<子育てサークルやんちゃんこのお友達>
それは濱田さんが、小学校で教師を務めていた時の出来事だった。
お母さんに抱っこもしてもらえず休み時間のたびに膝に座りにくる男の子や、赤ちゃんが生まれたために「私はいらない子なのだ。」と思い込んでしまった女の子、「1年生になったから自立をしなさい。」と急に入浴も就寝も一人でするように言われてしまった男の子に出会ったのだ。それぞれに愛情不足の症状が出た。落ち着きがなくなったり、表情が暗くなり、口数が少なくなってきたり。人の物やお金を取ったりする行動も出たそうだ。
「どの出会いも衝撃でした。お母さんの愛情不足が生む現実を目の当たりにしたのです。でも、その子を満足させるために教師にできることには限度がある、お母さんには勝てないと感じました。」
もし子どもができたら、自分の手で子どもを育てよう。教師の代わりはいても、母親の代わりはいないから。そう決心した濱田さんは6年間の教員生活を経て、出産を機に退職。子育てに向き合う道を選んだ。
<代表の濱田英世さん>
「5人集まれば、公民館を無料で使えるらしいよ。」
そんな情報を耳にしたのは、濱田さんの子どもが3歳を迎える頃のこと。親子で一緒に、ノリのいいやんちゃな子を育てたいという思いから、サークルの名前は「やんちゃんこ」に決定。平成3年、友達5人とともに公民館の和室から活動が始まった。
ノリのいい子とは?
「『チューリップを見に行くよ』と声をかけると、『こんな色が咲くんやなあ』と夢中で観察する子。『絵を描くよ』と言えば、一心にクレヨンを動かす子。何にでも興味を持ち『やってみよう』とノッてくる子どもたちです。学ぶ力の源です。」
そんな想いで始めた活動も少しずつ人が集まり、当初の5人が10人になり、20人を超え、10年後には親子60人という大所帯に成長した。
<公民館祭りに「やんちゃんこ」で参加>
「だんだんイベントのようになり、お母さんたちの話し相手になることも、ままならなくなっていきました。私がやりたかった活動はこれじゃないと思い始めたのです。」
公民館は活動時間にも制限がある。
「お母さんたちと、ゆっくり話せる場所が欲しい。」
決心をした濱田さんは、平成14年、阪急塚口駅前に独自の活動場所を設けた。「やんちゃんこ」設立から10年目のことだった。
<つどいの広場「わいわいステーション」>
「お母さんの愛情不足で、子どもを育ててはいけない。」
教師時代の濱田さんが胸に刻んだ想いから「やんちゃんこ」をはじめ、「わいわいステーション」ではどの活動も基本は、親子で一緒に取り組む。
「松ぼっくりで工作をした時、『去年は子どもが自分でできなくて私が作ったけれど、今年はこの子が全部自分で作れるようになりました。』って、お母さんがうれしそうに報告してくれたのです。子どもと一緒にいるからわかる成長ぶりや喜びを、お母さんも一緒に感じてほしい。」
乳幼児だけでなくさらに、平成24年からは児童発達支援の活動「虹色カフェ」が、平成28年からは小中学生の放課後の居場所「まちの寺子屋やんちゃんこ」が始まるなど、つながりのあるサポートが形になってきた。
こうした支援事業が、今では年間延べ8,000人の親子が利用するまでに成長したが、最初から目標とする形があったわけではない。
「活動を続ける中で『子どもを預かって』『部屋を貸して』って、お母さんたちが求めるものが形になっていっただけ。」
計画性がないと笑う濱田さんだが、濱田さんたち自身も驚く成果があった。
<「まちの寺子屋やんちゃんこ」でお菓子づくり>
「地域に関わらなくちゃ、手伝いに来てもらわなくちゃといったことではなく、お母さんや子どもたちがここを出て地域に入り、また戻ってくる。そういう循環が自然と生まれたのです。」
「やんちゃんこ」では、卒業した子どもたちが手伝いにやって来る。
「小さい子どもたちと遊んでから塾へ行く子。保育士や教師を目指し勉強のために来る子。クリスマスにはサンタクロースを務めてくれる男の子もいますし、夏祭りや運動会には小学生も来てくれます。」と濱田さん。
自分たちが支援を受けた場所へ、自分の居場所として帰ってくる。小さい子どもたちと、ただ遊びたいから遊ぶ。それがそのまま、若者世代の子育て支援になっているのだ。
一方、「やんちゃんこ」で支援された母親たちも、支援する側になっていく。例えば、幼稚園から高校まで役員の中心が「やんちゃんこ」に関わっていたお母さんたちだったり、中学生と赤ちゃんのふれあい授業に「わいわいステーション」の母親たちが参加し、命の大切さや親への感謝を伝えていたり。
「地域の子どもたちを、小さい頃から知ることができるのは強みです。地域の目としての役割を、自然と果たすことになるからです。たとえやんちゃをしていても、見てくれているおっちゃんがいる、自分を知ってくれているおばちゃんがいる。そんな安心感を与えてやることこそが、本当の見守りだと思うのです。『やんちゃんこ』の27年が、いろいろな人の役に立っていることを肌で感じます。」
27年もの間、濱田さんを活動に向かわせたエネルギー。それは、子育て支援は親の支援という想いだった。
<おじいちゃんもおばあちゃんも参加したハロウィン>
「一人で悩み、一人で抱え込もうとしないで!」と、母親たちに語りかける濱田さん。
特に、子どもの発達に関わる悩みの相談場所「虹色カフェ」やこども通所サービス「にじいろ」は、子どもはもとより家族や保護者を支えるためのつながりの場所として大切にしている。
「一人で子育てなんて、絶対にできません。いろいろな人を頼って力を借りたらいい、できないことは甘えたらいい。『困っているんです、みてもらえませんか?』って言いましょう。地域には、おっちゃんやおばちゃんがいますから。みんなで子育てを応援できるようになってほしい。」
そしてもう一つ、届けたいのは「やんちゃな子がいいんだよ」というメッセージ。
「聞き分けのいい子、きちんとできる子がいい子だと、大人は思ってしまいます。でも本当の子どもって、自分のやりたいことを精一杯やって、言いたいことを精一杯言って、やんちゃに生きているものなんです。」
<毎月第3木曜日10時〜12時に開催している「虹色カフェ」>
「子どもらしい子どもでいてほしい。そのためには、山に登ったり泥だらけになって遊んだりするように、あんなことをしたい、こんなことをしたいと言う子どもに、ノリのいい親になって付き合ってほしい。子どもをしっかり見て一緒に楽しんでほしい。それが寄り添うということです。」
一人で頑張っているお母さんに「頑張ったね、そのままでいいよ、大丈夫」と声をかけた時、「ホッとしました」という言葉が返ってくることがうれしいと言う濱田さん。「お母さんの気持ちに寄り添いたい」「お母さんが変わってほしい」という想いが、小さい子どもたちの居場所づくりから、発達障害の悩み、さらに小中学生の課題へと、支援のフィールドを拡大させていった。
「お父さん、お母さん、子どもたちと一緒に泣いたり笑ったりしながら、どんなことにでも寄り添える活動を、これからも続けたいと思っています。」