垂水駅前に広がる商店街。歴史あるたたずまいと新しい店構えが混在する通りは、多くの買い物客でにぎわっている。商店街の一角を曲がれば、「親子ひろばそらまめ」の活動拠点、陸ノ町自治会館がある。
「昔から、垂水商店街は子どもを連れてよく買物に来る場所。買物の途中に授乳やおむつ替えができたり、ママ同士が交流できる場所があればいいのにって、ずっと思っていたんです。」
小学生から高校生まで、女の子3人の母親である村上華世さん。
「三女が幼稚園に入ったら10年ぶりに自分の時間ができる。何をしようか、わくわくしながら考えていました。」
思いついたのは、以前から自分が欲しかった「親子ひろば」。
「同じ幼稚園のママたちに『親子ひろばをやりたいけど、どう?』って訊くと『やろう、やろう』と仲間がすぐ集まりました。」
8名でのスタートから7年。現在のスタッフはおよそ30名。その輪はどんどん広がっている。
ひとりでふらっと立ち寄っても、話し相手になってくれるスタッフがいつもいること。地元の小児科や幼稚園など、子育てに関する情報交換ができること。「自分たちが欲しい場をつくろう」との思いから始まった垂水マミーズの「親子ひろばそらまめ」。
現在の活動は、陸ノ町自治会館やコープ垂水店での「親子ひろば」、舞子ホテルでの「親子サロン」、出張託児や小児救命講習、障がい者事業所の運営サポート、お魚料理教室&漁港ツアー、そして子育てイベント主催など多岐にわたる。
「どれもママたちのニーズから生まれたもの。自分たちがやってみたいこと、自分たちにできることが中心です。」
こうした活動が広がったきっかけは、村上さんが常に中心になって動き続けることに限界を感じたこと。そしてたくさんのママたちとの出会いの中で、みんながスキルを持っていること、そのスキルを使わないのはもったいないことに気づいた村上さんがママたちに「やってみて」と役割を分担する声をかけたことだった。
「スタッフや参加者の中には、出産を機に退職した保育士や学校の先生をはじめ、ヨガやネイルアートの講師など、スキルを持った人がたくさんいます。親子ひろばでは『子連れで講師を!』と頼んで、教室を開いてもらいます。これをきっかけに、自分で教室を始めるママたちもいるんです。」
「やってみて」と声をかけるうち、ママたちから「やっていいですか?」「やってみたい」「私はこれができる」と手が挙がるように。こうしてコーディネーターとしての役割も果たすようになった村上さん。それと同時に、少しずつ地元商店街や地域とのコラボ活動も増え始めた。
「ママの買物に便利なようにと始めた活動。当初は地域とつながるなんて、考えてもいませんでした。」
しかし、活動の場が広がるにつれ実感したのは、身近な地域や商店街とつながりを持つことの大切さだった。
「印象に残っているのはハロウィンパレード。みんなで商店街を歩いて、お店でお菓子をもらうパレードができたらおもしろいだろうなと思ったんです。」
いくつかの店に協力を仰ぎパレードが実現。「一人では買物に行きにくかった商店街にも楽しい店があった」とママたちにも好評で、買い物に通う人も現れた。また、このイベントをきっかけに、商店街の店が「親子ひろば」で昆布だし教室を開くなど、ママと地域のつながりがどんどん生まれていった。
「お店側にも私たちママたちに伝えたい強い思いがあることに気づきました。子育てだけに特化せず、ママたち自身もできることを、自分たちから行動に移していこうと思うようになったイベントでした。赤ちゃんを連れているからできないじゃなく、連れていてもできることは何だろうと考える。ママたちの方から地域に入っていく。それが商店街へ遊びに行くとか、買物に行くということであってもいいんです。それだって地域づくりのひとつであって、活性化になるんです。」
こうした地域とつながる活動が少しずつ増えるうち、マスコミも注目するプロジェクトが生まれることになった。
「垂水の漁協とコラボ事業をしてみませんか?」
垂水区役所からの提案で始まった「垂水のお魚を食べようプロジェクト おさかな料理教室&垂水漁港ツアー」。地元で獲れる新鮮な魚を子育て中のお母さんや子どもたちにもっと食べてもらい、魚好きで健康な子どもを育てようというもの。神戸市漁協女性部(現在の婦人部)が作成したレシピを、神戸女子大学管理栄養士養成課程の先生や学生たちがアレンジ。平成28年7月から始まった託児サービス付きの料理教室には、のべ200名近いママたちが参加している。
「みんな魚料理は得意じゃない。でも、やりたい。素直に『できないけど、やりたいんです』って伝えたら、いろんな人が助けてくれました。」
他にも、子育て支援の輪を広げる「垂水子育て支援メッセ」や、垂水区の区制70周年を記念した「子育て応援すまいるフェスタ」など、行政との連携によるイベントに関わるうち、協賛の呼びかけを通じて企業とのつながりも生まれていった。
「子育て支援は行政に頼るだけではなく、自分たちで地域の方や企業に『応援してください』と声をかけるのも大事だと思うようになりました。企業にとっては自社へのファンづくりにもつながります。お互いが協力し合い、地域の企業も子育てに関わる仕組みを作ることができたらいいなと思うんです。」
そんな村上さんには、夢がある。
「ママたちの持続的なプロ集団をつくりたいんです。持っているスキルと子育て経験を活かした活躍の場や、就労の機会を提供したい。だからこそ収益を意識することが大切だと思っています。」
垂水マミーズでは、仕事としての意識を大切に持ちながら事業に取組んでいる。
ママ同士のコミュニティや、子育ての世界だけにいるのではなく、もっと広く地域とつながってスキルを活かして欲しい。子育てだけで精一杯、他には何もできないと決めつけるのではなく、できることをやる。ママがスタッフとして入り、次の世代のママ達を育てていく。自分たちがそんなモデルになれたらと言う村上さんに、行政からかけられる声も変わってきた。「こんな支援があるよ」という情報の提供だったのが、「こんなこと、ママたちにできる?」と提案されるようになったのだ。
「ママたちの力で、地域を元気づけてほしいと思ってもらえることがうれしい」と村上さんは話す。
「暗いと不平を言うよりもすすんであかりをつけましょう。」
この言葉を、ずっと大切にしてきたという村上さん。
「親子ひろばがあったらいいなと思った時、子育て中だから何もできない、誰もつくってくれないというのではなく、自分にできることをやってみようと思えたのも、この言葉が根底にずっと響いていたからです。赤ちゃんがいるからできないと言い訳をせず、できない中でもできることを自分で見つけて欲しい。『ママ』って、もっといろんなことができると思う。それを見つけて活かし、つなぐお手伝いが垂水マミーズとしてできたらいいなと思っています。」
コラボやコーディネートなど地域と「つながる(CO)」ことを意識した活動が続く垂水マミーズ。
「これからは子どもが減り、高齢者が増えてゆく時代。子育てだけじゃなく高齢者も含めた地域支援を見据え、地域全体がつながる活動をしていきたい。」
商店街に顔見知りが増えたことで、住みやすくなったという村上さん。
「いざというとき、どれだけ地域とつながっているかが大切です。でも、それはすぐにはできないもの。子育て中は、子どもの成長も見守ってもらえるつながりを育めます。ここから、少しずつです。住みやすい地域にするのは自分たち自身ですから。」