西宮流(にしのみやスタイル)

すごいすと
2019/09/25
岡本順子さん
(69)
兵庫県西宮市
西宮流(にしのみやスタイル)

 

西宮市の地域情報の発信にとことんこだわったポータルサイト(*)「西宮流(にしのみやスタイル)」。まちで生まれる日々のできごとを中心に、店舗や企業、人物の紹介をはじめ、子育て中の母親に向けたサポート情報や西宮市で開催される様々なイベント案内、地域活動といった話題を、生活者の目線から紹介。サイトの他、様々なSNSでも発信している。平成19年4月の開設以来、西宮流の編集室代表を務めているのが岡本順子さん。現場での取材で集めた情報を基に、最近では映画制作でのロケ地情報の提供や、西宮に特化した手土産品の開発、1万人を動員した人気アニメのイベント開催など、様々な地域活動にも携わっている。平成26年には商業施設の一角にある「西宮市情報発信スペース クリエートにしのみや」に編集室を移転し、企画・運営。これまでに集めた西宮関連の本や雑誌など300冊にものぼる蔵書を備えた「西宮流まちライブラリー」も併設し、より多くの人々との顔が見える交流を通じ、西宮市の更なる活性化に取り組み続けている。

 

*ポータルサイト:自分が知りたい物や事柄についての情報を集める際に入口となるようなホームページ

 

岡本順子さん

岡本順子さん

 

きっかけは、好奇心

 

「甲山(カブトヤマ)を見るとホッとするんです。眺める方角によっては、こんな見え方をするのかって発見するのも楽しいですよ。」
13年もの間、ペンとカメラを手に西宮のまちを隅々まで取材してきた岡本さん。
岡本さんが夫の実家がある西宮市で暮らし始めたのは昭和61年のこと。夫の転勤で6年半暮らしたブラジルから帰国後、当時小学生だった子どもたちの学校のPTA活動をきっかけに、公民館活動など様々な地域活動に10年近く携わった。子どもたちの進学を機に地域活動から離れ、介護も一区切りがついた平成18年の夏、仲間の女性たちと在宅ワークに取り組む会社を営む木下あきこさんから声がかかった。
「育児中の母親たちにも役立つ、市内の情報を検索できるサイトを作りたいという思いを持っていた木下から、取材と記事を担当して欲しいと誘われたことがきっかけでした。スタートは『面白そう!』っていう好奇心だけでした。」
こうして平成19年4月、岡本さんの編集者生活が始まった。

 

岡本さんが好きな甲山が写る。

岡本さんが好きな甲山が写る。

 

自分たちのまちをもっと知ろう、もっと好きになろう

 

記者の岡本さんと、サイト運営担当の木下さん。開設以来、いろんな人も巻き込みながら二人三脚で続けてきた。
代表的なコンテンツは、西宮のニュースを届ける「街かど小ネタ」や、西宮で子育てを楽しむママたちの情報サイト「ミヤママスタイル」、西宮のおでかけイベントガイド「イベント手帖」、西宮市内で撮影されたロケの裏話を発信する「ロケハン!西宮」など。西宮にこだわった話題を丹念に掘り起こし、丁寧に書かれた記事による発信は「西宮に住んでいることを誇りに思ってほしい」という想いが込められている。
今ではコンテンツも豊富な西宮流だが、開設当初は取材を依頼することさえ大変だったという。
「当時はウェブメディアの取材というだけで怪しまれ、『帰って、帰って』って話も聞いてもらえず門前払い。情報を集めるのに苦労しました。」
それでも月日の経過とともに少しずつ歓迎されるようになったという。
「シティプロモーション(*)のためのサイトは、情報を市の内側に向けて発信するのか外側に向けるのか、意見が分かれるところだと思います。私たち西宮流は、内側に向けて発信しようと決めました。
発信を受け取った地元の人たちが、自分たちのまちに対して熱いものを持つことで、新たに外側への発信が生まれていくと考えたからです。それは、プレスリリース的な役割を果たすサイトになったことで手応えを感じています。西宮の『内側』の人たちに向けた情報が、記者の方たちの目に留まり新聞記事として世の中に出ることで、西宮の『外側』へ拡がっていく。それを目にした西宮市民が『わたしたちのまちって、かっこええやん』と思ってくれたらいい。」
さらにもう一つ、西宮流にはずっと大切にしているコンセプトがある。

 

*シティプロモーション:まちが持つ魅力を市内外に発信する活動のこと

 

記者の岡本さんとサイト運営担当の木下さん、開設以来のコンビ。

記者の岡本さんとサイト運営担当の木下さん、開設以来のコンビ。

 

人が見えるサイト、それが西宮流

 

一般的にウェブメディアは、発信者の存在を感じにくいもの。しかし、岡本さんはそんなウェブメディアでありながら、自分の足で市内を回り、リアルな出会いを重視した丁寧な取材にこだわってきた。そんな人が見えるサイトづくりは、西宮流に新たな展開をもたらした。
「人と人が接すると、必ず情報のやり取りが生まれます。情報が結び付いて化学変化が起こったり、新たな話題や取り組みが生まれたりします。それが西宮流の役割になってきたと感じています。そんなことができるのも、取材を通して得た人・モノ・コトがすべて集約され、西宮流そのものになっているからです。」
今、西宮流には情報発信だけにとどまらず、様々な依頼が舞い込むようになった。

 

取材中の岡本さん、リアルな出会いを重視した丁寧な取材にこだわってきた。

取材中の岡本さん、リアルな出会いを重視した丁寧な取材にこだわってきた。

 

様々な人との出会いが活動の原動力。

様々な人との出会いが活動の原動力。

 

こだわり続けた地元密着への想いを形に

 

平成23年の映画「阪急電車」。制作にあたり、西宮市でのロケ地選定のため、協力を依頼された当時の西宮市産業振興課から声がかかった。
「市内の様子を熟知している西宮流は適任だから、手伝ってくれと頼まれたんです。西宮の風景を少しでも映画に採り入れてほしい一心で、『台本にあったあのシーンには、この坂がぴったりだと思うんです』とか『ここを曲がると阪急電車が見えるんですよ』って、制作スタッフの方を案内して回りました。」
完成した映画のエンドクレジットに西宮流の名前が入っていることが、何よりうれしかったと話す岡本さん。今では映画やアニメーション、テレビドラマなど、西宮を舞台にしたロケ地の選定や発信も行っている。
また、平成26年には商品開発にも取り組んだ。
「西宮は観光地ではないため、いわゆる“the西宮”(これぞ西宮)という商品がありません。なければ作ろう!!と最初に取り組んだのが『西宮風景箱』というクラフト製品。以前に取材をした段ボールクラフトのアンテナショップオーナーとのコラボレーションによって生まれました。」
その後もオリジナル紅茶の開発や、昨年は法人向けのウェブカタログ制作にも着手。法人向けという選択は、市内の企業を取材して回る中で「西宮のものにこだわりたいが、なにかいい商品はありませんか?」という声を耳にしたことがきっかけだった。完成後は、百貨店などから掲載店の紹介を依頼されたり、地元企業が手みやげや記念品としてカタログの商品を活用するなど、多くの人に喜ばれているという。
こうした西宮流の新たな活動は、西宮の地域づくりへも繋がっていった。

 

平成23年に公開された映画「阪急電車」の撮影風景。西宮流は西宮市でのロケ地選定に協力。

平成23年に公開された映画「阪急電車」の撮影風景。西宮流は西宮市でのロケ地選定に協力。

 

商品開発として最初に取り組んだ西宮の風景をクラフト製品にした「西宮風景箱」。

商品開発として最初に取り組んだ西宮の風景をクラフト製品にした「西宮風景箱」。

 

地域情報の発信で、まちをつくる

 

平成22年 3月に閉校した西宮市立船坂小学校を運営する地域コミュニティの立ち上げ支援として、イベントや集客に関するアイデアを求められた。
「田んぼの畔に彼岸花を植えることに始まり、船坂の植物・昆虫採集の標本づくり、紅花を育てハンカチを染めるワークショップなど、様々な取り組みを提案しました。中でも、薪で炊いた新米をふるまったり、火鉢でかきもちを焼くイベントの提案では『そんなことで人が集まるの?』と地域のみなさんは半信半疑でしたが、参加した家族と地元のお年寄りが一つの火鉢を一緒に囲むことで、ほっこりとした時間を楽しめたと参加者にはとても喜ばれました。」
現在は「船坂里山学校」の運営母体としてコミュニティが立ち上がり、様々なイベントが開かれているという。
また最近では、JR西宮駅南西地区の再開発事業に伴う卸売市場再生整備にあたり、事前調査としてまちづくりへの知恵を貸してほしいという依頼も届いた。
「地元に暮らす生活者の目線から、何が望まれているのか、それを実行するためにはどこにどんな人がいるのかといった情報を求められました。外からの目線も大切ですが、住んでいる者、活動している者だからこそ肌感覚としてわかる情報も必要なんです。外から内から、双方が連携し合い足りないところを補い合うことが大切です。」
「西宮流の集大成」と言うまちづくりへの関わりに加え、もう一つの印象深いイベントを岡本さんは体験した。

 

船坂のもち米のお持ちで作ったかき餅を火鉢で焼いて食べるほっこりイベント。

船坂のもち米のお持ちで作ったかき餅を火鉢で焼いて食べるほっこりイベント。

 

JR西宮駅南西地区の再開発事業に伴う卸売市場再生整備にあたり、関西学院大学社会学部の大岡ゼミの学生と一緒に活動。

JR西宮駅南西地区の再開発事業に伴う卸売市場再生整備にあたり、関西学院大学社会学部の大岡ゼミの学生と一緒に活動。

 

「聖地」が伝えた、私のまちの愛おしさ

 

平成15年に出版された「涼宮ハルヒシリーズ」。西宮市出身の作者、谷川流さんによる全世界(15ヶ国語)で2,000万部を超えるベストセラー小説だ。アニメーション化された作品では、市内に実在する高校や喫茶店など数々のスポットが登場した。そうした物語の舞台となった場所は「聖地」と呼ばれ、ファンが実際に足を運ぶ「聖地巡礼」が人気となっており、涼宮ハルヒはその先駆けだ。
これを観光に活かしたいと、角川書店と一年近く交渉を重ねイベント開催の許可を取得。西宮市との共催により1万人を動員した。さらに今年、「訪れてみたい 日本のアニメ聖地88」に西宮市が選ばれたことを記念し、再びスタンプラリーを開催。国内だけでなく海外からも熱心なファンが訪れ、地元の人たちとの間に自然と交流が生まれていった。
「遠くからの来訪者が西宮のいいところを一生懸命話す姿に触れた地元の人たちに、変化が見え始めたんです。」
「え!? 北海道から?? そんなに遠くから来てくれるほど、西宮っていいまちなんやね。」と気付いた人や、涼宮ハルヒは知らないけれど、聖地の一つである地元の喫茶店を初めて訪れ、「おいしかった!」と積極的にイベントに参加した人もいたという。
「『西宮が好きだ』という共通の想いだけで、年代も違う涼宮ハルヒのファンと地元の人たちの心が通じ合う場面に立ち会いました。私たちが大切にしてきた『人が感じられるサイト』は、『西宮が大好き』という気持ちを一番届けられることを確信できたんです。」
さらに、岡本さんを感激させたもう一つのうれしい出来事があった。

 

今年開催された「SOS団in西宮に集合よ! オーバー♪」ギャラリーフレンテでの特別展の様子

今年開催された「SOS団in西宮に集合よ! オーバー♪」ギャラリーフレンテでの特別展の様子

 

「SOS団in西宮に集合よ! オーバー♪」スタンプラリーのゴールの「クリエートにしのみや」には連日多くの人が訪れた。

「SOS団in西宮に集合よ! オーバー♪」スタンプラリーのゴールの「クリエートにしのみや」には連日多くの人が訪れた。

 

「心のよりどころ」に育てたい

 

ファンの一人から、ある日岡本さんは思いも掛けない言葉を受け取った。
「7年前の自分に会えた、ありがとう。」
前回のイベントに参加したファンからだった。当時の参加者がイベントで書き残したメッセージのファイルを、今回再び展示。それらを目にしたファンが、自分の書いたメッセージが保管されていたことに感激し、喜びと感謝の想いを伝えたのだ。
西宮流に届くのはただの情報ではなく、人と人との出会いと触れ合いから生まれるものだということを、誰よりも理解し大切にしてきた岡本さんにとって、13年間の活動の中で最も忘れられない出来事だった。
「例えウェブであっても、西宮流が人と人のつながりを大切にしながら活動を続けてきたことの、ひとつの成果だと感じました。西宮流をつくることは、まちづくりです。場所はいつでもつくれますが、そこにどんな人がいるのかが重要です。だからこそ、顔の見えるつながりを大切にした、人が感じられるサイトをつくり続けたいと思っています。」
「ありがとう」と言ってくれたファンのように、西宮流が多くの人の心のよりどころとしての場であるために、岡本さんにはまだまだ西宮の人たちに伝えたいことがある。

 

人と人のつながりを大切にしながら活動を続けてきた西宮流、イベントを通してファンとの交流が生まれている

人と人のつながりを大切にしながら活動を続けてきた西宮流、イベントを通してファンとの交流が生まれている

 

同じ住むなら、面白く住もう!

 

地元に暮らす人たちに情報を発信するのは、気づきのタネをまくようなものと語る岡本さん。
「人はそれぞれ関心を向ける視点が違いますから、一つのタネだけでは振り向いてもらえません。」
だからこそ、いろんな種類のタネをまき続けていきたいと話す。
「お友だちが西宮に来たら神戸や大阪へ出て行くのではなく、『小ネタ』と共に市内のカフェやレストランへ案内ができるようになってほしい。私たちは西宮流を通して、自分の住んでいる西宮ってこんなに面白いところだったんだ、こんなに素敵なまちだったんだと改めて感じてもらいたいんです。」
同じ西宮に住むなら、面白く住もうと伝えたいという岡本さん。
「情報がたくさんあるほうが面白くなりますよね。面白い話を聴いたら誰かに伝えたくなります。私一人のものにしてしまったら、もったいない。私、おせっかいなんです。」
「こんなに続けられるとは思ってもみなかった。」
そう言って笑う岡本さんだが、西宮流を支えてきたものは、自然体と呼ぶべきその生き方にあった。

 

甲子園球場南側の道路には春夏の高校野球の優勝校の名前が刻まれた車止めが並ぶ。「優勝校通り」と勝手に命名していたら、ある年新聞に「優勝校通り」という言葉が載っているのを発見。

甲子園球場南側の道路には春夏の高校野球の優勝校の名前が刻まれた車止めが並ぶ。「優勝校通り」と勝手に命名していたら、ある年新聞に「優勝校通り」という言葉が載っているのを発見。

 

西宮神社の1月10日の副男選びは神事。神主の後ろ姿に神聖な空気が伝わる、岡本さんの好きな写真の一つ。

西宮神社の1月10日の副男選びは神事。神主の後ろ姿に神聖な空気が伝わる、岡本さんの好きな写真の一つ。

 

なにごともご縁で

 

西宮に戻ってきたこと、PTAや公民館活動に関わったこと、これからの流れもすべて「ご縁だと思っている」と言う岡本さん。
「西宮流がどうなっていくのか、必要なご縁はきっとやってくると信じています。例えば日々の仕事の中でも、不思議とタイミング良くつながって、流れが続くんです。私自身が楽しんでやっていることを、神様に『それでいいんだよ、やり続けていてもいいんだよ』と言っていただいているようで、そういう繋がりがある間は続けていこうと思っています。」
飽き性だからと言う岡本さんに「私、にんじんをぶら下げるのが上手いから」と、木下さんが声をかけてから13年。「私にとってのにんじんは、西宮のまちと人」と笑う岡本さん。ますます太くつながり続けるご縁の中で、岡本さんの好奇心が尽きる理由は、どこにも見当たりそうにない。

 

(公開日:R1.09.25)

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