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アトリエ太陽の子

すごいすと
2017/01/25
中嶋洋子さん
(64)
兵庫県神戸市
アトリエ太陽の子

「震災は、子どもたちにとって命について考える貴重な機会」という想いのもと、絵画を通じた防災活動を行っている。「防災ポスターコンクール」への出展をきっかけに、子どもたちが絵を描くことで震災を知り、防災知識を身に着ける「震災・命の授業」を毎年開講。一方、阪神・淡路大震災で亡くなった命と同じ数のヒマワリの絵を子どもたちと描く「6,434本のヒマワリを咲かせようプロジェクト」や東日本大震災、熊本地震の被災地では「命の一本桜プロジェクト」を実施。被災した子どもたちの心のケアをはじめ、生きていく強さや生かされていることへの感謝の気持ちを、絵を描くことで育む活動に取組んでいる。平成26年、兵庫県震災復興功労賞受賞。

人の根っこを育てる場、それが絵画教室

芸術を愛する両親の元、絵を描くことが大好きな少女に育った中嶋さん。大学卒業後に美術講師として赴任した高校で、認めること、ほめることが子どもたちにどれだけ必要かを実感。その5年後、アトリエ太陽の子を開いた。
中嶋さんの絵画教室は、ただ絵を描くだけではない。
「心がきれいでないと、人を感動させる絵は描けません。絵には子どものやさしさ、純粋な想いが表れます。信頼、尊厳、人間愛……いわば人の根っこを育てる教室です。」
そのために、時には絵を描かず、話し合いで終わることもあるという。
「いじめられている子の隣に立つだけでいい。手を握ってあげるだけでいい。身近な友だちを助けに行こう!そんな話をすることもあるんです。」

JR住吉駅前で行われた街頭募金

子どもたちが描いたくまもんのイラストが配られた

絵画教室は、人間形成の場だという中嶋さん。そんな活動のひとつが、熊本地震支援活動のための街頭募金。教室の子どもたちが募金活動を行った。
「4年生の子どもが『人って温かいと思いました。みんなすごいと思った』と言うんです。人を助けようと思ったら心を込めること、人を助けるのは人なんだということを体感してくれました。生きた授業です。社会勉強になったと思います。人のために何ができるのか、考えられる子どもになって欲しい。」
教室を始めて35年。
「神戸の宝を育てさせてもらっているんです。想いをたっぷり持った子を育てたい。」

絵を描くことは、命に触れること

全国公募『こども二科展』では、団体賞第一位・二科ジュニア賞を、4回受賞

太陽の子の子どもたちの絵は、みな生命力と躍動感にあふれている。どの作品も絵が濃くて力強い。そこにあるのは、命の輝きだ。
「例えば、ザリガニやメダカを描く時。衣裳ケースに水を張り、土や石も入れ生き物と触れ合うことから始めます。写真や図鑑だけに頼らず、生き物の命に触れてから絵を描くんです。もしミツバチを描くなら、今なぜ絶滅しそうなのかといった勉強からスタートします。『ミツバチは、一生の間にティースプーンひとさじしか蜜を集められないのに、みんなはどれだけ食べてるかな?』って。」
絵を描くことを通して、命に触れる体験を積むアトリエ太陽の子の子どもたち。ここで学ぶ子どもたちの中には、人を助ける仕事を志すケースも多いという。小児科医をはじめ、看護士、消防士、警察官、教師……。その背景には、中嶋さんが子どもたちに伝え続ける、もう一つの命の授業があった。

防災ポスター作成は、ぼくたちの使命!「震災・命の授業」

「今ある命が当たり前、快適な生活が当たり前だと思っていない?それは違うのよ。」
年に一度、中嶋さんは子どもたちに阪神・淡路大震災を伝える「震災・命の授業」を開く。新聞記事で壁一面が埋めつくされた教室で、当時の映像を流し、あの日亡くなったアトリエの生徒とその家族の話を伝える。あの日、あの場所に、もしも僕が、私がいたならば……。子どもたちは、一生懸命に想像をめぐらせながら絵を描いてゆく。

子ども達が真剣に見つめる中、震災当時を語っていく

震災を知らない子どもたちに震災を伝えるのは、神戸に生きる大人の使命だという中嶋さん。きっかけは、震災から10年目に内閣府の防災ポスターを目にしたことだった。案内の表紙が地震の絵だったのだ。
「私たちにはこれがある!」
絵を描くことで、震災を伝えられると気づいたのだ。そこから中嶋さんの、絵を使った防災活動が始まった。
ポスター一枚を仕上げるのに、太陽の子では2ヶ月を費やす。中にはポスターを描くために、防災袋の中身を全部黒板に描く子も。子どもたちはまず、防災についての勉強をしてから絵に取組むため、ポスターを描くことそのものが防災教育になるのだ。

震災から15年目。憧れの兵庫県立美術館にてアトリエ太陽の子防災展を開催。臼井真先生の指揮で会場にてアトリエの子ども達による大合唱「しあわせ運べるように」

さらに「震災・命の授業」には、もう一つの役割があった。
「パパとママは、震災の救助現場で出会って結婚したの。」「結婚式の翌日が震災で、お母さんはハイヒールで逃げたって。」
震災で辛い想いをしたお父さんやお母さん。子どもたちに伝えたい、でもいつ、どう伝えていいのかわからない。そんな家庭に「震災・いのちの授業」は、親子で話し合うきっかけを与える。
揺れた瞬間、一番に自分のもとへ駆け付けた父の話を聞き、父の愛を再認識できた高校生の男の子。
仕事一途の母に、自分は愛されていないと思いこんでいた小学生の女の子は「バカねって言われた。もし地震が来たら一番にあなたを連れて逃げるに決まってるでしょ。って言われたよ。私、お母さんに愛されてた。」と中嶋さんに報告して来た。中嶋さんは「震災・命の授業」は、親子の愛をも再確認できるんだと実感を深めたという。
さらに東北で、熊本で、絵の力の大きさを改めて目の当たりにすることになる。

人間の底力を描き出す「命の一本桜プロジェクト」

東日本大震災以降5年間で、東北被災地のべ60校・約4000人以上の子ども達の心のケアの為の絵画ワークショップを続けている(写真:平成24年10月18日気仙沼市立階上小学校)

平成23年3月11日、東日本大震災が発生。いても立ってもいられなかった中嶋さんは、1ヶ月後、兵庫の子どもたちが描いた桜の絵を携え被災地へ出向いた。心のケアのため、東北の子どもたちにも絵を描かせてあげたかったのだ。
言葉に言霊(ことだま)があるように、絵には絵霊(えだま)があるという。横8メートル、縦3.2メートルの大きな模造紙を前に、子どもたちは中嶋さんの声に合わせ、自分の胸に手を当てる。聞こえてくる心臓の音は、世界にひとつ。
「世界にたったひとつの命!こぼさないように、白い紙に押し込むよ!」
「みんな、心をひとつに!」
中嶋さんの大きなかけ声に、子どもたちは模造紙に向かって走り込む。
「津波に負けるもんか!」「僕たちが、この街を復興させるぞ!」
ピンクの絵の具で手の平を染めた子どもたちが、悔しさ悲しさを声に出しながら、小さな手を紙に当て想いを押し込んでゆく。
「子ども達は津波に抗えない悔しさ、原発に対しての悔しさを朗々と語る事が出来ません。だからこそ吐き出す為にも語らなければなりません。絵を描くという事は、子ども達が全身を使って『語る』という事です。」

熊本県の御船中学校・滝尾小学校の生徒たちが描いた命の一本桜(平成28年6月22日)

でも本当にすごいのは、人。人間力を子どもたちに伝えたいと話す中嶋さん。
熊本では470人もの児童・生徒たちが体育館に集まり、白い模造紙に満開の桜を咲かせた。
「みんなが心を合わせて初めてできあがるんです。一本の桜の木を描きながら、みんながどんどんひとつになってゆく、その瞬間が素晴らしい!」
5年以上経った今でも東北被災地の校長先生方、避難所でお会いした方々や子ども達と繋がっており、温かい人と人との繋がりが、どんどん増えているそうだ。

人間の底力を描き出す「命の一本桜プロジェクト」

中嶋さんの活動は、いつも一過性で終わることなく、繋がっていく。
「熊本の子ども達に、震災と復興を経験した神戸の街を見て希望を持ってもらいたい」という思いから、熊本県滝尾小学校の子ども達5名と校長先生を神戸にご招待。選んだ日は、あの阪神淡路大震災が起こった1月17日だった。

熊本と神戸の子ども達で共に『命の一本桜』を制作した(平成29年1月17日阪神淡路大震災追悼行事「1.17のつどい」)

復興への思いを胸に、神戸と熊本の子ども達は一緒になって手形で満開の桜を咲かせていく。同じ空間に思いを寄せ合うことで、子ども達の間には友情が芽生えていった。
中嶋さんは、これからも活動を続けて行く中で夢がある。「東北の子ども達と熊本の子ども達とを繋いで行きたい。そしてここ神戸で、絵画を通じた子ども達の交流、そして交流の証としてのモニュメント作りや展覧会。思いは尽きません。」と熱く語った。

あの日、わずか一歩の違いで今の命がある。中嶋さんは、生かされている自分を日々思う。
「阪神淡路大震災以降に産まれた、今の子ども達。あの震災で亡くなってしまった愛しい生徒達の事をこれからも語り継ぎたい。アトリエでは小学生や中学生達と一緒に、幼稚園の子ども達にも語ります。大人が真剣になって語れば、子どもも真剣に耳を傾け、伝わります。」

「生きているってあたりまえじゃない。ありがたいこと。今あるあたりまえには、感謝の気持ちを忘れないでほしい。」
そう話す中嶋さんは、生きたかったのに生きられなかった人の悔しさや想いを、子どもたちに伝えてゆきたいと言う。
「一生懸命生きることが人生。一日、一日の積み重ねで、今のあなたができている。今日は帰ってこない。悔いのないように、今ここを真面目に生きてほしい。そして、震災・命の授業を通して、命の尊さや、人を思いやる心、優しい心を育んで欲しい。」

「いつも私は、子どもたちに『みんなは宝物よ』と伝えるんです。未来の神戸を担っていくのは、あなたたち!日本を担っていくのは、あなたたちですよ!それぐらいの気持ちで生きてほしい。」
子どもたちを太陽のように明るく強く育てたい――。アトリエ太陽の子の名前に込めた想いと共に中嶋さんは、これからも芸術の可能性を信じ、未来を担っていく子ども達に「命の尊さ」を伝え続ける。

(公開日:H29.01.25)

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