目次
人や団体の強い繋がりを力に変えて、
課題を一つ一つ解決へと進める。
丹波市柏原は、旧氷上郡6町が合併してできた丹波市の1地域である。江戸時代は城下町として栄え、歴史・文化を感じる風情ある街並みが今も存在している。
柏原の中心地の崇広(そうこう)地区を活動拠点とする柏原自治協議会は、自治会と地域団体をメンバーとした地域づくり活動を積極的に行っている団体である。
現在、「まちづくりに関わる若者を増やしたい」という思いから、(株)まちづくり柏原、観光まちづくりの会といった構成団体と連携し、地元の高校生や関西学院大学の学生と一緒に地域づくり活動を進める取り組みや、世代や性別を問わず楽しめる地域イベントを企画、実施をしている。地域の繋がりの強さを活かし、従来の取り組みを続けながらも、新しい活動を積極的に進めるリーダーの皆さんにお話をうかがった。
柏原地域の特徴
丹波市の南東に位置する柏原地域は、平成16年の町村合併で丹波市となる以前の旧氷上郡柏原町であり、江戸時代には城下町として栄えた地である。 現在も柏原藩陣屋跡をはじめとする織田家ゆかりの史跡が数多く残り、明治前期の貴重な洋風建造物である県指定重要有形文化財の旧大手会館(現たんば黎明館)など、風情ある街並みが存在する。国や県の行政機関や教育施設、病院、商店街も立地しているが、一方で田畑も多く点在する住生活環境おいて調和のとれた地域だ。
柏原自治協議会の組織と活動
『文化の香り高い 安全・安心で健康な町を みんなで作ろう!』をスローガンに、地域づくり活動を行っている「柏原自治協議会」(以下、協議会)。協議会が活動拠点とする崇広(そうこう)地区は、柏原の中心地区であり、各地で人口減少が進む昨今において、総人口や未成年者数は12年間ほぼ横ばい。高齢化率は25.7%(丹波市は32.5%)と他の地域と比べ元気を維持し続けている地域である。
協議会の理事も41名の大所帯で、17名の自治会長をはじめ、婦人会、柏友会(老人会)、民生・児童委員協議会、PTAのほか、体育振興会や次に挙げるまちづくり・観光に特化した2団体など、地域に関わる各種団体がメンバーに名を連ねている。
「組織の作り方というのは大きく2つ、①各種団体の長の集まりの組織、②有志の方が集まる組織のパターンがあると思っていますが、①が私たち協議会の組織です。設立当時は小野市など、いろいろな団体の視察に行きましたが、世帯数も多いため自治会長さんが出てきてもらう方が物事を進めやすい、ということで現在の組織になりました。また、旧町時代からいろんな団体の集まる場は崇広地区だったため、地域づくり団体の数も多いと思います。」と協議会の山中事務局長は設立当時を振り返る。
「住民が主役の住みよい地域づくり」をめざして当初より部会制を導入しており、平成29年度は「健康」「環境」「福祉」「教育」「安全」「広報」の6部会制で活動を進めている。
「6つの部会の活動は、それぞれ所属のメンバーの主体的な働きによって進められ、地域住民の生活や繋がりを支えてきた。健康部会のノルディックウォーキングやラジオ体操、教育部会のあいさつ運動や歴史勉強会など、従来からの細やかな活動の数々のほか、地域の賑わいを作り出そうと新しい事業にも力をいれている。
柏原自治協議会の各部会が行っている様々な行事やイベント。
共に地域を支える団体
今回の取材には、協議会とともに活動する団体のリーダーにもご同席いただきお話をうかがった。
一つは、まちづくりをマネジメントするTMO※である「(株)まちづくり柏原」(以下、TMO柏原)だ。旧町時代から課題となっていた、商業関係者の高齢化や後継者問題により増加する空き家、空き店舗対策に取り組み、中心市街地を盛り立てようと精力的にまちづくりを進めている。
設立当初から取り組むテナントミックス事業では、空き店舗や古民家などの活用を推進し、現在も次々と魅力的な店舗の開店を支援している。
もう一つの団体は、「観光まちづくりの会」(以下、まちづくりの会)である。歴史を誇る柏原には「厄除け大祭」「夏祭り」「織田まつり」という3大イベントがある。合併して丹波市となった後も、3大イベントについては、それぞれ商工会や観光協会の柏原支部、協議会が主体となって伝統を守っていた。
しかし、市政誕生から10余年を経て厳しい財政状況のなか、合併の実をあげるために、市内各所にあった支部を統合するという流れはやむを得ず、結果、従来の枠組みでの運営は厳しくなってきていた。そこで、地域として有志が集まり、会を立ち上げることで、観光協会支部の役割を受け継ぎ、3大イベントをはじめ各種活動に取り組んでいる。
※TMO:Town Management Organizationの略。中心市街地における商業まちづくりをマネジメントする機関。
若者の参画へ① 地域と高校生を結ぶ活動
現在、柏原地域が一丸となって取り組む課題は「地域づくり活動への若者の参画」だ。
3大イベントの1つ「織田まつり」は、織田信長の子孫が治めた織田家ゆかりの『城下町柏原』をPRするイベントで、信長の弟で柏原藩初代藩主の織田信包や、鎧武者などに扮した地元住民ら約100名が勇壮に街中を練り歩く。現在は若者の参加も多いイベントであるが、以前は地元高校生の参加が全くない時期があった。
まちづくりの会の植木総務企画部長は「当時は柏原が織田家ゆかりの町であるという歴史を知らない子が多かったですね。イベントだけでなく、通学路以外の道を知らない子も多くいました。地域に若者が関わるきっかけが少なかったように思います。現在はこの町に関心をもってもらうような“しかけ”“企画”に重きを置いて活動しています。」と語る。 協議会と共に、地元の柏原高校に挨拶運動への協力を呼びかけた。柏原を訪れる観光客に「こんにちは」「柏原へようこそ」「ごゆっくり散策ください」といったおもてなしの運動に青少年が参加することで、柏原は観光の町であるという意識付けと、挨拶からまちづくり活動に参加するというきっかけ作りを行った。
また、今年度の柏原高校「知の探求コース」の生徒は、地域をフィールドとして研究をしており、まちづくり団体のメンバーが講師として招かれるなど高校生との関わりが深まり、イベントに高校生が露店を出店するなど、嬉しい展開となっている。
若者の参画へ②地域と大学生を結ぶ活動
TMO柏原は平成21年度より「関西学院大学連携事業」を実施している。中心市街地に拠点施設「柏原スタジオ」を設置、学生が地域づくり活動に参加している。「学生は授業の1つとして柏原に来て研究に取り組んでいます。この地域は大学に通学するのは難しく、高校生は進学のタイミングでほぼ全員が地域外へ出ていってしまいます。大学生が若い視点から企画をしてくれるので非常に助かっています。また、地域の方も学生に声をかけるなど交流も生まれ、すごくいい流れができています。」とTMO柏原の荻野代表はにこやかに話す。
この事業は地域側からも要望を出し、学生自身が考え、その取り組みを教授陣が授業でサポートするというシステムが特徴だ。「地域に役立つ企画や製品にしてほしいと希望を伝え、趣旨を理解して取り組んでもらっています。昨年は外国の方用に英語の柏原案内パンフレットを作りました。個々の学生の柏原との関わりは授業の1年間だけですが、地域としては毎年新たな学生さんがやって来て新しい企画が生まれ、1つ1つ形にしていくことができる、ということがメリットだと思っています。」
学生の企画により、今年度の織田まつりでは、柏原の街をキャンドルやプロジェクションマッピングで彩る「かいばらいと」という事業が計画され、現在準備を進めている。
連携の強さとスピーディな決断力が強み
高校生や大学生と地域を結ぶ活動で成果が出ているのは、学校の協力はもちろん、地域団体の連携がしっかりと出来ているからです。」とTMO柏原の荻野代表は語る。
「ボランティアの話が聞きたい、祭りについて調査したい、団体の組織について話が聞きたい、と学生から申し出があれば、協議会や関係団体(者)が身近にいるので、すぐに協力をお願いすることができる。人脈、繋がりの強さがここで活かされています。メンバーそれぞれが個々で繋がっていますから。」
柏原のまちづくりに関わる団体の強みは、どの事業も常にメンバーとしてサポートし、団体の枠を越えて課題や情報の共有が密にできていることと、決断のスピードの速さだと今回お話をうかがった方々は口を揃える。
協議会では昨年からまちづくりの会と一緒に、地域の子どもたちにバラの苗を贈る活動を進めている。柏原に対する愛着やふるさと意識をもってもらえば、との考えからだ。
これからもこの活動を続けるため、TMO柏原はバラを育てるための土地整備を即決でおこなった。「柏原をより良くすることかどうか」を判断基準としてスピーディに新しい取り組みが進められている。
また、女性が主体となる新イベント「雛めぐり」も来年3月に本格実施の予定である。今年4月には、地元の商店街のイベントと合わせて試験的にプレイベントを開催したが、とても好評で、地域の女性がいきいきと参加している姿がとても印象的だったと協議会の西垣会長は話す。
商店街主催の「100 円笑店街」と同日開催で行った。
「男性主体が多かったので、以前から女性の活躍の場を作りたいな、という思いがありました。『女子力』というエネルギーを地域に繋げたかったのです。プレイベント後、女性の意欲がさらに高まり、率先して他地域の視察などを行っています。様々なイベントを見ていろいろ勉強し『こういうことをしたい』というイメージを膨らませ、すぐ行動してくれていますよ。」
このイベントは、女性だけでなく子どもたちも一緒にイベントの手伝いをして参加するといった相乗効果を生んでいる。世代や性別を問わず一緒になって楽しめる地域イベントをこれからも続けていきたい、と西垣会長の気持ちがこもる。
「柏原をより良くしたい」人や団体の繋がりを活かす
それぞれの団体の事業内容は異なるが、「柏原のために活動する」という思いは共通だ。団体の枠を越えて積極的に取り組む柏原だからこそ、前例踏襲ではなく新たな活動が生まれ成果につながっている。
協議会の西垣会長は、活動に対する思いをこう話してくれた。「私は長年のサラリーマン生活で故郷を離れており、地域づくりについてあまり知らなかったから、思い切って活動を進められたのかもしれません。色々な課題を先送りにせず、1つ1つ進めていくことが必要だと感じています。」
「やって失敗したのだったら仕様がない。待ちの姿勢でいるよりも、動くことが大事。動くことで人が集まり、いろんな考えも出てきて、賑わいが生まれます。地域の活力となるしかけ作りをこれからも継続していきたいです。」
「強い絆を礎に、若者や女性の清新な力を集結し 『よりよい柏原。元気な柏原を実現する。』 という未来を見据えたリーダー達の挑戦は続いている。
(取材日平成29年9月5日)