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昔ごはんとおやつの時間 楽や 店主

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2014/08/25
高橋陽子さん
(41)
兵庫県神河町
昔ごはんとおやつの時間 楽や 店主
兵庫県のほぼ中央にあるハート型のまち、神河町は、平成17年11月に神崎町と大河内町が合併して生まれた。

面積の約8割が山林で、映画『ノルウェイの森』や、ドラマ『平清盛』『軍師官兵衛』の撮影場所になった砥峰高原は、秋になると一面に金色のススキが広がり、多くの観光客を楽しませている。1,000メートル級の山々に囲まれた自然豊かなこのまちに、近年、移り住む人が増えている。

幼児教室に勤務していた高橋陽子さんは、食物アレルギーのためにケーキを食べられないという子どもとの出会いがきっかけとなり、食の道に進むことになった。製菓専門学校を卒業後、姫路市に小さな洋菓子店をオープン。それから10年経った昨年4月、神河町に移住し、地元の食材を使った食事とおやつを提供する店「楽や」を始めた。

地元の木材を使い、地域の人たちと一緒に空き家を改修して開いた店は、木の香りと人の優しさが漂うくつろぎの場として、地域の交流の場にもなっている。

昔ごはんとおやつの時間楽や店主 高橋 陽子さん

地の食材を使ったお菓子づくり

姫路でアレルギーフリーにこだわったお菓子づくりをしていた高橋さん。開業から4年目の平成19年、姫路市在住の版画家 岩田健三郎さんと出会ったことが大きな転機となった。

岩田さんは「地の者が 地のモノを 地の人に届ける」というコンセプトのもと、播州の食に携わる人たちと地産地消の活動に取り組む「食・地の座」の座長でもある。これまでも食材選びに気を配ってきた高橋さんだったが、アレルギーという視点だけではなく、食材の「生い立ち」が分かることが、本当に安心して美味しく食べてもらうための大切な要素であることを再認識した。

「その地で育てられた新鮮で確かなモノを手渡しで受け取り、手をかけて調理してお客様に提供しよう」

現在に至る高橋さんの基本姿勢が、ここで決まった。

版画絵『地の食をつくる人たちに』

『地の食をつくる人たちに』2014 版画・岩田健三郎

岩田夫妻

「食・地の座」座長 岩田健三郎さんと妻・美樹さん
楽やのコーヒーカップは、作陶も手がける美樹さんにつくってもらった

神河町との出会い

これまで小さなお店でお菓子だけを作ってきた高橋さんだったが、さまざまな病気や食物アレルギーを持った人たちと出会うなかで、活動の幅をさらに広げ、誰もが同じ食卓を囲み、同じものを食べておいしいと感じられる場所を作りたいと考えるようになった。

それを実現するためには、姫路の店では手狭だった。そこで近郊の物件を探し始めた高橋さんが出会ったのが、町内の空き家に移住者を呼び込む取組みを積極的に行っている神河町だった。

普段から情報を提供してくれている県民局の職員に教えられて参加した「空き家見学ツアー」で神河町に興味を持った高橋さん。このまちをもっと知りたくなり、町内外のボランティアや大工さん、建築専門学校の生徒たちが一緒になって取り組む「空き家再生塾」、「空き家再生ボランティア」にも参加した。そこで物件だけでなく、口いっぱいに風味の広がる小豆や、薫り高い根宇野(みよの)柚子といった「地のモノ」に出会った。

「これらの食材を使った料理の味や香りを想像しただけでワクワクしました」

一緒に作業をしたまちの人たちが、自分たちの住む地域を大切に思っている気持ちにも心を引かれ、この地に移住することを決心した。

水車と田園

水車のある田園風景が広がる神河町新野。小豆の産地でもある。

開店に向けて

移住を決めてから開店までの1年半の間は、準備のため月に数回のペースで姫路から通った。その間にも、さまざまな形で地元の人たちから支えられた。

町内の金融機関に開店資金の融資について相談に乗ってもらっていたとき、その担当者が「兵庫県の『女性起業家支援事業』に応募してみませんか」と勧めてくれた。女性起業家の事業立ち上げを応援する制度による支援を受けられたことで、自分の思いをより理想の形に近づけることができたと高橋さんは振り返る。

また、近所の子どもたちもよく立ち寄ってくれた。高橋さんのいない間は、一冊のノートを店の前に置き、交換日記のような形でやり取りをするようになった。店の所在地である「神河町杉地区」にちなんで、「杉便り」と名付けたこのノート。そこに書き込まれた「開店を楽しみにしています」という子どもたちの声が大きなエネルギーになった。

 

店にする空き家の改修工事には町の人たちがたくさん参加し、一緒になって壁塗りなどの作業に汗を流してくれた。

「地域の人たちが歓迎してくれていることがとても嬉しく、移住前の不安を一掃してくれました」

「杉便り」のノート

「杉便り」のノート

改修工事に参加した人の集合写真

楽やの改修工事は、ボランティアや大工さん、専門学校の学生たちと一緒に取り組んだ。

神河で手にした宝物

昨年4月、「昔ごはんとおやつの時間 楽や」はついにオープンにこぎつけた。

「楽や」で使っている食材は、小豆、柚子、ラズベリー、お茶など、多くが神河町産のものだ。野菜はパートのスタッフや近隣農家の人が分けてくれる。栗は神河町の生産者から仕入れたものを、近所の人の手にまかせて渋皮煮にしてもらう。

「作った人から手渡されるみずみずしい野菜や果物は、食べる人だけでなく、調理する私たちも元気にしてくれます。都会では手にできない新鮮な食材は、神河町に来たからこそ味わえる贅沢です」

楽や外観

神河町杉地区にオープンした、昔ごはんとおやつの時間 楽や
神河町では現在、空き家を活用した移住者による店が9軒でき、転入者は40世帯、104人に及んでいる。

手に入った食材の調理法が分からないときは、近所のお年寄りのところに出かけて行く。イタドリは茹でた後で水にさらし、あくを抜いてから炒めること。紫蘇の穂先の「穂じそ」は、湯通ししてから醤油につけ、佃煮にするとプチプチした食感が楽しめることなど、たくさんの事を教わった。時折ぜんまいや蕨を届けてもらうこともあり、乾物にする方法も伝授された。

集まってくる食材とそれを持ってきてくれる人、一緒に働いてくれる人、笑顔で「美味しい」と言ってくれる人。「全てが神河に来て得られた宝物」と高橋さんは語る。

お昼ごはんのセット

「楽や」のお昼ごはん。主食の育玄米(はぐみげんまい)は、朝来市や夢前町の玄米に小豆、天然塩を一緒に炊いて熟成させる。

「楽や」で提供されるのは食事やお菓子だけではない。フラワーレッスン、竹かご編み、播州織を使ったソーイング教室などのワークショップが開かれ、地域交流の場にもなっている。

高橋さん自身も、播但沿線各駅のまちの活性化について議論する「駅前トーク」など、さまざまな地域おこしイベントに顔を出す。空き家を改修して店を開くまでの経緯や、よそ者の目から見た神河町の魅力など、移住者ならではの視点から積極的に情報の発信を続けている。

駅前トーク

播但沿線活性化協議会がJR播但線各駅で開催。詳しくはこちら

トークイベント中の高橋さん

JR播但線長谷駅での駅前トーク (平成26年7月20日)

正しい事より、楽しい事を

「神河町に移住して以来、周りの人にしてもらうことばかり」と、高橋さんは笑う。

普段はスタッフの手でしている店の雪かきや草抜きも、手が回らない時は、近所の誰かがいつの間にかしてくれている。

「ここの人たちは、私のためにしてくださったことでも、ことさらに『しておいたよ』とは言われないのです」

よそ者を家族のように気遣ってくれる温かさにふれるたび、「来て良かった」としみじみ感じる。

今はまだ何もお返しができないと感じている高橋さんだが、ある時、尊敬している高齢の友人から、「してくれた人に恩を返すのではなく、できる時に、その恩を他の人に送ればよい」と言われて気持ちが楽になった。今では、「こうあるべき」という正しいことのために100点満点をめざすのではなく、自分も楽しめて周りも楽しめることをしようと思っている。

高橋さんは今日も神河町のもたらしてくれる恵みを楽しみながら、厨房に立っている。

高橋さんの好きな言葉、正しい事より楽しい事を♪

(公開日:H26.8.25)

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