兵庫県立小野高等学校

兵庫県立小野高等学校
(兵庫県小野市)
兵庫県立小野高等学校 放送部

 小野市の伝統産業である播州そろばん。
400年以上の歴史があり、今もなおその製作技術が受け継がれている。現在、そろばん産業が続いているのは、兵庫県播州地域の播州そろばんと島根県出雲横田の雲州そろばんだけだ。つまり、小野市は日本で二箇所しかないそろばん産地の一つだ。そろばんは室町時代の終わり頃、中国から日本に伝わってきた計算するための道具で、当時は今のような形ではなく珠の形や作り方が違っていた。
しかし、我が校には商業科があるにもかかわらず授業では電卓を使い、今ではそろばんを使える人が減少傾向にある。それに加え、そろばんの需要も年々減小しており、昭和35年には360万丁だった年間生産量は、今では約10万丁となっている。

そろばんの作り方と播州そろばんの特徴

 そろばんは ①珠削り ②珠仕上げ ③ひご竹作り ④組み立て の4つの工程に分けられ、それぞれの工程を専門とする職人が作る。

①珠削りの工程では、そろばん珠をひし形に削る作業が行われる。昔、中国から伝わってきたそろばん珠は丸く、今とは少し形も異なっていた。そろばん珠が今のようなひし形になったのは、そろばんの検定や大会などで、計算に正確さだけでなく速さが求められ、指に引っかかりやすい形がひし形だったためである。

②珠仕上げの工程では、とがった部分を磨き、色を付ける作業が行われる。色を付ける際、むらなく塗ることが難しく、現在も試行錯誤が続いているそうだ。

③ひご竹を作る工程では、桁となる部分を製作する。
珠にゆとりを与え、なめらかに動かせる必要があるので、形を整えるのに何時間もかかる。まず竹を寸法切りにし、小さく割って丸いひごに加工した後、磨いて仕上げる。

④組み立ては、つぎの工程に分かれる。
枠加工:組み立てできるように、枠板に穴を開け、みぞを作る
中桟組み:中桟にひご竹を指し込む
玉入れ:軸に珠を通す
私たちは取材過程で、珠のたくさん入った箱の中でひご竹を差した枠を左右にゆすり、珠を通すというこの作業を体験してみたが、予想以上に難しかった。
組み立て:左右枠、裏板、裏棒などを入れて組み立てる
目竹どめ・裏板どめ:うまく組み合っているかを確認しながら、各部分をアルミ線で固定する
磨き:紙ヤスリやムクの葉で磨き、艶出しをする

日本でそろばんを作っているのは兵庫県播磨地域の播州そろばんと島根県出雲横田の雲州そろばんだけであるが、珠とひご竹の工程に関しては播州が100%の生産高を占めており、それを雲州に送っているため、日本のそろばんを支えているのは播州そろばんといえるだろう。
その播州そろばんで、珠削り、珠仕上げの工程に関しては後継者がいない。今回、組み立ての工程を仕事とする株式会社ダイイチで、自らが珠仕上げの工程を職人から学び、技術を継承していこうとしている宮永さんにお話をお聞きした。

ワークショップとそろばんビレッジ

小野市垂井町にある株式会社ダイイチでは、播州そろばんをはじめ、そろばんの材料を使用した知育玩具やそろばんグッズを扱っており、代表取締役社長の宮永信秀さんは、そろばんを後世に残していくためにどうすれば良いかと考え活動するなかで、子供からお年寄りまで、様々な世代の人がもっとそろばんに触れられる場所を目指して、平成24年にそろばんビレッジを設立した

昔はそろばんを習うのが普通だったが、現在は電卓等の普及で、計算道具としてそろばんを使う場がなくなりつつあり、そろばんを習う子供も減っている。一方で、そろばんは、高齢者が指先の運動をすることで認知症の予防につながり、幼児が数の概念を理解し、計算力を鍛えるという点で徐々に見直されつつもあるようだ。また、発展途上国では教育の一貫としてそろばんが使われており、今日では約80の国に広がっている。
宮永さんは、小野市内の小学校の子供達に、自分たちの手でそろばんを作り、授業で使うことで、そろばんに興味をもってもらおうと活動されており、最近では近隣の市外の小学校にも活動が広まってきている。また、もっとたくさんの子供達にそろばんに触れてほしいと、全国をワークショップでまわられている。そろばんを習っていない子供も多いため、そろばんを作った後も活用できるようにと、そろばんの先生にもワークショップに来ていただき、そろばん製作後、すぐ側でそろばんの使い方を教えてもらえる場を設けている。
小野高校の生徒の中にも、小学生の頃に自分で作ったマイそろばんを持って、そろばん教室に通ったという思い出がある生徒もいる。

そろばんビレッジには、そろばんのイメージとは違った子供目線の商品も多く、これからの社会を支える子供達の未来がよく考えられているなと実感した。

子供にそろばんの使い方を理解してもらいやすくするために開発された「ボイスそろばん」は、そろばん球を上下することで、数字を示し、読み上げてくれる知育玩具で、外国の子供にも理解してもらえるように、英語と日本語の音声で作られているということに驚いた。

また、受験生を応援するために作られた「合格そろばん」は、珠が5か9にしか動かない作りになっており、お守りとして受験生に人気である。カバンに付ける人も多い。

小野市のそろばん産業を発展させようと、他にもさまざまな商品が開発されており、知育玩具として触れてもらうことで、子供達の脳の活性化を促している。
小さい時からそろばんをしていると、そろばんがなくても早く計算ができるようになる子供は多いようである。

時代に合わせたそろばんへ

そろばんビレッジではカラフルなそろばんを作る体験ができる。カラフルなものは子供に人気があり、組み合わせ方は無限大。世界に一つだけのマイそろばんが出来上がる。
実際にカラフルなそろばんを手作りした方は、「好きな色を使って自分だけのそろばんができあがったのが嬉しかった。たくさんの人に体験してもらいたい。」と話していた。

海外の人の間では、カラフルな商品が話題になり、そろばんを全く知らなかった人でも、お土産として買って帰り、インテリアとして飾っているそうだ。
昨年は「インスタ映え」という言葉が流行語大賞に選ばれ、世界的に注目された。このカラフルさで、今後はインターネットを通したそろばんの広まりが期待できるかもしれない。

そのほか、お箸の名産地である福井県の小浜市と兵庫県の小野市がコラボしたお箸も開発されている。
このことをきっかけに、宮永さんは様々な「ご当地そろばん」も面白いのではないかと考えており、今後も新しいそろばんを生み出していくつもりだ。

「そろばんは400年間形を変えずに人々の手に渡ってきたが、ファッションのように時代とともに柔軟に変化していってほしい。そして、小野市全体がそろばんの町だという意識をもち、元気になったら嬉しい」と宮永さんは話す。

この取材を通して、私たちは、そろばんが新しい形で徐々に広まっていることを知った。そして計算道具としてではなくても、国境をこえた娯楽としてそろばんが広まっていけば良いと感じた。また、宮永さんから、そろばんをもっと広めていきたいという熱意も伝わり、そんなそろばんの発展を後押しできたら嬉しいと思った。

この記事を読んで、少しでもそろばんに興味をもっていただいた方は、ぜひそろばんビレッジやお近くで開催されるワークショップなどに足を運んで、新しい形のそろばんに触れてほしい。

編集後記 ~小野高校のすごい○○を通じて~

小野高等学校放送部は、NHK杯全国高校放送コンテスト優勝や全国高校総合文化祭金賞等を数多く受賞するなど、アナウンス、テレビ・ラジオ制作などがとても活発に行われている伝統ある部です。その放送部の中から、1、2年生の4名の皆さんに、通常の部活動での活動に加え、この記事制作に取り組んで頂きました。
制作過程では、放送部の経験と実力が遺憾なく発揮され、記事構成のアイデア出し、取材先との調整、準備、そして当日の段取りが、滞りなく着々と進められる様子は「さすがです!」の一言でした。
今回は、小学生時代にマイそろばんを作り、通学路にそろばん工場がある等、地元の生徒の皆さんには当たり前の存在で、現在、商売道具から伝統工芸品や知育玩具などに形を変えつつある「播州そろばん」に着目し、そして未来の「播州そろばん」を表現するという難しい内容に挑戦する中で、「高校生らしい情報発信」って何だろうという課題にも真摯に向き合いながら記事作成を進めてくださいました。
同校商学科の授業でもそろばんを使わずに電卓を使い、日常でもAIなどのIT化で「未来にそろばんは無いのではないか」と議論を交わす中で、幼い頃からそろばんを習ってきた生徒が「当たり前にあったそろばんがなくなるのはさみしい」と言った一言がとても印象的でした。
そういった中で、新しい価値を作り出そうと奔走されているDAICHIの宮永さんからお話しをお聞きして得た良い気づきや発見を、記事に表現できたのではないかと感じます。改めて発見した地場産業の“かたち”や、それに携わる方々の熱い想いを、これからの地域との関わりや部活動の番組制作などで活かして欲しいです。

黒板を使って原稿の構成を考案

宮永さんへの取材の様子

カメラマンの方から教った撮り方を何度も実践

プロのライターさんから原稿作成のアドバイス

皆で意見を出し合い、大きなモニタを使って原稿作成中!

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この記事を書いた⼈
NPO法人コミュニティリンク(担当)中西