互いを知ることが多文化共生
外国人を“外国人”と呼ばない街へ

すごいすと
2023/01/06
河嶋栄里子さん
(58)
兵庫県小野市
NPO法人小野市国際交流協会 副理事長

個人紹介

河嶋栄里子(かわしまえりこ)58歳。昭和39年、愛知県生まれ。結婚を機に、夫の故郷である小野市へ移住。家業を手伝う傍ら、平成19年から、小野市国際交流協会にボランティアとして参加し、活動をスタート。平成23年、協会のNPO法人化の後、平成28年に副理事長に就任。主に小野市内に暮らす、外国人住民やその子どもたちをサポートする事業に取り組んでいる。乳幼児期から成人まで、外国にルーツを持つ子どもたちの成長過程を、一貫してサポートができるシステムづくりを目標に、令和4年、小野市初の「多文化共生マネージャー(*)」、また、「やさしい日本語」の認定講師を取得。小野市教育委員、保護司としても活動中。

*多文化共生マネージャー:外国人住民が安心して生活を送るため、地域交流の促進や国際化の推進など、多文化共生社会実現に向けての活動の役割を担う。

小野市在住の外国人住民は1,141人(令和4年11月末現在、小野市統計より)。ベトナムやインドネシアから来日する技能実習生が年々増加していると言います。そうした外国人住民が地域に溶け込み、安心して暮らすためのサポートを行うNPO法人小野市国際交流協会(*)に、外国人たちから「お母さん」と呼ばれる女性がいます。副理事長を務める、河嶋栄里子さんです。外国人の子どもたちの家に行き、話を聞いたり、高齢者の病院手配や介護保険の手続、時には看取りにまで寄り添ったり、ボランティアとして支え続けています。外国人ではなく、地域住民として共に暮らせる街をつくるため、大切なのは「お互いを知ること」と言う河嶋さん。活動への想いをうかがいました。

*NPO法人小野市国際交流協会:昭和48年、アメリカのカリフォルニア州リンゼイ市との姉妹都市提携を機に発足したリンゼイ友の会が前身。平成15年、小野市国際交流協会の設立を経て、平成23年にNPO法人化。国際交流事業を通じ、地域住民と外国人住民たちが、共に安心して自分らしく暮らせる多文化共生のまちづくりを目指し活動している。

外国人と触れ合う楽しさを、子どもたちに伝えよう

「小野市で技能実習生として働いていたベトナム人の女性が、ベトナムへ帰国後、日本での就労を希望するベトナムの方々に日本語を教えるようになりました。明日、彼女の生徒たちと、小野市内の日本人中学生たちが、ウェブ会議システムで交流するのが、楽しみで仕方ありません。」
河嶋さんの声が、明るく弾みます。
名古屋市で旅行会社を営んでいた両親のもと、小学生の頃からホストファミリーなどを通じて、様々な外国人の方々と触れ合ってきました。
「言葉や文化、肌の色の違いにこだわらず、同じ一人の人間として仲良くできたことは、とても素晴らしい経験でした。」と振り返ります。

結婚により、愛知県から夫の生まれ故郷である小野市へ移住した河嶋さん。子どもの頃に体験した、偏見に捉われない国際交流の大切さを、子どもたちにも経験してほしいと願うなか、出会ったのが小野市国際交流協会でした。
河嶋さんは参画後、まずは近隣の外国人住民や留学生たちに声をかけ、地域の子どもたちが外国人と出会える場所をつくることから始めました。子どものための国際交流「ふれあいキッズ」と名付けたこの活動は、平成19年からスタート。日本の子どもたちと外国人住民が、豆まきやお花見、クリスマスパーティといった季節の行事や、陶芸、茶道、華道などのワークショップに一緒に取り組むことで、言葉や文化の違いを身近に感じながら交流を深める場として、現在まで毎年開催しています。

「ふれあいキッズ」からスタートした河嶋さんの取組は、教育現場へも徐々に広がっていきました。当時、インドネシアやケニアで国際貢献活動に取り組んでいた、河嶋さんの長女の協力のもと、それぞれの国と小野市の子どもたちが、テレビ電話を通じて交流を重ねる活動を続けるうち、市内の小・中学校から授業の依頼が舞い込むようになりました。現在は「国際理解教育コーディネート」という交流事業として、留学生や外国人住民と一緒に市内の学校へ出向き、多文化共生授業を実施しています。
「英語教育に注目が集まりがちですが、世界には様々な国があり、いろいろな人がいること、いろいろな生き方があることを、まずは知ってほしいと思います。様々な国の人たちとつながりを持つことで視野が広がれば、英語をはじめ外国語にも興味を持つことができますし、子どもたちの進路にも、新しい選択肢が増えるかなと思っています。そして何よりも、子どもたちにはこれからの時代、たくましく成長して欲しいと思います。」と話します。
その他、「子ども日本語教室」の運営も担当。保護者の日本語が堪能でないことも多いため、夏休みや冬休みなどの長期休暇の際には、宿題に取り組む外国にルーツを持つ子どもたちのために、地域住民や高校生、大学生といったボランティアスタッフたちと一緒にサポートしています。

こうした活動を通じ、孤立や偏見にとまどう外国人住民たちの状況に気付いた河嶋さん。「彼らを、地域の人やいろいろな場所へとつなぐ活動がしたい、彼らも小野市でどんどん活躍して輝いてほしい。」と思うようになりました。

子どものための国際交流「ふれあいキッズ」でお琴に触れる子どもたち
市内の小学校で実施した多文化共生授業
「子ども日本語教室」では、ボランティアスタッフが子どもたちの学習をサポートする

まちと人をつなぐ、演劇ワークショップ

「職場と自宅とスーパーマーケットだけの限られた生活圏を、自転車で移動するしかない毎日は、若い技能実習生たちにとって寂しい暮らしだろうと感じました。私が愛知県から嫁いで来た頃の小野市は、田畑が広がる以外、何もない街でした。『大変なところに来てしまった。』とホームシックになり、毎晩泣いていたんです。」
しかし、子どもが生まれ、友だちが増え、行動範囲が広がるにつれ、小野市での暮らしが楽しくなり、心も豊かになっていくのを経験した河嶋さん。当時の自分と技能実習生たちの姿が重なったのです。 「みんなも、あの頃の私のような思いでいるのかな。もし辛いことがあっても、少しでも心豊かに暮らしてほしい。母国で応援している家族のためにも、みんなにとって、小野市が幸せな場所になってほしいと思いました。」
そんな河嶋さんの想いに応えるかのように、始まった事業がありました。外国人住民を対象にした演劇ワークショップ「にほんごであそぼう」です。文化庁と日本劇団協議会の主催による委託事業「やってみようプロジェクト(*)」として、尼崎市の兵庫県立ピッコロ劇団、小野市うるおい交流館エクラ、小野市国際交流協会の3者の協働により、平成30年から続く取組です。
日本の生活になかなかなじめない小野市在住の外国人住民とその家族を対象に、劇団員の指導のもと、様々な生活場面や簡単なストーリーを、やさしい日本語と体を使って表現し合うもの。外国人住民と日本人がお互いに理解し合ってつながりを深め、共生できる地域社会の実現を目指す活動です。
「1年目は、孤立している外国人住民同士が、つながるための場づくりとして開催しました。終了後、参加者同士で連絡先を交換したり、遊びに出かける約束をしたりする姿を見て、やってよかったと思いました。」と、河嶋さんは振り返ります。

2年目は、技能実習生が勤める職場の日本人たちにも加わってもらおうと、当時の小野市役所市民サービス課課長と一緒に企業を回って参加を呼びかけ、一緒に取り組みました。3年目はコロナによる中止を余儀なくされましたが、4年目は、日本語を学ばずに来日する家族や子どもたちのために、「親子の日」を新たに用意。子どもを通じて、家族単位での交流が広がりました。そして、5年目にあたる令和4年は、外国人のコミュニティの中でリーダーと呼べる人も誕生し、その方が声を掛け、たくさんの親子が集まりました。また、外国人住民を応援したいという地域住民たちも積極的に参加し、総勢60人もの人々が集まる活動に成長したのです。
「なかには、不登校になり、引きこもってしまった外国人住民のお子さんが、元気を取り戻すきっかけを手にしたケースもありました。最初は、お子さんを家まで迎えに行きましたが、2回目は自分で自転車に乗って、誰よりも早く来てくれました。劇団員の皆さんとも、仲良くなっていきました。」 こうして「にほんごであそぼう」は、つながりたい外国人住民と、応援したい地域住民たちが集う拠点になり、小野市に多文化共生を根付かせるきっかけを、少しずつ育み続けています。

*やってみようプロジェクト:文化庁および日本劇団協議会の主催により、コミュニケーションワークショップを行う取組。演劇的手法を用いて、周囲とつながりを持つことで、社会課題解決を目指している。

日本語を言葉と体で表現しながら交流を深める「にほんごであそぼう」
「にほんごであそぼう」に新たに設けた「親子の日」で、家族ぐるみの交流が広まった

お互いを知ることで、安心安全な地域が生まれる

ある時、「にほんごであそぼう」に参加していた行政の関係者から、地域の技能実習生たちが「私たちもゴミステーションにゴミを出しているのに、掃除当番に加わらなくていいのだろうか。」と疑問を感じていることを知らされた地域住民たち。実習生たちの真面目な想いを知り、喜んで掃除当番に加えてくれました。地域住民と外国人との相互理解が生まれたことで、共生への一歩を踏み出すことができたのです。
この実話をもとに、市のヒューマンライフグループ(*)が制作した短編動画「かんしん」が、令和2年東播磨・北播磨地区視聴覚教材コンクール社会教育部門で最優秀賞を受賞。多文化共生を学ぶ教材として採用する地域が増え、外国人住民との交流の機会が小野市内で増えていきました。

少しずつ交流が広がっていく中で、河嶋さんが「印象深かった」と語るのが、高齢者たちの変化だったと言います。
「ある時、80代・90代の方々が集まる地域の会合に、ベトナム、インドネシア、インド出身の人たちと参加しました。最初はシーンと静まり返り、緊張感が漂っていましたが、それぞれが自己紹介をして教材のビデオを鑑賞し、グループでの交流に移ると、時間をオーバーするぐらい、高齢者と外国人の皆さんが楽しく盛り上がったんです。」
「実はな、外国の人は何となく怖いと思っとったけど、うちの孫と同じやなあ。」「今度、コーヒーを一緒に飲みに行こか。」と、心がほぐれていく高齢者たちの様子に、触れ合うことで偏見が無くなり、気持ちが変わることを痛感したと、河嶋さんは話します。
また、行政にも変化が表れました。例えば、小野市消防本部では防災や救急現場での対応訓練を、小野市防災センターでは災害時の避難方法を共有する防災交流会を、それぞれ外国人住民と一緒に開催。外国人と日本人が、地域課題について一緒に話し合うケースは全国的にも珍しく、画期的な取組になりました。

一方、変わったのは日本人だけではありません。あるブラジル人家族は、市内の障害者施設で過ごす日本人たちを毎年招待し、母国の手料理をふるまっています。また、地域の高齢者のためにマスクを手作りして贈ったり、着付けてもらった浴衣姿で「おの恋おどり(*)」に参加したりする技能実習生たちなど、外国人住民からも地域へ積極的に関わり始めています。
地域社会に起こり始めた変化を、目の当たりにした河嶋さん。「お互いを知ることが、誰にとっても安心安全なまちをつくること。」と言葉に力を込めます。

*ヒューマンライフグループ:小野市 市民安全部にある組織名

*おの恋おどり:小野市で毎年8月に開催される夏祭り「小野まつり」のメインを飾るトータルダンスイベント

町内会では年配の方々との交流が深まった
小野市消防本部で行われた防災や救急現場での対応訓練

外国人を外国人と呼ばない街を目指して

「外国人の考え方や行動は、日本人と異なる場合もありますが、どれも間違いではありません。『私はこういうやり方だけれど、あなたはそういうやり方なのね。』と、外国人か日本人かではなく、一人の人間としての違いだと認め合い、何かあれば伝え合うことが大切です。私自身、彼らに寄り添いながらも、異国で頑張っている彼らから、学ぶことの方が多いのです。認め合い、伝え合い、学び合う。それこそが国際理解であり、多文化共生。小野市が安心安全な街になるために、地域のみなさんと共有したい想いです。」
想いの共有を目指すなかで、河嶋さんは気付いたことがありました。若い世代と共に取り組む大切さです。
「私の娘は、小学生の頃から私と一緒に『日本語教室』に通い、外国の人たちはどうして日本に来て働いているのか疑問を感じていました。中学生になると、彼らのバックグラウンドを学んだことで関心を持ち、高校時代はカンボジアで活動しました。大学入学後は、アフリカ、インドネシアなどで、国際貢献活動に励むようになりました。そして、先日、小野市が取り組む多文化共生の事例を、東京で開催された『グローバルフェスタJAPAN2022(*)』を通じ、全国に向けて発信してくれました。」
若い世代の発信力と行動力に触れ、その新しい感覚の重要性を改めて感じたと話します。

幼い頃から外国人と触れ合うことで、多文化共生への想いが育まれた河嶋さんの長女のように、小野市の子どもたちにも、交流イベントや取組への関わりを通じて、多文化共生への意識が芽生えるよう、参加を呼びかけています。
「若い方たちには、地元にいる外国人住民たちのことを知り、自分にできることを見つけて、自らの力で行動に移せるようになってほしい。そのためのきっかけづくりが、私たちの役割だと思っています。」
外国人から“ご近所さん”へ。地域に暮らす全員が、同じ一住民として交流し合える社会を目指し、河嶋さんは外国人住民たちに寄り添い続けます。

*グローバルフェスタJAPAN: 外務省、独立行政法人国際協力機構(JICA)、特定非営利活動法人国際協力NGOセンター(JANIC)の共催により、国際協力にかかわる政府機関、NGO、企業などが参加する、国内最大級の国際協力イベント

日本語教室で絵本を読みながら日本語を学ぶ子どもたち
開催の依頼が増え始めている、地域での人権交流会

POWER WORD

いつも心に太陽を

「落ち込むことも悩むことも、神様からのメッセージ。すべて意味があることなのだと、今になってようやく気付きました。」と話す河嶋さん。小野市国際交流協会のメンバーや家族、これまでの人生を支えてくれた、たくさんの人への感謝の気持ちと共に、慣れない異国の地で頑張っている外国人住民の方たちへ、届けたい想いを語っていただきました。

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この記事を書いた⼈
内橋麻衣子