NPO法人ゲートキーパー支援センター 理事長

すごいすと
2014/11/25
竹内志津香さん
(55)
兵庫県伊丹市
NPO法人ゲートキーパー支援センター 理事長
兵庫県の南東部に位置する伊丹市。古くは江戸時代から酒造りが盛んに行われ、現在では大阪国際空港のあるまちとしても広くその名を知られている。

日本では近年、年間3万人近い人が自らの命を絶っており、深刻な社会問題となっている。伊丹を拠点にこの問題に取り組んでいるのが竹内志津香さんだ。

職業訓練施設でキャリア・コンサルタントの仕事に就いていた竹内さんは、景気の悪化で仕事が決まらず自殺を考えてしまうという相談をたびたび受けるようになり、傾聴やキャリア・コンサルタントの知識だけでは対応できないと、ゲートキーパーについて学ぶようになった。平成24年12月、NPO法人ゲートキーパー支援センターを立ち上げて自殺防止の支援に乗り出した。設立以来、ゲートキーパーの養成講座を約100回開講し、その受講生は累計で1894人(平成26年11月16日現在)を数える。

写真:NPO法人ゲートキーパー支援センター理事長竹内志津香さんバストアップ

就職相談からゲートキーパー育成へ

就労支援の職場で相談員を務めていた竹内さんが自殺防止に関心を持ったきっかけは、平成20年に起こったいわゆるリーマンショックだった。それまで順調だった企業からの求人数が激減し、仕事が決まらず職にあぶれる人が続出した。

その頃から、相談の中で「生きていても仕方がない」と涙ぐむなど、うつ的な様子の訓練生が増えてきた。

「あまりにも疲れている相談者の多さに愕然としました。まさか自殺してしまうことはないだろうと思いつつも、もしかしたらという不安を抱えていました」という竹内さん。

悩みを抱える人に寄り添う必要性を感じ、心理カウンセラーの資格も取得したが、自殺を考えるほど深刻な状態の人への対応には自信を持てないでいた。その頃、ゲートキーパーという存在を知り、関心を持った竹内さんは東京で開かれた養成講座に参加した。

写真:女性3名の写真

竹内さんが講座を受講したルーテル学院大学の認定講師・岡田先生(中央)、
赤穂健康福祉事務所・笠井さん(右)と。

「命の門番」とも呼ばれるゲートキーパーとは、会社員や主婦、学生といった一般の人が、身の周りにいる人たちの発するSOSをこまめにキャッチして悩みの相談に乗り、専門の支援先につなげながら、自殺に至るのを未然に防ぐ役割のことだ。

「独りで悩みを抱える人に寄り添うゲートキーパーが、職場や家庭、地域などでもっと増えていけば、多くの人たちが救われる」

そう考えた竹内さん。その頃は関西で養成講座を開く団体がなかったため、自ら立ち上げることを決意。平成24年12月、NPO法人ゲートキーパー支援センターを設立して理事長に就いた。

写真:NPO法人認証後、兵庫県庁前にて竹内さん

平成24年12月20日、兵庫県からNPO法人の認証を受け活動を開始した。

身近なところから手を差し伸べる

竹内さんの支援センターが開くゲートキーパーの養成講座では、さまざまなトラブルが自殺の要因になることを理解し、悩みを抱える人とどう向き合うかを学ぶ。

「自殺を考える人たちを支えたいという気持ちと、必要最低限の知識、それにちょっとした話の聴き方の心得さえあれば、誰もがゲートキーパーの役割を果たすことができます」

自殺防止とは、何も水際で実行を食い止めることだけではない。自殺を考えるほど追い込まれる前の段階で、身近な人たちが手を差し伸べることも非常に重要だ。普段から近い距離にいてわずかな変化にも気づきやすい人たちがゲートキーパーとして関わっていれば、自殺の芽をまだ小さな時点で摘み取ってしまうことができる。

「私自身、父の介護で悩んだ経験があり、気軽に話を聴いてもらうことの大切さを実感しています。苦しい時に、カウンセリングを受けたり、医療機関に相談したりするのは抵抗があると感じる人にも、身近なゲートキーパーにはつらい気持ちを話すことができるのではないでしょうか」と、竹内さんは力を込める。

 

写真:講習中の竹内さんと生徒さん。

参加者同士で相手の話を熱心に聴く「傾聴」のトレーニング

写真:紙資料やゲートキーパー手帳の写真

講座では、より理解を深めるため、ゲートキーパーの心得を記した資料なども用意する。

草の根レベルで少しずつ広がる活動

竹内さんの周りには、思いに共鳴して一緒に活動する仲間が集う。心理カウンセラーや臨床心理士といった心の問題を扱う専門家はもちろん、この問題に関心を寄せる会社員や主婦など、さまざまな立場の人たちがボランティアとして活動をサポートし、講師も務める。

設立当初は自主開催がほとんどだった講座も、口コミや紹介で地域の多様な団体から依頼を受けるようになった。自治体職員や薬剤師、司法書士、裁判所執行官、傾聴ボランティア、介護施設のスタッフなど、人と接することが多い分野の団体から依頼を受けることが多い。

写真:多彩な色でデザインされたそろばん

最初の自主講座では30人以上もの参加者があった。
その多くが活動の趣旨に賛同し、今も支援センターをサポートする。

昨年、ある美容師グループから依頼を受けて講座を開いたことがあった。

同じお客さんに定期的に接することの多い美容師は、相手の状態の変化に気がつきやすい職業だ。ただ、悩んでいることがわかっていても、具体的にどう声掛けすればいいのかわからず、その対処方法を学びたいという依頼だった。

その講座で、なじみのお客さんに自慢のロングヘアをばっさり切るよう頼まれた美容師の話を聞いた。末期がんの治療のためで、その日が最後の来院になるということもわかり、その後は何も話すことができなくなったという。

「参加された美容師さんたちは、実習では、話の聴き方が非常に上手く驚きました。受講を通じてこの素晴らしい資質に少しの知識を加えてもらい、地域の中のゲートキーパーとしてぜひ活躍してもらいたいです」

新しい場所で講座を開くたびに、自分たちの活動が多くの人たちから必要とされていることを実感する。また、地道に回を重ねることで、活動の認知度も確実に高まってきている。

2年前、ひっそりとはじめたゲートキーパーの活動が草の根レベルで少しずつ広がりを見せていることに、竹内さんは確かな感触を得ている。

写真:講習参加者たちとの記念写真

美容師のグループからの依頼で開いた講座の参加者たちと。

写真:食事中の風景

会食しながらスタッフらと意見交換。講座の円滑な運営も、活動を支えるスタッフの協力があってこそ。

「自分を大切にしよう!」

竹内さんが受講生たちにいつも伝える言葉が「自分を大切にしよう!」だ。

これは悩みを抱えている本人だけでなく、それをサポートする側の人たちへのメッセージでもある。

「講座の最後には必ず伝えています。時には、聴く側の心に大きな負担がかかることがあるからです。私も経験しましたが、自分がストレスを抱えたままでは、他の人の心に寄り添うことは難しいと感じています」

人を支援するには、自分を大切にすることが必要。そのためには、悩みを一人で抱え込まず、相談することを忘れないでと説く竹内さん。同じことを自分自身にも常に言い聞かせている。

写真:公園のベンチで本を読む竹内さん

疲れた時は昆陽池公園のお気に入りのベンチで英気を養う。

現在、講師を務めるスタッフは10人ほど。当面はその数を増やしていきたい。講師が増えれば講座の回数も増え、地域でゲートキーパーの役割を担える人が増えれば身近なSOSのサインに気づく機会も増える。その結果、自殺だけでなく虐待や犯罪など、独りで悩みを抱えることが原因となって起こる事件を未然に防ぐことにもつながる。

誰もが自分を大切にしながら、身近な人に寄り添って互いに助け合える世の中になることを夢見て、竹内さんは日々活動を続けている。

写真:好きな言葉「ビジョン」

(公開日:H26.11.25)

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