すごいすと

MENU
カテゴリを選択
タグを選択
地域を選択
分野別を選択

山口町自治会連合会顧問

すごいすと
2013/12/25
三谷弘志さん
(67)
兵庫県西宮市
山口町自治会連合会顧問

阪神間有数の大都市である西宮市。その市域は六甲山地で大きく南北に分かれ、北部に位置する山口地域は、豊かな自然と歴史、風土に恵まれた地域だが、人口増加が続く市南部市街地に比べ、人口減少が始まり、今後急速な高齢化が見込まれている。

こうした中、住民の力でふるさとの魅力を再発見し、内外にアピールすることにより、地域間の交流を図り、地域の活性化につなげようとする取組が進められている。

山口町自治会連合会顧問三谷弘志さんにお話を伺った。

山口町自治会連合会顧問三谷さん

わがまちの記憶

西宮市中心地から山口地域へは六甲山系の山々を越え、車で40分ほど。市街地とは様子が一変して、豊かな自然が広がり、六甲山地に源流を持つ有馬川が地域の中心を南北に流れている。

夏になると手で掴めそうなほどホタルが乱舞するというこの川。川沿いは「有馬川緑道」と呼ばれ、地域住民の散歩コースともなっている。

三谷さんが子どもの頃は、地域の伝統行事である旧正月のとんどがこの川辺で行われていた。「とんど用に高さ3メートルほどの笹を刈って運んでくるのは、昔は子どもたちの冬の仕事だった」

有馬川緑道を歩きながら、そんな思い出を教えてくれた三谷さん。泳ぎは苦手だったが、それでもやはり他の子たちと同じく、日が暮れるまでこの川で遊んでいたという。

有馬川緑道

有馬川 山口地域の中心を南から北に向かって流れる。

山口町で生まれ、 育った三谷さん。子どもの頃、地域では農業を営む世帯が多かった。ただ耕地面積の狭さから、主流は兼業農家で、中でも地場産業だった竹カゴ製造との兼業が多く見られた。戦後、プラスチック製の商品にとって代わられるまでは、多くの家庭で分業された竹カゴ作りが行われていた。

「会社もいくつもあり、アメリカへ輸出していたほど 盛んだった。僕の母も内職でカゴを編んでいた」子どもたち はお駄賃目当てに、かご作りのお手伝いを買って出た。「ただ自分の家ではタダ働きになるから、みんな他所の家で一生懸命手伝っていた」と笑って振り返る。

また昔からこの地域ではだんじりが練り歩く秋祭りが盛大に行われる。旧村時代から続く 5地区の自治会はそれぞれに だんじりがあり、三谷さんが育った上山口地区のだんじりは、150年以上前、安政の時代に作られたものだという。

子どもの時はお囃子を担当し、青年になれば担ぎ手となる。地域で連綿と守り継がれた伝統のだんじりは、今も秋祭りの主役として活躍している。

有馬川緑道

山口町郷土資料館。秋祭りで実際に使用される各地区のだんじりが交替で展示される。

そんな山口地域も、高度成長期に入り、まちの様子が一変していく。昭和50年代には、中国自動車道が開通し、地域内に西宮北インターチェンジが設けられた。それとともに阪神流通センターが建設され、山口地域は物流の一大拠点となる。

大規模な住宅地開発も進み、 5千人程度だった人口は1万8千人ほどに増加した。住宅の改築も進み、それまで多く見られていた茅葺き屋根もどんどんと数を減らしていった。

そんな地域の移り変わりの中で、三谷さんは地域を離れることなく、会社員生活の傍ら、若い頃から消防団をはじめ地域活動に熱心に取り組み、やがて地区自治会の役員に推されるなど地域のリーダーとしての役割を担い始めていく。

山口につながった道

発展著しい山口地域だったが、住民の日常生活面ではある問題を抱えていた。

「同じ西宮市でありながら市南部との格差が大きい。特に象徴的なのが、市中心部へ向かうための公共交通機関がなかったことです」

山口地域には鉄道の駅が無く、地域住民が市中心部へ向かうためには、六甲山地を越える細い峠道しかなかった。そのため長らくこの地域へはバス路線が通らず、市南部にある市役所 に向かうにも、県・市立高校に通学するにも、いったん神戸や宝塚へ迂回するほかなかった。新興住宅地の子ども達が成長するにつれて、通学経路の確保は大きな課題となっていった。

峠道に代わる盤滝トンネル(西宮北道路)が開通したのは平成3年のこと。バスの通行が可能になり、住民らによるバス路線開設の請願活動がスタートする。採算性の乏しさから開設は困難とされたが、住民自ら検討会を設置するなど地域を挙げて粘り強くバス路線開設を訴えた。三谷さんも自治会役員として、運行実現に向けて尽力した。そして、ようやく平成21年4月、長年の取り組みが実り、山口地域と市中心部を結ぶ「さくらやまなみバス」が開通した。

市南部から六甲山を越え、約1時間をかけてやってきたカラフルな車体が地域を走る。初めてその姿を目にしたときは、感慨もひとしおだったと三谷さんは語る。

さくらやまなみバス

有馬川沿いを走る「さくらやまなみバス」 写真提供:西宮流(にしのみやスタイル)

今こそふるさとに活力を

そして、平成23年、三谷さんは山口町自治会連合会会長に就任する。さくらやまなみバスは当初の見込み通り通学の利用者は多いものの、赤字運行が続いていた。山口地域にとっては市中心部につながる命綱ともいえるこの路線を守り続けるためには、利用客を増やす必要がある。市南部の市街地との行き来を促すような取り組みが急務だった。

「長年の活動で路線開通を勝ち取った方たちの産みの苦しみは大きいものだったと思うが、会長になって今度は育ての苦しみを引き受けていくことになった。できることからなんとかしたいと、心から思った」

ただ、長年地域活動に取り組んできた三谷さんの見つめる先は、単に「バスの増客」にとどまらなかった。

手元のデータから予測されたのは、山口地域の急激な高齢化。新興住宅地の第一期分譲から30年近くが立つこと、また就職などで他地域に出た子ども世代のUターンがあまり見られないことなど、少子高齢化の問題が目の前に迫っていることがはっきり していた。

地域の活力を高め、人口の流出に歯止めをかけることなしに、ふるさと山口の明るい未来は見いだせない。活性化にまず必要なのは、すべての住民に等しく問題意識を持ってもらうこと、そして地域に愛着と誇りを持ってもらうことだと三谷さんは考えた。

まずは土台作りとして、それまで個別に 活動していた地域団体 へ目を向ける。旧村地区の自治会、新興住宅地の自治会、婦人会、老人クラブ、PTAなど、各々活発に活動しているものの、協働の輪が広がることはなかった。

「それぞれに思いが強くて実績 のある集まり。それらがひとまとまりになり、ひとつの『山口の地域コミュニティ』となれるつながりを作りたかった」

そんな思いのもと、平成24年、新たに「山口地域活性化課題懇談会」が設置された。懇談会では旧村地区の財産区である山口町徳風会、自治会、市の3者が中心になり、山口地域の活性化施策について 知恵を 出しあった。

山口地域活性化課題懇談会

山口地域活性化課題懇談会

検討の俎上にあがる様々な施策。その中の目玉のひとつとして三谷さんは山口地域の見どころを巡るハイキングコースの 整備とハイキングイベントの実施を提案する。コースづくりを通じて、住民の手で地域の優れた資源を地域の見どころとして掘り起こし、それを他地域の人たちに向けて発信すること、そしてイベントを通じ、山口地域の様々な団体・グループが協働する形を作ることが、三谷さんの狙いだった。

全ての自治会、地域団体が一つの行事に取り組むのは初めてのこと。さらに地域外の人の参加も促そうというのだから、二の足を踏む人もあった。そんな中、三谷さんはとりあえずやってみようとみんなの背中を押す。

懇談会メンバーの西宮市職員の坂上さんは、当時のことをこう振り返る。

「三谷さん が何事も決して言いっぱなしにはせず、自ら誰よりも汗をかいて取り組む人だということを、日頃の活動を通じて誰もが知っていたんです」

そんな三谷さんの人柄があったからこそ、懇談会はハイキングイベント開催へと歩を進めることになる。

三谷さんと現会長の畑さん

三谷さんと現会長の畑さん。お互いにないものを補いながら地域づくりに尽力する日々だと話す。

地域の宝を見つめる

そうして始まったハイキングコースづくり。住民に よる見どころ調査 が始まった。

6世紀末の古墳があり、古くから集落が存在したと考えられているこの地域には、国指定重要文化財の阿弥陀如来像が安置される明徳寺や、室町時代末期の神輿殿を持つ公智神社など、由緒ある神社仏閣が、今でも暮らしの中で大切にされている。そして豊かな自然が眼前に広がる金仙寺湖、有馬川緑道、樹齢約300年の大けやき ―― こうした地域の宝ともいえる史跡や見どころがコースのポイントとなり、住民手作りのハイキングコースが完成 する。

一周約7.5km。2時間をかけて山口地域の史跡名所を巡るこのルートは、平成24年11月24日に開催された「第1回西宮山口アルキナーレ2012」にてお披露目された。

参加者には、歴史、由来もまとめたマップが用意され、各ポイントには見どころを紹介したガイド看板も設置された。

「アルキナーレ」は全市的 な広報 の効果もあり、初回にも関わらず、参加者数は405名に上った。市南部からやってくる多くのお客さん のために、当日 はさくらやまなみバス が増便 された。

イベント では、スタッフとして140名もの地元ボランティアが協力 。バス停やコースでの案内に加えて、ハイキング終着点では「アフターハイクあるきなーれ市」を開催した。

わざわざ山口地域まで来てくれた参加者に対して、地域住民からお礼の気持ちを伝えたいと三谷さんが提案したこの市。地元農家が作ったお米や露地物の野菜などの販売所、採算度外視のオール100円の焼きそばやおにぎりの屋台などが並んだ。

また、ふるさと山口の原風景の一つだった竹カゴづくりをよみがえらせたいと、地元同好グループによる竹細工製品 の販売も実現させた。

地元の中学生までもが来場者を出迎え、山口地域の老若男女による、まさに地域ぐるみの温かいもてなしに会場は笑顔に包まれた。

アルキナーレ

第1回西宮山口アルキナーレ2012 多数の参加者でハイキングコースが賑わう

愛着に裏付けられた地域力を

こうして大成功を収めたアルキナーレ。参加者アンケートなどを通して聞こえてくるのは、「今まで山口町のことは知らなかった 。でも魅力 がいっぱいある町であることがわかった」という声。

参加者から寄せられた好意的な評価は、住民の何よりの自信となった。

「参加者からのフィードバックを得ることこそが、重要なポイントなんです」

まず行動してみる。ただし、イベントの実施や成功だけが目的ではない。第三者の評価によって住民が自信をつけ、また次の展開を考えて続けていく。三谷さんはそんなサイクルと、より多くの地域住民がそれぞれ 立場でふるさとづくりに関われる場を作り出したのだった。

このサイクルは、さらに意欲的な取り組みを生み出している。

地域が誇る、桜やホタルの時期に合わせた季節のハイキングコースも新たに開拓され、それぞれ見頃の時期にはホームページを通じてコースや見どころが発信されている。

従来から開催されているホタルの観賞会などの地域イベントにも、積極的な情報発信の甲斐あって、地域外からの参加者も見られるようになった。また特別なイベントの時だけでなく、普段からハイキング目的に山口を訪れる人たちが増え、最近では平日でもハイキングマップを求める声が多く聞かれるという。

アルキナーレ

第2回アルキナーレ2013にも多数の参加者が訪れリピーターも多かった

地域づくり活動は一朝一夕では 実らない。今はまだ「山口地域」と聞いても知らないと答える人が多いが、いつかは「ああ、あの西宮の住んでみたいまちNo.1ね」という返答が帰ってくるようなまちにしたいのだと三谷さんはいう。

歴史ある自然豊かなふるさとの魅力を引き出し、かつ次の世代にとっても暮らしやすいまちをつくる。高齢者ばかりが暮らすのではなく、いつまでも昔の自分たちのように、川べりで子どもたちが遊ぶ風景が見られるような地域であってほしい。

そのために、まずは今住んでいる人たちがふるさと山口への愛着や誇りを持ち、住んでよかったと思えることが何より重要。「自分が好きでもないものを、他のひとに勧めるなんて、そんなことはないでしょ」と笑う。

改めて三谷さんが最も大切にしていることを伺ったところ、やはり答えは「西宮山口の地域力」。

ふるさとへの愛着を深め、地域力を高めていきたい。会長職を退いて役割は変わっても、ともに活動を積み重ねてきた地域の仲間とともに、三谷さんはこれからも地域づくりに取り組んでいく。

西宮山口の地域力

(公開日:H25.12.25)

INFORMATION ご紹介先の情報

県の支援メニュー等
公式サイト・所属先

応援メッセージ

質問・お問い合わせ

下記リンクのメールフォームにて
必要事項をご記入の上、お問い合わせください。
担当者よりご連絡させていただきます。