都賀川を守ろう会

すごいすと
2016/05/25
岡本博文さん
(86)
兵庫県神戸市
都賀川を守ろう会

六甲川と杣谷川との合流点である灘区篠原中町より始まる都賀川。神戸市灘区を南北に流れる、全長1,790メートルの二級河川だ。神戸市の「豊かな自然と笑顔あふれる住み続けたいまち」をめざす取組のひとつとして、近年は親水整備が進み、遊歩道も整備されている。
岡本博文さんは“子どもたちが水遊びのできる美しい川を次世代に引き継ぐ”をスローガンに、どぶ川だった都賀川を澄んだ水が流れる状態まで再生させるきっかけとなった「都賀川を守ろう会」の三代目の会長として活動をけん引してきた。
生まれは大阪。将来は医師になりたいと思っていたが、太平洋戦争では兵役についた。戦後、食べるものも、勉強する時間もなく、夢は閉ざされた。結婚を機に神戸に移住し、鋳物を製造する工場を始めた。経営の失敗も経験したが、何とか盛り返すことができたのは「負けるものか!」という強い信念を持って生きてきたから、という。

都賀川を守ろう会 会長 岡本博文さん (兵庫県神戸市灘区)

車椅子でも通行できるよう整備された都賀川。鮎が自然に近い環境で泳いでいる。

子どもたちにきれいな川を

きっかけは、昭和50年に掲載された神戸新聞の記事。当時の都賀川は、不法に放置されたごみやヘドロが川底に溜まり、悪臭がひどかった。“鮎の大群が都賀川の河口に現れたが、川のあまりの汚さに遡上しなかった”という内容だった。記事が関心を呼び、区民会議の席上で「都賀川を住民自身の手で汚染から守り、区民の憩いの場にしよう」と岡本さんをはじめ、声をあげた有志が集まり、昭和51年9月19日「都賀川を守ろう会」が結成された。

昭和52年6月、整備前の都賀川を清掃する様子。

当時、岡本さんは小学校のPTA会長を務めるなど地域活動をしていた縁で、30代で町会の役員として区民会議に参加していた。男の子二人を育てる親として、“川に魚を呼び戻し、子どもたちの遊べる川となるように…”という会の趣旨に強く共感し、メンバーとして参加することとなった。

危険な場所から市民の憩いの場へ

発足時、都賀川は悪臭の漂う危険な場所だった。高度経済成長期に下水道の汚水が流れ込んだり、ごみが不法投棄されたりしたため、水質が悪化していた。岡本さんたちは、昭和55年、河川管理者である兵庫県神戸土木事務所に対し、魚道の設置を数度にわたり要望。2年後には工事が始まり、11年後の平成5年には全域に整備された。
陳情と並行して、年5回の河川清掃、ごみの不法投棄、生活用水のたれ流し防止といった啓発活動、水遊び場を川床に設置するなど、住民たちが主体となって地道に取り組んできた。現在は、川には遊歩道も整備され、散歩やイベントの会場として活用されるなど、市民の憩いの場となっている。

灘・夢ナリエの開催地となった都賀川公園。行灯あかりや酒瓶あかりを灯し、
震災の経験や教訓を継承していく。

毎年5月に行われる鮎の放流。

毎年5月には近隣の幼稚園や小学校の協力を得て、鮎の稚魚放流イベントを会のメンバー100名で開催。平成元年より続くこの活動は地元の一大行事で新聞やテレビで何度も取材を受けている。行事を取り仕切るだけでなく、日ごろから川の美化活動に取り組む岡本さんは「朝起きると遊歩道に向かい、ごみが落ちていないか、異常がないか、見回りを行う。子どもたちが大きな声でおはようと挨拶してくれる。元気な子どもたちの姿を見ることが私の原動力」と、日々の苦労をものともせず、笑顔で語る。

震災でライフラインとなった都賀川

阪神・淡路大震災の際に、都賀川はライフラインとして住民を支えた。地震による断水で水道は何日も使用できなかった。「すでに水質はアユの生息可能な数値であったため洗濯のみならず、生活用水としても使用できた。お米を炊いたり、歯を磨いたり。震災の折は川を介して、皆が助け合いました」と語る岡本さん自身も、災害時には川に助けられた。

震災時の都賀川

事故を防ぐための安全啓発活動

平成20年7月28日。ゲリラ豪雨により都賀川の水位が10分間で約1.3メートルも上昇した。川の急増水により、5人の尊い命が犠牲となった。「事故以前も川の怖さ、川との上手な付き合い方を伝えていたが、以後は、川の楽しさのみならず、川で遊ぶ際の注意を伝える活動や警報時の見回り活動により一層力を入れています」と語る。平成21年には「都賀川安全ハンドブック」を作成。事故の教訓を忘れないよう、関係各機関と協力・連携し、安全啓発活動に努めている。

次世代に残そう美しい都賀川を

平成14年から24年までの10年間は副会長、平成24年から現在までは会長として関わる守ろう会のみならず、平成7年から現在まで大石北町自治会会長として20年以上、さらに「あすの兵庫を創る生活運動協議会」の理事など数々の地域活動に携わる岡本さん。ひと声かければ、住民、行政、さらに地元企業が会を支えてくれるまでに。「こんな素晴らしい活動が何十年も継続できるのは、自然のため、地域のためと皆が心ひとつにして動いてくれるから。自分ひとりでは決して、成し遂げることはできなかった」というが、メンバーの新井さんは「ボランティア精神の原点だと思える人。その人柄を慕って、会員2000人がついてくるのだと思います」と敬意を表する。事実、“ボランティアは自分の喜びのためにやるもの”という持論で、毎年、近所の幼稚園にサンタクロースとして訪問し、配るプレゼントはすべて自己負担。

“自分ができることなら”と、頼まれた地域の課題をひとつひとつ解決していくうちに、地域住民にとってなくてはならない存在となった岡本さん。今は、来年40周年を迎える「都賀川を守ろう会」を、今後も住民主体の活動として次世代へバトンをつなげ、子どもたちの笑い声が絶えず聞こえる美しい都賀川を引き継いでいくため、先陣を切って走り続ける。

(公開日:H28.5.25)

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