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城崎温泉が教えてくれた、原風景こそ観光地。
チャンスは地方にある!

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2021/09/25
大林大悟さん
(41)
兵庫県豊岡市
株式会社たびぞう

個人紹介

大林大悟(おおばやしだいご)41才。昭和54年、香美町生まれ。20歳の学生時代、バイク事故で2週間意識不明になったものの一命を取り止め、6カ月の入院生活を経て旅行会社に就職。

「スーパー添乗員」の肩書の元、「売上を上げる社員旅行」など型にはまらない旅を次々に提案。1400本の企画を実績に、令和元年12月「株式会社たびぞう」を起業。コロナ禍により売上ゼロを経験する中、事業転換に成功した取組を地域に役立てるべく、経営課題解決のアドバイザーとしても全国を巡回している。県立但馬技術大学校での非常勤講師も5年目を迎えた。

「地方の旅行会社は、唯一無二のものを提供できなくてはだめだと思っていました。」と話す大林さん。旅行業のあり方を自分の手で変えたいと起業。売上の見通しも立ち、軌道に乗り始めた矢先、新型コロナウイルスに襲われ一転廃業を覚悟する事態に。危機を脱することができたのは、電動バイクというツールを活かし、コロナ禍ならではの「疎」を魅力化した、新しい着地型観光(*)「城崎ぷちたび」を誕生させたことでした。そんな大林さんの新たな事業は、城崎温泉街から周辺の観光地へも拡がろうとしています。地方ならではの豊かな自然や、その土地が持つ歴史、文化を商品化するために必要なこととは? 苦境にあった大林さんを支えた「人のつながり」や、「絶対にあきらめない気持ち」を生んだ出会いのお話と共に、うかがいました。

*着地型観光:旅行者を受け入れる地域で、地元に精通した人たちがつくる旅行商品。

 

 

起業から3カ月、コロナ禍で迫られた事業転換

 

「但馬の未来の架け橋をつくっているんです。」
令和2年4月、北近畿豊岡自動車道の建設現場。新型コロナウイルスの影響により、収入が途絶えた大林さんを見兼ねたお客様の計らいで、慣れない土木作業に汗を流した3カ月間。「どうしている?」と心配する周囲からの声に、大林さんはそう答えていました。
既存客の社員旅行を中心に順調な滑り出しを見せた事業は、緊急事態宣言による営業自粛要請で4月の売上はゼロに。見込みが立っていた一年間の売上も、あきらめざるを得ませんでした。「もう、たびぞうは終わった。」と一度は思った大林さんでしたが、道路建設に携わったことで「この道を通って但馬へ来られる方々に、何か提供できないだろうか。」と気づくことができたと言います。
「10年前から、旅行会社のあるべき姿を模索していた」と言う大林さんが取り組んだ新たな事業計画は、それまでのようにお客様を観光地へ連れてゆくツアーではなく、但馬を訪れた人を唯一無二の旅で楽しませる「着地型観光」。ピンチをチャンスに変えるための、大きなきっかけをつかむ事業転換でした。 「地元の人たちと手を組んで、地域に密着した旅行プランを提供しよう。」
新たな商品開発に取り組み始めた頃、友人のアドバイスを受け、のぞいたホームページで目にしたのは電動バイク。3日後には名古屋市内のバイクメーカーを訪ね、「観光地にぴったりだ!」と直感した大林さん。そして生まれた新ツアーが「城崎ぷちたび」でした。

 

 

工事に入った自動車道のトンネル

工事に入った自動車道のトンネル

 

 

名古屋のバイクメーカーへ足を運んだ大林さん

名古屋のバイクメーカーへ足を運んだ大林さん

 

電動バイクが生み出した、着地型観光の新たな楽しみ方

 

「城崎ぷちたび」は、城崎温泉街やその周辺地域を電動バイクで巡るツアー。用意された4つのプランの中から旅行者自身が好きな行き先を決め、オリジナルマップを手に散策を楽しむアクティビティです。集合時間や行先までのルートも自由。休憩も寄り道も、記念写真撮影もとことんマイペースに楽しめます。
最大の特徴は、地域案内が不可欠な着地型観光にもかかわらず、ガイドが同行して案内をしないこと。その背景には、長年添乗員として旅行業に携わってきた大林さんの経験と、城崎温泉で提供していた外国人観光客向けのサイクリングツアーで得た気づきがありました。
「ほとんどの観光客は、せっかくのガイドさんの話を聞いていません。観光客がしたいことと地域側が伝えたいことに、ミスマッチが起こっていたんです。観光客が本当に喜んだのは観光名所ではなく、地元の人々の暮らしぶりが垣間見える路地裏の風景や、田畑、川など、それまで私たちが観光資源としてとらえていなかったスポットでした。」
さらに大林さんは、着地型観光にはストーリーが必要だと話します。

「観光客は同じコースを選んでも、カップル、夫婦、家族、友人同士などにより楽しみ方が違います。旅行ってどこに行くかではなく、誰と行くか。自分たちならではの旅のストーリーを求めているんです。」
そこで大林さんは、それぞれの思い出づくりのためのスポットを用意しました。例えば、ぽちょぽちょと音を立てる川に名付けた「ぽちょぽちょポイント」は、観光客が「癒された」と喜んで帰ってくる名物スポットです。両脇に田んぼが広がる下り坂を、両脚を広げて「あーっ!」と叫びながら下れる「あーの坂」では、「青春を取り戻せた」と、観光客が楽しそうに話してくれると言います。また、地元の人との出会いを思い出にしてくれるのは「あいさつルール」。地元の人に道を尋ねたり、挨拶を交わすよう勧めることで交流が生まれ、「畑のおじさんと話し込んでしまった」と、楽しそうに帰ってくる観光客も多いそうです。
「それがかなうのは、電動バイクのおかげです。自転車と変わらないスピードのバイクに、またがっているだけで楽に移動ができますし、どこでも気楽に止まれます。ゆっくり周囲を見渡しながら、普段気付かない音や匂いも感じることができるんです。私が多くのお客様との触れ合いから得たのは『旅の思い出は5秒』という気付きでした。自然の風景に癒された瞬間や、地元の人と交わした一瞬のやり取りを、自分たちだけのストーリーとして旅の思い出にできる。そんな心の豊かさを、電動バイクが呼び起こしてくれると気が付きました。」
こうして、一年間に1,800人もの観光客が利用するヒット商品になった「城崎ぷちたび」。大林さんが改めて感じたことは、「地域資源は、お客様が教えてくれる」ということでした。

 

 

豊かな自然を観光ポイントに

豊かな自然を観光ポイントに

 

 

誰もが童心に帰れる「あーの坂」

誰もが童心に帰れる「あーの坂」

 

地元の魅力は、お客様が教えてくれる。

 

「田んぼを見て癒されました!」「峠で森の匂いがしました!」

コースを巡った観光客の感想を初めて聞いた時、本当に驚いたと話す大林さん。
「例えば『ぽちょぽちょポイント』も、『あんな何もない川を訪れる人がいるの?』と、地元の人は半信半疑ですし、辺り一面田んぼの風景の中を走る道なんて、城崎でなくてもどこにでもあると思いがちです。
それくらい地元には、自分たちでは気付かない様々な資源があるんです。『城崎温泉の若旦那の皆さんが、幼い頃ここで遊んでいたんですよ』と伝えるだけでその場所にストーリーが生まれ、観光スポットになるんです。お客様の声を聴くことで、田舎の原風景はもっと魅力のあるものに変えられる、チャンスは地方にあると気が付きました。魅せ方、楽しみ方を地域独自で開発し、発信することこそ、地域に求められている使命だと思うんです。」と大林さんは言います。

そんな想いから、自分自身の気づきや「城崎ぷちたび」への事業転換の体験を、地域に役立ててもらうため、地元商工会の推薦を受け、経営課題解決のためのアドバイザーとして各地を巡回。北海道や愛知県、徳島県、山口県などにも出向き、地域資源の見直しとその地ならではの魅力を商品化するアドバイスを行っています。
「天橋立で、お客様を待つ600台ものレンタサイクルを目にした時、城崎ぷちたびの事業が役立つのではないかと感じたんです。私自身、城崎ぷちたびを始めた当初は本当に苦労しました。お客様が来てくれなかったり、バイクの販売店と間違えられたり、涙をぬぐいながら帰った日もありました。あんな想いを、誰にもしてほしくないと思ったんです。」
そんな大林さんを支えているのは、20年前のバイク事故がきっかけとなって生まれた、「当たり前に感謝」という人生のモットーでした。

 

 

但馬技術大学校で行っている講義の様子

但馬技術大学校で行っている講義の様子

 

添乗員時代の大林さん

添乗員時代の大林さん

 

当たり前であることに、感謝のできる人生を

 

「旅で感動。感謝。」

大林さんが掲げる、たびぞうの経営理念です。感動できる旅を提供することは大前提。それに加え、非日常の体験である旅を終えて元の暮らしに戻った時、当たり前の日常に感謝できるほど、楽しかったと思える旅をプロデュースしようという想いです。
「留守を守ってくれた人がいるから、出かけることができましたよね。あなたがいなかったことで、家族が困っていたかもしれない。それでも旅に行かせてくれたことに、感謝しませんか。」と、お客様に声をかけると言う大林さん。「そう言われると、やさしい気持ちになれるじゃないですか。」と微笑みます。

当たり前であることに、感謝すること。それは大林さんが、事故による大けがで将来歩けなくなるかもしれないという不安と闘っていた時、同じ入院先で患者同士として出会い、その後亡くなった友人が遺してくれた言葉でした。
「精神的にどん底だった時、『お前は不足不満ばかり口にするけれど、余命宣告を受けた俺に比べればやることがあるだろう。俺よりずっとまし。全然いい。』と言われたんです。それ以来、彼の言葉は、当たり前であることへの感謝の気持ちを、引き出してくれるようになりました。『コロナ禍でもお客様を喜ばせてあげることができるなら、まだましだ。前進しよう。ダメなら修正すればいいだけだ。』と思えたんです。彼の言葉を思い出すだけで、この気持ちに立ち返ることができ、ピンチになっても何度でも踏ん張れるんです。」
そんな大林さんの今の喜びは、「城崎温泉街に新しい楽しみ方ができた」と、地元の人が城崎ぷちたびを喜んでくれることだと話します。
「特にうれしいのは、視点が違ってきたと言われることです。例えば城崎大橋は、車で走るとすれ違いにくい狭い橋でしかないんですが、電動バイクやトゥクトゥクに乗ると、川の風を受けながら渡る気持ちよさを楽しんでもらえます。『今までわからなかった魅力に気づけた』『こんなにいいところに住んでいたんだ』と、地元の人が言ってくれるのが何よりの喜びです。」
客足の戻りきらない状況で、城崎ぷちたびに利用客が集まり始めた頃、「今は、たびぞうが潤えばいい。」と喜んでくれた温泉街の方々の、共存共栄の精神に支えられてきたと話す大林さん。たびぞうを城崎の、さらには但馬の未来へつながる架け橋に、育てる挑戦が続きます。

 

 

小回りのきくトゥクトゥク

小回りのきくトゥクトゥク

 

城崎ガイドツアーのお客様と地元の人たちとの交流も

城崎ガイドツアーのお客様と地元の人たちとの交流も

 

 

POWER WORD

「これがお前の運命や」

「40歳で歩けなくなる」と医師から受けた宣告。救急救命センターの病室の窓越しに、向かいのマンションで布団を干す女性を眺めながら、当たり前の日常に戻れない自分に涙する日々が続いていました。そんな大林さんに、前を向かせてくれた亡き友の言葉です。コロナ禍にあって事業継続がピンチを迎えた中、「何のためにたびぞうを立ち上げたのか、考え直すきっかけになった」と話す、この言葉の意味とは? 

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