NPO法人 たじま海の学校 副代表

すごいすと
2015/02/25
今井ひろこさん
(46)
兵庫県香美町
NPO法人 たじま海の学校 副代表
美方郡美方町・村岡町、城崎郡香住町の3町が合併して誕生した香美町。京丹後市から兵庫県の但馬海岸を経て鳥取市に至る山陰海岸ジオパークのほぼ中央に位置し、地質や地形から大地の営みを見ることができる。

大阪に生まれ育ち、播磨町の大手化学会社に勤務していた今井ひろこさんは、趣味のダイビングを通じて、香美町在住の今井学さんと知り合った。毎週末のように香美町に通ううち、意気投合した学さんとともに日本海の環境保全活動に携わるようになる。

平成19年、NPO法人「たじま海の学校」を二人で立ち上げ、その活動を本格化。翌年には学さんと結婚して、香美町に移り住むこととなった。

写真:NPO法人たじま海の学校副代表今井ひろこさん全身写真

香住の海に魅せられて

大阪の大学を卒業後、大手化学メーカーに就職した今井ひろこさんは、研究員として加古郡播磨町で働いていた。精密化学品の研究に没頭する日々が続く中、仕事から離れて気持ちを解放させてくれるのは、趣味のダイビングだった。

ほぼ毎週末、明石市内の住まいから和歌山の海に通っていた今井さんは、ある時、後に夫となる学さんが経営するダイビングスクールのインストラクター募集広告を見つけ、県内にも潜れるスポットがあることを知る。それ以来、週末の行先は和歌山から香美町へと変わった。

潜る回数を重ねる度に、透明度の高い香美町の海の美しさに魅かれるようになった今井さん。平成16年秋の豊岡水害による海岸漂着物の清掃活動がきっかけとなって、その美しい海を守り、次世代に引き継ぐ活動を行うようになった。こうして、趣味として始めたダイビングから環境教育活動へと、今井さんの軸足が移っていった。

写真:拡声器を手に説明をする今井さん

海岸清掃活動を行う今井さん。左隣が学さん

平成19年、海の清掃や磯観察教室などを通じて、自然環境保全や環境教育活動を行うNPO法人「たじま海の学校」を学さんと共に立ち上げる。その翌年、学さんと結婚し、17年間勤めた会社を退職して香美町に移住した今井さんは、インストラクターをしながら、同法人の運営に本格的に取り組むだけでなく、人手不足から夫の実家である民宿も手伝うこととなった。

写真:スキューバダイビングで海中のゴミを集める

ビーチクリーン 海中の清掃作業

写真:子ども達に海で拾ったゴミを見せている

たじま海の学校 環境学習の様子

ジオパークという居場所

民宿では10人分の賄い料理や接客係の仕事を任された。多人数の料理を作った経験が無く、なかなか慣れない接客係の仕事。それらをやり遂げたいという思いと、これまで積み重ねてきたキャリアが全く活かせない辛さとの間でジレンマに苦しむ中、「ここには自分の居場所がない」と感じる気持ちが次第に強くなってきた今井さん。

さらに平成22年春、今井さんと一緒に潜っていたダイバーが死亡する事故が起きた。インストラクターとしての落ち度こそなかったものの、この事故に大きなショックを受けた今井さんは、ダイビングの仕事を休止して部屋に閉じこもりがちになる。何とかしなくてはと精神的に追い詰められた。

表情からは笑顔が消え、「このまちを出て研究職に戻ることも考えている」と離婚さえも口にするようになった今井さんに、学さんは真摯に向き合い、共に生きていくための道を模索した。

そんな頃、香美町がジオパーク推進員を募集していることを知った。山陰海岸ジオパークの魅力を地域内外に伝えていく仕事だ。地域の観光振興に携わることは民宿の経営にも役立つし、ダイビングインストラクターとしてネイチャーガイドをしてきた経験も活かせると、学さんの勧めに背中を押され、今井さんは応募することを決めた。

山陰海岸ジオパーク

ジオパークとは、科学的に見て特別に重要で貴重な、あるいは美しい地質遺産を含む自然公園。山陰海岸ジオパークは、京都府(京丹後市)、兵庫県(豊岡市・香美町・新温泉町)、鳥取県(岩美町・鳥取市)にまたがる東西約120㎞のエリアが対象で、日本海形成から現在に至る様々な地形や地質が存在し、それらを背景とした生き物や人びとの暮らし、文化・歴史に触れることができる。詳しくはこちら

平成22年にユネスコが支援する世界ジオパークネットワークに加盟が認定され、昨年は4年に1度の見直しを受けて再認定された。

現在、日本では7つの地域が世界ジオパークに登録されている。

写真:棚田の風景。初夏の美しい緑が広がっている

うへ山の棚田
「日本で最も美しい村」に登録されている香美町小代にある棚田は、ジオパークのエリア内にある。

 

こうして平成22年8月、香美町のジオパーク推進員として仕事を始めた今井さんだったが、それまでは自分が暮らすまちを「何も無いただの田舎」だと思っていた。

しかし、活動を続けていく中で、豊かな気候風土、美しい海とそれらに育まれた地元の食材などについて知識を深め、地元の人たちとの交流を重ねていくうちに、彼らにとっては当たり前のものでしかない地域資源の中に、たくさんの宝物が埋もれていると感じるようになった。

「十分に生かされていない資源や力がこのまちにはたくさんある。他所から来た者だからこそ分かる『まちのよいところ』を地元の人にも認識してもらって、自分たちの住むまちに誇りを持ってもらいたい」

元々明るい性格で、人前に出ることも好きな今井さん。ジオパーク推進員としての活動の中に、ようやく自分の居場所を見つけることができた。

写真:5名の観光客を案内中

観光客にジオパークを案内する今井さん夫妻

今井さんは仲間とともに、平成24年度から「たじま海の学校」の活動として、観光資源の再発見とリピーターの増加を図るため、地域の歴史や伝承を紹介する観光ガイド「香美がたり」の養成やガイドブックの作成に取り組んでいる。このガイドブックは、地元の住民や学校などにも配布しており、地域住民が地域の魅力を再認識するきっかけにもなっている。

写真:作成されたガイドブック

但馬を元気に

町の推進員としてジオパークのPRに携わってきた今井さんだが、但馬全域に知人や友人ができるにつれ、活動の場を町の中だけではなく、もっと広げていきたいと感じるようになってきた。

地域活性化を進めていくためには但馬全域を視野に入れた活動が必要だと考えた今井さんは3年8ヶ月勤めた役場を退職して、昨年春、県の女性起業家支援事業の補助を受けて起業し、豊岡市内にオフィスを構えた。

「地域の企業を元気にして雇用を増やし、若い人にUターンしてきて欲しい」と、ジオパークの情報発信で培ったノウハウを提供しながら、地元の企業や商店、宿泊施設のホームページや販促物を通じた「伝える力」を底上げする手助けをしている。これまで交流がなかった事業者同士の仲立ちをすることも多い。

ジオパークのインタープリター(翻訳者)として、自然や歴史的遺産の魅力を来訪者に分かりやすく伝える仕事をしてきた今井さん。現在では事業者間のインタープリターとしても活躍の幅を広げている。

写真:オフィスでの今井さん

地域と事業者をサポートしたいと豊岡市に開設した事務所

温故地新

今井さんの好きな言葉は「温故地新」。「昔の物事を研究することで新しい知識や見識が得られる」という故事成語の「知」を「地」に置き換えた造語だ。

悠久の歴史の流れの中で育まれた地質や地形、そしてそれらを背景とした人々の文化や暮らしを温(たず)ね、また訪ねてもらうことで、地域に新しい活力が生まれる。この信念に基いて全国各地の講演会に赴く今井さんは、ジオパークが地域を活性する大きな切り札になることを訴え続けている。

昨年、山陰海岸ジオパークは世界ジオパークネットワークへの加盟が再認定された。自然保護だけでなく、教育プログラムの実践や地域振興にかかる活動全体の価値が認められてのことだっただけに、地域は大いに沸き立った。

「これからも地域の人たちの意識に働きかけ、まちと人が元気になるよう全力でバックアップしていきたい」と今後の活動に意欲を燃やしている。

写真:好きな言葉温故知新とともに。

(公開日:H27.2.25)

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