声だ。

プレーパークとは、子どもたちが自分の責任で自由に遊ぶためのひろば。

プレーパーク赤とんぼは、毎週土曜日、午後1時からの3時間、無料で開放され、誰でも参加できる。

森さんはこのプレーパーク赤とんぼの実施団体「子どもの遊び場を考える会 赤とんぼ」の代表。

8年前、他地域で行われていたプレーパークを、ぜひ龍野でも実施したいと立ち上げた。

用意されているのは場所と遊びの素材だけ。遊びに来た子がそのうちの何を使うか、どうやって遊ぶかは全くの自由。本当に危険なこと以外は制止されない。本人がやりたいことに心ゆくまで挑戦できる。

プレーパーク赤とんぼの様子

この日用意されていたのは、ダンボールや木、牡蠣の殻といった工作用の素材。また、体を使って遊べるようにと、土手すべり用のダンボール、木と木の間に渡されたスラックラインと呼ばれるベルト状のバンド、ハンモックやクライミングウォールがある。赤とんぼ草笛の会の代表三浦さんによる草笛教室も開催された。

この日の参加人数は約80名。学区内の子どもはもちろん、赤穂、上郡、宍粟、姫路、加古川といった他の市町からの参加もある。県下には、子どもが自由に遊べる場として「子どもの冒険ひろば」が約30箇所あるものの、毎週開催されるところは少ない。

クライミングウォールもできる

クライミングウォールは頑丈さが必要なため準備に男性5人が必要。この日はスタッフ以外にも小宅地区の自治会から男性2人が組み立てに協力しようと駆け付けた。

子どもたちは昼食を食べた後、ここへやってきて日が暮れるまで遊ぶ。最初は「お母さん見てて」と服の裾をひっぱり、泣きそうになりながら甘えていた女の子も、しばらくすると親から離れて元気いっぱいに遊びだす。

春は緑いっぱいの木々の間を駆けまわり、夏は一大イベントの夏まつりで大はしゃぎ。秋にはあけびやオニグルミを拾い、冬になると作ったダンボールハウスに入って寒さをしのいでみたり。そうして子どもたちは全身で季節の移り変わりを感じていく。

消防署協力による激流豪雨体験

毎夏恒例の「プレパの夏まつり」の一幕。ポンプ車を使った激流豪雨体験など、消防署の協力も寄せられる。今年は約1,500人が参加した。

自由な遊びを通して、のびゆく子どもたち

「子どもがやりたいと考えたことを、やりきったと納得するところまで、自分の力でやってもらうことが一番大事。私たちはできあがったものの評価はしません。本人が考えついたことをその時間をまるまるかけてやりとげたこと、一生懸命やったことを肯定する。それが私が大切にしていることです」と森さんはにこやかにそして力強く語る。

森正枝さんの横顔

そしてもうひとつプレーパークで大切なことは、ルールや禁止事項は作らない、ということ。

例えばハンモックをひとりじめしてしまう子どもがいたとしても、リーダーやスタッフはそのこと自体を禁止はしない。独占した子には遊び終えた後に独占することが周りに与える影響を伝え、次からはみんなで使えるようにしようと提案する。

もしそれを使いたいと思った子がいるならば、自分で交渉をしておいで、と促す。

「だめって言われてすごすごと戻ってくる子もいるけど」と森さんはほほえみながら教えてくれた。

「世の中決めた通りにはいかない。不条理なことがあっても自分の思いが叶うように、知恵を使って工夫できるようになることが大切」

プレーパークでのこうしたやりとりを通じて、成功や失敗といったひとつひとつの経験を重ね、体得していく。そうして子どもたちが社会の中で生きていくための糧にしてほしいと森さんは考える。

ハンモックで遊ぶ子どもたち

ともに育つ学生リーダー

そうした経験から学ぶのは子どもたちだけではない。

プレーパークにはプレーリーダーと呼ばれる、子どもたちにより近い立場で関わるスタッフがいる。子どもたちと一緒に遊びながら、大きな怪我をするような危険がないように見守ったり、初めてきた子に遊びの手本を見せたりする。

そんなプレーリーダーとなるのは学生を中心としたボランティアスタッフ。高校生や大学生、卒業してからも継続して参加する社会人もいる。中学生を対象にした社会体験活動(=トライやる・ウィーク)中は、中学生がリーダーとして参加することもあるそうだ。

今日が2度めの参加になる大学生は「他のいくつものプレーパークに参加してみたけど、ここはリーダーが自分たちで主体的に考えて、活発に動いているのがすごい」と目を輝かせる。

リーダーと子どもたちの綱引き

リーダーと子どもたち。

彼らリーダーは、子どもを褒め、受け入れる。意図的に導かない、規制しないということにも心を配らねばならない。森さんは「私たちでは代わりになれない。子どもの本音を引き出せるのは年が近い彼ら」と考えている。森さんを含めたスタッフは、受付や俯瞰的に見守る役目を引き受け、プレーリーダーに子どもたちとの活動の多くを任せている。

それだけの信頼関係を築く基盤となるのは、毎週片付けが終わった後の小一時間ほどの反省会。参加したリーダーとスタッフが輪になり、その日の参加人数の報告から始まり、それぞれ一日の感想を述べていく。

あるリーダーはこう話す。「森さんは、子どもやリーダーがどのように動いているかを見ている。そして反省会で必ずリーダーひとりひとりと話をする。みんなのキャラクターを掴んだ上で自分たちの意見を引き出そうとしてくれる」

その日の子どもたちとの関わり方や場の作り方、一日子どもたちがどのように過ごしていたか、どの子が何をした時にどういう対応をしたか、子どもたちの行動に問題になるようなことはなかったかなど家族の様子も織り交ぜながら報告は進む。

一日の終りの反省会

反省会

みんな信念を持ってプレーパークに取り組んでいるため、反省会は時に白熱した議論の場となるという。「私もみんなも、子どもが自分たちでできるということを信じているからこそ、プレーパークとしてどんな場をつくるのか譲れない部分がある。そんなときはとことんまで話し合うようにしています」。

保育士を目指し、学生時代にプレーパークの活動に関わり始めたあるリーダーは、森さんとよく議論を戦わせた一人。「もしここに来ていなかったら、保育所の中からの視点だけになっていたと思う。もちろん保育所とプレーパークでは違うけれど、それでも心構えとしてプレーパークでの関わりが生きている」

卒業後保育士として勤める傍ら休日にはプレーパークに参加する。「自分が楽しいからくるんだけど」とハンモックを括りつけながら笑顔で語った。

赤とんぼの手書きちらし

リーダーが書いた手書きちらしの写真。

親にも安心できる場を

「自由に動き回って力いっぱい遊ぶことって、私たちが子どものときには当たり前だったはずなのに、今はそれが叶えられる場所が本当にない。ここではリーダーがちゃんと見ていてくれるから親は安心できるし、子どもは思いっきり遊べる。」そう語るこのお母さんは、すっかりプレーパークのファンになり、今ではいろんな友達に声をかけて一緒にやってくる。

時には、プレーパークは様々な事情を持つ親や子の心の休憩所にもなっている。

プレーパークの中の子どもの表情や遊び方から、その子の様子や、今の家庭の状態もなんとなく推察できるという森さん。タイミングを見て、迎えにきたお母さんに声をかけ、少し話を聞く時間をつくる。

ある親子は地域に受け入れられず、遊ぶ場がないと思いつめていた時に、プレーパークを見つけやってきた。

参加当初は硬い表情で怒るばかりだったお母さんも、子どもに対する周りの対応と、回数を重ねるごとに子どもの様子が落ち着いていくのを見るにつけ、安心した顔で子どもと一緒にやってくるようになったという。

「わざわざやってくるのだから、その人も何かを変えたい、打破したいと思って来ているはず」ここが、まず子どもが落ち着ける場所であれば、きっと親との関係もよいように変わっていくと森さんは信じている。

わがまちで、プレーパークを!

岡山市庭瀬出身の森さん。農家に生まれ、子ども時代は兄に教えられた「どぶをかき回して、発生したメタンガスにマッチで火をつける」といった豪快な遊びが大好きな活発な女の子だった。

そんな森さんの子育ては、優秀な子を育てねばならないとのプレッシャーもあって、絵本を読む、自然と触れ合うといった情操教育に熱を入れる一方、いわゆる教育ママでもあった。

ある日、わが子にチック症の症状がみられ、授業が中断するほどだったことが学校から知らされる。

衝撃を受けた森さんは、そこから改めて子どもの心と成長、そして自分が母親として自分の子どもに何を求めどのように対峙してきたかを、考えるようになる。著名な臨床心理学者の著書を読み、「追っかけと言えるぐらい」講演会や勉強会に参加した。

森さんと子どもたち

そんな中思い出したのが、一度だけ自分の子どもを夏休みのキャンプイベントでつれていった、大阪自然教室の存在だった。

「キャンプの後、参加した子どもたちがそれぞれ感想文を書くの。他の子が、学校で習うような時系列に並んだ文章ではなく、いきいきと感動的な情景が思い浮かべられるような文章を書いていたことを思い出して」。

以前参加していた時の自分は、子どもの作文にダメ出しをするような母親だったという森さん。今度こそ、その自由さを思いっきり味わってほしいと、再度大阪自然教室に通い始める。野山を駆け廻りどろだらけになって遊ぶ子どもたち、心も身体も遊びきった満足感に満たされた寝顔を見るにつけ、いつしか子どもとその可能性を伸ばし育てることができるこの活動が、龍野にもあればと考えるようになった。

ただし「龍野というのは結構閉鎖的なところもあって、人が何をやっているのか、傍から誰かが見ていて噂をするようなこともあるのね」だから、地域では目立つようなことはしないでおこうと考えていた森さん。

自身がプレーパークを開催するなどとは考えもせず、地域では婦人会などで一住民としての務めを粛々と果たしていた。

しかし子どもと真摯に向き合うことは、一方で母親である自分自身を考えなおす契機ともなる。

森さんは「良い子を育てられることが良い母であり、女性としてあるべき姿である」という理想像に囚われ、それが生きにくさとなっていることに気づく。「子どもにあるがままのあなたでいいというなら、私も自分の人生を私の足で歩もうとふっきれた」

その当時、婦人会では子育て支援活動に関わっていた森さんは、もっと自分がやりたいことをしようと、プレーパークの立ち上げを決意。

そして平成17年、婦人会で一緒に活動していた仲間たちを口説き、子どもの遊び場を考える会赤とんぼを結成する。

「子どものことと、飲み会が好きな普通の主婦だと思ってたのに。ここまで大きなことをつくり上げるなんて」と久々に帰郷した息子は驚く。

「人にどう言われても構わないと思えた。きっとそこが私が居直った瞬間だったのよね」と笑って話した。

森さんとボランティアリーダーのみなさん

森さんとボランティアリーダーのみなさん、氷の山でハイポーズ

西播磨みんなで変わろう

そんな森さんも今では龍野町小宅地区婦人会会長や、西播磨の地域活動促進を目指す西播磨元気プロジェクトの代表を務める。

子どもの活動に身を置く上で、初めは自身が暮らすたつの市しか見ていなかったと話す。

その視野が広がり、西播磨全体の活性化に携わるきっかけをもたらしたのが、県のビジョン委員として西播磨の他地域の委員らとともに取り組んだ、西播磨の子育て支援情報誌『わっ!と西播磨』の企画と発行だった。

特集を組むために情報収集をする中で、同じ子育て支援のプログラムであっても、ある市では取り組みがあるのに、他の市では行われていないという温度差があることを知る。そうした支援制度の差を知り、情報誌の中で比較されることで行政が見直すための促しになればいいと、考えるようになる。

そんなきっかけから自分の地域だけでなく、西播磨全体でより良く変わっていきたいという方向性が森さんの中に生まれたという。

出る杭大会開催風景

さらにその思いが大きくなり、今、森さんは西播磨元気プロジェクトの代表としての活動を進める。

特に意欲的に取り組むのが「出る杭大会」。「出すぎた杭は、根付き芽吹く」をスローガンに、西播磨地域で活動を行う団体、個人の発表の場をつくろうと始まった大会。

ブースやプレゼンテーションを通じて、学生やボランティア団体などが日頃の活動内容をアピールし、大賞や元気プロジェクト賞などが贈られる。平成25年4月で第12回を数える。今回は約2万4千人の来場者があった。

第11回大会から西播磨元気プロジェクトとして、開催を引き継いだ森さん。年に1回の大会を開催するだけで終わってしまうのはもったいないと考え、お互いが切磋琢磨できる地域のネットワークを構築しようと、受賞者同士の交流会議や育成講座の開催を決めた。

「大会には48の団体がエントリーした。その中で大賞を取るぐらいの活動を行える団体は、その手法をオープンにしていただき、西播磨全体が盛り上がっていくように協力してほしい」と意気込みを語る。

子どもが少なくなれば、必然的に子ども同士の関わりが減り、人格形成にも少なからず影響がある。そういった意味でもまちの活性化は不可欠なのだ。こうして森さんは、新たにまちづくりや地域活動といった分野でも活躍を広げている。

出る杭大会表彰式

子どもの心

子どもの時の楽しい思い出は、空のきらめきや風の温度といった、そこでの情景とともに子どもに刻み込まれる。森さんの夢はプレーパークがそうした記憶の中に残り続けること。

森さんが大切にしていることは「子どもの心」。生涯のテーマでもあるという。

活動の中でいつも想いをはせるのは、子どもが行動を起こす手前で、その子の中に必ず起きている、心の動きだそうだ。

そして森さんはその心の動きに寄り添わせるようにして、プレーパークを続ける。

「心を育てる、心を満たす、そして子どもの心を持って」森さんは活動を続けていく。

子どもの心

 

(公開日:H25.9.25)

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