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観光農園で地区を守れ!
集落存続危機に直面した淡路市生田大坪で
地域ぐるみの営農に取り組む岡田昭男さんの挑戦

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2020/10/09
岡田昭男さん
(72)
兵庫県淡路市
大坪だんだんファーム(株式会社大坪営農)

個人紹介

岡田昭男(おかだあきお) 72才。昭和 22 年、津名郡(現淡路市)生まれ。平成 20 年に郵便事業株式会社(旧郵政省)を定年退職し、生まれ故郷である淡路市生田大坪 へUターン。両親の介護と実家の農地で農作業をスタートした矢先、集落存続危機 の相談を受けたことで一念発起。「年金を受け取りながら、畑仕事と共にゆっくり余 生を送ろう」と思い描いていた故郷での暮らしが一転、定年退職を迎えた仲間と共に 集落営農の経営者として多忙な日々を送ることになった。どんな苦境も「血液型がO 型で良かった」と、冗談を口にしながら笑って乗り切る楽天的な明るさで、初めての 「農業」と「経営」にチャレンジを続けている。

 

カーブが続く山間の道を抜けると、空に向かって広がる緑たっぷりの段々畑を背景に、大坪だんだ んファームの姿が現れます。ほ場整備 (*)と集落営農 (*)で農地を守るため、集落のみんなで 農業経営に取り組み始めた地域づくり事業は、集落内の農地ほぼすべてを営農組織に集積すること に成功。4年後には株式会社化し、ほ場整備工事に着手します。令和2年2月には、観光農園をオー プンさせますが、新型コロナウイルスの影響で1カ月間の休業に追い込まれました。そんな予期せ ぬ事態も、慣れない農業経営に取り組む不安との葛藤も、「攻めの農業」で乗り越えると語る岡田昭 男さん。経営に取り組むモットーとは? 思い描く未来の集落の姿とは? 岡田昭男さんにお話しいただきました。

 

ほぼすべての農家が農地を託して始まった、生田大坪地区の挑戦

 

自分たちの集落が無くなってしまう!? 岡田さんが定年退職を迎えた3人の仲間と共に、集落の長老から相談を持ちかけられたのは平成23年のことでした。

「当時、集落の田んぼは農業に携わる人たちの高齢化によって、半分近くが耕作放棄地になっていました。このままでは、イノシシなどの野生動物が田んぼを荒らして農地が山林化し、集落に住めなくなってしまうと言われたんです。」
中山間地域の急傾斜地に拡がる生田大坪地区は、小さな棚田や段々畑、整備の遅れた道路・水路により、非効率な農業を行わざるを得ない地域でした。耕作放棄地を減らし農地を守るためには、大型農機具が入れる農地や道路に整備し、農作業の省力化を叶える必要があると考えた岡田さん。
ほ場整備事業を支援する国の補助金活用と農地を託した農家からの出資により、大規模な土地改良事業によるほ場整備に取り組むと同時に、集落で営農組織を結成し、みんなの力で農地を管理することを決心。
岡田さんをはじめ役員となった4人がこだわったのは、地域の農地を一軒残らず営農組織で管理することでした。

「全戸の農地を預かり、集落単位で取り組まなければ、子世代が都会に出ている農家では世代交代をすると、また耕作放棄によって農地が荒れます。
農業経営は厳しいけれど、やれるだけやってみよう。そうしなければ、農地も集落も守れないと思ったのです。
中には『放っておいてくれ』と反対する人もあり、全戸を説得するのは大変でしたが、最後は地域の農地ほぼすべてを営農組合に集積することができました。戸数が33軒と少なかったこと、農業従事者たちが高齢だったこと、作付面積が少なくほ場整備に協力的な兼業農家が多かったことが、成功の背景にありました。そして何よりも、すべての農地を託してもらおうと私たち役員が決心し、迷うことなく説得できたことがよかったと思います。」と岡田さんは振り返ります。

こうして平成24年9月、大坪営農組合が誕生。
平成29年6月には、ほ場整備工事の開始と共に株式会社大坪営農を設立。
そして令和2年2月、観光農園と農産物の直売所「大坪だんだんファーム」をオープンしました。 運営の中で岡田さんが大切にしているのは、農地を生かすこと、そのために様々な施策を迅速な決定と行動で進めること。
それらを岡田さんは「攻めの農業」と表現します。

 

淡路市生田大坪地区

淡路市生田大坪地区

 

令和2年2月にオープンした「大坪だんだんファーム」

令和2年2月にオープンした「大坪だんだんファーム」

 

ともに事業に取り組む社員と岡田さん

ともに事業に取り組む社員と岡田さん

 

地域みんなで取り組む「攻めの農業」で、販路拡大!

 

農地を維持するだけではなく、様々な農作物をつくって農地を生かし、販路を拡大して収益を上げること。
そこで生まれた利益を、施設や賃金として集落の人々に還元していこう。
そんな方針のもと、淡路島の暖かい気候を生かし、水稲栽培の裏作として
玉ねぎやブロッコリー、白菜、キャベツ、レタスといった様々な野菜を栽培。中でも玉ねぎは5ヘクタールの増産を目標に、専用の乾燥・冷蔵庫を設置。他の野菜と共に大坪だんだんファームの農産物直売コーナーで販売すると同時に、玉ねぎのブランド化に力を注ぐ地元の農業協同組合を通じた出荷や、近隣施設での販売にも積極的に取り組んでいます。

そして、もう一つの事業の柱が果樹の観光農園です。
「いちごをはじめ、びわ、ブルーベリー、ぶどう、いちじく、ミカンなど、様々な果物を育てることで一年中楽しめる農園をめざしています。週末や祝日には、新鮮な果樹を使ったフルーツサンドやジュース、人気のスイーツを楽しめるイートインスペースをオープン。6次産業化(*)にも力を注ぎ、収穫した果樹をジャムやドライフルーツに加工し販売も行っています。」

一方、農地管理を会社にゆだねたことで減収となった兼業農家の人たちや、定年後に農業に取り組みたい人たちの雇用も、地域ぐるみで取り組む事業の大切な要素と話す岡田さん。
現在の社員は、男性が7人、週末だけのパート勤務も含めた女性が15人。
40代から70代半ばまで、全員が大坪地区の人たちです。
慣れない仕事の中でも、調理やお客様の対応を引き受けるイートインスペース担当の女性スタッフたちは、特に頑張ってきたと岡田さんは言います。

「家族のためにしか作る機会のなかった料理を、イートインで提供するという初めての挑戦に試行錯誤で取り組みました。
料理の専門家の指導のもと、悩みながら何度も試作を繰り返していました。よくやり遂げてくれたと思います。」
現在の目標は、まず自分たちが現場で実践しながら、農業技術を身に付けていくこと。その中でも大切なのは、分業ではなく全員が一緒に作業をすることだとか。

「水稲の担当が水稲にだけ取り組んだり、イートインの担当だから農作業はしないということではなく、農作業も箱詰めも出荷準備も全員で共同作業をするんです。そうすることで、大変なことも、達成した時の喜びも、技術が上がった嬉しさも、みんなで共有することができ、気持ちが一つになっていきます。集落全体で農業に取り組むことの良さは、そんなところにもあると思うんです。」

どんな時も、攻める気持ちを大切にしながら取り組み続ける岡田さんですが、慣れない農業経営に思い悩む日々も過ごしてきたと言います。

 

*6次産業化:第1次産業者である農林水産業者が、自らの手で加工・流通・販売まで取り組み、生産物に新たな付加価値を生み出すことで利益を向上させること

 

収穫された玉ねぎ

収穫された玉ねぎ

 

鮮やかな紅色に染まったいちご

鮮やかな紅色に染まったいちご

 

調理やお客様の対応を行うイートインスペース担当の女性スタッフ

調理やお客様の対応を行うイートインスペース担当の女性スタッフ

 

不安も困難も、誠意と熱意で乗り越え続けて

 

平成30年から、整備が進み始めた農地で栽培が始まりました。
しかし、農作物がうまく育たず、予定していた収穫量に届かなかった当初は「農業経営なんて無理ではないのか」と、投げ出したくなることもあったと振り返る岡田さん。

「みんなが不安になり、何を話し合っても『そんなことをしても育たないのではないか』『こんなことをしてもお客様は来ないのではないか』と、後ろ向きな声ばかりあがるんです。作付け面積を減らそうという意見まで出たこともありました。でも、それを言ってはおしまいです。
理詰めで考えることを避け、私自身がマイナス思考に陥らないよう、『くよくよしないO型でよかった』と冗談を言って、笑い飛ばすようにしていました。」

中でも、新型コロナウイルスの影響は深刻でした。
順調にスタートしたいちご狩りが4月を境に客足が途絶え、観光農園が1カ月間も休業状態に陥ってしまったのです。

「仕方なく、余ったいちごを冷凍庫に保存することにしました。
もともとジャムに加工するために冷凍保存はしていたんですが、予想に反して冷凍したいちごがよく売れたんです。そんな中、世間で話題になっているかき氷にしてはどうかとパートの女性たちが研究し、冷凍いちごを使ったかき氷を販売してみました。
するとSNSでの発信や口コミで知った人たちがかき氷を求めて来館し、一日で150人ものお客様に足を運んでいただいた週末もありました。新型コロナウイルスの影響がなければ、冷凍イチゴの需要に気づくことはありませんでした。」

さらに、近隣にできたパンケーキ店からは「いちごが足りないのですべて買い取らせてほしい」との申し出もあり、通常より多くの収穫にもつながったと言います。
一方、米や野菜も新たな販売先とのつながりが生まれていきました。
神戸市内の農産物直売所から「いちごを販売させてほしい」と声がかかったのがきっかけでした。

「いちごだけでなく、米や野菜、ジャムもすべて売り切れる盛況ぶりです。最近は近隣からも販売させてほしいと声がかかるようになっています。
『何とかするんだ』という強い意志をもって行動すれば、想いが伝わるということだと実感しました。」と岡田さん。

「仕事とは、熱意を持つこと、誠実であること、バランス感覚を大事にすることです。特に何かを成し遂げるためには、最後に求められるのは誠実さだと思っています。大坪だんだんファームの経営もやり切るためには、いろいろな方面に無理なお願いをしたり、時には厳しい議論を交わさねばならないこともあります。そんな時でも、わかっていただこうという熱意と誠実な姿勢があれば、相手も理解してくれるものです。そのためには、目先に見えているものだけを“点”で捉えず、高い視座から広く“面”で見ること。一つの方向に偏った見方をせず、様々な条件を視野に入れるバランスの良さが大切だと思っています。」

こうした様々な不安や困難と向き合う日々の中で、岡田さんがいちばん嬉しいと感じること。それは、お客様との触れ合いだと言います。

 

冷凍いちごと冷凍いちごを使ったかき氷

冷凍いちごと冷凍いちごを使ったかき氷

 

イートインスペースでは、女性スタッフが作るスイーツなどが楽しめる

イートインスペースでは、女性スタッフが作るスイーツなどが楽しめる

 

淡路市の集落活性化を支援する「地域再生協働員」が栽培管理とイベント運営、情報発信などを担当

淡路市の集落活性化を支援する「地域再生協働員」が栽培管理とイベント運営、情報発信などを担当※地域再生協働員:高齢化と人口減少が進む集落への人的支援を目的とした制度で、県版「地域おこし協力隊」とも呼ばれる

 

お客様との触れ合いが、地元愛を育て集落を守る

 

「いちごの粒が大きくておいしかった、また来るね」
直売所に立つ岡田さんに、声をかけていくお客様たち。
そうした触れ合いこそ、集落を元気づけると感じている岡田さんは、これから農業体験に力を入れていきたいと語ります。

「農業のいいところは、人と人との触れ合いが生まれること。遊びに来るだけでなく野菜の苗を植えたり収穫したり、お客様と集落の人が農作業を一緒に行うことで、声を掛け合い言葉を交わす機会が自然と生まれます。そうしたお客様との触れ合いが、地域の元気につながると思うんです。」

そう話す岡田さんが描いている夢。
それは、高齢者が元気な集落になること。
年をとっても、誰もが集落の中で自分の役割を持つことを目指しています。

「農業体験や観光農園に来てくれるお客様に、高齢者のみなさんが『こんにちは』と挨拶が自然にできるようになっ たり、『ここを行くのが近道だよ』と道を案内したり、『あそこに行ったらきれいな花が咲いているよ』と教えてあ げたり、気楽に声を掛けられるようになってほしい。自分の住んでいる地域に関心が生まれ育ってこそ、集落を守 ることができます。
今まで集落以外の人がほとんど来なかったこの地域の中で、地域外の人と触れ合うことをきっ かけに、集落が変わっていくことを期待しています。」

大坪だんだんファームの名前には、まわりの人々と共に“ だんだん” 成長していく農場や地域になりたいという集 落みんなの想いが込められています。豊富な農作物、おいしい加工品、温かいおもてなしがあふれる集落を目指し、 岡田さんたちの新たな挑戦はまだ始まったばかりです。

 

いちご狩りを楽しむ子ども達

いちご狩りを楽しむ子ども達

 

冷凍いちごを使ったかき氷に笑顔になる来場者

冷凍いちごを使ったかき氷に笑顔になる来場者

 

 

POWER WORD

有言実行

「集落の農地は一軒残らず、すべて営農で預かろう。」 ほ場整備と集落営農で、大坪地区の農地と集落を守 ることを決めた岡田さんたち役員は、最初に全員が そう決意し一軒一軒を説得して回りました。
「農地整備だけでなく、地すべりの防止やため池の改修、道路整備なども含めた大掛かりな事業ですから、 途中で投げ出すわけにはいきません。やるべきこと を明確にして全員で分かち合い、熱意を持って誠実 に実行していきました。」
自分たちの集落を絶対に守る。その確固たる決意と実践により、ほぼすべての農家賛同による農地 の集積が実現したのです。

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