NPO 法人上山高原エコミュージアム
新温泉町奥八田地区

当たり前にある大自然こそ、地域活性化の資源だった

青い空と緑深い山々を背に、ぽっかりと浮かび上がる黄色い建物を、施設スタッフたちに見送られた一台の観光バスが後にしようとしていた。
「シワガラの滝(*)のトレッキングに参加した、神戸からのツアーの方々です。」
NPO法人上山高原エコミュージアム(以下、エコミュージアム)代表の中村幸夫さんが教えてくれた。
「いつの頃からか、シワガラの滝を見学する人たちの車が、どんどんこの地域に来るようになったんです。
当初は『一体、何が起こったんだ?』と驚くばかりでした。洞窟の中に流れ落ちる全国でも珍しい滝が、絶景スポットとして雑誌やインターネットで取り上げられたことも知らなかったんです。」 いくつもの名瀑をはじめ、ススキが風に揺れる高原や手つかずのまま残された原生林など、当たり前に存在していた豊かな自然。
それらが地域「資源」であることを、中村さんや奥八田地区の人々が再認識するきっかけになったもの。
それが、上山高原エコミュージアムへの取組だった。

*シワガラの滝:奥八田地区の集落の一つ「海上(うみがみ)」の洞窟内部に流れる、美しい景観が人気の名瀑布

高原の空に、再びイヌワシを舞わせたい!

「奥八田地区を人と人との交流にあふれ、誰にとっても生きる力が湧きあがるような元気のある地域にしたい。それが願いでした。」と事務局長・馬場正男さんは振り返る。
「そのために、まずたどり着いたのが上山高原を活かした観光開発でした。しかし、社会経済情勢の変化や自然環境保全意識の高まりにより、自然保護・自然再生へと舵を切ることになったのです。」と話すのは、エコミュージアムの初代代表理事であり、現在は顧問を務める小畑和之さん。
奥八田地区の地域再生協働員(*)で、新温泉町企画課の植村博昭さんが
「春は桜、夏は田植えで緑に染まった田んぼや、澄み切った夜空に見えるたくさんの星。秋は黄金色の稲穂や紅葉した山々、冬は豪雪地帯ならではの雪景色。四季それぞれの風景は奥八田地区の資産です。」と説明してくれた。
そうした美しい景観に加え、自然再生を目指した活動へ進むきっかけになったものが、もうひとつある。平成7年に上山高原で確認されたイヌワシ(*)だ。
「専門家に言われるまで、地元の人たちの中でも、絶滅危惧種のイヌワシに関心のある人も、その希少性を知る人もほとんどありませんでした。そんな希少な動物が生きる環境が残っている地域は県下でも少ないということが、自然再生への方向転換のきっかけになったんです。」と馬場さん。
こうして平成13年、エコミュージアム基本計画の検討がスタート。
「イヌワシが飛び、トンビが乱舞した30年前の上山高原を取り戻そう!」を合言葉に、奥八田地区の挑戦が始まった。

*地域再生協働員:兵庫県版地域おこし協力隊。高齢化と人口減少が進む小規模集落の課題解決に向けた活動を地域に密着して支援する人材

*イヌワシ:環境省レッドデータブックに記載されている国内希少野生動植物種で、絶滅回避に向けた取り組みが続けられている

ススキが揺れる草原を取り戻せ!

エコミュージアムの中心となる活動が自然再生事業だ。
かつての上山高原は、ススキの草原とトチやブナなどの原生林が広がり、多様な生態系を育む豊かな場所だった。
しかし、牛を飼う家が減り、放牧も途絶えたススキ草原は灌木や笹が密集した草地へと変わり、原生林の多くが伐採され、スギの人工林になりつつあった。

 

「エコフェスタ」でのブナの植樹

「エコフェスタ」でのブナの植樹


「草原を復元しよう。」「ブナの植樹を増やし原生林の森を復活させよう。」
コンサルタントをまじえながら7集落が何度も話し合い、基本計画が徐々に形になっていった平成14年9月、自然復元プロジェクトがスタート。
まずは、荒れた高原をススキの草原に戻すことから取り組んだ。
「最初の活動は、笹や灌木を刈るボランティアでした。その後、各地区の区長たちがチェーンソーを使える人々に声をかけ、参加を募っていきました。現在は保全部会が中心になり、草原維持作業として定期的に草刈りなどの作業を行っています。」と副代表の植田光隆さん。
また、「ブナ苗ホームステイ」と名付けた育成プログラムにも着手。
各家庭で育てたブナの苗の植樹を続けた結果、令和2年3月末までにブナ林ではおよそ11ヘクタールの人工林間伐と、およそ9,900本のブナ苗の植樹(捕植*も含む)に成功。
ススキ草原の復元作業では、笹刈りと灌木伐採により34ヘクタール(*)もの高原の復元を達成。平成16年からは、牛の放牧も復活させた。
この自然復元プロジェクトでは年に一度、地元住 民も集まり一年間の復元調査や生態系の観察結果の報告を行う「モニタリング報告会」を開催。
調査研究部会を中心に、但馬地域の自然保護に取り組むグループや専門家による調査・研究、日々の活動結果を集めたレポート作成などを行っている。 こうした自然再生事業と共に、力を入れている活動が自然を活かした交流事業の数々だ。

*捕植:造林などで苗木が枯れて空地ができたとき再び苗木を植えること

*34ヘクタール:甲子園球場およそ9個分の面積

 

年に一度、復元調査や生態系の観察結果の報告を行う
「モニタリング報告会」

年に一度、復元調査や生態系の観察結果の報告を行う 「モニタリング報告会」


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