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もっと多くの障害者ランナーをマラソン大会へ!
多様な人たちが共に生きる社会の実現を目指す
宝塚市・林 優子さんの“伴走”

すごいすと
2020/12/25
林 優子さん
(61)
兵庫県宝塚市
認定NPO法人 ぽっかぽかランナーズ

個人紹介

林 優子(はやしゆうこ)61才。昭和34年、西宮市生まれ。生後4か月で発症した難治性てんかん「ドラベ症候群」と闘う次男のマラソン大会1位入賞をきっかけに、平成25年、NPO法人ぽっかぽかランナーズを立ち上げる。伴走ランナーを育成し、障害者ランナーとのマッチングを支援することで、障害者ランナーのマラソン大会挑戦をサポート。障害者の自立と社会参加を促進する活動に取り組んでいる。令和2年2月には、一般ランナーと障害者ランナーが一緒に走れる「ぽっかぽか共生マラソン大会」を開催した。

「ぽっかぽか」の由来は、平成16年「きよくん基金を募る会(現:ドラベ症候群の研究治療を進める会)*」の活動のきっかけとなった「ぽっかぽかコンサート」。みんなの心がぽっかぽかになり、寄り添い合える人が増えますようにという願いが込められている。

※きよくん基金を募る会(現:ドラベ症候群の研究治療を進める会):ドラベ症候群(乳児重症ミオクロニーてんかんSMEI)を含む「てんかん発作のある難病患者や家族」のQOL(生活の質)向上のためのデータベースの構築及び運営を行っている。「きよくん」とは聖憲さんの愛称。

 

その日、林優子さんが目にしたのは、先生が息を切らせながらついていくほどのスピードでグラウンドを走っている、次男・聖憲(きよのり)さんの姿でした。マラソン経験のなかった林さんでしたが、聖憲さんと走るため練習を重ねて様々な大会に出場するうちに、障害のある人もマラソン大会で走りたいこと、視覚障害者や車いすの人、知的障害者もランナーとして楽しめることを知ります。同時に、マラソンに挑戦することは、一人ひとりの違いを認め、誰もが幸せに生きるための社会づくりにつながることを実感した林さん。その背景には、幼い日に聖憲さんと一緒に遊んだ友だちが教えてくれた「共生」への想いがありました。林さんが子どもたちに教わった、共に生きる意味とは? お話をうかがいました。

 

目次

障害者もマラソン大会に参加しよう!

 

林さんがマラソンと出会ったのは、聖憲さんが特別支援学校高等部に通っていた時のことでした。1.5キロメートルを走ることになった聖憲さんに、林さんは歩いてでもいいから完走してほしいと願っていました。ところが聖憲さんは、なんと1位でゴールしたのです。

「それまでは運動による発作を恐れ、家に閉じこもる生活でしたが、聖憲にもっといろいろな経験をさせてやろうという覚悟ができました。1位になった翌年には、病気の進行により30才くらいから歩行困難になることがわかったので、たくさんのマラソン大会に出場して思い出をつくろうと思ったんです。」
聖憲さんの伴走者として林さんが様々な大会に参加し始めた頃は、障害者ランナーは多くありませんでした。

「マラソンを授業に取り入れている特別支援学校はたくさんあり、走りたい子どももたくさんいます。しかし保護者が伴走できず、マラソン大会に出場することが難しい子どもたちもいるんです。」
聖憲さんが走り始めると、高等部時代の友人も障害者ランナーとして、一緒にマラソン大会に出場するようになりました。伴走するボランティアの人たちや、高校卒業後にまた走りたいと思った人など、徐々に仲間が増え、行く先々の大会で「こんな活動があるんですか」と声がかかるようになりました。「伴走に興味があるので体験したい」という人も現れ始め、障害者ランナーと伴走ランナーの輪が少しずつ広がっていったのです。

「みんなで走ればもっと楽しめる」と感じた林さんは、平成25年10月、NPO法人ぽっかぽかランナーズ(平成29年に認定*を取得、以下ぽっかぽかランナーズ)を設立。障害者ランナーがマラソン大会に出場するための支援活動に、本格的に取り組むことを決めたのです。

 

*認定NPO法人:NPO法人のうち、特に公益性が高く、事業活動と組織運営の適正さにおいて、一定の基準を満たしていることが認められ、税制優遇を受けられる法人。

 

練習会での集合写真

練習会での集合写真

 

現在は新型コロナウイルス感染拡大防止対策を講じながら練習会を行っている

現在は新型コロナウイルス感染拡大防止対策を講じながら練習会を行っている

 

伴走者の育成と足こぎ車イスの普及で、障害者ランナーを増やしたい

 

ぽっかぽかランナーズでは、10月から6月に宝塚の武庫川河川敷で、3月から11月に大阪の舞洲人工浜などで、それぞれ月に一回練習会を開催しています。ランニングの練習はもちろん、障害者ランナー一人ひとりに必要なサポートの確認や、ランニングコーチによる伴走ランナーのフォーム指導などを通じ、障害者ランナーと伴走ランナーのベストなマッチングを目指しています。

「ボランティア活動をしてみたいけれど、何をすればいいのかわからないという人が、走ることで役に立つなら体験したいと来られます。伴走してみると『楽しかったから入会します』という人が圧倒的に多いんです。」
障害者の中には言葉を発することのできない人や、感情のコントロールにサポートが必要な人もいるため、伴走には精神面を支えるための知識も必要です。さらに「障害について詳しく知らなくても伴走できますか?」といった問い合わせも多いことから、障害を理解するための学びの場として「ぽっかぽか講習会」を7月~9月に開催。障害者や支援者による様々な講演や体験を通して、障害者の気持ちに寄り添えるよう努めています。

こうした練習会や講習会を重ね、年に6~9回ほどマラソン大会へ参加。誰もが笑顔で完走できるよう、各大会の運営者へ事前に相談し、万全の体制を整えて当日を迎えています。
マラソン大会への参加にあたり「活動の転機になった」と林さんが話すのは、足こぎ車いす(*)との出会いでした。
「だんだん足が動きにくくなってしゃがみ込むことが増え、三輪車もこげない聖憲が、足こぎ車いすを楽しそうにこいだんです。一般的な車いすを背後から押すことが、マラソン大会での身体障害者の支え方だと思っていましたが、自分の力で風を感じながらゴールができます。足こぎ車いすとの出会いをきっかけに、マラソン大会への参加方法が広がりました。」
また、思わぬ効果もありました。足こぎ車いすを使うようになった聖憲さんの太ももに筋肉がつき、使い始めて3年後には1.2キロメートルを完走するまでになったのです。電動車いすを使っている人が、支えがあれば歩けるようになるなど、運動機能の改善も見られることから、ぽっかぽかランナーズでは足こぎ車いすの普及活動に尽力しています。

現在は新型コロナウイルス感染拡大防止対策により、講習会や年に3回開催してきた交流会も中止に。練習会でもコーチが参加できなくなったり、参加を自粛するランナーたちも増えました。
「コーチの代わりに理事たちが指導していますが、指導者として自立し成長するきっかけだととらえています。練習会に参加できない障害者には足こぎ車いすを貸し出すなど、様々な工夫をしながら乗り越えています。」 その一方、マラソン大会での辛い体験もありました。いつものように運営者へ事前に相談し、障害者ランナーも参加可能の返事を受け取っていたにもかかわらず、スタートから数百メートル走った頃、制限時間をオーバーするという理由で突然走ることを止められ、参加を拒否されたのです。その後も時間制限を設ける大会が増え、ぽっかぽかランナーズのメンバーたちには、完走することが難しいマラソン大会が増えていきました。
「誰もが参加できるマラソン大会を、自分たちで開こう!」
決意した林さんは、すぐに行動に移しました。

 

*足こぎ車いす:自転車をこぐように、自分の足でペダルをこいで進む車いす。片足を出せばもう片方の足が反射的に動く「歩行反射」を促すことで、運動機能の回復が期待できる。

 

障害を理解するための学びの場「ぽっかぽか講習会」第10回の聴覚障害に関する講習会の様子

障害を理解するための学びの場「ぽっかぽか講習会」
第10回の聴覚障害に関する講習会の様子

 

練習会で足こぎ車いすをこぐ聖憲さんと伴走ランナー

練習会で足こぎ車いすをこぐ聖憲さんと伴走ランナー

 

一緒に走ることが、共に生きることにつながる「共生マラソン大会」

 

林さんは「誰もがゴールでき、いろいろな人が楽しめる大会」の開催に向け、準備を始めました。初めての経験に不安を抱える中、「障害者が参加できるマラソン大会を開催したいので学ばせてほしい」と申し出てくれた、NPO法人日本ライフロングスポーツ協会(*)の協力を受け、令和2年2月24日、第1回ぽっかぽか共生マラソン大会が開催されました。

当日の参加者は、3才から72才までのランナー157名、伴走ランナーは49名、スタッフボランティア56名。制限時間を設けず走った周数をゴール目標にし、一般参加者も障害者ランナーも、それぞれの目標に向かい気軽に参加できる大会が実現したのです。
「ゴール後に、障害者ランナーと伴走ランナーたちが円陣を組み、満面の笑顔で喜んでいる姿や、保護者の方が涙している様子に、私もこみ上げるものがありました。」と林さんは言います。

今回の共生マラソン大会のアンケートには、「共生の意味が分かった」という声が最も多く寄せられました。
「往復コースなので、走っている障害者と何回も行き違います。足こぎ車イスの人や視覚障害者、知的障害者など、いろいろな人が笑顔で走っている姿と向き合い、応援し合えたことで、共に生きることの意味が分かったという方が多かったんです。」
ボランティアとして参加してくれた地域の人たちの、「寒いのではないか、退屈なのではないかと思っていたけれど、応援することがとても楽しかった。また参加したい」との言葉に、林さんは地域とのつながりが生まれ始めたことを実感しました。

第2回大会は令和3年2月7日に開催が予定され、今回は中学生・高校生の部が設けられています。障害者との交流機会を持つことで、子どもたちにも共生について考えるきっかけにしてほしいからです。
また、障害者がマラソン大会に参加するには障害者の着替え用テントが必要だと知ってもらうことを、一つの目標にしています。共生マラソン大会をそのアピールの場にしたいと、林さんは言います。
こうした活動に取り組む中で、林さん自身にも変化がありました。
「聖憲よりずっと軽い障害を持ったお子さんを目にした時に、あんなに軽いのになぜ悩んでいるんだろうという気持ちが心の奥底にありました。でも、いろいろな障害を持った人がどう生きてこられたのかを知るにつれ、障害の重さ・軽さは、それぞれの人の受け取れる許容量によって違うことに気づき、一人ひとりの悩みに共感できるようになりました。この活動で、私自身が育ててもらったんです。」

 

*NPO法人日本ライフロングスポーツ協会:誰もが、いつでも、どこでも気軽に参加できる生涯スポーツを通じ、健康で豊かな社会づくりを目指した活動を行っている。

 

「第1回ぽっかぽか共生マラソン大会」の集合写真

「第1回ぽっかぽか共生マラソン大会」の集合写真

 

ゴール後には、障害者ランナーと伴走ランナーたちが円陣を組んで喜んだ

ゴール後には、障害者ランナーと伴走ランナーたちが円陣を組んで喜んだ

マラソン初挑戦の子どもたち

マラソン初挑戦の子どもたち

 

あらゆる違いを認め合い、受け入れ合える社会を目指して

 

ぽっかぽかランナーズの運営にあたり、林さんが「一人でも多くの人に役立てたい」と語る背景には、聖憲さんの幼少期の経験がありました。
聖憲さんが小学生の頃、友だちが一緒に遊ぶ際に「今日のきよくんルール」を作ってくれていました。例えば、走り回って遊ぶ鬼ごっこでは、「きよくんが鬼の役になったら、みんなは走らずに歩くこと」という約束です。このおかげで、聖憲さんも鬼の役を務めることができました。

「重度の障害者をお客様のようにただ大切に扱うのではなく、どうしたらみんなで一緒に楽しめるかを、当たり前のように考えてくれることが嬉しかった。」と林さんは言います。「聖憲君がいてくれたおかげで、子どもがとても成長させてもらった、ありがとう」と、お母さんたちに感謝をされることもありました。
「一緒に遊んだ友だちの中には、福祉関係の仕事に就いた人もいます。聖憲の存在が社会の役に立てるんだと感じられ、これもボランティア活動になっているんだと思えました。ぽっかぽかランナーズでは、障害のある人もボランティアメンバーです。障害者がどのように支えられているのかを見てもらうことが、共生社会の啓発につながるからです。障害者の笑顔をホームページで見てもらうことも、伴走者を必要とすることが伴走ランナーの育成につながっていることも、すべてボランティア活動なんです。」
ぽっかぽか共生マラソンの名前から、「共生」の文字を取り払える社会にすることが目標と語る林さん。

「すべてのマラソン大会で、障害者ランナーと伴走ランナーのマッチングや、障害者の着替え用テントの設置が標準化されてほしい。そのための道しるべとして、ぽっかぽか共生マラソン大会を開催し続けようと思っています。」
障害をはじめとするあらゆる違いを受け入れ、一緒に楽しく生きられる共生社会を目指し、林さんの伴走はこれからも続きます。

 

伴走ランナーに支えられながら走る障害者ランナー

伴走ランナーに支えられながら走る障害者ランナー

 

互いに応援し合うランナー達

互いに応援し合うランナー達

 

 

POWER WORD

来る者拒まず、去る者追わず

ぽっかぽかランナーズのモットーは「入会したい人を絶対に断らない」ことです。
「障害と病気を理由に、スイミングやリトミックなど習いたかったことを何度も断られ、そのたびに悲しい思いをしてきました。障害のある人に同じ思いをさせたくない。できることを一緒にしましょうと言いたいんです。どうしても無理だと判断された時は、ご縁がなかったと引き留めません。でも、走る練習ができなくて、他の人に迷惑をかけるからやめるという保護者の方には、今はこの場にいることを目標にしましょうとお話しします。」
走ることが難しかった子どもたちが、完走できるようになった時は本当にうれしいと言う林さん。
「あの時、辞めなくてよかったねと言えるように、どうすればいいかをみんなで考えようと話します。子どもたちの人生は先が長いものです。親があきらめてここまでだと線を引き、子どもたちの伸びていく力の芽を摘んでしまわないよう、ぽっかぽかランナーズでサポートを続けたいんです。」

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