誰かの母親ではなく、どこかの会社員でもない、一人の「私」として自分のことを語ろう――。
笑顔があふれるポジティブな生き方を朝活会から届けたいとの想いで、働く母親たちのつながりづくりを続ける「働くママの朝活会 in 西宮(*)」。代表を務める佐原由紀子さん自身が、笑顔あふれるポジティブな働くお母さんです。子どもたちの成長とともに働き方を変えてきた佐原さん。
ずっとモヤモヤとした気持ちが消えなかったという日々を経て、「やってみたいことは口に出す」「できることから行動に移す」姿勢を大切にしながら、次々と新たな挑戦を続けています。
働く母親たちが想いを語り、夢を持ち、つながってゆく先でかなえたい世界とは? 佐原さんの想いと夢をうかがいました。
*「働くママの朝活会 in 西宮」:毎月1回土日の朝7時~9時、阪急電鉄西宮北口駅周辺で開催中(令和3年11月現在はオンラインZOOMで開催中)
「朝から楽しかった!」「パワーをもらいました。」「皆さんが前向きで気持ちよかった!」
月に一度、働くママの幸せと笑顔を応援する朝がやってきます。
「働いているお母さんたちとつながって、話す機会が欲しかった。」と話す佐原さん。5年が経過した現在、つながりの輪は海外にまで広がり、全国から参加者が集まるイベントを開くまでになりました。
全国の病院を巡り、多くの医師や治験スタッフと関わっていた佐原さん。結婚・出産を機に内勤へ異動後、書類とパソコンに向き合う仕事にやりがいを見失い薬剤師に転職。しかし待っていたのは「小1の壁(*)」でした。仕事と子育てのバランスを保とうと、在宅勤務の職場に移ったものの、再び「もっと人とつながりたい!」と感じた佐原さん。働いている母親同士が、比較的自由に動ける朝の時間を使って、気軽に話せる集いを始めようと思いつきました。
「でも何から始めよう、どうやって仲間を集めようって、すぐに一歩が出なかったんです。」
そんな時、同じ働く母親としてコミュニティを立ち上げた知人の活動に参加したことで、「自分がやりたいと思ったことに、誰でもチャレンジしていいんだ」とパワーをもらった佐原さん。平成28年7月、西宮市内のカフェで、前職の先輩や保育園の母親仲間たち5人と共に、初めての朝活会を開催しました。紹介やSNSなどをきっかけに仲間が増え、現在は毎回2~3人の初参加者を迎えながら20人前後での集いに成長。令和3年9月には、60回目の開催を迎えました。
「みんなで同じ方向を向いて一つのビジョンを形づくり、社会の役に立ちたいという想いがあるから頑張れているんだと思います。中学時代に所属していた吹奏楽部で、一つの音楽をつくり出す楽しさを学び、みんなで力を合わせて頑張る時間が好きになりました。音楽を聴いている人が笑顔になり、そこからいろいろなつながりが生まれていくことも好きでした。みんなでつくり上げ、それが誰かの幸せにつながっていくのは、音楽も朝活も同じなんです。」
そんな朝活会に集うみんなの力と想いを集め、つくりあげたものがあります。
*小1の壁:共働きやひとり親世帯において、子どもの小学校入学を期に仕事と育児の両立が困難になること
平成28年に初めて行われた朝活会の様子
60回目を迎えた記念となる朝活会はオンラインで開催
働く保護者に向けた子育てサポートの少なさを感じていた佐原さん。西宮市による「未来づくりパートナー事業(*)」の募集を知り、朝活メンバーの協力のもと、働きながら子育てに取り組む保護者たちの不安や疑問を解消する「働くパパ・ママ座談会」を企画し応募。実施事業として選ばれ、平成30年9月から平成31年2月まで5回にわたって開催しました。
「保活(保育園探し活動)や育休について」「小1の壁の乗り切り方」「仕事復帰のために準備しておくこと」「パパと一緒に育児をする工夫」などのテーマに合わせ、朝活メンバーがスタッフとして参加。仕事復帰時の保育園利用のテーマでは、西宮市内で働く現役保育士などのメンバーが参加者の悩みに答えました。また、夫と一緒に育児をする工夫がテーマの回では、夫が協力してくれるようになった過程を経験したメンバーが参加するなど、それぞれが得意なことを持ち寄り開催。毎回、およそ20組もの参加者が集まりました。
「『働くパパ・ママ向けの集まりがなかったので、すごくうれしい』という声をたくさんいただきました。働きながら子育てをすることで感じる悩みや不安、疑問を、同じ地域で子育てをしているからこそわかり合える仲間と気軽に話したい……。そんなニーズを感じました。」と佐原さんは言います。
一方、参加したメンバーからは、生きてきた中での一つひとつの経験が他の人の学びにつながり、役に立てるのがうれしかったという声が上がりました。
「仕事と子育ての両立で苦労してきたことも、みんなと共有することで財産になったと言ってもらいました。」
こうした座談会の他にも、育休復帰アドバイザーの資格を取得した朝活メンバーが、住まいのあるシンガポールから講師として育休復帰セミナーを朝活会で開催するなど、人も場もつながってゆくことがうれしいと話す佐原さん。
「働くママはしんどいけれど、みんなで乗り越えて楽しく生きていこう!」
そんなみんなの想いの循環が朝活を通じて生まれ、さらに広がった活動がありました。
*未来づくりパートナー事業:西宮市内で活動している団体からの提案に基づき、地域課題や社会的課題の解決及び地域力の向上に資する事業を団体と市の機関が「協働」して実施し、西宮市がその費用の一部を助成する制度
「働くパパ・ママ座談会」に先輩ママとして参加してくれた朝活会メンバーの皆さん
お子さんも一緒に参加した「小1の壁」に関する座談会の様子
平成30年、佐原さんが初めてPTA活動に関わることになった時のこと。知人が、「働く母親が本部役員を務めるのは無理だ」と断られた話を耳にしました。
「これからどんどん働く保護者が増えるのに、そんな状況ではPTA活動が継続できなくなります。そもそも働く母親の声が反映されないのは、多様じゃありません。IT化を進めたり業務をコンパクトにしたりして、働く母親もPTA活動を楽しめるようにしたいと思ったんです。」
有志によるPTA改革の勉強会に参加する一方、朝活ではPTA座談会を開催。市内外の各地から集まった参加者やメディア取材の依頼など、周囲の関心の高さと熱気に驚いたと話します。
「今のPTA活動をもっといい方向に変えたいと思っている人が、こんなにいるんだ」と感じた佐原さんは、次の行動に移りました。兵庫県から委嘱された阪神南地域ビジョン委員会(*)委員の取組で、令和3年2月、新しい時代に合ったPTA活動の工夫をシェアするイベント「PTAアワード兵庫2021~みんなでPTAアイデア集をつくろう☆~」をオンラインで開催したのです。
「負担を感じ、参加を敬遠する人が少なくないPTA活動ですが、工夫を凝らした改革事例はたくさんありました。真似をしたくなるアイデアや工夫を募集して還元することで、少しでもPTA活動を楽しいものにして欲しいと思ったんです。」
当日は全国から153人が参加。改革事例やアイデアは、県内の小中学校21校から29例が集まりました。例えば、運営委員会を気軽な話し合いの場として活用している事例や、PTAを「保護者連絡会」と改名した事例など、子どもたちのために学校と保護者が共に取り組むPTA活動の本質を、改めて感じる機会になったと言います。
「PTAの印象が、ポジティブなものに変わりました。」
佐原さんが、「一番うれしかった」という参加者からのコメントは、どんな時も前向きな姿勢でいることを大切にしている、佐原さんの信条そのものでした。
*地域ビジョン委員会: 兵庫県内各県民局・県民センターがとりまとめた「地域ビジョン」を普及啓発し、実践活動において中心的な役割を担うとともに、地域ビジョンの実現状況の評価・検証や、新地域ビジョンの策定などに参画する委員会
朝活会にて行われたPTA座談会の様子
PTAアワード兵庫2021にはたくさんの方が集まりました
「みんなと一緒にポジティブな空気をつくり出し、日本の幸福度をアップしたい。」
そんな想いが、佐原さんを様々な活動に積極的に向かわせる原動力です。
「初めての朝活会での自己紹介は、『私の趣味って何だった?』という参加者みんなのとまどいから始まりました。○○さんのママではなく、『私』の好きなことや『私』が何をしたいのかを、話す機会がなかったと気付けたことが一番の発見だったんです。」
その後、朝活会のたびに自己紹介を繰り返すうち、自分の好きなことや得意なことがわかるようになったメンバーたちは、「みんなが先生プロジェクト」という朝活会のミニ講座の中で講師としてアウトプットができたり、夢やビジョンを語れるようになりました。その結果、本人にも周りの人たちにも幸せな連鎖が生まれ、朝活がポジティブな時間をつくれる場になっています。みんなのアウトプットを受け取って、好きなことや得意なことを見つけるための方法があることを知り、自分でも試していくことで周囲が変わっていくと思うんです。」
だからこそ、「朝活は安心して夢を語れる場」と言ってくれた参加者の言葉が、何よりうれしかったと語ります。
「朝活をスタートした当時、『働くママ』を検索すると、後に続いている言葉が『しんどい』『正社員を辞めたい』というネガティヴな単語ばかりだったことに衝撃を受けました。働くママも楽しくていい、幸せに笑顔で過ごして欲しい。みんなの知恵を出し合えば、しんどいことを乗り越える方法は見つかると思っています。私の娘がママになった時、楽しそうに働く母親たちが増えていたらいいなと思っています。」
自分のいる場所やつながりのある場で、少しずつポジティブな空気をつくりだしていけたら、周りにも前向きな雰囲気が連鎖していくはず。
「その先にあるものは、みんなの幸福度がアップした日本だと信じています。」
(文/内橋麻衣子 動画/三好幸一 )
様々なテーマで行われる「みんなが先生プロジェクト」の様子
いつも笑顔が絶えない朝活会