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「元気になりたい村」で、木の家をつくる
「ログハウスを造りたい!」 学生たちの希望を受け入れてくれた観音寺集落との出会いは、平成22年。
65歳以上の人が36%を超える高齢化の村(平成29年3月末現在)。村の人たちの「集落を変えたい」という想いも後押しに。[写真:多可町の取り組む「菜の花エコプロジェクト」にも参加]
地域の人々に温かく迎え入れられ、平成23年、集落から借りた土地での地鎮祭からスタート。
コンセプトは「みんなの田舎をつくろう」。卒業後も、いつでも帰れる「第二の故郷」づくりが目標。
平成25年ログハウスが完成。「ログハウスを活かし、過疎化が進む集落を外部の人にもっと知ってもらおう」と、プロジェクトは次のステージへ。
大いに楽しみ、大いに学ぶ。
田舎の生活も村の人々との交流も、「集落で楽しみ、集落から学ぶ」姿勢を大切に。それが地域貢献への第一歩。[写真:裏山への登山ルートを整備し360度盤を設置]
畑を借りて育てる農作物。野菜づくりを通じ、自分たちの未熟さや、世話をしてくれる集落の人々への感謝を実感。
「販促活動」では、自分たちが収穫した野菜の他、集落の特産品「千のしずく米」や「菜っちゃんそば」、菜種油などを販売。
集落の「お母さん」たちから料理を教えてもらうことも。美味しい食事を持ってきてくれる人もいる。
活動の集大成は年に一度の「ログハウスカフェ」。村の特産品を使った料理と共に、観音寺の魅力をたくさんの人に伝えたい!
感謝の想いを伝えることが地域への恩返し。
村の人々と同じ目線で活動を続けるために、支えられていることへの感謝の気持ちは忘れない。[写真:合宿での「流しそうめん大会」]
田植えや稲刈りシーズンは、学生たちも農作業の大切な労働力。「助かるわ」と喜ばれる声がうれしい。
秋祭りでは、集落の人々と一緒にフォークダンスも体験。地域の行事の存続を支える力になっている。
老人会のお餅つきや、敬老会の食事会にも参加。学生たちの明るさが村の活気を盛り立てる。
観音寺の村が、元気になれることを返したい。学生たちから集落への恩返しの気持ちが地域を活性化させる。
達成感と自信を胸に、次の世代へ。
「『経験からしかアイデアは生まれない。』本物を食べ、真剣に遊ぶことから学びなさい」と語るのは、活動を見守る顧問・藤岡秀英教授。
週に一度のミーティングで、集落での情報を全員が共有。円滑なコミュニケーションが、みんなの心を一つにする。
次の目標は、ログハウスを地域がつながる核に育てること。集落全体で運営しながら「みんなの田舎」になるように。
どんなことも真剣に楽しんだ先には、必ず学びがあった。活動ごとに成長を実感しながら社会へ巣立っていく。
人がつながり、みんなが一緒に取り組むことで、大きな動きが生まれていく。それが地域おこしの原点。
グループ紹介
兵庫県のほぼ中央。多可町にある観音寺集落。過疎化に向かうこの地域を元気づけたい村の人々と、自分の手でログハウスを建てたい学生たち。両者の時間が、同じ時を刻み始めて9年になる。
平成22年、「みんなの田舎をつくろう」という理念のもと、神戸大学の学生が中心となり、自分たちでログハウスの建設をめざす「学生流むらづくりプロジェクト 木の家」を設立。平成25年の完成後は、地域活性化への貢献を目標に、ログハウスを活用した様々な活動に取り組んでいる。
「地域の活性化は、集落への恩返し。でも活動の一番の目的は、地域おこしだけでなく、自分たちが『大いに楽しみ、大いに学ぶ』こと」とリーダーの織井大樹さんは語る。
「木の家」は月に一度、観音寺集落で合宿を開催。手づくりカレンダーを一軒ずつ配布し、住人たちとコミュニケーションを深める。村の人から借りた畑で野菜を育て、地域の特産品である米、そば、菜種油などと共に、神戸のアンテナショップや大学祭などで試食販売に取り組む一方、田植えや稲刈り、もみすりといった農作業を始め、秋祭り、運動会、老人会や敬老会のイベントなど、村の行事にも積極的に参加。
「僕たちが行事に参加すると『助かる、ありがとう』と言葉をかけていただけるので、地域に役立っている実感があります」と織井さんが微笑む。
その一方で、織井さんは「やりたいことをやりながら学ぼうという僕らの活動を、集落の人たちが理解し、支えてくださるのがありがたい」と感謝の想いを口にする。
「感謝の気持ちがないと、集落の人の目線も理解できないので、僕たちの『やりたいこと』が集落の人の『いやなこと』になってしまう。活動を続けるためにも、感謝の気持ちだけは忘れたくないんです。」
そんな活動の集大成が、年に一度、学生たちがログハウスで開く「ログハウスカフェ きのいえ」だ。
「自分たちが普段の活動で感じた観音寺の魅力を、地域外の人たちに伝え、木の家や集落との新しいつながりをつくることが目的です。村おこしにつながれば」と話す織井さん。
「外部との関わりを増やすことで、集落の雰囲気がよりオープンになれば、『みんなの田舎』にもっと近づくと思うんです。いずれは村の方と一緒にイベントをして、外部の方をおもてなしできたらいいなと思います。」
木の家で活動し、卒業していく学生にとって、観音寺は戻ってきたい「第二の故郷」。
「僕たちだけでなく、カフェに遊びに来た人にとっても、観音寺集落は『みんなの田舎』になれる。みんながつながってコミュニティをつくり、大きな動きを起こすことが地域の活性化には一番大切です。外部と『つながる』機会が生まれるカフェは、多可町全体を巻き込んだ地域の核になりたいし、なれると思っています。」
学生流むらづくりプロジェクト 木の家 織井大樹(おりいたいき) 神戸大学理学部3回生
建築学科をめざしたくらい、ものをつくることが好き。ログハウスづくりがしたくて活動に参加しました。関われたのは「増設」でしたが、計画や設計から取り組み、毎月少しずつ形になっていくのが楽しかったです。
印象深いのは「ログハウスカフェ」。自分たちの手で建てた、愛着しかないログハウスで、自分たちで計画したカフェを成功させることができた達成感は、一番の思い出です。そんなカフェの活動も3年が過ぎ、そろそろ転換期を迎えます。村の方が僕たちとの関わりを通じて集落外の人と新しく知り合い、人の輪が広がる瞬間が生まれるように、カフェそのものが地域の人たちをつなぎ、広げていく場所になるよう、新しい関わり方や活動を、これからのメンバーにもっと模索してほしいと思います。
リーダーになってからのカフェ活動は、一つ一つが一人じゃできないことばかり。途中で投げ出したくなるぐらい準備は大変で、リーダーとしての想いや考え、サークルの理念、守っていきたいことを一人一人に伝えるのは、本当に難しいことでした。この経験で達成感と同時に責任や苦労も伴うリーダーとしての役割を、自分の中にようやく落とし込めたと感じています。
最も実感できたのは「大いに楽しみ、大いに学ぶ」という理念が、すべての根底に必要だということ。「大いに」とは、真剣にということです。僕たちはいつも、真剣に楽しみながら取り組まなければなりません。一つ一つ形になっていく中に学びがあることは、イベントをするごと、何か作るごとに感じること。真剣だからこそ「楽しかった」で終わるのではなく、やったことが「学び」だと感じられるんだと思います。後輩たちにも意識してほしいことです。
「木の家」の卒業生は、自分がやりたいことをあきらめず、純粋に行動に移す人が多いんです。僕も将来は、いろんな人と協力しながら、一からログハウスを建て別荘にしたい。それが「大いに楽しみ、大いに学ぶ」の理念を、自分の中に生かし続けていくことだと思っています。