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「ローカルプロジェクトの魅力〜まちをたのしむヒント集〜」イベント開催レポート

令和4(2022)年も押し迫った12月20日。「すごいすと」で初となるイベントを神戸市の「起業プラザひょうご」で開催しました(リアル・オンライン同時開催)。

その名は、ローカルプロジェクトの魅力〜まちをたのしむヒント集〜。これまでに登場した「すごいすと」をお招きし、いろいろ聞いてローカルプロジェクトのヒントをいただいちゃおう!というイベントです。

ゲストの「すごいすと」は、こちらのお二人です。

黒田 尚子(くろだ なおこ)さん/神戸アジアン食堂バルSALA店長
在日アジア人女性の母国料理をベースにした飲食店を神戸市で営む

大野 篤史(おおの あつし)さん/株式会社glaminka共同代表
古民家を改装した交流型宿泊施設「glaminka(グラミンカ)」を神河町と佐用町で運営

さらにもう一人、「社会や環境がよくなって、そしておもしろい」をテーマとしたソーシャルメディア『ソトコト』編集長の指出一正(さしで かずまさ)さんが登壇。

令和4(2022)年春から兵庫県内に新たな拠点を構え、東京と兵庫の2拠点生活を始めた指出さん。これまで全国でいろんなローカルプロジェクトに携わってきた視点から、さまざまな事例を教えてくれました。

「ワクワク」は水が湧くこと!?

まず『ソトコト』の指出さんが、「ワクワクするローカルプロジェクト」をテーマに事例をいくつか紹介。

「『ワクワク』という言葉は、水が湧くことに由来している」という話には驚きました。水は、私たちの生活に欠かせないもの。だからワクワクするプロジェクトには、生きるうえで大切なものが詰まっているというのです。

事例の中でも印象的だったのが、2025年大阪・関西万博の機運を醸成するための「万博未来編集部ローカルツアー」。

若者たちと「どんな未来をつくりたい?」と対話型のワークショップをしたところ、京都の若者は「京都タワーの周りのコンクリートを全部はがして、菜園や水路、そこにクジラがやってくるような水循環をつくりたい」という未来を描いたそうです。すごく自由で楽しそう。

「これが僕の作戦なんです。プロジェクトを堅い気持ちで始めてほしくない。やりたいことは何でもできると知ってほしいし、大人になってもこんな感じなのかと『油断して』もらうことで、未来を柔らかく考えてほしいんです。」(指出さん)

これまでに数々の事例を見てきた経験から、ワクワクするローカルプロジェクトがサステナブル(持続可能)であるためのポイントを挙げてくれました。

サステナブル(持続可能)であるためのポイント

  1. 「関わりしろ」がある
    店主やスタッフだけで完結せず、参加者や地域の人が一緒に何かできる余白があること
  2. 見残したものを見る
    今まで気づかなかったところに、意外なヒントが隠れているかもしれない
  3. 「自分ごと」として楽しい
    やはり、自分が楽しいと感じられることが何より大事
  4. 未来をつくっている手ごたえ
    過去の話はそれを知っている人としか共有できないけれど、未来の話は赤ちゃんからお年寄りまで、誰でも仲間になれる

アジア出身女性が自信を取り戻せる場所を

次は、神戸アジアン食堂バルSALA(サラ)を営む、黒田尚子さんです。

神戸市の中華街・南京町エリアにあるSALAは、台湾やタイなどアジア各地の料理を提供する食堂で、夜はお酒も飲めます。店では、国際結婚などを機に日本で暮らすことになった在日アジア人女性がシェフを務めます。

SALAは、言葉や生活習慣の違いなどから日本で生きづらさを感じている女性たちに、社会と接点を持つことで自信を取り戻してもらおうと生まれた場所なのです。

黒田さんは彼女らのことを「お母さん」と呼びます。大学の社会起業学科に入学し、さまざまな課題を抱える人と出会う中で、お母さんたちと知り合いました。

「今まで私は社会課題を『高齢者問題』『ホームレス問題』などと頭の中でカテゴライズして、それらに当てはまらないお母さんたちの問題を全然知りませんでした。目が向けられなければ手が差し伸べられない社会で生きていることに、大きな違和感を覚えたんです」(黒田さん)

お母さんらが作る母国の料理に着目した黒田さんは、学内で料理を振る舞うイベントを企画。すぐ売り切れるほどの大成功でした。この体験が原点となり、大学卒業と同時に飲食店を開こうとしましたが、ふと立ち止まります。

「これまでは『お母さんたちが大変そうだから』『学生が頑張っているから』と私たちのコンセプトに共感した人が応援してくれた。でも、お母さんたちが生きやすい社会にするためには、そうした問題に関心のない人たちにも知ってもらわないといけないと気づいたんです。だからまず、純粋に飲食店として繁盛させなければと考えました」(黒田さん)

そこで、飲食店の広告を扱う会社に就職。3年間で知識や経験を培い、満を持してSALAをオープンさせました。

SALAが目指すのは「Empowerment of All people」。すなわち「互いの価値を認め合い、夢を持って生き生きと暮らせる社会」の実現を目指し、小さなお店から発信を続けています。

DIYでつくるのは、建物だけじゃない

「すごいすと」2人目は、株式会社glaminka(グラミンカ)共同代表の大野篤史さんです。

元教員の大野さんは、教員仲間の大西猛さんと「笑顔が生まれる場所をつくりたい」と、古民家を改装した宿泊施設glaminkaを神河町にオープンさせました。アウトドアサービスを楽しめる宿として、「グランピング」の「グラ」と古民家の「ミンカ」を合わせて「グラミンカ」です。

宿が軌道に乗ってきた頃、お客さんにはリピーター(2回目以上の利用者)が多いことに気づきました。なぜリピートしてもらえるのか。アンケートを見ると「地域の人との交流が楽しかった」という意見が多かったのです。

「これは予想外でした。お客さんが田舎の優しさにふれるだけでなく、地域の方もお客さんに会いたくて散歩の回数が増えたんです。お客さんに会ったら何をするかというと、『うちにユズがなったからユズ風呂せえへんか?』とか『これ、バーべキューで焼いたらどうや』と話しかけるなど交流が生まれました。地域の皆さんの顔が生き生きするのを見て、これは他の地域でも喜ばれるんじゃないかと思いました」(大野さん)

そこで2施設目として、交流をコンセプトとしたglaminkaを佐用町でつくることに。交流プロジェクトは早くも、施設をつくるときから始まりました。古民家の改装工事をDIY(Do It Yourself:自分たちで作ること)形式にして、住み込みで参加してくれる若者を何人も募集したのです。

若者たちの共同生活、しかもハードな施工作業ですから、大変なことがたくさんあったそう。けれど「大変」より「楽しい」が大きく上回る、まるで部活のようなコミュニティが形成され、若者たちは佐用町に愛着を持ってくれたといいます。

この経験で感じた「DIYの良さ」は次の6つ。

DIYのよさ

  1. 人が集まる
  2. コミュニティが生まれる
  3. 年齢や技能を問わない
  4. 生産的な遊び
  5. 地域とつながる
  6. モノや場所に愛着が生まれる

すると、「DIYはものづくりのスキルではなく、コミュニティづくりのスキルなんだ」と気づいたといいます。大野さんはこの感覚を、これから地域づくりに取り組む人たちに伝えていきたいと考えています。

人を巻き込み、協力を得るためのポイントは?

ここからは、3人のゲストによるクロストークを抜粋してお届けします。2人の「すごいすと」の事例を聞いて、指出さんが抱いた感想とは……?

指出:
最近はD&I(ダイバーシティ&インクルージョン:多様性を受け入れること)の大切さがよく言われますが、黒田さんは小さな声を聞き、それをうまく体現していると感じました。ローカルプロジェクトは小さいほうが、課題に取り組みやすくなりますね。

大野さんのDIYは、もうDIO(Do It Ourselves)ですよね。DIOは「ほしい未来をみんなでつくる」と意訳されますが、まさにそれを実現している。古民家に手を入れるのは、すごく時間がかかったと思うんです。だからこそ「自分のコミュニティをつくる」ことに、みんながいい意味で酔いしれたんじゃないかと思います。

お二人の活動はSDGsの考えに則っていますし、地域で活動する若い人たちの手本になってほしいです。

司会:
大野さんのプロジェクトで、みんなが「いいね、いいね」と盛り上がってどんどん進む中、「安全性は問題ない?」「コンプライアンス的に大丈夫?」などと、ブレーキを踏む人はいたのですか?

大野:
僕自身がその役になるよう意識していました。自分が始めたプロジェクトでしたけど、数カ月経つ頃には勝手にブワーッと回る渦のようになるんですよね。だからこそ、一歩引いたところから見ないといけないなと。

司会:
なるほど。ところでお二人の、失敗やピンチについて聞かせてください。

黒田:
3年目に資金がショートしそうになり、「このままだとあと2カ月でお店がつぶれる」という状況になったことです。クラウドファンディングなどのご縁に恵まれて乗り切れましたが、あのときの精神的に追い込まれたつらい感覚は、一生忘れないと思います。

大野:
自分の無知がピンチを招くと痛感しました。たとえば、上下水道が整備されていない山奥の集落では、とてもおいしい水が流れてくるけれど、大雨が降ると水道が詰まってしまう。また、夏に施工したから冬の厳しさを想像できていなかったり。

そしてやはり、お金の問題は大きいですね。とくにコロナ禍もあって、何度も途中でプロジェクトをやめようと思いました。

指出:
お金は大事ですよね。僕も3年ほど前から編集だけでなく経営に携わるようになり、やりくりの難しさを感じています。

お二人もそうですが、トントン拍子に進むプロジェクトなんてありません。予定外のことは必ず起こる。だからリスクの回避も大事ですが、予測不可能なことが起こる前提で、それすら楽しめる姿勢が大切だと思います。

司会:
最後に、人を巻き込む方法を教えてください。先がわからないプロジェクトに、どうやって人を誘うのかなと。

黒田:
私は自分がやりたい夢を、周りの人にすごく語るタイプなんです。そして、それに向けて現時点で何が足りないかも声に出す。すると、それを補う人やスキルが集まってくれることがあります。

そのとき、言い方は工夫します。運転資金が足りなくてクラウドファンディングをしたときも、「お金が足りない」ではなく、「お母さんたちが働ける場所を増やしたい」という言い方に変換していました。ポジティブな発言をすると、ポジティブな力が集まってきますから。

大野:
僕は、自分自身がプレイヤーであれば、自信をもって誘えると思っています。プレイヤーである自分と、自分が持っていない能力を持つ人の力がリンクすると、想像もできないような大きな渦を巻き起こせる可能性があるんです。

指出:
お二人はアプローチ方法こそ違いますが、見ている世界は同じですね。どちらも「ここに関わる人が幸せであってほしい」という思いが強く詰まったプロジェクトだと思います。今日はすてきな事例をありがとうございました。

いかがだったでしょうか? 皆さんが地域でローカルプロジェクトに取り組むとき、3人のゲストの事例に散りばめられたヒントを取り入れていただければ幸いです。

これからも「すごいすと」をお楽しみに!

たくさんのヒントが詰まったイベントの全編は動画でご覧いただけます。