NOMOベースボールクラブは、社会人野球チームの休廃部が続くなか、プロ野球選手への夢を抱く若者たちに活動の場を提供したいと、平成15年に野茂さんが私費で立ち上げた社会人野球チーム。当初は、大阪府堺市内の球場を本拠地に活動していたが、球場が高速道路の建設用地となることから、移転を余儀なくされることとなった。その時に、プロサッカーチーム ヴィッセル神戸の関係者からの推薦や、地元自治体・経済界の熱心な誘致活動があり、平成25年、豊岡市への移転が決まった。
現在クラブは、こうのとりスタジアムをホームグラウンドに市内4球場で活動している。また、所属する28人の選手は、城崎温泉の19軒の旅館で働きながらプロ野球選手を目指している。
過去に6人のプロ野球選手を輩出しているNOMOベースボールクラブ。豊岡での活動も2シーズン目に入った。チャンスに恵まれない若者たちに活躍の場を提供し、いつかはプロ野球の第一線で活躍してほしいという野茂さんのチーム創設以来の強い思いは、本拠地が移転しても変わらない。
「はじめは皆、よそ者だったと思います。地元の皆さんとは、お互いに遠慮もありましたし。でも、1年も経たない内に皆さんが僕たちを快く受け入れ、応援してくれていると感じるようになりました。今は、豊岡の為に何かできるのではないかと思っています」
野茂さんからの厚い信頼を受け、現場を託されているのが清水信英監督だ。かつて野茂さんが所属していた社会人野球チーム新日本製鉄堺時代の先輩にあたる清水監督は、高校時代に甲子園出場を経験しており、選手からの信頼も厚い。野茂さんと清水監督、それに2人のコーチを加えた4人で選手の指導が行われている。
株式会社西村屋の代表取締役会長で前城崎町長の西村肇さんは、先頭に立ってクラブをバックアップしている一人。後援会長も務めている。城崎の老舗旅館の経営者であり、地元経済界のリーダーでもあることに加え、地域の活性化を推し進める観光業界のカリスマとして、西村さんの知名度は高い。
「これからは地域ブランドとネットワークの時代。観光地にはそれらを生かす力が問われている。そういった意味でも野茂さんが来てくれたことの意味は大きい。この宝石のような人とチームを、まちを挙げて応援していく」
ふたりは、1年あまりの親交を経て、固い絆で結ばれている。
その絆を強め、豊岡に移転する大きな決め手の一つとなったのは、城崎温泉の各旅館が所属選手に働く場を提供するという条件だった。選手の生活を安定させ、野球と仕事を両立させるバックアップ体制は、西村さんをはじめ城崎温泉旅館組合の全面協力によって実現した。
社会人野球の経験を持つ野茂さんは言う。
「自分がプロ野球選手として自立できたのも、新日鉄堺時代に社会人としてのマナーを教え込まれたことが大きい。選手たちには、野球だけでなく仕事も頑張ってほしい」
練習は朝8時30分から午後1時過ぎまで。選手たちは毎朝、豊岡市から提供されたクラブ専用の「NOMOバス」に乗って球場へ向かう。各々が旅館に入って仕事を始めるのは、練習終了後、夕方4時30分からだ。
「職場のみなさんに協力してもらって、毎日楽しく仕事をしています」
選手の一人は、明るくそう話してくれた。
また、豊岡は鞄のまち。今年2月には、豊岡鞄協会から、特別製作された選手用リュックサックが贈られた。野茂さん自身が考えたデザインをもとに作られたもので、さっそく選手たちは、日々の練習や遠征試合の際に活用している。
今年1月17日、野茂さんの野球殿堂入りが発表された。すると、これを祝してJR豊岡駅前のショッピングモールには懸垂幕が掲げられ、この朗報を市民も一緒に喜んだ。
3月29日には、クラブの選手たちと市民が交流する「NOMOベースボールクラブ但馬市民交流会」が豊岡市立日高文化体育館で開催された。会場には井戸敏三知事をはじめ、中貝宗治豊岡市長や広瀬栄養父市長らも駆けつけ、およそ400人の出席者とともに野茂さんの野球殿堂入りを祝った。
野茂さんは「チームも地域に溶け込んできている。皆さんの声援のおかげ」と挨拶した。
清水監督は「あたたかく受け入れてくれている豊岡のためにもいい結果を出したい。チームは頑張っている。今年は全国大会に出る」と健闘を誓った。
一方で、NOMOベースボールクラブも、主に野球を通じて青少年の健全育成をはかろうと、地域での様々な活動に取り組んでいる。
昨年度は豊岡市の主催で5回にわたって少年野球教室が開催され、野茂さんを始め、清水監督、コーチ、選手が参加して指導に当たった。また、野球少年たちがリーグの枠をこえて親睦や交流を深めるための少年野球大会「NOMO CUP」を開催。クラブの本拠地が豊岡に移転した後の第11回大会は、県立但馬ドームで開催されている。さらに、今年1月には、神戸地区で少年野球大会を主催する西武ライオンズの現役選手 栗山巧さんと手を組み、但馬と神戸の選抜チームが戦う南北交流戦「第1回NOMO栗山オールスターゲーム」も開催した。
野茂さんの指導を受けた野球少年の中から、未来のNOMOが生まれるかもしれない。
野茂さんの心にあるのは、「野球を通じて町に活気を」という思い。
「せっかく来たのだから、豊岡を、いつか少年野球や社会人野球のメッカにしたい」
野球を通じて人が集まれば、まちが活気づく。大きな夢に向かって、野茂さんの挑戦は続く。
※NPO法人NOMOベースボールクラブの活動は、会員の皆様の会費に支えられています。