目次
学生の力で、かしこい消費者を育てたい!
平成28年4月、JR姫路駅前での「消費者ホットライン188(いやや!)」の消費者啓発から、スマセレの活動は始まった。
初めて開いた「キャリア教育」に関するセミナーの、外部からの参加者はわずか2人。立ち上げからの半年間、小さな活動をコツコツと積み重ねていった。
「定例会」を毎月開催。各自が好きなテーマでプレゼンテーションを行うなど、消費者意識向上のための勉強を自主的に続けている。
様々な学習を通じて新しい情報や学びに触れる中から、次のイベントが生まれていく。時には外部からゲストスピーカーを招いた研究会も開く。
消費者啓発活動を率先して企画・実践してきた大学生として、スマセレの学生メンバーたちも「くらしのヤングクリエーター」に認定されている。
企業を知れば、社会の明日が見える
活動に賛同する様々な企業と、工場見学や意見交換会、セミナー、ワークショップを開催。消費者と事業者は高め合う存在であることを学生は学んでいく。
[写真:神戸市の食品会社工場にて「工場見学と意見交換会」開催]
活動は学生メンバーが自ら企画・運営。司会やファシリテーター、パネリストなど当日の運営にも携わる。
[写真:「時代の流れに乗った消費行動とは~キャッシュレス時代に向けて~」開催]
企業側から連携イベントの開催を依頼される機会も増えている。コミュニケーションを求め合う企業と学生、双方にメリットをもたらす関係づくりに尽力する。
[写真:「知って安心!使って納得!~Smart Select Net Shopping~」開催]
ワークショップなどを通じ、様々な立場の人と話すことで、自分が持っていなかった視点に気づく。それが、かしこい消費者になるためのツールに育っていく。
平成30年から、学生と経営者の交流会を3回開催し、内定者も生まれた。学生と企業、お互いのためになるマッチングにも積極的に取り組んでいる。
知ること、考えること、行動すること
兵庫県、大学生協事業連合 関西北陸地区とともに取り組む消費者啓発活動は、消費者トラブル防止をめざして活動をスタートしたスマセレの原点。
[写真:神戸ハーバーランドでの消費者啓発活動]
他団体が主催するイベントに参画する機会も多い。若い世代の活動や意見を広く発信する大切な活動だ。
[写真:選挙啓発イベント「投票にGO!プロジェクト」に協力]
自分の消費行動が社会に与える影響について知ることは、社会人としての基礎力を身につけること。消費者教育を通して若い世代が育っていく。
[写真:「高校生等の消費者力アップ大作戦」に協力]
今、力を注いでいるのがSDGsの本質を広げる活動の一つである「SDGs Cafe」。学生の就職活動支援につながることを視野に入れ、SDGsへの取り組みに対し同じ志を持つ企業との連携を模索している。
学生だけではなく、行政・企業・団体などと連携することで、自分たち自身の可能性が拡がることに気づくことができる。
[写真:「消費者・事業者・行政によるワークショップ~ともに実践する消費者市民社会~」に協力]
誰もが笑顔で暮らせる社会をめざして
人とのつながりの多さと深さが、スマセレの魅力。事業者や経営者をはじめ、大学教授、学生まで、みんなが一つのテーブルに着き、本音で意見を交換し合う。
社会の中で、学生は必要とされる存在。自分の意見を持ち、世の中に発信できる人材に育てることも、スマセレの大切な目標。
[写真:「ジブン×ミライ デザインセミナー」開催]
学生主体の消費者団体である特徴は、同世代に伝わりやすいこと。学生自らが学習し、同じ立場にいる仲間としての学びを伝えることで、周囲の若者を巻き込んでいきたいと語る。
どんどん変化する社会の中で育まれていくキャリアや人生観に、消費者という視点を忘れないで欲しい。どんな場面でも、伝えたい想いはひとつだ。
[写真:「内閣府男女共同参画シンポジウム」後援]
立上げ時から変わらないスマセレの基準は「若者のためになること」。未来の消費者市民社会をつくるのは、これから社会へ羽ばたいていく若者たちだから。
グループ紹介
だまされない消費者になるだけでなくかしこい消費者に、さらに、消費者視点を持った事業者に育って欲しい――。
平成28年3月、次世代の消費者リーダー「くらしのヤングクリエーター(*)」に認定された、兵庫県立大学を中心とした5人の学生たちが「学生団体スマセレ」を設立。平成30年3月に現在のNPO法人となり、関西を中心に10校が所属。卒業した若手社会人も含めおよそ30人のメンバーが、若者への消費者啓発活動を行っている。
「スマセレとは、スマートセレクト=かしこい選択という意味です。次々に発生する新たな消費者トラブルの事例を紹介するだけでは、消費者教育として限界があります。商品やサービスをかしこく選択できる消費者になるための学びこそが必要です。」と語るのは、スマセレの設立者である会長理事の田中喜陽さん。
「選択するという視点でとらえた時、自分で選ぶことにあてはまるもの全てが活動テーマ」と話す通り、消費者トラブルをはじめ、ワークライフバランスやエコ、フェアトレード、地域活性化や婚活支援という幅広い内容に、街頭での啓発活動、セミナーやワークショップ、イベントの企画・運営といった活動で取り組み続けている。
「消費者トラブルを自分ごととしてとらえるためには、学生たちが受け身で学ぶのではなく、様々な活動を自ら企画・立案・運営することで主体性を育むことが大切。」と田中さんが話すように、メンバーの一人である小田原悠さん(武庫川女子大学3回生)も、「パネリストとして参加したイベントが、大学生としてどんな意見を、どうしたら正しく伝えられるのかを考えるきっかけになり、社会の課題を初めて自分ごととしてとらえることができました。」と語る。
一方、様々な活動において企業や行政、他団体との連携を重視しているのもスマセレの大きな特徴だ。
「自分とは異なる立場の人から伝えられてこそ、ただの事例として受け取るだけでなく、自分にも降りかかる可能性のあることとして実感できます。いろいろな事業者との連携は、消費者教育に欠かせません。」と田中さん。
メンバーの瀬山峻維さん(兵庫県立大学2回生)は、「スマセレの勉強会やイベントに参加したことで、商品やサービスを選択することは、一方的に受け取っているのではなく、企業にも自分たちの事業について考える機会を提供していることなんだとわかりました。」と、自らが消費者の視点を持つことの意味を学べていると語る。
学生たちをこうした消費者の視点を持った事業者に育てることも、消費者トラブルをなくすことにつながるという田中さん。キャリア教育にも力を注ぎ、経営者と学生の交流会を積極的に開催するなど、近年は主に中小企業とのマッチングなどを通じて就職支援のネットワークづくりにも尽力している。
そんな就職支援活動に対し、メンバーの寺田裕葵さん(同志社大学3回生)は「留学先で出会ったボランティア教員の姿から、社会に役立てるものを提供することが社会人の役割だと気が付きました。今取り組んでいる就職活動では、いろいろな人に支えてもらっていることに気づけたので、私が役立てるものとして、就活生を支える立場として活動したい。」と目標を話す。
田中さんは、これから目指す目標について、「スマセレにしか提供できないものは何かと考えた時、若者を主体とした社会ネットワークをつくり、そのネットワークを活かしたイノベーションを起こすことだと思いました。消費者教育の普及と、その活動を通した若者のキャリア形成を支援し、消費者市民社会の構築に貢献していきたいと思っています。」と語った。
*くらしのヤングクリエーター:兵庫県と大学生協神戸事業連合(現在の大学生協事業連合関西北陸地区)が、2010年に結んだ「次世代の消費者教育・学習に関する協定」に基づき、次世代の消費者リーダーの養成に協働で取り組む活動。
NPO法人スマセレ 会長理事 田中喜陽(たなか よしあき)さん
在学中の大学生協(*)の学生委員会の活動の中で、兵庫県の「くらしのヤングクリエーター」の取り組みでは活動認定証交付のスタートに携わりました。大学卒業と同時に引退するつもりでしたが、一緒に頑張ってきた人たちが社会人になり、交流が終わってしまってはもったいないと思ったこと、大学生協に関わっていない学生たちにも、活動の場を広げていきたいと思うようになったこと、さらに、ヤングクリエーターとして認定されることがゴールではなく、スタートとして新しいことを始めたいと思ったことから、後輩たちに声をかけてスマセレを立ち上げました。
学生への消費者教育は、かしこい消費者に育つためだけではなく、良き事業者を育てるための未来への投資だと思っています。消費者トラブルは、トラブルを起こす事業者がいるから起こるもの。なくすためには良き事業者を育てることが必要だという視点から考えると、自分が就職して企業側の立場に立った時、事業者として消費者の視点を持っていて欲しいんです。
消費者の視点を持つとは、自分がやっている事業が消費者のためになっているのか、具体的にどんなことがお客様のためになるのかを考えられること。そのためには、学生のうちから企業とコミュニケーションを取り、消費者の声や視点から生まれた商品の歴史や過程を知ることが大切です。
就職活動でも、そういう視点から企業を選んでもらいたいですし、キャリアや人生観を育てていく中でも大切にしてほしい。これが、スマセレが様々な企業との連携を行う理由の一つでもあります。消費者教育とキャリア教育は、対応し合うものだと思っているんです。
これからもスマセレに、気づくきっかけを与える場を、たくさんつくっていきたいと思っています。仕事に疲れれた時や人生に悩んだ時に、来るだけでほっとできる場。地域の人たちが集まって、新しい取り組みや可能性が生まれる場。そこからさらに新しいネットワークを広げながら、学生のためになること、社会のためになることをどんどん増やしていきたいと思っているんです。
*大学生協(大学生活協同組合):消費生活協同組合の一種で、大学内の学生・院生・教職員などが自ら出資し組合員となり、購買や食堂などを運営・利用することで大学内での生活の充実を目指す非営利組織。全国大学生活協同組合連合会には214の会員が存在し、全国単位や地域単位での会員生協同士の学び合いや助け合いなどの取り組みを行っている。
小田原 悠(おだわらはるか)さん(武庫川女子大学3回生)
就職活動に取り組む中で、企業対自分の関わり方を模索しはじめた友人たちは、企業が何を考えているのかわからない、どうやっていい企業を探せばいいのかわからないと言います。私が、同じ業界の中での企業の差別化や、自分の将来につながる企業とのかかわり方を伝えることができているのは、スマセレの活動を通じて企業の人たちと交流を重ね、学んできたおかげだと思っています。
ライフプランをつくるワークショップは、社会全体がどう回っているのかを、多角的な視点から初めて眺めることができました。企業と連携した活動の中で立場の異なる人の意見を採り入れながら学ぶことが、自分の身になるのだと実感しました。
就職後は、企業側から消費者の視点を持った提案をしてみたいと思っています。学生の目線で消費者市民社会を学んだ一人として、ぜひ挑戦してみたいんです。
寺田裕葵(てらだゆき)さん(同志社大学3回生)
「社会の役に立ちたい」というボランティア教師の方の言葉で、私は社会に対して何ができるのかを考えるようになり、学生団体を探していたんですが、スマセレは活動内容が幅広いので、私のやりたいことができると思いました。
就職活動を始めるにあたって考えたことは、私が生きている意味って何だろうということでした。いいものを次の世代に残すことだと思った時、自分が一生を終えて残るものとは、社会に対して提供したものだと気づきました。大学で専攻している産業ロボットの技術を海外に持って行き、生活水準を上げるお手伝いがしたいと思ったんです。留学を通じていろいろな国の人の趣味や嗜好、価値観に触れることができました。そこに、スマセレで学ぶ消費者の目線が活かせると思っています。それぞれの国の人の消費者目線に、自分なりに立てるかなと思っているんです。
瀬山峻維(せやましゅんすけ)さん(兵庫県立大学2回生)
スマセレは、人との繋がりの醍醐味を味わえ、勉強できる場だと感じました。イベントの懇親会で、大学教授や大企業の人が僕たち学生と同じテーブルで食事をし、本音で話し合ってもらえたことに感激したんです。学生が思っていることに耳を傾け、自分の意見を言ってくださることで、学生が企業に必要とされていることを初めて知りました。
スマセレで衝撃を受けたのは、学生でも自分の価値を高め、企業と取引ができること。同時に、学生としての自分の可能性を、もっと最大化できるんじゃないかという気づきにもなりました。人脈が広がるにつれ知識と選択肢も増え、つながっていく先にある可能性に気づけたスマセレの学びを基に、学生団体をまとめるための学生団体を立ち上げました。互いの交流が少ない学生団体同士が横のつながりを深め合えれば、イベントや勉強会の規模も大きくなってやる気も高まるはず。学生だからできることはたくさんあります。まずはその可能性に気づかせてあげることが、スマセレにいる僕の役割かもしれないと思っています。