パブリックアート(*)と音楽で元老舗料亭を再生
豊岡に、にぎわい復活のシンボルが誕生!

すごいすと
2022/12/13
小山俊和さん
(45)
豊岡市
にぎわい拠点 とゞ兵(とどひょう)

個人紹介

小山俊和(こやまとしかず)45歳。昭和52年、埼玉県和光市生まれ。21歳から27歳まで海外で暮らし、帰国後、コンビニエンスストアの施工や、様々な店舗・施設の空間デザインを手掛ける会社を埼玉県に設立。令和元年、豊岡市にある元料亭の再利用を相談されたことをきっかけに、再生事業をスタート。現役大学生や地域の人たちの協力のもと、改修作業を行いながら店舗誘致やシェアスペースを開設。さらに、様々なアーティストを招致した、アートや音楽のイベントを開催するなど、複数事業を取り入れた、街の「にぎわい拠点」づくりに取り組んでいる。

豊岡の街に華やぎを添えてきた、築90年以上の元老舗料亭「とゞ兵」。廃業により、地域の人たちの足が遠のいてしまったこの建物を、人々が集う場に再生させている小山俊和さん。ショップの運営やテナントの誘致、シェアオフィスやコワーキングスペースの開設、さらに、海外生活での経験と人脈を活かした、アートと音楽のイベントや、クリエイター作品と食を集めたマルシェの開催など、場とモノを通じて人をつなぐ活動を続けています。関わる人を増やすことで、人の流れを生み、建物が保全される仕組みをつくった結果、「個人でも街の活性化につながる活動ができる事例になった。」と話す小山さんに、お話をうかがいました。

*パブリックアート:美術館などの展示施設ではなく、広場、公園、街路といった公共空間に置かれた美術作品

歴史と思い出に満ちた建物を、地域の人たちと守ろう

「ここで結婚式を挙げたんです。」「よく宴会に利用しました。」
廃墟のようになっていた元料亭の再生を思案していた小山さんのもとへ、それぞれの思い出を抱えた地域の人たちがやって来ました。「『とゞ兵』を、改修しようとしている人がいる。」という噂を聞きつけ、興味を持った人たちでした。その様子から、街の人々にも「とゞ兵」を残したい想いがあると感じた小山さん。「地域の人たちの力を借りながら、再生事業に取り組もう。」と想いを新たにしたのは、令和元年、春のことでした。

結婚式場として使われていた頃の宴会場

そもそも小山さんが「とゞ兵」に関わりを持ったのは、小山さんの奥様の親族が所有するこの元料亭を、コンビニエンスストアへ建て替えたいと、相談されたことでした。電気も止まり、取り壊しを待つだけに見えた建物でしたが、歴史を感じさせる大広間を目にした小山さんに、「この建物を守りたい。」という想いが生まれました。
「とゞ兵」の相談を受ける以前、石川県でも同様の再生プロジェクトに関わっていた小山さん。プロジェクトチームをつくり、民泊施設や公園の建設に携わっていました。
「地方には、人が集まれる場所や開放的な空間が不足していることを実感していました。だから、日本海側の似たような地方都市である豊岡にも、興味が湧いたんです。全国に展開しているコンビニエンスストアの施工指導のため、日本各地を回っていたことで、地方にあるものも無いものもわかっていました。シャッターが下りたままの商店街は、悲観的に捉えられがちですが、むしろ『無い』からこそ『ある』と思ってもらえる状態に、できるかもしれないと思いました。」
小山さんが目を付けたのは、「とゞ兵」が「カバンストリート」と呼ばれる商店街に立地していることでした。そこで、商店街に面した建物の入り口部分に、カバン店を誘致することと、誰でも気軽に立ち寄れるカフェ&セレクトショップをオープンすることを計画。さらには、改修工事と同時進行で、イベントを開催することを決めました。

「私一人の手では、再生できない大きさの建物でした。イベントには出店者をはじめ、いろいろな人が運営者として参加します。イベントを繰り返すことで、『とゞ兵』に関わる人が増え、みんなで活用する場所として広まっていくと思いました。」
自ら積極的に街へ出て、いろいろな人に声をかけて回っていると、「手伝いたい」と申し出る人たちに出会い、「とゞ兵」が、豊岡の街で多くの人に愛されてきた場所だったと知った小山さん。「とゞ兵」の再生に向けて動き出しました。

イベントの回を重ねるごとに、「とゞ兵」と地域の人とのつながりが広がっている

アートと音楽が、人を呼び場をつなぐ

「とゞ兵」再生のシンボルといえるのが、建物の壁一面に描かれた色鮮やかなウォールアートです。
「建物を見に来た時、街に色が少ないと感じたんです。城崎温泉を目指してこの街を素通りする観光客を呼ぶために、どうやって導線をつくろうかと考えた時、思い出したのが海外で見かけたウォールアート。誰でも楽しめるパブリックアートが地方都市にも生まれれば、街の観光スポットとしての役割を果たすと感じていました。」
そこで、小山さんは、知人の作家に依頼。およそ1年がかりで完成したコウノトリのウォールアートは、小山さんのイメージどおり、様々な人が、写真に収めようと立ち寄っていくスポットになりました。

壁一面に描かれたコウノトリのウォールアート

一方、改修作業を進めながら、小山さんは様々なイベントも開催していきました。なかでも、小山さんが印象深く残っているというイベントの一つが、令和元年11月に開催したアートイベントです。東京、大阪などの都市部をはじめ、アルゼンチンやエクアドルといった海外からもアーティストを招致。何十組ものアーティストによる音楽ライブのほか、ワークショップや雑貨販売、飲食ブースの出店に、100人近い人たちが来場し、大きな反響を呼びました。
「通常は、都市部の大型ホールやクラブで開催するイベントを、地方の歴史的建造物でもできるとわかったことが大きな転機になりました。地域にとらわれず、経験や人脈を活かし、面白いものやかっこいいものを提供すれば、地方都市へも人を呼べると実感できたのです。街に影響を与える取組が、良い形になったイベントでした。」

装飾や照明を工夫して作りあげられた会場
アートイベントでの雑貨販売

そしてもう一つの思い出深いイベントが、同じ年に開催した「豊岡市25歳同窓会(*)」でした。豊岡の人たちが、自分たちの活動の会場として、「とゞ兵」の利用を申し出た初めてのイベントだったからです。
市内外から、多くの若者が集まってきた様子に、「若い人が楽しめたり活躍できたりする環境と、豊岡へ戻ってくるための理由を用意してあげれば、『とゞ兵』がこの街に無かった場所になれる。」と感じた小山さん。次に、若者たちが参加したくなる音楽イベントを、自主企画で始めました。すると、鳥取県や福井県など、周辺地域からも豊岡へやってくる人が増えたのです。
「誰もが『豊岡には若者がいない』と嘆いていましたが、いないのではなく、街に関わっている人がいないだけでした。」  若い人たちが、街に関わる仕組みをつくろう――。小山さんは、学生団体との活動を始めることにしました。

*豊岡市25歳同窓会:豊岡市にゆかりのある25 歳同士が交流を楽しみながら、豊岡市の暮らし・仕事・企業などの価値に触れることでふるさとの良さを再認識し、地域の活性化やUターンにつなげようというイベント。

「豊岡市25歳同窓会」で集まった市内外の若者たち
周辺地域からも若い人が遊びに来る音楽イベント

学生、地域住民、移住者がつながる「にぎわい拠点」

「学生さんたちと、つながりたいんです。」
小山さんの相談に、ある学生団体に所属していた知人の大学生が、力を貸してくれました。様々な学生団体のリーダーたちを集め、オンライン会議を開催。コロナ禍により、活動ができないと嘆く学生たちに、小山さんは「とゞ兵」の再生活動に参加することを提案しました。
この呼びかけに賛同したのは、東京や横浜の大学で建築を学ぶ17名の大学生たち。令和2年の夏、小山さんのサポートのもと、「トリノス」と名付けた学生団体を立ち上げ、「とゞ兵」の改修工事に取り組み始めました。
「『とゞ兵』の改修工事は毎年続くため、ここを『トリノス』の活動の場として開放したことで、メンバーが入れ替わっても、豊岡と関わり続けています。街の清掃活動を行ったり、自分たちが感じた豊岡の魅力を発信したりすることで、街を活気づけようと活動しています。」

毎年続く「とゞ兵」の改修工事

この「トリノス」をサポートしているのが、小山さんが有志と立ち上げた豊岡周辺市街地活性化団体「to do(トゥドゥ)」です。街のにぎわいにつながっている「とゞ兵」の活用事業が、地域内外の有志たちと共に取り組んだ成果であることを広めたいと設立。「とゞ兵」を中心とした、周辺市街地をフィールドに活動しています。
例えば、最初の活動は、令和2年8月の七夕イベント。行政が主催してきた夏祭りを、コロナ禍により中止せざるを得なくなった中、子どもたちに夏の思い出をつくるため、「こども縁日」を開催。「とゞ兵」の庭と目の前の公園を利用した、様々な遊びや屋台の出店を通じ、子どもにも大人にも喜ばれたと言います。

豊岡周辺市街地活性化団体「to do(トゥドゥ)」のメンバー
七夕イベントでは短冊を飾る笹を設置し、周辺をライトアップ

一方、「とゞ兵」では、建物の改修作業と並行して、少しずつ活用範囲を広げていきました。
カバン店やレストランがテナントに入居。大宴会場はイベントやセミナーなどに活用され、コワーキングスペースも利用者が増加中です。さらに、豊岡への移住を考える人のための「お試し住居」として、個室2部屋の短期賃貸も始まりました。
「『とゞ兵』のような人が集まる施設に、住居スペースを設ける利点に気づきました。例えば、1階のカフェでコーヒーを飲んでいるだけで、いろいろな人が声をかけてくれ、情報交換ができます。人に出会ったり、どこに住み、何をするかを決めたり。これから豊岡市内の移住先へ巣立っていく人にお勧めの場所です。不特定多数の人と触れ合える、にぎわい拠点のメリットを、十分に活かすことができる取組だと思っています。」
あるものを上手に活かしながら、その都度、発想や企画を形にしてきた小山さん。取り組み始めて、わずか4年で活気を取り戻せたのは、理由があると言います。

出張シェフを手配しての食事会場として大宴会場を利用
需要が増えているコワーキングスペース

“小山さん”の「とゞ兵」が、豊岡の「とゞ兵」になる日

「誰もが驚くほどのスピードで、にぎわいが戻り始めたのは、地域の人たちにとって、『とゞ兵』が思い出深い建物だったからです。私のように地域外からやって来た人間が、まちおこしや地域活性化に取り組むプレッシャーを、和らげてくれたのは『とゞ兵』という看板でした。
小山という人間はよく知らないけれど、『とゞ兵』は再生してほしいという地域の人たちの想いが、にぎわいをスピーディーに復活させたのだと思います。」と振り返ります。
街が必要とした「とゞ兵」は、街で受け継がれてゆく建物になってほしい――。そう考えた小山さんは、「とゞ兵」を兵庫県の「景観形成重要建造物(*)」に申請。令和3年1月に認定を受け、建物の適切な保全や維持管理が、景観条例に基づいて行えるようになりました。個人の所有物だった「とゞ兵」が、街に守られる存在になり、豊岡市民みんなのにぎわい拠点として、利用されるきっかけをつくることができたのです。

令和3年1月、「とゞ兵」は「景観形成重要建造物」に認定された

「それが、改修に取り組んで一番よかったと思っていることです。私が人生を終えた後も、再生と保全の活動は続いていきます。私の手を離れ、豊岡の『とゞ兵』として、街の皆さんに育てていただける存在になってほしいんです。そして海外のように、多種多様な民族や文化が、のびのびと暮らせる環境をつくり出せる空間に、育ってほしいと思っています。」
「最近は、小山さんではなく、『とゞさん』って呼ばれるんですよ。」
中庭から「とゞ兵」を見つめる小山さんに、この日いちばんの笑顔が生まれていました。

*景観形成重要建造物:兵庫県の「景観の形成等に関する条例(景観条例)」に基づく、地域の良好な景観形成に重要な役割を果たしている建造物。令和4年2月現在、115件が指定されている。

この先もずっと「とゞ兵」の再生と保全の活動は続いていく

POWER WORD

Team effort and do whatever you think
is best for your future.~チームを大切に、自分を信じる気持ちも大切に~

実は、「人と関わることが苦手」と言う小山さん。だからこそ、大切にしているのはチームづくり。「一人ひとりの個性が尊重されてこそ、プロフェッショナルのチームプロジェクトが生まれる。」と話します。海外生活で、「Team effort」 (チームの協力あってこそ=みんなのおかげ)の言葉に感銘を受けた一方、「自分の意思を持ち、自分を信じることの必要性を感じた」と話す小山さんに、パワーワードへの想いを話していただきました。

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この記事を書いた⼈
内橋麻衣子