Do-it

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2024/03/29
加西市
Do-it

その地域課題、“ダンス”で解決します!

その地域課題、“ダンス”で解決します!

「子どもでも大人でも、仕事に就いていてもいなくても。耳が聞こえても聞こえなくても、体を自由に動かせても動かせなくても。どんな枠も垣根も越えて、ダンスならつながれる。」

ヒップホップで“Cool(クール/かっこいい)” なDo-it(ドゥーイット)のメッセージに込められた、誰もが暮らしやすいまちづくりへの想いを聴いた。

【Do-it】

子どもや障害者、高齢者など、誰もが抱える社会課題や地域での困りごとを、ダンスを通じて解決を目指そうと、2003年に阿部裕彦さんが設立した任意団体。すべての人の社会参画を目指す場として、ダンス教室やダンスイベントを無償で開催。近年は、医療・教育・経済・福祉をキーワードに、より生活に密着した活動を行っている。2008年「兵庫県くすのき賞」、2012年および2017年「ユニバーサル社会づくり賞」、2017年「内閣府チャイルド・ユースサポート章」を受賞。

手話ダンス大会を通じて福祉+「エンタメ化」

指が歌っている――。2023年9月23日、神崎郡福崎町で開催された、第1回手話ダンス甲子園の決勝大会。Do-itのメンバーであるダンスチーム「ZIGGY.B(ジギー.ビー)」の11人は、『糸』(2001年/作詞・作曲:中島みゆき)の歌に合わせたパフォーマンスを披露。参加した12チームの中で、見事「メッセージ賞」に輝いた。

手話ダンス甲子園とは、福崎町と日本パラファンク協会(*1)が、アートを通じた共生社会の実現を目指して開催した手話ダンス(*2)の全国大会。この連携事業の開催に尽力した一人が、Do-itの代表であり、日本パラファンク協会の事務局長も務める阿部裕彦さんだ。

阿部さんが、ストリートダンスの楽しさに出会ったのは、10代の頃だった。

*1日本パラファンク協会:重度障害があっても参加できるコンテンツをアートで実現し、障害者や家族の社会参画を推進する組織

*2手話ダンス:手話ダンス甲子園の規定内では、歌詞や楽曲のもつ世界観を手話や表情、ダンス、構成などを活用して表現するアートと定義づけている

手話ダンス甲子園に向けて練習を重ねるメンバーたち

ヒップホップで地域に貢献しよう!

「田舎への悶々とした想いや、大人社会の矛盾へのむしゃくしゃした気持ちを発散する手段が、音楽に合わせて体を動かすことでした。ヒップホップやラップミュージックがカウンターカルチャー(*)を想起させるので、自分の中でシンクロしたんだと思います。」

29歳の時、地域交流センターの開設にあたり、活用方法を話し合う市民委員になった。自分にできる地域貢献を探した時、「ヒップホップで地域に貢献するって、むちゃくちゃカウンターカルチャーだ! 大好きなダンスなら、例え壁にぶつかっても、ボランティア活動を続けられる。」と思った阿部さん。

ダンスが市民権を得るには、生活に密着した困りごとの解決が必要だと考え、障害者、子育て世帯、高齢者など、社会での困りごとが多い人たちに寄り添っていこうと決心。2003年、ダンスを通じて社会課題に取り組む市民団体Do-itを立ち上げた。 *カウンターカルチャー:既存の支配的な文化や体制を否定し、それに敵対する文化

キーワードは「NOと言わない!」

Do-itの活動は、主に「障害」「子育て」「介護」の3分野。中でも代表的な取り組みは、障害者を対象にしたダンスによる福祉活動だ。例えば、特別支援学校などでストリートダンスのワークショップを開いたり、全国で初めて障害者が参加する、ヒップホップダンスバトルを開催したりしている。

他にも、障害者が同年齢の高校生や大学生のグループと、買い物や食事を楽しむ体験型の移動支援事業「まちブラ」を実施。一緒に「遊ぶ」時間を過ごすことで友だちになる機会をつくり、共助・互助のきっかけを生み出すことが目的だ。障害者サポートの中でも課題となっている、地方の移動支援システムの構築につなぐことを目指している。

特に個性的な活動が、ヒップホップダンスによる介護予防。その教室に集まったのが、手話ダンス甲子園に出場したダンスチームZIGGY.Bのメンバー、藤川百合子さん、則政敦子さん、𠮷岡和子さんたち福崎町の女性だ。教室への参加をきっかけに結成した、平均年齢64歳のヒップホップダンスチームとして、各地で開かれるワークショップやイベントなどに足を運ぶ。

「あんなに素敵な生き方ができるなら、年を取るのも悪くないと思ってもらうためのグループです。ZIGGY.Bのように体力が落ちても動けることが可視化され、証明できました。この価値観を広げたい。」と阿部さん。

Do-itは、社会的に弱い立場にいる人々が諦めていることを「NO(できない)と言わない」ことがコンセプト。「前向きに、何でもチャレンジしていこう。」という精神が一番の魅力だ。「だから、Do-itは何でもやります。」と話す活動の中には、高校と連携した取り組みもある。

児童たちはダンサーの動きに見入ったり、真似てダンスを踊ったりして楽しんだ
生活支援が必要な障害者と同年代の若者をつなぐきっかけになっている

高校生もダンス! ダンス!

県立高校の教諭である松原未来さんは、高校でのダンス授業をきっかけに、Do-itのメンバーになった。

「新学習指導要領に基づき、ダンスの授業が始まることになったんですが、指導する教師がいなかったんです。思い出したのは、加西市で開かれたダンスイベントを見に行ったとき、ダンスが上手なHiro(阿部裕彦)というダンサーがいたこと。思い切ってダンスの指導をお願いしたんです。」

松原さんの依頼を快諾した阿部さん。ダンス指導の教師として、7年間ボランティアで神戸市内の高校に通った。現在は、松原さんの転任先の高校で、地域の産業や課題について学ぶ「地域未来」授業の講師として、地元の農産物を使った商品開発や、障害のある子どもたちと手話ダンスに取り組む活動をサポートしている。

一方、自分自身もダンサーとして、高校の文化祭でダンスを披露する松原さん。最近は、「自分たちも楽しいことや、好きなことをやろう!」という空気が、生徒たちの間に生まれ始めたと感じている。 こうしたDo-itの活動に、20年もの長きにわたり取り組み続ける阿部さん。その背景にあったのは、3人との別れだった。

ダンスバトルが繰り広げられることもある
振り付けのほぼ全てを自分たちで考えている

「生きたかった」3人に支えられて

阿部さんがDo-itの活動を始めて、数か月が過ぎたある夜のこと。高校3年生の生徒が、ダンスレッスンの帰りに飲酒運転の車にはねられ亡くなった。「Do-itを始めなければよかった。」と悔いる阿部さんに、生徒の両親は「活動を続けてください。」と訴えた。

「生徒は『今まで、こんなことをしてくれる大人はいなかった。』と、ご両親に話していたそうです。18歳の僕が大人へのむしゃくしゃした気持ちを何とかしたくて始めたダンスが、生徒たちとの共通言語に思えて、続ける決心をしました。」

2人目は、ある病気を抱えた小学生だった。病気を理由に市内のダンスレッスンを断られていることを知り、阿部さんが手を差し伸べた。しかし、イベントを目前に体調を崩し、そのまま帰らぬ人になってしまった。

そしてもう一人が、阿部さんの母親だ。障害を抱えた娘――阿部さんの妹の面倒を見ていた中、病に倒れ記憶をほぼ失っても、娘の話にだけは涙を流した。

「夜中も働くほど苦しい生活だったのに、妹に貯金を残していたんです。娘の成長を心配して亡くなるまで泣き続け、自分を捧げた母の人生って何だったんだろう。Do-itに関わった人たちの中には、生きたいのに亡くなっていった方がいました。そんな姿をこの目で見てきたので、この活動は命がけで取り組まなくてはダメなんです。」

そう話す阿部さんには、かなえたいミッションがあるという。

Do-itは、共に生きる希望

「障害者の互助のための、社会システムを作りたいんです。」

障害者のサポートサービスは「公助」が中心。子育てのためのファミリーサポートや、介護のためのワンコインの生活支援サービスのように、民間やNPOセクターが支援に参画し、周囲の人たちも障害者を支える「互助」を実現することが目標だ。

そのためには、「障害者自身が友だちを持つことや、互助によって豊かになる社会を体感する機会をつくることが必要。」と話す阿部さん。手話ダンス甲子園のような、福祉イベントを経済活動に活かす事業を取り入れることを提案したいという。

「手話ダンス甲子園には、300人の収容会場に1500人の来場希望者が集まりました。エンターテインメントにすることで、福祉の持つ独特の壁を感じさせず誰でも参画しやすくなったんです。エンターテインメント性を活かして、互助への気づきを障害者から発信し理解を深めてもらうことで、障害者サポートへの民間サービスの参入機会を増やしたい。互助の精神が地域に浸透すれば、他人の幸せを考えたサービスを作ることができます。これを経済活動につなげることで、経済性も社会の幸福度も高まるというのが、私の考えるモデルです。」

手話ダンスの発祥地となった福崎町でモデル化し、兵庫県へ、さらに日本全国へ、互助システムを広げたいと語る。

「社会的に弱い立場の方にとって、一緒に生きる人がいるという希望になりたい。」

Do-itへの想いは、20年の時を経てますます熱を帯びている。

たくさんの子どもたちが仮装して特別な夜を楽しんだ
ろうあ協会や手話教室の協力のもと、手話ダンスの振り付けが考えられている

(取材日 令和6年1月31日)

3つの活動ポイント

  1. 主に「福祉」に関わる地域課題の解決を目指したまちづくりに取り組んでいる
  2. ダンスをイベントだけでなく、生活に密着した活動として提供している
  3. 「できない」「行けない」など「NOと言わない」精神で、どんなことにもチャレンジしている

Do-itの
ここが好き・いいところ

代表

阿部裕彦さん

Do-itでは、教育や環境問題にも取り組んでいます。障害者を兄弟姉妹に持つ子どもたちのために、携帯電話を開放して悩みの相談相手になったこともあります。子育て支援の企業協賛イベントでは、はばタンの着ぐるみを1年で28回着た年もありました。
また、子どもたちでキッズダンスチームをつくって高齢者施設を訪問したり、ストリートダンスを楽しむ中高生たちで道路清掃を行うこともありますし、彼らに一流ダンサーたちのダンスを見せてあげたくて、ダンスアートイベントも無料開催しています。
このように、僕にとってDo-itは、社会課題を解決するための一番広くてでっかい間口を持つプラットフォーム。入れ物(活動分野)がたくさんあるので、地域課題を何でも拾い入れて解決の糸口を見つけ、社会にくさびを打って不特定多数の人に普及したいと思っています。

メンバー

松原未来さん

私自身もダンス歴は長く、Do-itのイベントではスタッフとして活動しています。ダンスイベントには、この田舎まちにも関わらず、世界一の称号を持つようなすごいダンサーがやって来るんです。すべて阿部さんと親交のある人たちだということに、最初は驚きました。
昨年、私が高校の文化祭でダンスを踊ったら、今年は先生と生徒が一緒にバンドを組んで出演されました。ダンスや音楽を通じて、先生と生徒の距離が近くなったおかげで、自分たちの楽しいことや好きなことに、素直に取り組める空気が生まれているのかなと思います。
教員という仕事柄、学校関係者以外の方々と触れ合う機会が少ないため、私にとってDo-itは社会との唯一の接点です。活動を通じて社会問題などを勉強する機会をいただけるので、とても大きな存在でもあります。学校現場とのパイプ役になり、教育分野の間口を広げることができればと感じています。

メンバー/ZIGGY.B

藤川百合子さん

介護予防のストレッチ体操から始まり、だんだんハードルが上がってダンスになりました。
ZIGGY.Bは、2018年に活動を開始し6年目になります。60歳にならないと入れないチームなんです(笑)。週に1度のレッスンの他、2、3か月に1度はイベントに出演します。全国へ出かけるんですよ。この間は、渋谷の中心にあるクラブにゲスト出演し、手話ダンスを披露してきました。ヒップホップの聖地といわれる場所だということも、同じステージに本場のプロダンサーが立っていたことも知らないままでしたが、楽しませていただきました。
ZIGGY.Bを通じて、引きこもりがちな同年代の方に「元気を出そうよ」「人生を楽しもうよ」と、メッセージを送ることができたら……。私自身が楽しく生きていることで、まわりの同世代の人たちにも元気になっていただきたいんです。

メンバー/ZIGGY.B

則政敦子さん

ダンス教室を通じて阿部さんと知り合えたこと、一緒に踊る仲間がたくさんできたことで、自分の中に毎日を楽しむ余裕が少しずつ生まれてきたと感じています。子どもたちに水泳の指導をしていますが、子どもたちや、子どもに関わってくださる保育士の先生方に向き合う私自身の気持ちも、ダンスのおかげで前向きに変わってきたのかなと感じているんです。
また、自分が毎日を楽しめていることが、他の人にも伝わっている実感もあります。近くに暮らす同年代の友だちの中には「こんなことを始めようと思う。」と話してくれる人もいます。私はダンスが好きだからZIGGY.Bで活動していますが、好きなことに取り組むきっかけが、知人たちにも広がっていることがうれしいんです。
この出会いがあったから、私は成長できました。周囲のみんなにもいい影響が伝わっていることに、喜びを感じています。

メンバー/ZIGGY.B

𠮷岡和子さん

ZIGGY.Bの仲間、10人から元気をもらっています。
一度、腰を骨折したことがあるんです。入院していた2か月間、毎週水曜日になるとみんながビデオレターを送ってくれていました。それを目にするたびに、「絶対に頑張って、もう一度ダンスができるようにならなくては!」と思ったものです。「仲間の力って、なんてすごいんだろう。どれだけ力を与えてくれるんだろう。」と感動しました。
最近は、「こっちが痛い」「あっちが痛い」と、年齢的な体の衰えも多少は感じていますが、「ダンスが楽しい!」という気持ちで少しずつ克服し、これからも踊り続けたいと思っています。

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この記事を書いた⼈
内橋麻衣子