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子どもも大人も、遊んで育とう!
子どもも大人も、遊んで育とう!
自由な遊びを通して、子どもたちのチャレンジ精神を支援したいとスタートして18年。2022年からは、前任者からバトンを引き継いだボランティアメンバーたちが活動に取り組んでいる。子どもたちのために、保護者のために、そして自分たち自身のために、心を一つに前進を続ける想いを聴いた。
【子どもの遊び場を考える会 赤とんぼ】
2005年、子どもたちが自分の責任で自由に遊ぶ、「プレーパーク」を提供するボランティア団体として活動を開始。少子対策・子育て支援において優れた取組のあった団体等を表彰する「ひょうご子育て応援賞」を受賞するなど精力的な活動を続けていたが、2021年3月、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け活動を休止。2022年4月、代表者をはじめ運営メンバーの世代交代と共に、活動を再開した。
「やめてしまうなんて、もったいない!」
芝生の広場に響く、子どもたちの元気な声。2022年4月16日、子どもの遊び場を考える会 赤とんぼ(以下、赤とんぼ)のプレーパークが、活動休止から約1年ぶりに帰ってきた。
新型コロナウイルス感染症の拡大により、2021年3月に活動を休止。それを機に赤とんぼの運営は、創設者である前代表の森正枝さんから新代表の赤木友香さんと新メンバーに引き継がれることになった。
「やめる選択肢もあったんです。でも、前代表や前メンバーの方々がゼロから立ち上げられ、16年もの年月をかけて活動を地域に根付かせてくださいました。やめるのは、それらをすべて無に帰してしまうこと。ここまでつながってきたものを途切れさせてしまうのは、すごくもったいないと思いました。私に代表が務まるのかという戸惑いより、活動を無くしたくない気持ちの方が強かったんです。」と、2022年4月から新たに代表を務めている赤木さんが語る。
継承した新メンバーたち全員が、「無くしてしまうのは、もったいない」と感じた赤とんぼのプレーパークとは、どんな活動なのだろう。
自由に遊べる空間ほど、楽しいものはない
赤とんぼのプレーパークとは、子どもたちがやりたいことを見つけてチャレンジする、自然の中の遊び場。大人が考えたプログラムではなく、子どもたちが「自分の責任で、自由に遊ぶ」ことが基本だ。雑木林での鬼ごっこや木登り、金づちによる工作や、段ボールを使った坂滑りなど、ちょっとスリルを感じる遊びも楽しめる。
「今の子どもたちは、外で遊ぶ機会があまりありません。屋内で遊びを提供され、大人の目に守られながら育っているケースが多いように感じます。私が幼かった頃は、ちょっとしたケガもしたけれど、思い切り自由に遊べる楽しさがありました。プレーパークにやって来る子どもたちも、みんなすごくいい顔をして帰っていきます。」と赤木さんが話す。
時には、それぞれの小学校へ入学した子どもたちが、同窓会のようにプレーパークへ集まってきたり、里帰りをきっかけに参加した母親が「たつの市って、いいところだったんだ」と、地元の良さを再認識することも。最近は、SNSを通じて知った市外や県外の人たちが訪れる機会も増え、参加者が100人近く集まる活動日もある。
「休止が決まった時、『寂しい』『また来たい』って、子どもたちがたくさんのメッセージをくれました。その想いに応えたかったんです。」と話すのは、社会人リーダーの一人、船引春菜さん。
こうしてメンバーたち自身もプレーパークの必要性を感じるのは、子どもたちの変化を目の当たりにしてきたからだ。
子どもたちの心も育つ、プレーパーク
「今日ははるちゃんいる? はるちゃんに会いに来たよ。」
今も船引さんの思い出に残る少女がいる。自分の気持ちをあまり口にしなかった彼女が、船引さんとの時間が増えるにつれ、学校での様子や悩みを話すようになり、活動中に作った工作をプレゼントしてくれるまで、心を開いてくれた。
「今は、異年齢の人と関わったり、年上の友だちをつくったりする機会が少ない。プレーパークのように、年齢に関係なく遊べる関わりや、誰かのために何かをしたいと思う気持ちを持つことって、すごく大事だと思っています。」
一方、赤木さんも子どもの変化を感じていた。
「行動にちょっと落ち着きがない、乱暴なところがあるなど、一見、問題行動と思われることでも、その背景には理由があります。心の動きに目を向けて行動の理由を受け止め、寄り添い続けることが大切。『自分を受け止めてもらえる場所』だと子どもたちが気づけば、行動が落ち着き始め、表情も変わっていきます。例えば、自分中心にしかふるまえなかった子どもが年下の友達に優しくなったり、保護者が我が子の変化に安堵したりする様子を目にすることが、すごくうれしいんです。」
そんなプレーパークは、参加する親子だけでなく、受け入れる側のメンバーたちにとっても、必要な場所になっている。
そこは、大人にとっても「居場所」だった
プレーパークは、家や職場で過ごす自分とは、違う自分でいられる新しいコミュニティ。「自分はこんなことができるんだ」「こんな対応もできるんだ」と、新しい自分を見つけられる場所だと話す赤木さん。
スタッフの一人、田中友貴さんも「学校や職場、家庭という枠を超えた場所です。楽しい、面白いという理由だけで、モチベーションを保って活動ができます。」と共感する。
一方、中森柊一さんは「自分の居場所」だと言う。1年前、大学を辞め地元に戻ってきたが、体調を崩し笑顔も少なくなっていた時期があった。そんな時、「プレーパークへ手伝いに来てくれる?」と声をかけられた。
「子どもたちの相手になることは、そんなに得意じゃなかったんですが、準備を手伝うくらいならできるかなと……。でも、メンバーたちと仲良くなるにつれ、子どもたちとも遊べるようになっていきました。」
今では笑顔も取り戻し、子どもたちから「しゅーちゃんがいるから遊びに来た」と慕われる存在になっている。
そんな中森さんの話を受け、「ここは子どもたちだけでなく、我々メンバーも受け入れてもらえる場所だから。」と話すのは中森泉さん。前代表からかけられた「ありのままの、あなたでいいのよ」という言葉に救われ、プレーパークが第二の故郷のような場所になったと言う。
「世間では『受け入れ合おう』『認め合おう』と言われますが、その一方で常に評価され、誰かと比べられ、反省点を指摘されて、今のあなたのままではダメだと言われながら生きている気がします。ありのままの自分を受け入れてもらえる場所は、大人にこそ必要なのかなと感じます。」
引き継ぐことの難しさを感じることもある。それでも、活動の休止を経験したからこそ、一人ひとりが活動を守り続けたい想いを新たにしている。
「ありのままのあなたでいい」を引き継いで
「つい、継承前の活動と比べ、足りていない部分を感じてしまう。目指したいけれど追いつけない。焦りを感じてしまうこともあります。」
赤木さんは、継承への戸惑いを口にする一方、「『自分が自分のままでいていいんだ』と思ってもらえる場所をつくり続けたい。」と、目指す方向もはっきりと見据えている。
「子どもたちは自由に遊びたいし、自由に成長したいんです。でも、おとなに気を使っていたり、『こうしなくちゃいけない』という枠の中で生きていたりします。自由に過ごし方を選べ、心ゆくまで自分のペースで遊ぶことができる時間と場所を提供することが、プレーパークの役割だと思っています。」
一方、保護者にとっては、至近距離で向き合ってきた我が子を、一歩下がった場所から少し広がった視野で見守ることで、「あんな風に笑うんだ」「初対面の人とあんな風に関わっていくんだ」と、我が子の成長ぶりに気づくことができるという。
「それが、子育て中の心のゆとりにもつながります。保護者が100人いれば、100通り以上の子育てがあるはず。『それでいい』と受け入れ、子どもも保護者も『ここなら大丈夫』と安心できる居心地のいい場所でありたい。」と話す赤木さん。
「ありのままのあなたでいい。」
伝え続けた前代表の想いは今、「赤とんぼ」の想いになっている。
(取材日 令和5年8月20日)