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「八多が好き」 その気持ちがあるから
住民の自分たちが徹底的に頑張る。
神戸市域の北東部に位置する八多(はた)町。大都市からそう遠くない地域だが南・西・北の三方を山に囲まれ、自然豊かな農村地域が広がる。
9つの地区からなる八多町。ほぼ中心にあたる附物(つくもの)地区に、幼稚園・小学校・中学校、児童館、さらに一際シンボリックな茅葺き屋根の古民家を有する「八多ふれあいセンター(地域福祉センター)」がある。
近年八多の中心部から離れた1つの地区では大型商業施設や新興住宅地が立ち並ぶようになり、人口も増加しているが、交通機関や地形の関係から、八多全体での活性化には繋がっていない。
八多をもっと活気のあるまちにしようと八多ふれあいのまちづくり協議会は様々な機関と連携し、活動を行っている。
八多地域の現状と課題
多町は緑豊かな農村地域で9つの地区からなり、長田区の約2倍の面積をもつ広い町だ。うち8つの地区は、他の多自然地域と同様に若い世代が少なく人口減少・高齢化が進んでいる。唯一、町北東端部に位置する中地区は、近年、大型商業施設や新興住宅地が立ち並び、若い世代・子どもが多い地区であるが、学校がある附物地区から約4㎞と距離がある。指定外通学を希望して町外の学校へ通学する子どもたちもいて、町内の学校の児童数は減ってきている。また、路線バスの本数も少ないため、基本的に住民の移動手段は車がメインとなり近隣の市街地へ出かける人も多く、八多町のほぼ真ん中に位置する附物地区に、なかなか若い世代や子どもが集まらず、地域の活性化に繋がっていないことが課題となっている。
もっと人が集まる地域にするために
「八多の魅力を発信し、もっと人が集う元気な八多にしなければ」という思いから、八多ふれあいのまちづくり協議会では、日々工夫を凝らし活動している。
八多ふれあいのまちづくり協議会(以下、協議会)の活動拠点は八多ふれあいセンターで、平成6年に新築したセンター本館のほか、同年に現在の大沢(おおぞう)町から移築した茅葺き屋根の古民家と平成21年に県民交流広場事業を利用し設置した「野外ステージ」を有し、毎月様々な催し物や活動が実施されている。
毎年6月頃に八多ふれあいセンターで開催されている「ほたるコンサート」では、野外ステージで地元中学生の吹奏楽部の演奏やジャズなどが披露され、すぐ近くの川では八多の豊かな自然が育てたホタルが舞う。夜8時頃から所々で見えだしたホタルを目にした親子連れからも「ホタル見つけた!」「あそこの草見てみ、光っとーの見える?」と賑やかな声が溢れていた。
また、毎年秋に行われる八多地域の文化祭や演芸発表会も、地域の人の交流の場となっている。協議会の岡田委員長は「地域の幼稚園、小学校、中学校の子ども達の作品展や年配の方の展示があったり、また、ステージでは100歳近くの方まで参加されていて、衣装を全て手作りされて臨む方も多くいますよ。振り袖など着る機会はそうないですからね。」とにこやかに話す。他にも協議会では、地域の人が関わり集まるイベントを企画・運営している。
連携することで活動を生みだす八多
協議会の体制は地域団体との連携がベースになっている。八多町自治協議会、婦人会、明寿会(いわゆる老人会)、青少協、民生委員、児童館、学校を含め12の団体が参画し、各代表が協議会の役員をしていることもあり、月1回の役員会は回によって議題内容は様々。八多町の年間イベントスケジュール決めから、各団体の日々の活動報告や連絡など多岐にわたる。「八多のいろいろな情報が集まるので、参加すると八多のことがよく分かります。」協議会の顧問でもある八多児童館の南館長は言う。
連携がうまくできているからこそ様々な課題を共有でき、協議会ではふれあい給食会やふれあい喫茶など「高齢者福祉支援」のほか、「子育て支援」に力を入れている。ふれあいセンターと児童館は合同で妊婦さんから幼稚園に入るまでの子どもを対象にした「すくすく広場」を開催。地域ボランティアの方も参加して8月以外は月2回、自由遊びや夏祭り、農園での芋掘りなどの行事を実施している。また、附物地区へ足を運ぶきっかけづくりにと児童館では協議会と連携し、中地区に住んでいる方にも児童館を体験してもらう「出前児童館」を、一昨年から中地区の公民館で実施している。
「八多は古くから地域団体間の連携で成り立ってきた地域なので、色々な行事や催し物、サポートが可能です。大阪や神戸の中心地から八多に来たばかりの方は八多の良さを知らない方が多いので、八多をPRするためにもいろいろな活動に取り組んでいます。地域の人とふれあい、行事などに参加された方は良さを知り、『八多は良いところだ』とおっしゃってくれますよ。」と評判も上々。協議会とセンター、児童館は今後も精力的に八多町内の賑わいづくりを進めていく予定だ
八多学園プロジェクト:独自の教育「八多の幼小中 11年教育」
協議会は「八多学園プロジェクト」にも取り組んでいる。これは、家庭・地域・学校などが連携して、地域ぐるみで子どもたちを健やかに育てていく取り組みで、幼稚園・小学校・中学校が一体となり11年間で子どもを育てるという意味合いで名付けられたものだ。活動としては、地域の農業従事者と黒豆を栽培する「黒豆づくり」や、伝統的な太鼓や踊りに取り組んでいる地域の方に八多音頭を教えてもらい練習する「八多音頭を踊る会」など、八多地域でしかできない農業や芸能や文化に触れるものばかり。これらはプロジェクトとして進める前から、地域と学校が連携し地域活動・行事として行っていたものがベースとなっているという。事務局としてプロジェクトを進める八多中学校の福井教頭先生は「八多地域は子どもたちが学年や歳の差を感じずに一緒に過ごせる機会が多いことが特徴だと感じています。」と八多地域の魅力を語る。「他の地域では中学生が幼稚園の子と関わる機会はそうありません。幼稚園から中学校まで施設が隣接しているだけでなく、時間を設けて11学年が活動を共にしている地域は少ないのではないかと思います。この地域は地域活動・イベントも多く、年長の子が年少の子をサポートする関係づくりが普段からできていますし、地域の方とも積極的に挨拶やお話ができる。八多地域の行事も含め、プロジェクトでもそういう場を提供できているのかなと感じます。」
このほか、平成19年から子どもたちと地域の人が顔見知りになることを目的に「ふれあいタイム」を実施。自治会、婦人会、明寿会、民生委員などが学期ごとに1回、学校の授業終了後の放課後40分を使って、地元の昔話や、農業の話、ゲームなどを行っている。 これらの徹底した子どもたちとの関わりにより、「地域一体となって子どもたちを育てる」の考えを見事に実践している。
八多のこれからに向けて
現在、協議会が特に力を入れて取り組んでいるのは「交通問題」である。以前は1時間に1本はあった路線バスの運行本数が、昼間の利用者が特に少ないため、現在は時間帯によって2~3時間に1本ほどに減少している。協議会は学校や児童館に通う子どもたちのため、さらには車社会の八多町で増えていくであろう免許を返納した高齢者のため、地域の交通手段の確保は優先課題だと考えている。約10年前から取り組み始め、スクールバスやコミュニティバスなど様々な交通手段を検討し、地域のニーズの把握のためにアンケート調査の実施やバスの試験運行を重ねた。その結果、神姫バス(株)・市と連携し、この秋から近隣を走る鉄道の駅と八多町内の主要地域を結ぶ小型バスの本格運行を予定している。
「様々な地域づくり活動を続けるモチベーションを保つ秘訣はなんですか。」と質問をしてみたところ、岡田委員長は「もちろん人によっては多少の温度差がありますが、『八多が好き』という気持ちだと思います。」とはっきりと答えてくれた。「連携していろんな活動に取り組めるのは、学校の先生や児童館の方などの協力のおかげ。でも学校の先生などは、赴任で八多に来られた方なので、いつまでも甘えて八多に縛るわけにはいきません。この地域で最後まで過ごす自分たち地元の人間が活動しないと、という思いがあります。そういうメンバーが多ければ活動が活発になってモチベーションも上がります。やはり地元の人間が頑張らないと。八多の良さを活動を通じてPRしていこうと思います。八多の人、特に八多の子どもたちに『八多が好き』と言ってもらいたいですから。」
地域団体の連携が当たり前である八多ふれあいのまちづくり協議会の活動は、地域の人との関わりを通じ「八多は自分たちのふるさとである」という想いと共に、八多の自然のような豊かな人間を育む八多町の未来を見据えている。
(取材日 平成29年6月28日)