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スペイン語圏出身者支援団体「ひょうごラテンコミュニティ」

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2018/11/25
大城ロクサナさん
兵庫県神戸市長田区
スペイン語圏出身者支援団体「ひょうごラテンコミュニティ」

南米出身の人々の来日から、まもなく30年(*)。子どもの教育、労働に始まり、近年では年金や健康、介護といった新たな課題も生まれている中、大きな課題はやはり言葉の壁だ。子どもたちの進路にも立ちふさがり、ペルー人を含む兵庫県内の在留外国人の児童生徒約3人に1人は学習に必要な言語能力が不足していると言われている(**)。そんな状況にあるスペイン語圏出身者を支えているのが、日系3世ペルー人の大城ロクサナさんだ。1991年に夫と来日。阪神・淡路大震災で経験した避難生活、その後の子どもの小学校入学をきっかけに、ボランティア活動をスタート。日本の生活情報をスペイン語で掲載した無料情報誌の発行や、スペイン語放送によるFMラジオ番組でのパーソナリティ活動、さらに日本在住のスペイン語圏の子どもたちがスペイン語を学ぶための母語教室などを通じ、夢を持って来日する多くのラテンアメリカ系の人たちに、生活相談のサポートはもとより日本語を学び、教育を受ける大切さを伝え続けている。平成30年1月には、念願だったスペイン語による防災ガイドブックを作成。神戸だけでなく日本各地に存在するスペイン語圏コミュニティの人々が、日本国内での災害対策に自主的に取り組むきっかけとして、大きな役割を果たしている。

*平成2年の入管法改正で日系3世までの人々が日本で就労可能となり、中南米諸国からの日系人の来日が急増した
**参考資料:兵庫県独自調査資料(平成29年5月兵庫県教育委員会人権教育課)

「日本で生きる!」 被災体験が生んだ決意

「ペルーで弁護士になりたかったんです。」
しかし、母国は政情も経済も不安定。結局、大学進学をあきらめ、幼い頃から憧れていた祖父の国・日本へ。4年後、阪神・淡路大震災に遭遇。地元の中学校で1カ月半の避難生活を体験した。
「日本語がほとんど理解できなかった私たちは、状況も避難所のシステムもわからないまま。どうすればいいのか、どこへ逃げればいいのか、とにかく怖くて泣くしかありませんでした。」と、大城ロクサナさんは当時を振り返る。案内された避難所にいても「こんな緊急事態の中で、日本人じゃない私たちがここにいる権利があるのだろうか。」という不安が消えなかったという。
「外国人の私たちはダメだと言われそうで、お弁当も受け取りに行けなかった。掃除当番があることもわからず手伝えなかった。気付かないうちに迷惑をかけていたんだと、後でわかりました。」
そんな日々を過ごすうち、ロクサナさんは人々の力強い姿に気づく。
「地震に負けていないみんなを見て、私も乗り越えようと思えたんです。日本に残って子育てをするためにも、日本語を学ぶしかない。私も頑張らなくちゃって。」
こうして、本気で日本語と向き合い日本で生きる決意をしたロクサナさんに、大きな転機が訪れる。きっかけは長男の小学校入学だった。

相談者からボランティアスタッフへの転身

「子どもが一年生になったとき、学校の手続きや宿題などの相談のため、地元の外国人支援団体ワールドキッズコミュニティに相談者として通い始めました。」
その日も相談に来ていたロクサナさんに、「担当者が席を外し、スペイン語での電話相談に対応できる人がいないので手伝ってほしい。」と、同じフロアで机を並べる他団体のスタッフから声がかかった。
「あるお母さんからの相談でした。内容を聴き、席に戻った担当者から指示された通りに、そのお母さんにアドバイスを伝えてあげたんです。」
その時ロクサナさんは、「ボランティアとして、私にもできることがあるんだ。」と気づいたという。
その後「ワールドキッズコミュニティは、いつでもスペイン語で対応してもらえる。」という噂が広まり、スペイン語での相談がどんどん増加。そしてついにロクサナさんは団体からの依頼に応え、ボランティアスタッフとして通うことになった。
「子どもが保育所に通っていた頃のことなど、私自身が乗り越えてきた経験に関わる相談を中心に、対応できるようになっていきました。」
その後、ワールドキッズコミュニティの担当者から、ボランティア団体の立ち上げを提案されたのをきっかけに、平成12年スペイン語圏出身者を支援するための「ひょうごラテンコミュニティ」を設立。平成23年にはワールドキッズコミュニティから独立し、18年に渡って様々な取り組みを続けている。

安心と安全、アイデンティティを守るために

まずひとつは、スペイン語情報誌「Latin-a(ラティーナ)」の発行だ。日本での生活に欠かせない情報の掲載を中心に、これまで通算113号を発行(平成30年10月現在)。27都道府県に向けて、毎月1万2千部を無料で配布。様々な分野の専門家が無償で記事を提供し、多くのボランティアスタッフが発行を支え続けている。

撮影や編集・発送作業は多くのボランティアスタッフで支えられている

スペイン語情報誌「Latin-a(ラティーナ)」通算113号を発行(平成30年10月現在)

ふたつ目は、ボランティア活動に取り組み始めた当初から、ずっと継続しているスペイン語ラジオ番組の生放送。神戸市長田区のコミュニティラジオ「FMわいわい」の協力のもと、週に一度パーソナリティとして、生活情報を中心に専門家による健康相談や法律相談を配信している。

毎週水曜日夜の7時~8時にFMわいわい(77.8MHz)で生放送をしている番組「SALSA LATINA」

さらに、毎年7月には「フィエスタ・ペルアナ」、12月には「ラテンクリスマス神戸」といった、日本とラテンアメリカの文化交流のためのイベントを開催。音楽や踊り、料理などを通じて互いの社会や文化を知り、学び、体験する機会を提供し、毎年1,000人近くの参加者が集まる人気イベントに育てあげている。

毎年大人気の交流イベント「ラテンクリスマス神戸」

一方、情報誌の発行やラジオ放送と同じく、平成12年から継続して取り組んでいるのがスペイン語圏出身の児童・生徒のための母語教室だ。日本語が理解できない親とスペイン語を学ぶ機会のない子どもが、親子の間で上手にコミュニケーションが取れないことへの悩みを解決したいと開講。これまでに様々な国籍を持つ子どもたち150人以上が参加し、現在もおよそ40人の子どもたちがスペイン語を学んでいる。
「日本に生まれ日本に育っても、自分のルーツやアイデンティティを守り大切にしてほしい。そのためにも、母語を身につけることが必要です。」とロクサナさんは語る。
そしてもうひとつ、ロクサナさんをボランティア活動に向かわせた原点ともいうべき支援が、防災への啓発活動だ。

スペイン語圏出身の児童・生徒のための母国語教室

ガイドブックで防災意識を育てたい!

「阪神・淡路大震災は、精神的に本当に辛い経験でした。ほんの少しでも前もって情報があったら違っていたと思います。現在のコミュニティの人たちは被災体験がない方も多く、防災訓練をしても集まりません。そこで、消防署の協力を仰ぎ、文化交流イベントの中で防災も学べるように工夫してみたら、400人近い方たちが喜んで参加してくださいました。」
こうした防災に関わる活動が、ひょうごラテンコミュニティから全国へ向けて広がり始めている。平成30年1月、JR西日本あんしん社会財団(大阪市)の助成を受け、スペイン語の防災ハンドブック「スペイン語版防災ガイド」を1万冊作成。情報誌の配布に合わせ、27都道府県への郵送をはじめ、愛知県や京都府、大阪市のスペイン語圏コミュニティでも説明会を開き、それぞれの会場で無料配布。さらにペルー総領事館の招へいで、浜松市や名古屋市での講演にもつながった。
「日本在住のラテン系コミュニティの人たちには、災害が自分の身にも降りかかることへの意識が全くありませんでした。でもこのガイドブックを発行してから、防災への意識と私たちのコミュニティに寄せられる関心の高さが変わってきたのを感じます。自分の国の政府に招かれ、私たちのコミュニティの状況を伝える機会をいただいたのは初めてです。」
こうしたロクサナさんの想いは、さらに日本人たちの意識をも変え始めている。

スペイン語の防災ハンドブック「スペイン語版防災ガイド」(JR西日本あんしん社会財団(大阪市)助成金)

消防局の皆さんと防災について楽しく学ぶ

支え合える社会こそ多文化共生の原点

「大学生をはじめ、若い人たちが興味を持ってくれるようになった」と喜ぶロクサナさん。
「最近では、大学で講演する機会も増えました。中には『ひょうごラテンコミュニティの活動に感動した。もっと知りたい、もっと学びたい』といって、イベントの応援に来てくれる学生もいます。『外国人の子どもたちが何に困っているのかを知って、支援してあげてね。そうすれば、その子たちも社会の力になれるから』と話をすると、とても興味を示してくれるのがうれしいです。社会、国、世界の行く先を考える時、やっぱり子どもの将来を大切にしなくては。そのためにも、まずは日本で暮らす、外国の子どもたちがきちんと日本の教育を受けることが必要だ。」と、ロクサナさんは語る。
「せっかく日本で育った子どもたちなので、日本の社会にプラスになるよう育ってほしい。教育を受けることで、ふたつの言語、ふたつの文化を持ち日本と自分の国の架け橋になれます。私はひょうごラテンコミュニティに関わったおかげで、子どもが教育を受けるための基盤を持てました。でも日本語ができないお母さんたちの中には、日本の教育システムを理解できず、我が子の学力が高校進学を目指すには不十分なことに気づかない人もいます。だからこそラテンコミュニティを中心に、みんなが協力し合えたらいい。私がこうして活動できるのも、日本の人たちの支えがあるから。そういう社会をつくるために、私たちは日本に住んでいます。それこそが多文化共生だと思うんです。」
悩みを抱えた相談者から、支える側になったロクサナさん。この活動でいちばん変わったのは、立場ではなく自分自身の内面だと話す。

最近では講演活動も増えているロクサナさん

人のため、自分のため

「自分のことだけで精いっぱいだった私が、周りの人たちの辛さを感じられるようになり、自分にできる範囲で何かしようという意識が出てきたのは、この活動のおかげ。」と話すロクサナさん。
「活動に取り組むうち、人の悩みに対してのアドバイスは、将来の自分へのアドバイスなんだとわかるようになったんです。」と語る。
「子育て、教育から、ワクチン接種、検診といった健康、さらに労働のことまで、いろいろな相談へのアドバイスを専門家に求めるうち、母親として悩んでいた私自身にもプラスになるとわかりました。人のために動くことが、自分のためになる。そして、自分のために調べることも、みんなに伝わることなんだ、人のためになることなんだとわかったんです。」
日本の社会にプラスになれる子どもたちは、いずれ自分たちのコミュニティにもプラスになれる。人のためが自分のためになり、自分のためが人のためになる。そんな夢をかなえるため「とにかく、この活動を続けたい。」と話すロクサナさん。大変なこと、苦しいこともたくさんある。しかしその一方で、人の助けになれた時、その体験は、苦しさや辛さの何倍も大きな喜びや幸せになって返ってくることを、ロクサナさんは誰よりも知っている。

(公開日:H30.11.25)

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