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自然食農家レストラン 三心五観代表

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2014/09/25
藤本傑士さん
(37)
兵庫県丹波市
自然食農家レストラン 三心五観代表
兵庫県の中央東部に位置し、四方を急斜面の山に囲まれた丹波市は、栗や小豆など、朝夕の寒暖の差により育まれる農作物の名産地として知られている。

京阪神から車で約1時間半のこの地は、近年、観光地としての知名度も高くなり、訪れる人の数は年々増えている。また、都市部から移り住んでくる若者も現れ、地域の一員として地元の人たちから頼られる存在になっている。

神戸で人気ラーメン店を経営していた藤本傑士さんは、子どもの誕生を機に食物についての関心を深め、妻・幸穂(さちほ)さんと共に勉強を重ねた。一昨年、丹波市春日町大路地区に、無農薬無肥料で栽培した野菜を使ったレストランをオープン。また、地域の活性化をめざして結成された「大路未来会議」の代表として、持続可能なコミュニティを築くことに力を注いでいる。

自然食農家レストラン三心五観 代表藤本傑士さん

サスティナブルライフ

藤本さんが無農薬野菜を使ったレストランを開こうと思ったきっかけは、知人の紹介で泊まった、長野県にある一軒の宿のオーナーからの話にはじまる。

自家栽培の食材で客をもてなす宿のオーナー曰く、「もし世界中のすべての人が、今の日本人並みの消費で生活すれば、地球2.5個分の資源が要る。アメリカ人並みの消費だと5個分になる」と。衝撃的だった。一つしかない地球が与えてくれる資源には限りがある。そのことを顧みず、与えられる分以上を消費するような生活を続けていいはずがない。

「地球1個分の資源を奪い合うよりも、それを分かち合い、共生してみんなが幸せになれるような『サスティナブルライフ(持続可能な生活)』を送った方が、心豊かに暮らせる」

資源を消費するだけの生活ではなく、地球に負荷をかけない自給自足の生活スタイルを目指そうと決心した藤本さん。その第一歩として、自家農園で無農薬無肥料の野菜を作り、それを使ったレストランの開業を思い立った。

丹波への移住

藤本さんが田舎で暮らすことを考え始めていた時、営んでいたラーメン店の常連さんから田舎暮らしをサポートしている人を紹介され、それをきっかけに、丹波市で在来種の小豆を栽培している柳田隆雄さんに出会う。移住について親身になって相談に乗ってもらい、柳田さんを通じてたくさんの丹波の人と繋がることができた。「移住先は丹波市に」と決めた。

移住を決意してから、地元の人から農作業のノウハウを教わったり、住居の紹介をしてもらったりした藤本さん。ついに平成23年春、一家で丹波に移り住んだ。そして翌年8月には、念願の自然食レストラン「三心五観」の開店にこぎつけた。

丹波市のこども園を見学に訪れた際に出会った、幼児教育家の「マリオさん」こと山崎春人さん。「この人に自分の子どもたちを預けたい」と思った。

「三心五観」という店名は、精進料理に由来する。食事を提供する側の心得「三心」と、食事を頂く側の心得「五観の偈(げ)」を合わせた造語で、食材になってくれた命やそれを育てる農家の人たちを含め、すべてに感謝と思いやりを持って、料理を作る人も食べる人もみんなが幸せになれるようにという思いがこめられた名前だ。

息子の観自くんを背負って厨房で働く藤本さん

三心五観の料理には、藤本さんが自ら育てた野菜を使っている。また、訪れた客には農作業を体験する機会も提供。食事を楽しんでもらうだけでなく、自然と調和した生き方を伝えていく場所にしていきたいと考えている。

さらに、多くの人たちに食を通して丹波の魅力に触れてもらうため、自然食の重ね煮料理教室も開いている。神戸や大阪で出張開催することもあり、回を重ねて参加するうちに丹波への移住を希望するようになった人もいる。

8月末に三心五観で開催された「甘酒講習会」には、大阪や岡山からも受講者が集まった。そこで出された、麹を使った料理

三心五観の田植えにはたくさんの人が体験に訪れた

 

大路未来会議

三心五観のある丹波市春日町大路地区では、子育て世代の流出が進む一方で、都市部からの移住者も増えている。

里離れに歯止めをかけると同時に、移り住んでくる人たちの流れを確かなものにするため、2年前の秋に発足したのが「大路未来会議」だ。Iターン、Uターンで大路に移り住んだ人を含め有志十数人が集まったこの会には、代表を務める藤本さんのほか、建築士、茶農家、飲食店経営者たちが名を連ねている。

大路未来会議のメンバーたち

若い世代の定住を後押しするためには、子育て環境の充実が欠かせない。自然に恵まれた丹波の環境が子育てに最適な場所であることを認識してもらうため、大路未来会議では「子どもたちの心からの笑顔があふれる場所」を作ることに力を注いでいる。

地区内の里山に「大路こどもの森」を作り、月1回、「あそびの学校」という自然体験プログラムを実施。川遊びやキャンプなど、月々実施する内容はホームページで発表しており、地域外からの参加者も多い。今年春には、一級建築士の資格を持つ未来会議メンバーの指導の下、間伐材を利用したツリーハウスが完成した。

藤本家の子どもたちも、この森が大好きだ。

「山遊びをするようになって、子どもの感受性は以前より強くなったと感じます。四季のわずかな変化にも気づくようになりました」

大路未来会議の設立後、移住者は8家族に上り、活動の成果が着実に実を結びつつある。

今年度は、兵庫県の「ふるさとづくり青年隊」事業の支援を受け、地元青年と他地域青年が一緒に地域おこし活動に取り組み、次世代の地域づくりの担い手を育てている。また、農業体験や伝統行事を通じて都市部の若者との交流を図り、田舎暮らしの魅力を知ってもらうことで、「大路ファン」を増やしている。

心豊かに暮らせる幸せ

神戸に住んでいた頃は地域とのかかわりがほとんどなかった藤本さん。ここでは月に1度、10数世帯の住民が集まって地域の行事などについて話し合う常会に参加する。また、葬儀の手伝い、草刈りや害獣の柵の点検など、地域の一員としての役割もある。祭りや地区の運動会への参加も、移住するまでは経験のなかったことだった。

移住してきて間もない頃、通りかかった子どもに「ただいま帰りました」と挨拶されて驚いた。出かけようとすると「今日はどちらへ?」と尋ねられる。

「そんな人とのつながり、地元とのつながりが楽しい。ここは他所から来た人をさりげなく受け入れてくれる、心豊かな人たちが暮らすところです」

そう語る藤本さんは今、理想としていた自然と調和した暮らしの幸せをかみ締めている。

都会育ちの藤本さん夫婦が田舎暮らしを満喫している姿に触発されて、弟の雄大(ゆうき)さんも丹波市に移り住んできた。続いて、雄大さんの友人たちも移住し、彼らのような若い移住者たちが一緒に暮らすシェアハウスも増えた。

お茶に興味のあった雄大さんは無農薬のお茶屋さんで働き、友人の一人は三心五観の厨房で働いている。共に大路未来会議のメンバーだ。市内で月1回開催されているマーケットや、8月中旬に起きた水害のチャリティーイベントにも、地域の一員として積極的に参加している。

シェアハウスに住む若者たち

週末になると開店する居酒屋「大路週末バル」。大路未来会議のメンバーが運営し、移住してきた若者たちや地域の人など、誰でも気軽に立ち寄り、交流を図れる場所になっている。

さすらい人

藤本さんの好きな言葉は「さすらい人」。物事にとらわれず、自由に、心豊かに暮らしたいという意味だ。

「持続可能な田舎移住起業コンサル サスライプロジェクト」代表でもある藤本さんは、「自分が経験したことと、してもらったことを、移住を考えている人たちに伝えていきたい」と語る。今年8月には、移住を希望する人たちを対象としたセミナーを始め、今は5組が受講している。

「住む場所があっても、仕事がなくては住み続けられない。田舎に暮らしながら自分のやりたい仕事ができるよう、しっかりサポートしていきたいと思っています」

今では移住を支援する側へと立場を変えた藤本さん。丹波と都市部をつなぐ役割に、これからも力を注ぎ続けていく。

(公開日:H26.9.25)

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