ワクワクからはじまるナニかを、地元に、全国に、世界に。

すごいすと
2024/12/18
五十嵐駿太さん
(32)
兵庫県神戸市
株式会社With The World 代表取締役社長

個人紹介

1992年千葉県生まれ。大学卒業後、株式会社パソナグループに入社して兵庫県へ。学生時代にフィリピンで教育活動をおこなう日本人をテレビ番組で見て感化され、自身もフィリピンに渡って現地の子どもたちと接した経験を忘れられず、2018年に神戸で株式会社With The Worldを設立。事業内容は、問題解決型国際交流プログラム。おもには、日本の小学校、中学校、高校、大学189校と世界67カ国(2023年)の学生をつなぐ国際交流授業をコーディネートしている。

「今まで“なかった”環境に、何かしらが“ある”ようになる。視野ってそうやって拡がっていくものだと思うので」。世界67カ国の同年代とのオンライン国際交流の授業を、日本全国189の学校でおこなう株式会社With The World。代表の五十嵐駿太さんが見たくてうずうずしている“世界”とは──

構成:大森ちはる

「たこ焼きにソースかける?」「かけるよ」興味がコミュニケーション、そして探求へ。

日本と海外をオンラインでつなげ、同年代同士で社会問題についてディスカッションする高校生。テーマはジェンダー・貧困・環境など。「そもそもどうしてこのテーマに関心を?」の語らいから浮かび上がる共通点が共感を巻き起こし、物理的な距離を超えた仲間意識が育っていく。

自分が話す。相手からリアクションが返ってくる。また何か話したくなる──With The Worldの授業は毎回すべて英語。グループごとに1人つく専任スタッフがリアルタイム通訳して相手の英語を日本語字幕化し、学生たちの「英語コミュニケーションってたのしい!」をアシストする。だいたい3〜4回目の授業から学生たちの発話量が増えてくるそう。

小学校や中学校では、特定の社会的テーマは設定しない。暮らしと地続きの異文化理解・異文化交流で、とにもかくにもコミュニケーション。大阪とベトナムの小学生が海をまたいで「たこ焼きにソースかける?」「かけるよ」「ていうか、ベトナムにもたこ焼きあるんや!」と盛り上がったりすることも。

オンライン国際交流から始まる、一人ひとりのWith The World。

「世界各地の学校を繋ぎ合わせ、国境の垣根を超えた協同学習を当たり前に行い、友達を作ることは、いつか戦争のない平和な世に繋がるのではないか」。これは、五十嵐さんのFacebookの固定投稿の一文。五十嵐さんは「僕はべつに、具体的な生き抜く力とかビジネスノウハウ、行動力の大切さを教えたいわけじゃないんです」と話す。そして、「“楽しい”や“ワクワク”が、将来への希望や、世の中に働きかける原動力になるのでは」とも。

With The Worldがおこなう高校大学向けの授業では、ディスカッションをとおして作り上げたプレゼンを、日本と海外の学生がリアルタイムで一緒に発表する。この授業に対する学生たちの満足度は90%を超え、寄せられた感想には「(海の向こうの)友だちに会いたい」の声も多数。そういった声は授業の“成果”や“実績”として扱われておしまいになりそうなものだが、五十嵐さんは「それなら会いに行こう!」と旅行業のライセンスを取得して、“修学旅行” (海外研修)も企画・実施している。

──学生たちの現地訪問を引率するなかで、オンラインとはまた違った“交流”の良さも感じますか?

修学旅行のDAY1が、「久しぶりー!」って学生たちのハグから始まったりするんですよ。オンライン授業で人間関係ができあがっているから、「ああ言ってたよね」「こう話してたよね」とワークショップでの発話量や、フィールドワークでの探求の回転量もグンと上がります。最終日の帰り際には、もういつ終わるんだろうっていうほどの、長いハグ。数年前に修学旅行した子たちに話を聞くと、Instagramを交換して今もやり取りをしているとか、夏休みに会いに行ったりもしているみたいです。彼ら・彼女らの関係性が長く続いて発展している姿を見ると、やっていて良かったなと心から思います。

2023年8月、関西学院高等部(西宮市)の“修学旅行”(海外研修)でフィリピンの高校を訪問。お互いに考えたアクティビティを通して国際交流
両国の社会問題についてディスカッション

「僕には、”会いに行く”しか選択肢がなかった」

学生たちの「(海の向こうの)友だちに会いたい」に五十嵐さんが「会いに行こう!」と応えたのは、自身の学生時代の経験によるところも大きかったのかもしれない。

なにせ僕は、本が読めない、活字が苦手なタイプなんです。大学時代に就職活動をするなかで人生のロールモデルを模索していたときも、情報源はすべて動画。そんなときに、あるテレビ番組でフィリピンで教育活動をおこなう日本人の方が特集されているのを観て、ぜひこのひとに会いたい!と衝動的に現地に向かいました。当時は今ほどオンライン環境も整っていなかったので、会いに行くしか、話を聞かせてもらう方法がなかったんです。親にも「明日からフィリピン行ってくるわ」と飛行機のチケットを取ってから事後報告で。

学生時代に初めて訪れたフィリピン。貧困街の子どもたちに勉強やスポーツを教えた

フィリピンの滞在先でのボランティア経験や、その後にアジア各国のスラム街をバックパッカーとして旅した経験が、それまで教育への関心が高かったわけでもなく、「人を助けたい」という想いも特段持ち合わせていなかった五十嵐さんを、“アジア×教育”に駆り立てていった。

スラム街や孤児院で子どもたちに勉強を教えたとき、たった1週間ほどの滞在にすぎないのに、帰り際に泣きじゃくりながら「駿太の夢が叶いますように」と祈ってくれたんです。そんな思いやりにあふれた子どもたちのために、人生を捧げたいと心から思いました。彼ら・彼女らの夢は、「Teacherになりたい」「Doctorになりたい」。すごく立派ですよね。でもそれは、魅力的な職業をそれしか知らないからでもある。世の中にはもっともっとたくさんの選択肢があるのに。アジアの子どもたちに、日本やほかの地域の同年代と出会って、「〇〇になりたい」「〇〇したい」と視野を広げてほしい——彼ら・彼女らの”世界”に触発されて、これが僕の夢になりました。視野の広さは選択肢の多さだから、この想いは、日本の子どもたちに向けても同じです。

現地の子どもたちのために開いていた青空教室

「3年後には起業しよう」と決心して、大学卒業後は株式会社パソナグループに入社。社会人2年目、五十嵐さんは淡路島ではじめて“兵庫県”に触れる。

──関東育ちの五十嵐さんは、兵庫県の気風ってなにか感じるところありました?

あたたかいですよね。淡路島では飛び込み営業のようなことをすることもあったんですが、「買ってはあげられないけど、まあ、コーヒーでも飲んでいき」と話を聞いてくださったり、帰りがけにお菓子をいただいたり。そういう思いやりにすごく救われました。With The Worldの拠点にしている神戸のシェアオフィス・起業プラザひょうごでも、運営の中西さん(NPO法人コミュニティリンク)が創業当初から「このひと紹介するよ」「こんな助成金があるよ」とつなげてくださって。気にかけてくれるというか、何かのときにとっさに出る対応に人情を感じます。

拠点をおく起業プラザひょうご。社員たちは、コワーキングスペースの好きな場所で仕事をする

──もしかしたら、阪神・淡路大震災もあったりして、 兵庫県民は“助けを求める立場になった(なるかもしれない)自分”が心のどこかにあって、“自分ができることで助ける”が身近な行為なのかもしれませんね。 

そうですね。今すぐかもしれない、10年後かもしれない、そういう長い目でのひと付き合いを感じます。僕も、学生たちがWith The Worldで出会った“世界”をきっかけに自分の選択肢を拡げたりたぐり寄せたりして、その結果、例えば30年後に彼ら・彼女らがとにかく笑顔で、さまざまな洋服を着て、楽しそうに笑いながら働いている——そんな“平和な世界”を願って仕事をしています。

海の向こうの同年代とクラスメイトのように。そんな”世界”で超えていく。

五十嵐さんの話を聞いていると、目的があったにしろ思いがけないものだったにしろ、ひととの出会いはつまり、知らない“世界”に触れること、その“世界”と”With”するはじまりなのだろうなと感じる。

──With The Worldのこれからの展望は?

オンライン国際交流の授業や“修学旅行”をとおして、日本と海外の学生を“つなげる”ことは一定できてきました。これからは、つながった学生たちがリーダーとなって“世界”の課題を解決する、共創のムーブメントをつくっていきたいと思っています。「あ、○○ちゃんの国の話やん」と今までになかった視野で“クラスメイト”の地域のことを捉える。なにかアクションを起こす。共創のモチベーションが、お互いがお互いに幸せな選択ができる力を養ってくれると信じています。

ほかにも、こんなエピソードを教えてくれた。

離島など、ふだんの生活では出会う“世界”が限られている子どもたちがいます。そういったところにもオンライン国際交流の授業を届けようと全国を巡っているときに、ひとりの高校1年生の不登校の子に出会いました。「もう一度学校に行ってみたい気もするけど、知っているクラスメイトがいる教室には入りづらい」と言うその子に、「自分のことをまったく知らない地の同年代と、自分の知らない言語で話してみるのはどう?」と、インドネシアの学校とオンラインでつなげることを提案してみたんです。そうしたら、インドネシアの明るくポジティブな学生たちと波長が合ったようで、「インドネシアの学校なら行ってみてもいいかな」とこぼすようになって。バリ島のインドネシアの学校への編入学を僕らが手伝って、卒業後はジャカルタの大学に進学しました。本人も「人生が一変した!」と言っていたけど、側から見ていてもほんとうにそうだと思います。

With The Worldは、あらたな“世界”に触れるきっかけとして、これからも日本の、世界中の子どもの出会いの場になっていくのだろう。

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