「なんかいいやん」を掘り起こし、伝えていく。
――“DJ”とまちづくりって似てる、かも。

すごいすと
2026/09/25
岩本卓也さん
(45)
兵庫県加古川市
「Factory No.079」「ROOM2 COFFEE & ROASTERS」「SOULPOT RECORDS」「NEW BUILD」オーナー/DJ
個人紹介

兵庫県加古川市出身。生まれ育った地元でセレクトショップ「Factory No.079」、カフェ「ROOM2 COFFEE & ROASTERS」「SOULPOT RECORDS」、レストラン「NEW BUILD」を展開。GREENWORKS名義でDJとしても活躍し、音楽レーベル「SOULPOT RECORDS」を主宰。バイヤーとして海外を、DJとして国内各地を飛び回りながら、加古川を各地に発信している。

“何もない”町で、自分の「好き」を探し続ける

「出身はどこですか?」と聞かれて、神戸市以外の市町なのに「神戸の方です」と曖昧に答えた経験、あなたにはないだろうか。観光地など全国的に知名度が高いエリアでなければ、説明してもわからないだろうと“神戸の方”で逃げてしまうのは、県民あるあるの一つかもしれない。しかし加古川には、ニューヨークでも東京でも「私の出身は加古川です」とまっすぐに伝える人がいる。それがセレクトブランド・レコード・アート作品・書籍などを扱う加古川のセレクトショップ「Factory No.079」のオーナー・岩本さんだ。自身もDJとして全国を飛び回りながら、地元を誇り発信し続けてきた。

今の岩本さんのルーツは中高生の頃に興味をもったスケートボードだ。当時の加古川はやんちゃな若者も多く、「高校生になったらバイクに乗るか、スケボーに乗るかの2択の世界。僕はかっこよくてモテそう、という理由でスケボーを選んだんです。結局モテませんでしたけど(笑)」と軽妙に語る岩本さんは、技を磨こうとスケートボードのプレイ映像を見ているうちに、パンク・ロックやハードコア、ヒップホップなどBGMに強く惹かれるようになった。ピアノ教師だった母親の影響で自宅には多様なジャンルのレコードがあり音楽が日常生活の一部だったが、スケートボードのプレイ映像のBGMを通してDJという職業があると知り「レコードって聴くだけじゃないんだ!」と衝撃を受けた。

スケボーからDJカルチャーへ、そしてストリートファッションへ。数珠つなぎに“好き”が広がっていく中、大学在学中に「好きなファッションの世界に最短距離で飛び込みたい」と地元の馴染みの古着屋さんで働き始めた。旅費は自分で出すからとオーナーに頼み込み、アメリカへの買い付けにも連れて行ってもらった。大学卒業後は就職した方が良いと言われたが、頼み込んでアルバイトのまま働き続けた。ようやく一人でアメリカへの買い付けにも行けるようになった頃、オーナーから閉店するつもりだと打ち明けられた。岩本さんが27歳のときだった。

「良い機会だし、自分で店を持とうと決心したんです。当時は都会に出たいという思いが強く、大阪や三宮で物件を探し始めたのですが……何件回っても自分の条件に合う物件に出会えない。その日も物件探しの帰りでしたが、ずっと勤めていた古着屋の前を通りかかったところ大家さんとばったり会って『いい物件がないなら、この場所でもう一度お店やってくれへん?』と言われて。確かに広さや形など条件にぴったりなんです。“加古川”という立地以外は……。正直、加古川かぁ〜という思いもありましたが、ここでやってみるのも面白いかもと古着屋の場所を引き継いで『Factory No.079』をオープンしました」

店名にある「079」は加古川市の市外局番。「“加古川を背負う店になる”という思いを込めて」と岩本さん

ところが理想と現実のギャップに苦しむことになる。アルバイト時代と違って1日中店にいるが、お客さんが来ない。店の前を通りかかる人さえいない。ストレスで大きな円形脱毛症がいくつもできた。しかし、渡米しての買い付けはやめなかった。「アメリカの古着だけでなく、現地の空気感も一緒に持ち帰り、それを地域の人たちに届ける。やっていることに間違いはないという確信はあった」と当時を振り返る。SNSがない時代、自分と同じように古着やストリートファッションなどに興味を持っている人に店の存在をどう知ってもらうか。“何もない”町に人の流れをどう生み出すか。その突破口になったのが、スケートボードをきっかけに興味を持った「DJ」だった。

掘り起こす、探す。その過程で出会うすべてが“宝”だった

岩本さんがDJとしてはじめてターンテーブルの前に立ったのは17歳のとき。隣町のライブハウスでバンド演奏の合間にDJとして場をつないだ。自分のプレイでフロアにいる人々が盛り上がる様子にしびれた。

「誰もが知っている音楽で場を盛り上げるだけでなく、その場にいる人が知らない曲をかけると『さっきの曲、すごく良かった』『誰の作品?知らなかった!』とお客さんが反応してくれるんですよね。僕の選曲をきっかけにお客さんのムードが変わったり、新たなアーティストやジャンルへの興味が広がったりしていくーーこれってすごいことだって思ったんです」。その楽しさに夢中になり、学生時代も古着屋で働きながらDJとしての活動を続けた。いつしか全国につながりができ、各地のイベントやクラブに呼ばれるようになっていた。

「DJとして呼ばれるとたいてい普段は何をしている人なのか聞かれるんです。独立して苦しかったときに『店の場所を簡単に動かすことはできないけれど、自分は動き回ることができるな』とふと思ったんですよね。つまり、僕がDJとして動きながら、広告塔になって全国に発信していけばいいんじゃないかって」。自分の店だけでなく、そこで発信しているカルチャー、加古川という町で自分が好きでやっているイベントなどを全国に発信していく。DJとして人々に知らない音楽との出会いを提供するように、いろいろな場所・人に『Factory No.079』や加古川とのつながりを提供する。それが岩本さんの活動の指針になった。

東京をはじめ日本全国で、さらに海外でも「加古川でお店をやっています」と発信を重ねるうちに少しずつ店を知る人が増え、各地から「ちょっと来てみたよ」と人の流れが生まれ始めた。「こんな面白い店がなぜ加古川に?」と注目が集まるようになった。地元の若い子も立ち寄ってくれるようになった。加古川の人の流れが少しずつ変わってきた、そう思えたのは独立して5年目のことだった。

現在の「Factory No.079」には膨大な数のレコードが並んでいる。欲しいレコードを探すために一枚一枚めくって見なければならず、時間がかかる。だが多くのDJが当たり前に行うこの「探し当てる」作業こそ、レコードの楽しみ方の一つだと岩本さんは話す。

「今は何でも、目当てのものはネットで探してポチッとすれば簡単に買える時代。こうやってアナログで“ディグる(一枚一枚めくりながら探し当てる)”やり方って、コスパやタイパは悪いかもしれません。でも、探しながら寄り道をすることで『うわ、このジャケットのデザインかっこいいやん』とか『あれ、このアーティストの名前見たことあるな』とか思わぬ発見があったり、妙に興味を掻き立てられたりして、自分の世界が広がっていくんですよね。レコードは偶然の出会いという素晴らしい“宝”の山。この“ディグる”感覚は、加古川の面白さを誰かに伝えていく作業と似ているかもしれません」と岩本さんは熱く語る。

一枚一枚めくりながら目当てのレコードを探す作業は、遠回りかもしれないけれどそこで意外な発見がある。店を訪れた若者にはぜひたっぷり時間をかけて“ディグって”ほしいと伝えているそう

世界と加古川の“ギャップ”がおもしろい

「Factory No.079」の奥にあるDJブース。その背後に描かれたロゴは、実は著名なグラフィティライター・ZENONE氏によるものだ。

岩本さんは「何もない町と思いきや、ビッグネームのアートが自然にある。神戸とか東京にあったら普通かもしれないけど、えっ!加古川に!?っていうギャップがあって面白くないですか?」と笑う。その信念は、アルバイト時代のアメリカへの買い付けのときからずっと変わらないーー“自分がいいなと感じた本物を、加古川へ”。古着を買うだけなら渡米せずとも業者に依頼すれば手に入る。しかし現地でどんな音楽・ファッションがアツいのか、どんなカルチャーが盛り上がっているのか、どんなアートが注目されているのか。自分の目で、耳で、肌で得た「いいな」と感じた本物をお店に並べたい。そうすれば「若い世代がわざわざ地元を離れなくていいのでは」という思いがあった。

実際に店は、第一線で活躍している加古川出身のアーティストたちの作品に触れられるギャラリーとしても解放されている。「グローバルに活躍している彼らの中には『自分は加古川を捨ててしまった人間やから』とどこか自嘲的に話す人もいて……。そんな人たちと加古川で今を生きる若い世代をつなぎたいと始めた取り組みです。若い世代に本物に触れて心を動かしてほしい。なんでもスマホで調べて知った気になるのではなく、自分の五感で判断できる人になってほしい、と店で働く仲間や出会った若い子たちにはいつも伝えています」と話す。

岩本さんの野望は、「兵庫といえば、加古川。」を世界レベルで当たり前にすることだ。その試みはすでに始まっており、実際に世界的アーティストを加古川に招いてイベントを行う際のポスターに「東京/大阪/札幌/名古屋/加古川」と記載したところ、世界中から「KAKOGAWAはどこにある町だ!?」と問い合わせが相次いだこともあったという。「加古川と世界の“ギャップ”の面白さは、この町ならではの魅力。そういう意味では加古川にはまだまだ面白がれる余白がたくさんあるはず」と胸を張る。

店には地元の若い子も多く訪れるようになった。「ここで音楽やカルチャーに触れてDJをしたいという子に教えることもあります。中には全国的にビートメイカーとして活躍するようになった子もいて、ここでの出会いがきっかけになっていたなら嬉しいですね」と岩本さん

DJとまちづくりって似てる、かも

“セレクトショップ”というスタイルを超え、カルチャーを発信し、新たな加古川を模索しようとする岩本さんと地元の仲間たちの活動に、若い子たちが「自分も何か関わりたい」と集まり始めた。料理が得意な人、コーヒーの焙煎家など、それぞれの得意を発揮してチームの輪が広がった。2016年2月には地元の仲間と飲食店をオープン。2021年3月には焙煎所を併設したカフェを立ち上げた後、地元で人気の洋食屋があった場所に飲食店を移転し「NEW BUILD」としてリスタート。さらに2026年8月にカフェを新たにオープンし、“点から面へ”と活動拠点を広げている。

飲食店「NEW BUILD」で働く姫路市出身のけいしさん。飲食店をやりたいという夢を加古川在住の友人に話したところ「面白い店があるから絶対ここがいい」と教えてもらったそう。「岩本さんと僕は20歳違いますが、レコードやカルチャーなどたくさんのことを教えてもらって世界がぐんと広がった。フェスやイベントの開催などを通して『加古川を目的地にする』活動を、これからも楽しんでいきたいですね」

「Factory No.079」で働くえびちゃんは、徳島県出身。「ローカルだけど、カルチャーがある」加古川に魅力を感じたそう。もともと大学生の頃からDJをアルバイトでやっていたえびちゃんは「カルチャーとは生活そのもの。着るもの、聞く音、すべてがカルチャーとは切り離せないと思います。この店からいろいろなカルチャーを伝えていきたいと思っています」と語る

焙煎所を併設した「ROOM2 COFFEE & ROASTERS」。店舗の内装も仲間たちで楽しみながらつくり上げるのが岩本さん流

岩本さんは「DJとは“場をつくる”仕事だ」と話す。にぎやかに盛り上げたり、リラックスできる心地よさを演出したり、ムーディな雰囲気にしたりと、DJの腕次第でその場の空気感は変わる。「腕の良いDJは“場をつくる”のが本当にうまくて、例えばお酒の売り上げを桁違いに増やすこともできるほど。ターンテーブル前から、フロアの人たちの様子ってよく見えるんですよ。あのカップルはちょっと良い感じだなと思ったら、ムードのある音楽をかけて背中を押したりね」

DJが音楽でフロアを沸かすように、音楽やファッションなどのカルチャーを通して加古川を盛り上げていく。知られていない音楽を掘り起こして発信していく楽しさは、町にずっとあった個性豊かな仲間やその人たちの表現したいことを発掘し、皆にシェアしていく楽しさにも通ずるものがある。

「あくまで自分の感覚で『一緒にご飯食べる場所があったら楽しいだろうな』『こんなイベントやったら面白そう』がベースにあって、それに共感してくれた仲間が自分の意思で巻き込まれてくれている。その渦が広がって多様な居場所が増えたり、イベントに参加してくれる人が増えたり、ギャラリーでの個展やイベントに参加しようと市外の人が興味を持ってくれたりしています。この場をハブにして加古川と世界が交差し、それに刺激を受けた若い子たちが自分の視野を広げるきっかけになっていたら、僕もめちゃくちゃ嬉しいですね」

取材・文 おきゆきこ

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