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混ざり合えば、人生は楽しい

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2024/02/05
濱部玲美さん
(39)
兵庫県神戸市
株式会社KUUMA

個人紹介

濱部玲美(はまべれみ) 39歳。1984年、兵庫県神戸市生まれ。大学で児童福祉を学んだ後、メディア制作会社でプランニングを担当。退職後、社会課題をアートの力で解決するNPO法人でインターンを経験、その後、様々な食に関わるブランディングやディレクション業務を経て、株式会社KUUMAを設立。2021年、食とアートの融合空間「汀(みぎわ)」をオープンした。

「『こども、えがお、アート』にまつわることを、やりたいんです。」「なんだ、それ?」
会社員時代、上司と交わしたやりとりから歩き始めたフリーランスの道。「こども、えがお、アート」の縦軸に、「食」と「学び」の横軸を絡めながらプロジェクトに取り組む濱部玲美さん。目指すのは、多様性を楽しめる世界だ。

“絶対”って言わないで

それは、児童養護施設でボランティア活動をしていた濱部さんが、子どもたちのためにカマキリの絵を描いたときのこと。

「こんな虫、見たことがない。いるわけないやん。」と、一人の男の子がつぶやいた。

子どもの頃、時間があれば虫を探しに出かけ、絵や観察日記を描いていた濱部さん。自由研究の題材にダンゴムシを選ぶほど、虫たちはずっと大切なパートナーだった。

「もともと、学ぶことが好き。バッタってこんな跳び方をするのかって、意外な発見を楽しんでいました。当時、周りから“絶対”勉強したほうがいい、“絶対”大学に進学した方がいいと、いつも『“絶対”こうしたほうがいい』と言われていて、答えがひとつしかないような言葉に違和感があったんです。虫との遊びを通じて、“絶対”と決めつけられる物事は何もないと学んだおかげか、いろんな“絶対”に心の中でずっと反発してきました。」

そんな濱部さんにとって、「いるわけがない」という男の子の言葉は、ちょっと切なかった。

「カマキリ、むっちゃかっこいいのに……。」

神戸 北野坂の交差点に建つ赤レンガビル1階、食とアートの融合空間「汀」

「大人の世界に行ってみるか!」

次の日、子どもたちとの散歩中、道端で見つけたのはそのカマキリだった。子どもたちは「玲美ちゃんが描いていた絵の虫が、本当にいる!」と、目をキラキラさせて夢中になっている。その様子に、何かを伝えるための媒介者になる面白さを感じた濱部さん。同時に頭に浮かんだのは「玲美ちゃんは、いつも楽しそうでいいよね」と、話しかけてくる子どもたちの様子だった。

「『大人になるって楽しそう』と、子どもたちに思ってもらえる大人を増やすのもいいな。」

大学卒業後は、児童養護施設に勤めることも考えていた濱部さんだったが、「よし! 大人の世界に行ってみるか!」と、情報やメディアを扱う大手企業への就職を決めた。

そこで出会ったのは、濱部さんの個性と向き合ってくれた「ビーチサンダルで出社する先輩」や、「楽しそうだねって、ずっと言ってもらえるように生きようね」と声をかけてくれた上司。表現のためのスキルと、自分らしく生きる軸を手に、濱部さんは5年間勤めた企業を退職し、神戸に帰ってきた。

会社員時代には様々なクライアントの課題解決に携わった(写真右端:濱部さん)

つくりたかったのは、学べるメディア

フリーランスになった濱部さんは、開業を控えた大型商業施設で、約100店舗が集まる飲食店のプロモーションに関わることになった。そこで、料理をただ紹介するのではなく、目利き力を育て食を楽しむという食育を軸に据えたプロジェクトを提案した。

「『これは、どういうこと?』『こっちとそっちは、どう違うの?』って、自分で調べたり学んだりする“余白”を残したメディアを作りたかった」という濱部さん。100店舗の飲食店には、100人以上の料理人がいる。その奥には食材を運ぶ人、その奥には生産者、さらにその奥には動植物というように、たくさんのステークホルダーがいることを、楽しみながら学べるプロジェクトを育てていった。

「プロジェクトに取り組むまで、こんなに多くの人が食べ物に関わっていることを、全く意識していませんでした。おいしい野菜が育つのは川のおかげ、川がいいのは山のおかげ、いい山にはいろんな動物がいる。食が人間だけのものじゃないことを学べたおかげで、見える景色がすごく広がったんです。」

この気付きから、食に関わる仕事を軸にした株式会社KUUMAを設立。余白のある学びを届けるメディアづくりを続ける一方で、新たな形の「メディア」を始めることになった。それが、食とアートと学びを掛け合わせたレストラン「汀(みぎわ)」だ。

「汀」のレセプションパーティーでは、本を楽しむ子どもとお酒を愉しむ大人が混ざり合った
店内の黒板に描かれた「汀」のコンセプト

食とアートと学びが混ざり合う場所

店名の「汀」とは、あらゆる生き物が混ざり合う水と陸との交差点を意味する。料理を味わう場所であり、酒場であり、子どもたちと一緒にアート教育を楽しむ場であり、図書館やギャラリーでもあるという、使い方に“余白”を持たせた空間だ。敢えて曖昧さを残しているのも、与えられた使い方ではなく、訪れる人それぞれが考え、楽しみ方を見つける場所にしてほしいからと話す。

実は「汀」をオープンしたことで、濱部さん自身に変化が生まれていた。「絶対こうしたほうがいい」と言われることが嫌で、自分の生活や考えを人に変えられたくない、自分がどう生きるかの選択肢を他人にゆだねたくない、楽しいかどうかは自分で決めるんだと思っていた濱部さん。しかし、「自分」にこだわる必要性を、少しずつ感じなくなっていった。

「いろいろな人、意見、ものが混ざり合うことで化学反応が起こり、新しいものが生まれていく様子を見ているうちに、“濱部玲美”が重要なのではなく、濱部玲美の考えを面白いと思ってくれる仲間とつくったものが、重要なのだと思うようになりました。今までは、『濱部玲美です!』って際立たせようとしていた自分の輪郭が、混ざり合うことでぼやけてきた感覚です。大切なものを自分以外の環境に託して見守ることが、面白いと思えるようになりました。」

これからも、いろいろなところに溶け込んでいきたいという濱部さん。今また、新たに企画していることがある。

開放的なオープンキッチンから聞こえる料理の音も「アート」
「空間の使い方を考えることから楽しんでほしい」と濱部さん

あなたの世界は、もっと楽しく生きやすい

かつて、虫との遊びを通じて、“絶対”は無いと学んだように、風や石など人格を持たない存在をパートナーとして迎える、学びのプロジェクトに取り組もうとしている。

「例えば、石と触れ合えば、見る角度によって様々な捉え方があることに気付きます。時には、上手に遊べなくてイライラすることだってあるでしょう。そういう体験をすることで、石に対して思い込んでいる自分の正しさが、絶対ではないと気づけると思うんです。」

正しさの基準は、みんな同じではないことが共通認識になってほしい。「汀」の使い方がいくつもあるように、風景は一つでも、それぞれの見方や感じ方が聴こえてくるような、新しい景色が見たいと話す。

「学びのあるメディアづくりを通じて、“絶対”を手放すことで得られる楽しさを多くの人に届けたい。自分には無かった視点が増えることで、見える世界が変わっていくことを期待しています。そうすれば、私自身が生きやすくなったように、みんなにとっても生きやすい世界になるのではないか。そう思っているんです。」

食べることと表現することの融合が「汀」の楽しさを生む
スタッフが持ち寄った本やアーティストから寄贈された本が並ぶ本棚「汀文庫」

POWER WORD

異なるものと混ざり合う

ダンスと音楽のイベントを、汀で開いた時のこと。「風」とは何かというテーマから、どんなものが生まれるのか。その答えを空間にゆだねた結果、その場にいた人々の心に残る印象深い時間になった。混ざり合うことが見せてくれたのは、どんな景色だったのだろう。

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この記事を書いた⼈
内橋麻衣子