兵庫県立長田商業高等学校兵庫県神戸市

「追儺式は僕の人生そのものですわ。」

「西本さんにとって長田神社の追儺式とは。」この質問に対し西本さんは胸を張って、開口一番にこう言った。
西本さんは、長田商店街で約70年以上も営業を続けている果物店の2代目店主、そして、もう一つの顔は長田神社古式追儺式奉賛会(以下奉賛会)会長である。

長田神社古式追儺式奉賛会の西本会長

追儺式は長田神社の厄払いの行事で、毎年2月3日、節分の日に行われている室町時代から約650年間続く伝統行事だ。太平洋戦争の混乱で、終戦後の4年間は、追儺式を行うことができなかった。しかし昭和25年に「もっぺんやろう!」という地元の方たちの声が上がり、奉賛会が結成された。
驚くことに、西本さんはこれまで16回連続鬼役として舞台に立ち、一度も体調不良で休んだことがないという。16回踊った人は過去に2人しかいない、いわゆる鬼役の達人だ。

古式追儺式神事 鬼の舞

追儺式の舞台に上がる鬼は一匹(鬼は一匹、二匹・・・と数える)だけではない。長田神社の追儺式の鬼は、なんと七匹もいるのだ。この鬼たちは家族のような構成をしており、主役として有名な餅割鬼(もちわりおに)は七匹の鬼をまとめる父親のような鬼である。その奥さん役である尻くじり鬼(しりくじりおに)、一番太郎鬼、呆助鬼(ほおすけおに)、姥鬼(うばおに)、そして赤鬼・青鬼である。また、追儺式には鬼以外にも登場人物がいる。太刀役は、太刀の刃で寄り来る不吉を切り捨てる役目をしており、肝煎り(きもいり)という世話人等が数十名奉仕している。
鬼というのは世間一般的に、恐ろしい・凶暴などマイナスなイメージがある。ところが長田神社の鬼たちは追儺式の参拝者の厄を払い、今年一年の無病息災、家内安全を祈り願うとても心が優しい鬼なのだ。
「鬼役はねぇ、志願してもね、踊りたい言うて手を挙げても踊れないんです。応募をかけたら、ものすごい人数が踊らせてくださいって応募に入ってくるからね。それはできない。」『あの人に踊らせる』。鬼役の選定は、候補者の中から追儺式の幹部たちが決め、協議のうえ決定するという仕組みになっている。それほど追儺式の鬼役は人々の憧れだ。
「まあ大概『やりますか?』と言うたら『踊ります』と言う。まあ意味が分からんと踊る人も結構おる。僕自身もあんまり意味が分からんと踊った一人やけどね。」
鬼役に選ばれた方たちは真冬の朝、厄払いのために井戸水を300回ほど被ったり、温度6℃の海に7回、8回入ったり、かなりハードな禊を繰り返す。
「遊びではちょっとできひんね。みんなも真冬にお風呂の水被ったりしないやろ?」

神事当日に行われる須磨海岸での禊

神事当日に行われる須磨海岸での禊

須磨海岸で鬼の舞の練習

そのような厳しい環境で体調を崩した人も何人かいた。だが驚くべきことに、鬼役を懲りたと言った人は今まで一人もいない。西本さんは、初めて鬼役をした時のことを教えてくれた。
経験を多く積んできた先輩たちの中で、当時22歳で新造(はじめて鬼役をやる人のことを指す)だった西本さんは号令に従うように動いた。
「2月3日が本番で、鬼の舞の練習は2月2日の午後1時から5時くらいだったかな。4時間くらい先輩たちに怒鳴られながら練習する。でも初めてやから頭に入らない。だから前日の晩は寝られへんわけや。練習が不十分で。それであんまり寝ないまま、不安な気持ちで舞台に上がった。そういうことを経験した。」
西本さんは会長になったとき、少しでも鬼役の人たちの不安が解消できるように三日間を鬼の舞の練習日に決めた。

前日練習の様子

鬼役はただ踊るだけの役ではない。西本さんは後輩へのメッセージに織り交ぜてこうアドバイスする。
「鬼を踊りだして2、3年ぐらいは慣れんことが多くて疲れるけど、やっぱりなんでも課題を持ってやること。」
「追儺式はね、鬼は七匹おるからね。面が全部違うでしょ?だから全部同じセンスで踊ったらいかんわけ。赤鬼は赤鬼の気持ちになって踊らなあかん。赤鬼になったら赤鬼のイメージ、主役になったら主役のイメージで踊るということを心がける。」

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