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自分たちの地域は、自分たちでつくろう!
世代を超えてふれあえる地域コミュニティ
自分たちの地域は、自分たちでつくろう!
世代を超えてふれあえる地域コミュニティ
平成29年4月、住民自治の推進ならびに、地域と行政による協働体制の強化を目指し、豊岡市では旧地区公民館の区域を基本とする29地区において、新しい地域コミュニティ体制がスタートした。同市のほぼ中央に位置する八条地域は、コウノトリをはじめとする多様な動植物の生息環境や、様々なイベントによる活発な多世代交流といった、地域の特徴を上手に活かす取組を中心に、新たに誕生した八条コミュニティとして地域交流の場を創出。コミュニティセンターを活動拠点に、積極的な活動を展開している。
【八条コミュニティ】
豊岡市が策定した「新しい地域コミュニティのあり方方針」のもと、平成26年10月、地区公民館からコミュニティセンターへ移行のための準備会を立ち上げ。
「地域コミュニティモデル地区」の一つとして、組織・事業計画づくりを他地区に先行して開始し、平成29年2月、八条コミュニティを設立。「地域振興」「地域福祉」「地域防災」「人づくり」の4つの分野で、それぞれ部会を設置し、工夫を凝らした取組を続け、一人ひとりの住民が愛着と誇りを持って暮らせる八条地域づくりに挑んでいる。令和3年度には、兵庫県の「第23 回人間サイズのまちづくり賞」まちづくり活動部門「奨励賞」を受賞。
地区民の、地区民による、地区民のためのコミュニティへ
9つの地区に2,268世帯、5,266人が暮らす豊岡市八条地域(令和4年4月1日現在)。多世代が集うこの地域で、地域づくりの中心的役割を担うのが八条コミュニティだ。新たな地域コミュニティづくりが始まった当初は、慣れ親しんできた「公民館」から「コミュニティセンター」への移行、住民自治に重点を置いた新しい組織づくりなどに対し、「なんで、そんなことをするの?」ととまどう住民や、「今までのように、公民館へ気軽に足を運べなくなるのでは?」と不安を感じる高齢者も多かったという。
そうした住民たちの困惑を解消し、スムーズな移行を実現するため、平成26 年10 月から、会長を務める佐野守男さんを中心に、移行準備期間としての活動をスタート。各地区の区長による「幹事会」、八条地域の諸団体代表も加わった「準備会」での協議を重ね、コミュニティとしての組織づくりを進める一方、住民たちには説明文書の配布や公民館だよりへの記事の掲載など広報の充実を図ったり、イベントを開催したりすることで、新たな地域づくりへ意識が向かうような取組が続けられた。
その後押しになったのが、最後の公民館活動となった「八条の玉手箱」の編纂(へんさん)だった。平成22 年度、県の「県民交流広場事業」に採択され、老朽化が進んでいた公民館の大幅な改修が叶ったものの、「建物が良くなっても、中身が伴わないと意味がない」と、色々な取組を進めていた中、八条地域のしきたりや言い伝え、建造物、行事の情報収集や、地元小学生による高齢者への取材などを通じ、9地区の歴史を一冊の冊子「八条の玉手箱」としてとりまとめ全戸に配布。一人ひとりの住民が自分たちの地区から八条地域全体に意識を向けるきっかけとなり、地区の枠組みを超えた地域づくりに取り組む機運を高めることにつながった。
また、八条地域の課題や住民たちの要望を把握するための、住民アンケートやワークショップを実施。回答に基づき、八条コミュニティとしての活動の指針となる「はじめの第一歩計画」を作成した。「八条のことは八条で」を基本に、「安全・安心に暮らせる八条」「明るく元気に暮らせる八条」「人と人とのふれあい豊かな八条」をみんなで目指そうというものだ。
「『明るく元気で住みよい八条づくり』がキャッチフレーズです。子どもから高齢者まで、誰でも参加できる住みよいまちをつくっていこうという想いを込めました。地区民の、地区民による、地区民のための活動です。」と佐野さんが語る。
こうした準備期間を経た平成29年2月5日、八条コミュニティの発足会が開かれ、新たな地域活動が始まった。
コウノトリが飛来するビオトープをつくろう
「はじめの第一歩計画」を実現させるために、まず取り組んだのが地域の目標や活動内容を定めた地域づくり計画の作成。その計画のひとつがビオトープづくりだ。高齢化により、作付けができなくなった田んぼが増えている八条地域。そんな休耕田に池のように水を張って管理をしていた住民がいた。「ビオトープとして、地域に開放してほしい」という佐野さんたちの依頼を快諾し、コミュニティに提供。八条コミュニティ設立時に設置した部会の一つである地域振興部の活動として、コウノトリが飛来する生息地に育てることになった。
兵庫県立コウノトリの郷公園の飼育員のサポートを受けながら、コウノトリの餌となるどじょうの稚魚をビオトープに放流。時には15 羽ものコウノトリが飛来する中、コウノトリと共に生きる豊岡市ならではの地域の特色を生かした地域振興事業として取り組み、平成29 年7月には、第1回目の「ビオトープ八条まつり」を開催。コウノトリの学習会をはじめ、ビオトープに生息する生き物の調査や、子どもたちを対象にしたザリガニ釣りなど、様々な生き物との触れ合いを通じて八条地域を身近に感じてもらおうというイベントを行った。
その後、開催のたびに地域の子どもたちの参加が増え、1回目の約30 名(大人を含む合計147 名)から、令和4年の4回目には70 名(大人を含む合計177 名)が集うイベントに成長。
「泥まみれになりながら、生き物を一生懸命に探す子どもたちの姿がいいんです。目にするたびに、開催してよかったと思います。」と、佐野さんが楽しそうに話す。
子どもからお年寄りまで多世代が集う交流サロン
そしてもうひとつ、地域づくりの第一歩目と位置付け、福祉部が運営する活動が「八条サロン」だ。平成29 年8月から始まった月に一度の恒例行事で、地域の老若男女が集い親睦を深めることを目的に開催。毎回、高齢者を中心に30~40 人の地域住民が参加する。
副会長の松本正和さんは「集まる楽しさに加え、情報交換の場としても人気が高い企画です。クイズやゲームのレクリエーションから、健康診断、歴史の勉強会、ハロウィンやクリスマスといった季節の行事まで、その都度いろいろなアイデアを出し合い、工夫を凝らしながら運営しています。」と話す。
会場準備や当日の世話役として参加するのは、地域支援員の山川佐登美さんと秋山昌子さん。「裏方ですが、私も参加者の一人のように楽しんでいます。」と山川さん。秋山さんも「ミックスジュースを作って皆さんに配った時、喜んでもらえたことが今も一番印象深い。」と笑顔を見せる。
時には、地元の県立豊岡高校茶道部の生徒たちも参加。コミュニティセンター内の茶室でお茶席を設け、高校生がお点前を披露したり、高校生の指導で子どもたちがお茶をたて高齢者にふるまったりするなど、多世代交流の場としても賑わいを見せる。
さらに平成30年10 月には、地区へ出向いてサロンを開く「出張サロン」にも挑戦した。公共交通機関が行き渡っていない地区では、コミュニティセンターで開かれる八条サロンに足を運ぶことができない高齢者も多い。そこで、地区の区会館で開催したところ、約50名もの参加者が集まる大盛況。今では年に一度の交流の機会としてすっかり定着している。
こうしたビオトープとサロン活動が評価され、令和3年度には兵庫県の「人間サイズのまちづくり賞」を受賞。佐野さんは「評価していただいたことをとても喜んでいます。ビオトープのように子どもたちが集まると、親や祖父母の方々も一緒に参加してくれるので、多世代の方の交流を深めるきっかけになっています。これからも、子どもたちに向けての取組を増やしたいと思っています。」と話す。
その他、八条コミュニティでは地域づくり活動として、花と緑の環境づくりや防災にも力を入れている。
住民自治への意識を高める、桜の植樹と防災活動
「初めて桜が咲いたんです。」
地域マネージャーの谷口由美子さんが見せてくれたのは、しだれ桜の写真。令和元年に「八条桜いっぱい運動」で植樹した、7種類62 本の桜の木の一本がこの春、花をつけたのだ。
これは、住民参加による植樹と、植えた桜の木の管理を通じて、住民の自治意識を高めるために取り組んだ「八条桜の園づくり」。住宅が増え都市化が進む八条地域に、花と緑によって、潤いのある地域環境をつくろうとスタートした。令和元年からの2年間で、地域内の公園や企業の敷地など約200 本の桜を植樹。5年後、10 年後のお花見の開催を目指し、各地区が桜の管理を行っている。
一方、防災部では平成29 年から、9地区の自警団が日ごろ行っている防災活動を発表する「自主防災発表会」を年に一度開催。防災情報の交換会と位置づけ、他地区の活動や情報を自分たちの地区にも取り入れることで、住民たちの防災への意識を高めると共に、防災活動の充実を目指している。
そんな防災活動の一つとして、令和4年は「八条ファミリー避難カード」を作成した。大災害時の通信環境の悪化に備え、避難に関する約束事を家族で事前に共有しておくためのものだ。防災マップによる災害リスクの確認や避難場所の再確認、避難を始めるタイミングなど、平時に話し合っておくことで防災意識を高める機会を持とうと、全戸配布を行った。
また、防災発表会や、令和2年11月に開かれた北近畿豊岡自動車道但馬空港ICの開通式では、八条コミュニティの和太鼓チームが演奏を披露した。和太鼓チームは、コミュニティ発足に伴う新たな取組の一つ。若い世代が地域づくりに参画する機会をつくることを目的に、現在10代から70代まで、多世代で構成するメンバーで月2回程度の練習に汗を流している。
こうした様々な活動を通じ、コミュニティセンターの存在と役割が徐々に地域に浸透している。
コミュニティセンターは、地域が一つになれる場所
公民館を避難訓練に利用する地区や、会議の場として活用する団体、社会教育や生涯学習の教室に参加する高齢者、勉強をするために立ち寄る小学生など、地区単位や世代単位といった縦のつながりでの活動に、利用されることが多かった公民館時代。コミュニティセンターへの移行後は、「八条サロン」のように地域全体がひとつになって交流するために集まる場へと変わりつつある。
「コミュニティセンターへ移行したことで、公民館時代の枠にとらわれることなく世代の垣根を越え、いろいろな活動が広範囲にできるようになったと感じています。」と喜ぶ佐野さん。その一方で、自治体活動の低迷につながる地域課題への懸念もあるという。
公民館の頃から、地区対抗で競技を楽しむ体育祭や、それぞれの地区から作品を展示する文化祭といった地域行事には、誰もが積極的に参加してきた八条地域。例えば体育祭になると、100 人もの人たちが運営に携わるスタッフとして集まってきた。しかし最近では、こうした地域活動に積極的に関わろうとする住民が、少しずつ減少しているという。
「八条地域は転入者が多く、10 年先を見越しても人口は減少しないでしょう。もちろん素晴らしいことなのですが、地域外から転入してこられる人たちが多く、地域活動への参加に消極的な人も多いんです。地元生まれか、地域外からの転入かに関わらず、若い世代の中にはイベントや行事には参加するけれど、お世話をする役職に就くのは避けたいという人も増えています。地域の人々と積極的に関わり、地域活動に主体的に取り組む人材を育てることで、コミュニティセンターを誰もが自然と集まってくる場にしたい。」と話す佐野さん。そのために最も大切なことは、「行事などの活動の継続だ。」と松本さんは言う。
目指すのは、人と人とのつながりを育むまち
「地区という枠を超えて、お互いが顔見知りになることが大切だと思うからです。他地区の人だからといって知らん顔でいるのではなく、挨拶を交わせる程度の知り合いになれれば一番いい。特に、地域外から引っ越して来た人は孤立しやすいものです。まずは、それぞれの居住地区での活動に参加してもらい、次にコミュニティにも足を運んでもらう。段階を踏んで関わりを増やすことでつながりを広げ、交流し合ってもらえたらいい。来てもらう、集まってもらう、楽しんでもらう、そして思い出に残してもらうことで、住民同士の関係を深めることができるはず。まずはそのきっかけをつくることが、コミュニティの役割です。八条地域のいいところは、昔から各地区のつながりがあるところ。みんなでそのつながりを共有し、誰とでも交流ができる地域になれればいい。」と、松本さんは八条コミュニティへの期待を語る。
一方、佐野さんは、コミュニティを盛り上げるためには、「人の発掘が最も大切だ。」と話す。
「今は年配の世代が地域コミュニティづくりの中心になっていますが、若い世代につなげ、後継者を育てていくことは、これからとても重要になります。各地区には、埋もれている人や隠れている人が、まだまだたくさんいるはずです。どんどん地域活動に加わってもらい、活動の輪をますます広げていってほしい。他の地域ではできなくなってしまった活動も、多世代が集う八条地域ならできていくと思っています。いつまでも元気にワイワイと、明るく住みやすい八条をつくること。すべての想いは、それに尽きます。」
(取材日 令和4年8月31 日)