すごいすと

MENU
カテゴリを選択
タグを選択
地域を選択
分野別を選択

認定NPO法人放課後遊ぼう会 理事長

すごいすと
2014/02/25
足立典子さん
(53)
兵庫県宝塚市
認定NPO法人放課後遊ぼう会 理事長

兵庫県宝塚市。子どもを育む“自由な遊び”の力を信じ、住宅が密集する地域でも、子どもたちがめいっぱい遊べる放課後の居場所を作りたいと、活動を続けてきた人がいる。

認定NPO法人放課後遊ぼう会理事長足立典子さんにお話を伺った。

認定NPO法人放課後遊ぼう会 足立典子さん

遊び場がない

「自分の責任で自由に遊ぶ」を合言葉に、子どもたちの遊び場づくりに取り組んでいる認定NPO法人放課後遊ぼう会。

遊ぼう会が開催する「遊び場」は、放課後の小学校の校庭や多目的室、体育館など。宝塚市内6つの小学校を子どもたちが遊べる場所として利用している。なかでも市立仁川小学校では、夏休みや冬休みなども含めたほぼ全ての平日に「遊び場」を実施している。

 

仁川小学校は放課後になると、校庭が子どもたちの「遊び場」へと変貌する。

授業を終えた子どもたちは次々に、ランドセルを背負ったまま、「遊び場」にやってくる。

ブルーシートの上にランドセルを置き、遊び道具を手に、校庭に散らばる。ドッジボールや鬼ごっこといったよく見られる遊びもあれば、中国ゴマにチャレンジする様子も見られる。校庭の土山に穴を掘って水を流し込み、泥だらけになる子どもたちもいる。校内のコミュニティ室では、本を読んだり、カプラと呼ばれる木製のブロック遊びをしていたり…。

「遊び場」で、子どもたちが思い思いに時間を過ごす。

子どもたちの周りには、ケガや事故に備え、保護者を中心にしたボランティアスタッフや、プレイリーダーと呼ばれる大人たちがいる。

ただし、子どもたちの自主性を重んじるため、遊び方や振る舞いには基本的には口を出さず、遊び場を見守っている。

校庭で遊ぶ子どもたち

雪もちらつく中、元気に遊ぶ子どもたち。

足立さんが遊ぼう会の活動を始めたきっかけは、地域に子どもたちが自由に遊ぶ場所が見当たらなかったから。

「幼稚園から帰ってきた息子が、玄関先で『友だちと遊びたい』と言ってしょっちゅう泣いていたんです」

静かな住宅地を見渡してみれば、確かに子どもたちだけで好きに遊べるところは見当たらない。道路には歩道が十分に整備されていないうえに、幹線道路が近く車も頻繁に往来する。子どもたちが自分で行ける範囲には遊べる公園がほとんどないのだ。

「児童館も、宝塚市では広い中学校区に一つずつしかできなかった。特に行動範囲の限られる小学校低学年の子どもにとって、毎日気軽に足を運べるような距離には作られなかったんです」

子どもが誰にも遠慮せず心ゆくまで友だちと遊べるような場所。

自分が子どもの頃、日がとっぷりと暮れるまで、また体がくたくたになるまで遊んだような、そんな空間は、この地域にはなかったのだ。

 

室内でも自由に過ごす

仁川小学校の敷地内にある地域のコミュニティ室。外遊びの前にここで宿題を済ませる子たちも多い。

子どもの成長には豊かな遊びが欠かせないと足立さんは考えている。

遊びとは、誰に言われるのでもなく、好奇心から自発的に始めたことを自分の力で達成させる行為。その達成感こそが子どもに自信を与え、自発性を育むもとになる。そして、友だちとの自由で豊かな遊びの中で、判断力や社会性などさまざまな力を身につけていく。

 

しかし、今の子どもたちは遊びに必要な「三間(さんま)」が奪われていると足立さんはいう。三間とは空間、時間、仲間の3つの「間」のことだ。

野山を駆け回るどころか、思いっきり体を動かせる空間もない。

塾や習い事のため、遊ぶための時間はどんどん減っていく。

空間も時間もない子どもたちには、遊び仲間が生まれるきっかけがない。

「携帯ゲーム機に向かう子どもたちを見ると、今の子は遊びの選択肢がないのだと感じます」

 

子どもを取り巻く社会の状況を昔に戻すことはできない。せめて子どもたちがいきいきと遊べる遊び場を提供したい。足立さんは、同じ思いを持つ保護者2人とボランティアグループをつくり、平成13年から仁川小学校で子どもたちの遊び場作りをスタートさせた。

ドッジボール中の子どもたち

広い校庭で、ドッジボールも思いのまま。めいっぱい体を動かし、遊ぶ。

自由な遊び場は自分たちの手で

遊び場を作る上で肝心なことは、“自由な遊び”ができることと、いつ誰が来ても遊べるよう毎日開かれていることの2点だと足立さんは語る。

 

その2点だけを念頭に置き、他は何もかもゼロからスタートさせた13年前。

とにかく場所が必要だと考えた足立さん。思いっきり体を動かせるだけの広さがあり、子どもたちだけで通える場所として思い当たったのが、小学校の校庭だった。早速校長にかけあい、校庭などの使用許可を得るとともに、それを使った「遊び場」についての了解を取りつけた。

しかし、せっかく用意した「遊び場」も、スタート当初は平均して10人ぐらいの児童の参加にとどまった。

「学校から許可をもらって開催していても、保護者の『行っておいで』の一言がないと子どもはなかなか来られない。保護者に私たちの思いを理解してもらうため、毎月、保護者あてに遊ぼう会のニュースレターを発行しました」

毎月の予定だけでなく、保護者の理解を得るため、遊びの必要性や「遊び場」のしくみも紹介した。

「初めの頃はいろいろな誤解もあって、託児所のように思われていたこともありました」

いいように使われているだけだと、心配してくれる人もいたという。

発行されているニュースレター

現在でも毎月発行の通信。紙面のトップは「自分の責任で自由に遊ぶ」の文字。

わかりやすいイラストは足立さんが描いたもの。

3年目には、県の「子どもの冒険ひろばパイロット事業」に採択され、遊び場をサポートするプレイリーダーを配置できるようになった。これにより本格的に毎日開催の体制が整った。利用する子どもが増え、徐々に放課後の居場所として認知されるようになる。

さらに地域の理解を得るためには、遊ぼう会が何者なのかを知ってもらう必要があると思った足立さん。

「きちんとした信頼関係を築くために、自分が地域の活動でも汗をかくようにしました」

地道に築いた信頼関係の上で、なぜ子どもたちにとって遊び場が必要なのかを説明して回った。

毎日の開催を続ける中で、次第に保護者の参加も増え、やがて遊び場運営のお手伝いがPTA活動のひとつになるほど、保護者やPTAに浸透していった。

2年間のパイロット事業の終了に伴い、活動体制の維持が危ぶまれた時は、毎日開催の体制が続けられるよう、PTAによって市議会へ請願活動まで行われた。

平成19年、宝塚市が放課後の居場所づくりに取り組む「宝塚市放課後子ども教室事業」がスタート。遊び場の開設に対して、一年ごとではあるものの、活動に応じて委託金が受けられるようになった。また他の校区でも遊ぼう会として遊び場を定期的に開催する契機にもなった。

活動が膨らんだ平成22年には、運営体制を整えるためNPO法人格を取得。

現在では、仁川小学校を含めた6校で定期開催の遊び場を開催。3人で始めたこの活動も、平成24年度は年間で延べ2,000人を超える人がボランティアスタッフやプレイリーダーとして関わる大きな活動になった。その他にも、市立小学校24校の内、半分以上の小学校に遊ぼう会のスタッフが遊び場開催の支援に出向く。

木製ブロックカプラ

組み立てることで様々な造形が生まれる木製のブロック〝カプラ“。出張の遊び場でも用いられる。

平成21年に仁川小学校PTAが実施したアンケートでは、「遊ぼう会に参加したことがある」児童の割合は88%だった。

保護者からも、安心感がある、違う学年とのふれあいがあってよいという感想に併せ、何かできることがあればしたい、今は無理でも退職したらお手伝いしたいのでそれまで続けてほしいといった声が続々と集まった。

「がむしゃらにやってきたので、こうした声をもらえたのは本当に励みになりました」と足立さんは微笑む。

またこの年には、文部科学省の「放課後子ども教室推進表彰」も受けた。全国で類を見ない成功例として、事例発表を見た他府県の担当者から、参考にしたいと質問が相次ぐほどだったという。

養成講座の様子

以前より仁川まちづくり協議会やスポーツクラブ21 仁川から施設や倉庫の無償貸与などの支援を受けていたが、数年前からはさらに自治会の力強い協力もあって地域の方から寄付も寄せられるようになった。

こうしたことを受け、遊ぼう会では、平成24年に県内でいち早く認定NPO法人格も取得。遊ぼう会に寄付を行う時、寄付者が税制控除を受けられるような体制を整えた。

「今は全てが寄付によってまかなえるわけではありませんが、活動を続けていく上での大きな力になることは間違いありません」

活動開始から13年、遊ぼう会の活動は地域に根付き、地域が一体となって子どもたちを支える活動へと進化を続けている。

遊ぼう会の運営会議

遊ぼう会の運営会議。この日はインフルエンザでの学級閉鎖時の対応などが議題にあがった。

かけがえのない遊び場仲間

13年の活動で、思い描いた「自由な遊びができて、いつ誰が来ても遊べる毎日の遊び場」がひとつの形になった放課後遊ぼう会。

現在では、子育て中の母親もプレイリーダーとして活躍する。ボランティアスタッフも含め、運営に関わっている保護者も多い。

 

「子どもや学校って、いろんな人に支えられているんだって、この活動を通じて初めて知りました」

遊ぼう会に関わるまではPTAの活動には積極的に参加せず、自分の子どもしか見えていなかったのだと、あるプレイリーダーは笑いながら話す。

同じ学年同士での関わりでは終わらない遊び場の運営。保護者にとっても世代を超えて子どもたちの成長について大いに語り合い、刺激を受ける場ともなっている。中にはこの活動をきっかけにして、昔夢だった幼稚園教諭や保育士への道を再度目指す人たちもいる。

足立さんとプレイリーダー

子育てをしながら、プレイリーダーとして活躍するスタッフも多い。

今や子どもだけでなく、大人にとってもかけがえのない場所となった遊ぼう会の遊び場。

足立さんも遊び場を築いていくなかで、かけがえのない宝物を手にしたのだと語る。

活動を始めた頃、子どもたちが帰った後の学校で、仲間同士おにぎり持参で、遊び場をどのように作るべきか、毎月話し合った。この月に一度の話し合いの場は形を変え、今も続いている。

地域の人たちに理解してほしいと、それまで話すこともなかった自治会の人と話し、地域活動にも加わった。

そして、活動の広がりに伴い、仁川小学校区だけにとどまらず、思いをともにする仲間はどんどん増えていった。

 

自分の子どもはすでに小学校を卒業したけれど、足立さんは当初から変わらずボランティアで活動を続けている。

「私自身、地域や世代を超えて、子どもたちを応援してくれる人たちがいることを知り、たくさんの仲間を得ました。私にとってそうした出会いのひとつひとつが宝物です」

 

足立さんが大切にしているのは「仲間」。

何者にも代えがたい大切な仲間。子どもたちだけではない。何歳になってもここに来れば、そんな仲間に出会えるような遊び場づくりをめざしている。

大切なのは「仲間」

(公開日:H26.2.25)

INFORMATION ご紹介先の情報

県の支援メニュー等
公式サイト・所属先

応援メッセージ

質問・お問い合わせ

下記リンクのメールフォームにて
必要事項をご記入の上、お問い合わせください。
担当者よりご連絡させていただきます。