目次
3世代が集う
「ふれあい交流広場」を目指して
淡路市尾崎は、淡路島西海岸のほぼ中央部に位置し、青い海と、緑豊かな山に囲まれた地域で、トマトやスイカ、いちじくなど農業と播磨灘での海苔の養殖をはじめとした漁業が盛んである。
ただ近年は、若者の転出や、小学校も一宮(いちのみや)地区として学校が統合されるなど過疎化が進み、後継者不足も深刻な問題となっている。
公民館がなく、保育園・小学校の相次ぐ統合で地域の人たちが集まる場が無くなることに危機感を抱いた皆さんの思いを原動力として平成23年に開設された「尾崎ふれあい交流広場」。
現在も初心を忘れず「地域の人たちが集う場をつくろう」と旧尾崎保育園・旧遠田保育園を拠点としてさまざまな活動を行っている。
尾崎地域の特徴
旧一宮町に属していた尾崎地域。平成17年に6町村が合併し、淡路市となり、現在約1500人が生活している。
淡路島の西部、遠田山系の裾野に広がる丘陵地や、新川流域の豊かな土壌に沿って行われる農業が盛んで、中でも「春トマト はるる」はブランド化され、島内外へ多く出荷されている。また、漁業では海苔の養殖が盛んで、漁港の周りには加工場も多く立地するなど、一大産地となっている。
しかし、過疎化が進み、近年は農業・漁業ともに従事者の高齢化と後継者不足が問題となっている。また、地区内の公民館、農協支所が閉鎖され、さらには尾崎保育園や遠田保育園、尾崎小学校も統合による廃校が相次ぐなど、地域住民が集まる場がどんどん減り、コミュニティの形成・維持が難しくなってきていることが課題となっている。
尾崎ふれあい交流広場の組織
平成23年7月に発足した尾崎ふれあい交流広場(以下、広場)は、連合町内会役員や、各地域の町内会の役員経験者など現在粟田代表以下17名の方を中心に運営がなされており、「地域住民の世代間交流ができる場づくり」をめざして、旧尾崎保育園、旧遠田保育園の2つを拠点としている。
設立当初より「パソコン教室」「交流ふれあいサロン」「料理教室」「遠田青空市」「グラウンドゴルフ」「竹炭」の6つの部門があり、週または月ごとに活動をしている。ニーズに合わせた柔軟な運営が特徴であり、例えばパソコン教室では「従来は金曜日の夜の時間だけ月1回開催していた講座でしたが、役員から声があがり、地区民がICT時代に対応すべくコンピューター講座として各種のメディア対応の昼講座と創設当初からの夜講座の2部制にしました。それぞれ別の講座として運営していますが、すこしずつ参加人数が増えています。自由に利用できるという形がいいのか、今日も自主練習で4人が来ていましたよ。」と植松事務局長はにこやかに話す。
他部門を見てみると「料理教室」には、現在20人ほどが所属。老人会の集まりにボランティアで料理を作りにいき、食べてもらう活動や、桜を見る会などのイベントを開催して料理を持ち寄るなどの活動を行っている。
また、スポーツ21事業から引き継いだ「グラウンドゴルフ」では、旧尾崎小学校を利用し、週3回の活発な活動をしている。男性だけでもなく女性も楽しめ、ゴルフの話はもちろん地域の話など、いろんな会話を楽しんでいるとのことだ。
どの部門も地域の人に来てもらう、拠点に集まってもらうにはどうしたらいいか、試行錯誤しながら、活動を進めている
交流ふれあいサロン『尾崎ガーデンズ』
「いらっしゃいませ。」「あら!こんにちは。」女性スタッフの方が明るい声で出迎えてくれる『尾崎ガーデンズ』は、広場の交流ふれあいサロン(以下、サロン)として、週2日、金曜日と土曜日の営業日には30~40人以上のお客様で賑わう。地域の奥様グループや、ご年配のご夫婦、お孫さんを連れた方、また近隣地域から来られる方など利用される層は様々だ。
『集える場所ができれば、地域住民間の人の繋がりを広げることができる。』
その思いを胸に、広場立ち上げ時から企画に取り組み、紆余曲折を経て「パンを中心としたカフェ」という運営骨格が決まり、調理師スタッフの確保など、一つ一つ課題をクリアして、平成27年4月。晴れのオープンの日を迎えた。
看板商品のあんパンなどのパンはもちろん、シフォンケーキなどのお菓子などが並び、現在はお客様のご要望に応え、サンドウィッチやカレーライス、寒い時期にはきつねうどんやぜんざいなどメニューが増えている。
スタッフの方にお話を伺うと、「ここで働いていると、『あら、あなたもここにいたのね。』と地域の方が仲良くお話ししている様子をよく目にします。一緒にパンを食べ『ここに来て良かった』と喜んでいただけているというのが一番嬉しいですね。」と、中谷さん。
また、「働きに来てからいろんな人とお話が出来たり、知り合いが増えたりと、とてもありがたいと感じています。」と、西垣さん、岡村さん。「たくさんの方とお話をする機会があり、地域にいろいろな趣味をもっている方がいらっしゃることが分かり、このサロンで手芸や寄せ植えの教室なども行いました。ここに来るのが楽しみだと言っていただけるのがすごくありがたいなと思います。」と植松さん。
パンやコーヒーの提供のほか、講座開催・イベントといった企画を増やし、より人が集まる場にしようと日々活発に動いている。
利用する方だけでなく、働くスタッフの方にとっても、顔のみえる関係ができる尾崎ガーデンズは、なくてはならない場所となっている。
地域のイベントをサポートする
サロンでは自ら企画する以外のイベントにも積極的に関わっている。漁港尾崎浜で子ども約120人を対象とした淡路市の地引き網大会があった際には、依頼を受け、参加者の昼食のおにぎり320個を準備し提供した。営業日と重なり、難しい数だったが「なんとかやってみる」と奮闘。参加した子どもだけでなく、父兄の分まで提供することができた。
「私たちだけでは到底できませんでした。でも地域の方々に声をかけると快く協力してくださいました。」「教室に来られている方など、声をかけてみると『1時間だけね。』『何か手伝えることある?』と来て下さるんです。本当にありがたかったですね。」とスタッフ全員が口を揃える。
「地域の力が発揮された時でしたね。『これ無理かな』と思うことを可能にしてくれるパワーがここにはあります。限界や垣根を越えるパワーがある。すごいことだと思います。」と広場中心メンバーの一人、上宮氏は言う。
さらに淡路市社協の打越氏はこう続ける。「スタッフの方が必要なお米の量、炊飯器の数をきっちりと計算し、知り合いに声をかけて炊飯器を借りました。ご無沙汰にしていた方と再会したり、『おにぎりはもっとゆったりと握った方がいいね』『次はこうしよう』といった前向きな話が出るんです。」
一つのチャレンジが「大変だったね」の一言で終わるのでは無く、次回への改善点の話が自然と出てくる尾崎地域の意識の高さを感じた。
広場を存続していくために
現在、広場が取り組む最大の課題は「交流広場拠点『人の集まる場』の存続」だ。
今まで受けていた県の補助が平成30年に終了するという節目を迎えるからだ。6つの部門の様々な講座やイベントの実施により、やっと地域の方々に認識されてきたところで「ここが勝負所だ」と植松事務局長、上宮氏、打越氏は口を揃える。
存続のためには、乗り越えなければならないいくつかのハードルがある。
一つは、『より一層の認知度を高める』ことだ。現在サロンを含め、講座などの利用は、大半が60代以上の女性であり、利用層をもっと広げる必要がある。上宮氏は「キーワードは『3世代交流』だと思うんです。」と話す。
今年10月に初めて実施した「ワンコインミニ敬老会」(町内会・老人会や淡路市社会福祉協議会地域支えあいセンターいちのみや等との共催)。
昔は各小学校区で敬老会が開催され、地域の子どもたちや高年世代と交流する機会となっていたが、近年は統廃合などにより無くなっていた。
「交通の便が良くないこともあり、サロンや講座に参加したくても足のない人は来にくい状況です。また、この広場をまだ知らない方も多い。そういう方に利用いただく機会を作ろうと思い、企画しました。たった2時間の敬老会でしたが、当日までにリハーサルを重ねるなどみんなで作り上げました。」と打越氏は振り返る。
「45人の参加があり、子どもたちとふれあうプログラムや尾崎むかしばなしなど、『非常に良かった』『楽しかった』という声をいただき、大変好評でした。誰でも初めての場所は、なかなか入るのに勇気がいるものです。これを来ていただくきっかけにしてもらえばと思います。」と植松事務局長も微笑む。
他の新企画としては、お母さん世代を対象とした「デコ巻きずし※」の講座も始まっている。子どもたちの「うちのお母さんも行って作ってくれたよ!」という口コミで広まっており、若い世代が学びに来る機会となっている。
※デコ巻きずし:デコレーション巻き寿司。花などの絵柄やキャラクターが巻き寿司の断面に現れるように巻く。
地域の宝「人」が、世代を超えて繋がるために
もう一つのハードルは『世代を超えた繋がりを作る』ことだ。現在広場を運営しているメンバーは60代から70代。さらに、今回お話をお聞きした7名のうち、4名がU・Iターンの方だという。共通して感じているのは、世代を超えた知り合いがいない、交流する機会がないということだった。「交流会など機会を設けて、世代を越えた繋がりを作らないと地域としては難しいと感じています。若者会とか優游(ゆうゆう)サロン会とか、集まれる場も必要だし、集まる企画も必要だと思います。」と上宮氏は話す。
尾崎は過疎化が進む反面、農業の分野では島外出身を含め、若い世代の入植者も少しずつ増えているという。『若い人たちがいる』ということは地域にとっても広場にとっても光となっている。
植松事務局長と上宮氏は、こう思いを語ってくれた。「少子高齢化ばかりに目を向けてもしかたありません。サロンスタッフの皆さんの情報収集で、尾崎には若い世代・色々な趣味人がいるということが分かっています。多世代が交流することで面白さも増えますし、そういう人達に関わってもらう方法を、我々広場のメンバーである先輩世代が頑張って考えないといけないですね。」
尾崎ふれあい交流広場は、当初から「地域の人たちが集う場をつくろう」という思いをぶれることなく追求し続け、決して楽な環境とは言えないが、地域の山や海の豊かさ、人の良さといった魅力を支えに、活動の継続、そして発展への糸口を見出そうとしている。
(取材日平成29年10月27日)
取材日に開催されていた展示:『和歌の歌絵展/古民家ミニチュア展』
淡路市元副市長の森ご夫婦が描く淡路にちなんだ和歌を集めた歌絵展が開催されていた。一つ一つ丁寧に描かれた作品は、他地域と淡路地域との関係性や歴史が垣間見える。
また、同時開催の古民家ミニチュア展は、サロンスタッフ中谷ご夫妻の作品。細かなミニチュア作品は、今は見かけることが少なくなってしまった、日本の懐かしい風景が見事に再現されている。