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「つながる」から「つむぐ」へ!
みんなの「コミュニティたかひら」で
郷づくり
「つながる」から「つむぐ」へ!
みんなの「コミュニティたかひら」で郷づくり
三田市街地から北東へ、車を走らせること約20分。喧騒に包まれる街中を抜けると、車窓からの景色は緑が主役の静かな眺望へと移り変わっていく。
ふるさと兵庫50山のひとつ羽束山(はつかさん)の裾野から、北へ広がるのどかな高平地区。中央を南北に流れるのは羽束川(はつかがわ)の清流だ。川の流れに寄り添う田畑と、村々を包み込む山が、訪れる人を優しく迎え入れる。
そんな変わらない原風景とは対照的に、高平地区の14地域では、年々減り続ける人口と、上昇を続ける高齢化率という大きな課題を抱え続けてきた。
平成17年から平成30年までの13年間に人口はおよそ1,000人が減少し3,139人、高齢化率は15%増加し38.4%に。
大切な故郷を、地域の住民にも、移住して来る人たちにも愛される郷(さと)として、みんなで守り育てたい。
そんな願いのもと、平成27年6月「高平郷づくり協議会」が活動を開始。高平地区の活性化に向けた取り組みが続いている。
*高平郷づくり協議会:平成25年12月、地域の力を結集し「元気な高平の郷づくり」を目指すため、高平地区区長会により「高平地区まちづくり協議会検討準備委員会」の設置を決定。計12回の準備委員会を経て、平成27年6月27日「高平郷づくり協議会」を設立。
6つの事業部会「環境美化部会」「地域産業部会」「健康福祉部会」「生活安全部会」「交流・生涯学習部会」「さとカフェ部会」と広報委員会が中心となり、区長会、長寿会、民生委員・児童委員、PTA、その他地域で活動する団体と共に、様々な郷づくり活動に取り組んでいる。
「高平のみんなをもっと幸せにするには、
どうしたらいいんだろう」
「子どもの頃、学校から帰ると村の家々の煙突から煙が上がっているんです。ごはんの時間だな、お風呂を沸かし始めたんだなって、どこかほっとするものがありました。今は空き家が増え、三年、五年と過ぎるうちにどんどん朽ち果て、雑草だらけの敷地が忍びないんです。」
高平郷づくり協議会で、平成30年度から会長を務める岡田秀紀さんは語る。
「子どもからお年寄りまで、みんなが自分の居場所だと感じることができる、生きがいにあふれた元気な地域を作りたい。その想いを胸に12人のメンバーが活動に取り組んでいます。」
一方、副会長の白谷義信さんは「江戸時代以前から大切に守られてきた高平地区。地域の良さを守らなければとの想いで、郷づくり協議会を立ち上げました。」と話す。そんな高平郷づくり協議会の活動拠点が、「さとカフェ」だ。
「それは、カフェとちゃうでしょ!」
「さとカフェ」は、平成27年10月31日にオープン。地域の住民が気軽に集えるコミュニティ・カフェとして、さとカフェ部会長の服部あかねさんを中心に、ボランティアスタッフ約10名で運営。
ハンドドリップで淹れるコーヒーや、地元住民が作る宅配ケーキ、月2回のランチデーなどが好評の、高平地区の顔とも呼べる人気スポットとして、毎週月曜・水曜・金曜・日曜の10時から15時まで営業している。平成30年度は、3,159人の来店者を迎え入れた。
当初「コミュニティ・カフェにはインスタントコーヒーの粉を置いて、自分でポットのお湯を注いで飲むカフェ」という構想だった。その話を聞いた服部さんが「それは、カフェとちゃうでしょ!」と、ドリップで淹れたおいしさを味わえるカフェへの想いを切々と訴えた結果、さとカフェ部会長に就任。小学校のPTAメンバーたちを中心に、地域への想いに賛同した地元住民と力を合わせ、現在のカフェを始めることになった。
まずは、カフェの雰囲気に似合う内装・外装の改修からスタート。ウッドデッキをみんなで設置すると、山から伐り出した木で作ったテーブルとベンチを寄贈してくれる人をはじめ、食器だけでなく家具に至るまで、住民たちから届くようになっていった。
「イベントが人を呼び、人がイベントを生む」
それから4年。現在では、お菓子教室や地元の大学生が勉強を見守る寺子屋といった子ども向けの企画から、手芸や英会話、茶道が習えるカルチャーの時間、児童館代わりのチャイルドカフェや、地域のお年寄りから小学生までが自慢の楽器を演奏するサウンドカフェ、さらにハロウィーンの仮装パーティーやクリスマスパーティーといった大イベントまで、誰もが楽しく参加できる催しを開いている。
また平成29年から、三田市の地域委託事業として「こうみん未来塾(*)」プログラムを開催。教育機関や企業などの協力のもと、地域の子どもたちが本物に触れるための体験の場を提供していることに加え、31年度からは「トライやるウィーク」の受け入れも決まった。
その中でも、初回から大盛況のイベントが「歌声喫茶」だ。
*こうみん未来塾:専門機関や市にゆかりのある専門家、地域の達人たちの協力を得て、地域の子どもたちに本物に触れる機会を作る三田市の事業。地域の人々の運営サポートにより開かれている。
「歌が人をつなぐ! 歌声喫茶」
月に1回、第2水曜日または第2金曜日の10時30分から12時まで、ピアノの生演奏に合わせ、童謡や昭和歌謡を歌う「歌声喫茶」。地元地域の高齢者を中心に大いに人気を集め、平成29年7月のスタート以来、あっという間に高平郷づくり協議会を代表する活動に成長した。
選曲から手づくりの歌本(筆書きされた17曲の歌詞と、歌詞にぴったり合ったイラストが添えられている)の用意、司会進行からピアノ伴奏まで、高平地区の住人が担当。「お昼もここで食べさせて欲しい」という参加者の希望を受け、「じゃあ、ワンコインランチを作りましょう!」と申し出た地元の主婦たちによる手作りの「歌声ランチ」(500円)も大好評。
地区外からの参加者も多く、三田市内はもとより遠くは大阪府堺市から電車とバスを乗り継いで通う人まで、建物の外に設置したウッドデッキにあふれるほどの参加者およそ40名が、明るく元気な歌声を高平の郷に響かせている。
「みんなで一緒に、大きな声で思い切り歌えることが楽しくて仕方ないみたいです。歌の後、ランチタイムにおしゃべりをするために来る人もいるほどです。」
そんな歌声喫茶の他にも、様々な活動を積極的に展開していることも高平郷づくり協議会の特徴だ。
「メンバーみんなで取り組む多彩な活動」
例えば、高平地区ならではの豊かな自然に触れる活動として「しめ縄づくり講習会」を開いたり、地域産業のひとつである米作りにスポットを当てた「高平小学校食育教育」では、子どもたちが田植えや稲刈りを体験。その他、認知症や終活のための講座や、防災訓練、さらに平成28年5月より羽束川の清流で羽束川漁業組合との共催として「あまご・にじますふれあいつかみ取り体験」を開催。「取った魚を炭火で焼き、命をありがたくいただこう」という趣旨のもと、大阪などの市外からも多くの人が参加しにぎわいを見せ、今では恒例のイベントになっている。
そして、地域情報のかわら版として、地区のみんなから好評を博しているのが「高平郷づくり通信」だ。
高平郷づくり協議会の各部会の活動報告から、「小学校」や「長寿会」、「ふれあい活動推進協議会」まで、高平地区のニュースを掲載し、3ヵ月に一回発行している。
広報委員長として紙面の制作を担当するのが、西るみさん。
「通信作りをきっかけに、各部会や団体の皆さん、地域の人と密接に関わることができるようになりました。広報を担当させていただいて本当によかったと思っています。」と話す。
こうした活動ともう一つ、高平郷づくり協議会の発足をきっかけに始まった役割がある。
「先輩移住者が受け入れ窓口!」
高平郷づくり協議会のもう一つの役割。それは、若い世代が地元を離れ、高齢者が施設へ入った後に残される空き家や古民家を活用した、移住者の受け入れ窓口になることだ。これまでに7組が移住、現在3組が住居や田畑整備の準備に取り組んでいる。
そうした移住を望む人たちの相談窓口が、第1部会(環境美化)部会長を務める佐藤英津子さんと、ご主人で 副部会長の佐藤秀一さん夫妻。高平地区に移住して8年目を迎える、先輩移住者だ。NPO法人里野山家として、里山保全や自然エネルギー活用を軸に、自然との共生活動を行っている。
不動産会社に紹介された古民家を目にした瞬間、「ここだ!」と決めてしまったと笑う英津子さん。移住当初は、地域の人々に顔を覚えてもらうため、掃除や旅行など地域行事に夫婦で積極的に参加したという。
「温かく迎え入れていただき、気が付けば高平郷づくり協議会の部会長と副部会長になっていました(笑)。」
移住希望者はまず、さとカフェでお茶とお菓子を共にしながらの情報交換からスタート。その後、困り事の相談や夢を語る地元の人たちの集い「井戸端会議」や、イベントに誘うという英津子さん。「どんな人が暮らしているの?」「移住してきた人はどんな暮らしをしているの?」といった疑問や不安を解消し、安心して移住できる環境を提供することにも、大きな役割を果たす場になっている。
「高平が、どんどんひとつになっていく」
こうして、移住希望者とのコミュニケーションを育み、楽しいことが集まるようになった高平地区。それに伴い、住民にも少しずつ変化が見え始めた。
ある年のハロウィーンパーティーでのこと。会場の近隣の住民が、自宅にあったプロジェクターを使って自分の家の壁にお化けの映像を映し出し、パーティーを一緒になって盛り上げてくれたのだ。
「うるさいと思われても仕方のない中、さりげなく協力していただいたことに感激しました。本当にうれしかった。まちづくりと言われてもピンとこない。『これをしたら、あの人が喜んでくれるかな』と思うことを楽しくやっているだけ。それが、結果としてまちづくりになっているという感じです。」
そう話す服部さんには、忘れられない出来事がある。
「カフェをオープンした時、婦人会が解散前に使われていたコーヒーカップを、今どきのオシャレなものに買い替えようと思っていました。ある日、そのカップでコーヒーをお出ししたら『私が買ったカップだわ! 使ってくれてありがとう』と言われたんです。そのお客様は、元婦人会の方でした。その時、これがコミュニティ・カフェだと気付きました。大切なのは、使い継いでいくことなんだって。それが人の気持ちを『つなぐ』ことの本当の意味だと分かりました。もうここには、幸せしかない!」
少しずつ住民たちの間に生まれ始めた心のつながりが、地域の活気を育て始めたのだ。
「人を “つむぐ”、高平の郷づくり」
地域の人の気持ちがつながることで、地元への想いの糸が太くなり、地区外の人とつながることで、郷の活気が育ち始めた高平地区。
「つないで終わりではなく、地域の住民同士を、地元住民と移住者を、人と家、農地、里山を『つむいで』いきたい。」と語る岡田会長。
つながった糸が、つむがれて一枚の布になるように、人も家も農地も、その場所にただ存在するだけの点ではなく、地区という面の中の一つとして受け入れ合ってこその郷づくり。
「みんなでつむいだ大きな布で、地区のしあわせを包みたい。」
(取材日 平成31年2月12日)