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「お太子さん」のもと「人の和と絆」を
大切に住民皆で地域を盛り上げる
斑鳩地区は、太子町の西北端に位置し、聖徳太子ゆかりの斑鳩寺を中心とした門前町として栄え、街道に沿って本陣が置かれるなど、宿場町として発展した地である。
もともと盛んであった農業に加え、近年は工場の進出により工業化や住宅地化も進み、公共公益施設が立地するなど、住環境も整った地域となっている。 しかし一方で、急速な都市化により、この地のシンボルである斑鳩寺を中心とした町並みが失われつつあること、また、伝統ある斑鳩寺の参拝者が減りつつあることが課題となっていた。
「斑鳩ふるさとまちづくり協議会」は、斑鳩寺をはじめとした地域の歴史資産を活かしたまちづくりに取り組むことを目的に平成20年に設立された団体だ。景観形成地区指定に向けた取り組みから始まり、現在も「和らぎ広場」を拠点として、様々な地域活動を積極的に展開している。
斑鳩地区の特徴
太子町の西北端に位置する斑鳩地区。7世紀に播磨の国鵤(いかるが)の荘となり、推古天皇時代、聖徳太子に贈られた播磨の国の水田は「法隆寺領播磨国鵤荘」へと発展、政所とともに斑鳩寺が建立された。斑鳩寺を中心とした門前町として栄え、江戸時代には龍野街道付近や西国街道に沿って本陣が置かれたことから、宿場町として発展した地である。
もともと盛んであった農業に加え、近年は工場の進出や、太子町役場・文化会館が立地したことにより宅地開発が進み、新住民の方も多く住まう地区となっている。 太子町の中心地区として発展していく中で、伝統ある斑鳩寺を中心とした町並みが失われつつあり、さらに斑鳩寺で古くから行われていた行事への参拝者・参加者が減りつつあることを憂い、歴史的景観を活かした地域づくりに取り組んでいる団体がある。
斑鳩ふるさとまちづくり協議会
平成20年に発足した斑鳩ふるさとまちづくり協議会(以下、協議会)は、斑鳩地区にある11の自治会長や、自治会長OBにより運営がなされており、現在メンバーは44名。『斑鳩の文化・歴史的景観を生かしながら、住んで良かったと思える、明るく住み良い・安全安心な町になる取組み』 をテーマに「総務部」「ふれあい部」「イベント部」「まちづくり部」の4部体制で、それぞれ部長や理事が中心となってさまざまな活動に取り組んでいる。
設立当初、真っ先に協議会が取り組んだのは、斑鳩地区の『景観形成地区』指定に向けた活動だった。地域の歴史的施設は残るものの建替えが進み、門前町の風情を漂わす町屋の旧家がどんどん減って変貌し、古き良き町並みがなくなっていくことを危惧した協議会は、景観ガイドラインの創設に取り組んだ。 各自治会からは厳しすぎるガイドラインに反対の声も多く、すんなりと了解を得ることは出来なかった。
何度も検討を重ね、現在の建物を建替える際に建物の形態と、色彩に配慮するといった緩やかな基準を適用することで景観の修景を進めるという着地点を見出し、平成25年には念願の指定を受けた。「まちづくり部」では現在も斑鳩寺参道への案内図を含めた道標の設置や、花回廊の整備などに取り組んでいる。
活動拠点「和らぎ広場」
景観形成への取り組みの模範建造物として生まれた拠点「和らぎ広場」(以下、広場)。もともと斑鳩地区の自治会館だった建物は、町屋風に改修されて協議会の拠点となり、住民が交流する広場として活用されている。 地区内の各種団体・近隣自治会の会議はもちろんのこと、ふれあいサロンや、各種教室への貸しスペースとして提供。
「現在は、ほぼ埋まっている状況ですね。地域で活用いただければと思い、料金もかなり安く設定し、当初から変更していません。特に利用を呼びかけたということはなく、すべて口コミで利用者が増えました。」と協議会の久保田顧問はにこやかに話す。
主な用途としては、ヨガ教室や和紙の連鶴教室、フラダンス・ウクレレ教室、リフレ体操など。老若男女問わず参加ができ、とても好評を得ている。教室以外にも、広場前スペースでは地元野菜の販売、2階のギャラリーでは幼稚園や小学校の絵画の展示など、地域の方が気軽に立ち寄れる場を見事に生み出している。
地域団体と協働
① 子育て支援
この広場で現在特に力を入れているのが託児事業だ。運営する『NPO法人スマイルキッズ』(以下、スマイルキッズ)は、以前幼稚園に勤めていたベテランメンバーが集まり、地域の子育て支援を目的に設立。この広場の存在を知り利用することとなった。
スマイルキッズの小西理事長は「協議会がきちんと管理している広場を使って託児を行うことで、親御さんたちはとても安心して利用いただいています。小さいお子様を預かるとなると、安全・安心ということが一番大事です。」「毎日協議会の方が顔を出されますし、地域の皆さんの活動の認識度も高いです。」と微笑む。
協議会の北川会長・田中副会長も「私たちにとっても、現在女性のメンバーがいないため、広場の水回りなど管理が行き届かないところなどを女性目線でサポートいただいて、とても助かっています。」と満面の笑顔。
協議会は、夏には竹の水鉄砲を子どもたちに教えたり、冬のクリスマス会ではサンタクロースに扮するなど、スマイルキッズをサポートする形で子育て支援に積極的に参加している。
② イベントを通じた繋がり
協議会は地域の数多くのイベントに参加するほか、企画・運営にも携わっている。自治会主催のイベントや、県や町が主催のイベントへ積極的に参加し出店。特に、「斑鳩寺太子夏会式(なつえしき)」「斑鳩寺太子春会式(はるえしき)」では、協議会とスマイルキッズが協働し、綿菓子・ポップコーン・飴の販売のほか、スーパーボールすくいを出店し、地域の方をはじめ、斑鳩寺に参拝する方との交流を図っている。
また、冬のクリスマス時期から年始にかけて斑鳩寺周辺で行われる「キャンドルナイト斑鳩」のイルミネーションは、毎年協議会メンバーのお手製のもので、参拝者へのおもてなしとして、ぜんざいや甘酒をふるまっている。
さらに、地域団体『斑鳩寺遊び社中・たいしのWA』(以下、たいしのWA)と協力し、彼らが主催するのハンドメイド市「おたいしマルシェ」への出店や運営サポートも行っている。 たいしのWAは、「お太子さんを盛り上げよう」という思いで集まった子育て世代を中心としたメンバーで構成された団体だ。60代〜80代が主力の協議会とは当初接点はなかったが、地域をともに支える団体であり、斑鳩寺のご住職の紹介等をきっかけに繋がりができ、協力体制が整いつつある。
たいしのWAの松浦氏はこう話す。「協議会が快く協力してくださるおかげで、我々だけだったら実現できなかったことが実施できています。世代を超えて協力し合える関係であることがとても心強いです。」 田中副会長も「若い方がお太子さんを盛り上げているんだったら、協力しようと思いました。人との繋がりは大切ですからね。」と応える。
斑鳩地区の方をはじめ、太子町の方は斑鳩寺のこと、また斑鳩寺で行われている会式を、親しみを込めて『お太子さん』と呼ぶ。地域が1つになる象徴的な存在であり、世代を超えて「お太子さんのためなら」というキーワードのもと一緒に協力しあえる絆がこの地にはある。
地域の良さを伝える
協議会は、小学校や高校など学校機関との連携にも積極的に取り組んでいる。地域活動が盛んと知られており、いろんな協力要請がある。西播磨の高校5校から、地域活性化体験講座としてフィールドワークに取り組む生徒を受け入れ、斑鳩地区周辺の営農・商工業について体験を含めた授業の一端を担った。 また、近年は地元の斑鳩小学校と連携し総合学習として、3年生には田植え実習、4年生には斑鳩地区の歴史と文化についての学習に講師として協力。現在は3年生から6年生までの総合学習に関わるなど、子どもたちと地域を繋げる取り組みを積極的に実施している。
斑鳩小学校の茂末先生は協議会と子どもたちについてこう話す。「核家族が増えているため、なかなかお家で地域のことを話す機会がないようです。総合学習を通じて、子どもたちが協議会の方と顔見知りとなり、楽しみながら地域のことを学んでいます。声を掛け合う関係ができているということもありがたく思っています。」地域づくり活動を進める上での心得をお聞きした。
協議会の久保田顧問は「リーダーが一番の要ですね。地域にリーダーさえいれば、どんなこともできます。」とお答えいただいた。
北川会長は「私自身が連合自治会の会長も兼任していますので、各自治会との連携はしっかりとできていると思います。自治会にご協力いただくことも多くあります。」とのこと。
窓口として各団体を繋いでいる田中副会長は「やはり人づくりが一番大切だと思います。人との繋がりは宝です。また、地域の子どもたちも宝ですね。」と微笑む。
以前は、斑鳩に住んでいても、斑鳩のことを知らない子どもたちが多かったという。しかし、現在は学校との連携や関わりを通じて、子どもたちの「わが町」意識が高まっていることを少しずつ実感している協議会。
次に取り組むべき課題として、「女性や若者層の参画」が挙がっている。ただ、他の団体や各機関との繋がりを大切にしている協議会の力を持ってすれば、課題が成功へと変わる日も遠くないと感じる。文化や歴史を現在の子どもたちに伝えることが、地域の賑わいへと繋がるという思いを絆に、発展を着実に進める協議会の挑戦は続く。
(取材日 平成30年2月16日)